2014/12/13

江戸時代の罪と罰

国立公文書館で開催されている特別展『江戸時代の罪と罰』を観てきました。

地下鉄の駅でちょくちょく本展のポスターを見かけていて、そのタイトルに興味を持っていたのですが、TwitterのTL上でも評判がいいようなので、早速出かけて参りました。

国立公文書館は竹橋の東京国立近代美術館の隣り。東京国立近代美術館にはよく行きますが、その隣りに寄ったことはありませんでした。こんなそばにこんなところがあったとは。

本展は、江戸幕府の法令集や明治政府の公文書、幕府などへの建白書など、国立公文書館所蔵の資料により、幕府の法制度の仕組みや判例、刑罰の種類、さらには冤罪や十代の犯罪、河鍋暁斎の投獄のエピソード、さらには鼠小僧の話まで、多種多彩なものに触れています。


会場の構成は以下のとおりです。
公事方御定書の成立
名裁き -実話と物語-
死刑と冤罪
さまざまな罪と罰
牢獄の世界
刑罰・牢獄の改革論
江戸から明治へ
長谷川平蔵と鼠小僧

「棠蔭秘鑑」

まずは江戸幕府の法制度から。幕府の法典にあたる『公事方御定書』が実は寺社奉行や町奉行など一部の幕府関係者しか閲覧できないものだったというのは知りませんでした。それでは業務に支障を来すというので、評定所が役人用に作成したテキストが『棠蔭秘鑑』。ほかにも役人用のハンドブックや法令集といったものも展示されています。


江戸時代は心中も重罪だったことが分かります。死んでも亡骸は埋葬できず、未遂に終わった場合は3日間晒されると…。

「本朝桜陰比事」

井原西鶴が書いた裁判小説『本朝桜陰比事』というのもありました。日本や中国の裁判話を翻案し、小説風に仕上げたものとか。西鶴というと『好色一代男』や『日本永代蔵』といった町人社会の浮世草子が頭に浮かびますが、こういう法廷もののも書いてたんですね。

「疑獄集」

冤罪は江戸時代でも社会問題になっていたようで、冤罪にまつわる資料も多く並んでいました。『疑獄集』は冤罪を防ぐために編まれた中国の裁判実話集。儒学者の林羅山が所蔵していたものだそうで、こうして冤罪の防止策や、そのための法医学の研究なども当時は行われていたようです。

「黄紙」

江戸時代の裁きというと、お奉行様の判断に委ねられるところが大きいのだろうなと、時代劇などを見てると思うのですが、特に島流しや死刑といった重い刑を言い渡す場合や、刑の決定に迷う場合は、こうした「黄紙」を老中に提出して指示を仰いだのだそうです。第三者の意見というものも意外と働いていたのですね。

「御仕置例類集」

『御仕置例類集』はいわゆる刑事判例集。犯罪内容に応じて類別されていて、どのような判決が妥当であるか、過去の判例を割としっかり参考にしていたようです。写真は、奉公先で厳しい仕打ちや折檻を受けていた10代前半の少女が店先に火をつけた事件の判決で、本来なら火罪で死刑だが未成年なので遠島の刑に処すということが書かれています。ほかにも金沢藩の判例集などもあって、子どもを虐待死させた親や乳児を川へ流した親への判決など生々しい話が書かれています。

「古事類苑」

「徳鄰厳秘録」

牢屋敷の平面図や、刑罰・拷問の絵入り解説、当時の社会問題を取り上げた書物など興味深いものも多く展示されています。江戸では毎年300人が処刑されるのに対し、牢内で病気などで亡くなる牢死者が実に1000人以上もいたとか。刑罰の酷さや牢獄の劣悪な衛生環境など厳しい実態がよく分かります。

「むさしあぶみ」

一方で、明暦の大火で牢屋敷に火の手が及ぶと、囚人たちの命を救うため牢屋奉行が独断で牢を開き囚人たちを解放したという話も紹介されていました。数百人の囚人たちは鎮火後、一人を除いてみんな戻って来たそうです。

「暁斎画談」

明治維新後の資料も少し。河鍋暁斎が投獄されたとき(明治3年)の体験を描いた『暁斎画談』が展示されていて、その内容が結構なスペースで紹介されています。暁斎は政府を揶揄した戯画を描いたために捕らえら入牢。苔刑(鞭打ち)を受けたといいます。暁斎も押し込められたすし詰め状態の獄屋の様子を見ると、囚人たちの環境の劣悪さは江戸時代とまだまだ変わらなかったことがよく分かります。相当堪えたのか、暁斎はこれをきっかけに名前をそれまでの“狂斎”から“暁斎”に改めたのだそうです。


最後には池波正太郎の『鬼平犯科帳』の主人公「鬼平」のモデルでもある長谷川平蔵と伝説の大泥棒・鼠小僧のエピソードが紹介されています。面白いのは鼠小僧次郎吉が盗んだ金額のリストや、窃盗に入ったとされる大名屋敷を印した江戸の地図。これだけの屋敷に押し入り、大金を盗み出せば、江戸の街は鼠小僧の話題で持ちきりになっただろうということがよく分かります。

昔は酷いことも多かったんだなと思う反面、今と変わらないなと思うこともあり、どの資料もとても興味深く非常に面白い展覧会でした。しかも入場無料。


【平成26年特別展 江戸時代の罪と罰】
2014年12月14日(日)まで
国立公文書館にて


江戸の罪と罰 (平凡社ライブラリー)江戸の罪と罰 (平凡社ライブラリー)


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