2014/09/22

ノルマンディー展

この9月に「損保ジャパン東郷青児美術館」から名前が変わった「東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館」(それにしても長い名前ですね…)で開催中の『印象派のふるさと ノルマンディー展』を観てきました。

フランス北西部に位置し、古き良き“フランスの田舎”といったイメージのノルマンディー。その風光明媚なノルマンディーの魅力をとらえた油彩、版画、写真などを紹介し、ノルマンディーが近代風景画や印象派に果たした役割を探るという展覧会です。

作品はフランスのアンドレ・マルロー美術館やウジェーヌ・ブーダン美術館など、ル・アーヴルやオンフルール、トゥルーヴィルといった地元の美術館から約80点の作品を借り受けています(一部国内の美術館や個人蔵の作品もあり)。

作品は1820年代から1930年代までが中心で、テーマやアーティストごとに並べられていますが、ほぼ時代に沿って展示されています。

第1章 ノルマンディーのイメージの創造:イギリスの画家たち、ロマン主義の画家たちが果たした役割
第2章 近代風景画の創造:ロマン主義から写実主義へ
第3章 海辺のレジャー
第4章 近代化に対する印象
第5章 ノルマンディーにおける写真
第6章 自立する色彩:ポスト印象主義からフォーヴィスムへ
第7章 ラウル・デュフィ:セーヌ河口に愛着を持ち続けた画家
第8章 オリヴィエ・メリエル、印象主義の足跡をたどる写真家


1920年代にイギリス海峡に定期船が運航すると、ノルマンディーの“ピクチャレスク”な風景を求めてイギリスの画家たちが訪れるようになったといいます。ここでは海景画で有名なイギリスのターナーの版画や、フランスのロマン主義の画家ウジェーヌ・イザベイの油彩画などを紹介。ノルマンディーの風景画の原点を見ていきます。史上初めて実用的な写真技法“ダゲレオタイプ”を発明したルイ・ジャック・マンデ・ダゲールによるリトグラフ作品や、オンフルールの灯台を描いたジャン=ルイ・プティの海景画、夕暮れのトルーヴィルを描いたイザベイの作品が印象的でした。

カミーユ・コロー 「オンフルール」
ランス美術館蔵

1850年代になると鉄道が敷かれ、パリから数時間で海に出られるノルマンディーには多くの画家たちが足を運びます。絵画の傾向もロマン主義から写実主義、自然主義へと移り、バルビゾン派のトロワイヨンやコロー、そしてブーダンやクールベ、さらにモネの作品が登場します。

ギュスターヴ・クールベ 「海景、凪」
1865-67年 ロン=ル=ソニエ美術館蔵

クールベは2点出ていて、「海景、凪」が秀逸。クールベは1840年頃からたびたびノルマンディーを訪れては海の風景を描いたそうです。モネは5歳のときにセーヌ河口の街ル・アーヴルに移住したといい、モネの代表作「印象-日の出」はル・アーブルの港の風景を描いたものなのだとか。ここでは初期の作品と海辺に佇むカミーユを描いた「海岸のカミーユ」が展示されています。10月初旬からもう1点加わるようです。

ウジェーヌ・ブーダン 「トルーヴィルの海岸にて」
1880-85年 サンリス美術考古博物館蔵

出品作はノルマンディーの地元の画家の作品が多く、その中でも特に多いのがウジェーヌ・ブーダン。国立新美術館で開催中の『オルセー美術館展』にもトルーヴィルの海岸を描いたブーダンの作品が出品されていましたが、本展にもトルーヴィルやル・アーヴルの風景を描いた作品がいくつもあって、ブーダンの魅力に少し触れられた気がします。

ヨハン・バルトルト・ヨンキント 「オンフルール、サント・カトリーヌ教会前の市場」
1865年 オン不ルール、ウジェーヌ・ブーダン美術館蔵

本展のタイトルに“印象派のふるさと”とあるものの、印象派の作品は少なく、モネのほかは第1回印象派展に参加しているスタニスラス・レピーヌや印象派の先駆者の一人といわれるヨハン・ヨンキントぐらい。ナビ派やルーアン派、フォーヴィズム(と呼ぶほどの作品はなかったが)も含めれば広い意味でポスト印象主義の作品は面白いのがありました。

アンリ・ド・サン=デリ 「オンフルールの市場」
ル・アーヴル、アンドレ・マルロー美術館蔵

初めて知った画家でしたが、ロベール・ペンションやアンリ・ド・サン=デリの作品が複数あって、なかなか興味深いものがあります。セザンヌの影響を感じさせるジョルジュ・ブラックの初期作品やヴァロットンも2点あります。『ヴァロットン展』であのデフォルメされたような不思議な風景画に惹かれた人にはオススメかも。そのほか、アングルに学んだという新古典主義の画家エルネスト=アンジュ・デュエズの「海岸での日光浴のひと時」やマキシム・モーフラの点描風の「出港する大西洋の航路」も印象的。

ラウル・デュフィ 「海の祭り、ル・アーヴルへの公式訪問」
1925年頃 ル・アーヴル、アンドレ・マルロー美術館蔵

そしてデュフィ。デュフィは11点あって、いずれもデュフィの故郷ル・アーヴルやサン・タドレスといったノルマンディの風景を描いたもの。デュフィは身体を壊して南フランスで療養しながらも、南仏ではなくノルマンディーの海をイメージして描いていたとか。晩年の「黒い貨物船」シリーズは何か心に強く残るものがあります。

フランス絵画や近代風景画を代表する名画があるわけでなく、著名な画家ばかりが並んでいる展覧会ではありませんが、少し地味ながらも興味深い内容の展覧会でした。



【印象派のふるさと ノルマンディー展 ~近代風景画のはじまり~】
2014年11月9日(日)まで
東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館にて


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