当日は、Bunkamura ザ・ミュージアムのチーフキュレーターの宮澤政男さんとTBSの小林悠アナウンサーの対談があったのですが、すいません、仕事の都合で遅刻して途中からしか話を聞けませんでした(汗)
宮澤さんはベルギーに10年も住んでらして、ルーベンスが暮らしていた「ルーベンスハウス」でツアーガイドをしていたこともあるという方。Bunkamura ザ・ミュージアムは以前にもベルギーの美術をテーマにした展覧会を何度か企画していますが、これも宮澤さんがかかわってるんでしょうね。
TBSの小林アナは大学で美術史を学んだこともあるとかで、ちゃんと下調べもしていたのでしょうが、ルーベンスの作品やルネサンスにも詳しく、さすがアナウンサー、聞き上手、話し上手で、二人のやりとりも楽しく、あっという間のギャラリートークでした。
ご存じのように、ルーベンスは17世紀バロック絵画の巨匠。宮澤さん曰く、「美術史上、天才と呼べる数少ない画家の一人で、同じ天才でもダヴィンチとは全く違うタイプ」なのだとか。同時代には同じオランダにレンブラントがいて、イタリアにはカラヴァッジョがいて、フランスにはラ・トゥールがいて、スペインにはベラスケスがいて、美術史的にも天才だらけのとても濃厚な時代ですが、その中でもルーベンスは、画家としての才能はもちろんのこと、母国語以外にイタリア語やフランス語、ドイツ語など複数の言語を自在に操り、歴史や文学に精通し、政治活動にも携わり和平交渉に奔走したり、裕福で家族思いで、マルチな天才だったのだそうです。
ペーテル・パウル・ルーベンス(工房) 「自画像」
1622-28(?)年頃 ウフィツィ美術館蔵
1622-28(?)年頃 ウフィツィ美術館蔵
さて、会場に入ると、最初に登場するのがルーベンスの自画像。本作はルーベンスが描いた自画像の工房による模写だそうです。ルーベンスの肖像は人気が高かったということからも、ルーベンスが当時どれだけスター的な存在だったかがうかがえます。
イタリア美術からの着想
ルーベンスは若くして親方画家(聖ルカ組合)の資格を得ますが、22歳のときにさらなる研鑽を積むためにイタリアへ旅立ちます。ここではイタリア時代の作品や、ルネサンスや古代彫刻などから受けた影響などを探ります。
ペーテル・パウル・ルーベンス 「聖ドミティッラ」
1606-07年頃 アッカディア・カッラーラ所蔵
1606-07年頃 アッカディア・カッラーラ所蔵
ローマ皇帝ドミティアヌスの姪でキリスト教に改宗したことにより流刑となり焼き殺された聖女ドミティッラを描いた作品。ローマの教会堂の祭壇画背作の際に制作された習作で、本展に出展されていたルーベンス作品の中でも最も初期の作品の内の一つでした。
ペーテル・パウル・ルーベンス 「毛皮をまとった婦人像」
1629-30年頃 クィーンズランド美術館蔵
1629-30年頃 クィーンズランド美術館蔵
本作はルーベンスが50代のときの作品ですが、ヴェネチア派ルネサンスの巨匠ティツィアーノの婦人画の模写だそうです。ルーベンスの女性像は肉感的な傾向があり、本作もティツィアーノのオリジナルに比べると、若干肉づきがよくなっています。ルーベンスが2番目の妻をモデルに描いたという代表作「毛皮ちゃん(エレーヌ・フールマン)」(本展未出品)はこのティツィアーノの作品からインスピレーションを受けたのだといいます。
本展の目玉作品のひとつが、ルーベンスの傑作「ロムレスとレウスの発見」で、構図の面白さ、視線の妙、狼の毛や幼子の肌の柔らかさ、細かな部分のユニークな描写(狼の足元の蟹やカタツムリなどもいる)など観るべきところの多い作品でした。この作品は、人物などをルーベンスが、風景を専門画家のヤン・ウィルデンスが担当したと考えられているそうです。
ルーベンスの「ロムレスとレムスの発見」を囲む
宮澤政男さんと小林悠アナウンサー
宮澤政男さんと小林悠アナウンサー
ルーベンスとアントワープの工房
ルーベンスは母の死をきっかけにアントワープに戻り、ネーデルラント大公の宮廷画家として確固たる地位を築きます。やがて多忙を極めたルーベンスは、1610年代には工房での活動を本格化します。
ルーベンスの工房は規模とその効率的な制作方法が際立っていて、大量の注文をこなすために、多くはルーベンスが示した手本に基づいて工房の画家たちが制作していたといいます。実際にはルーベンスが加筆することで一定の質を保っていたようですが、顧客によっては質的に劣る工房によるレプリカを販売していたこともあるのだとか。そのため、いわゆるルーベンスの作品と呼ばれるものには、ルーベンスの自筆作品、工房で制作した作品にルーベンスが手を加えた作品、工房の画家たちだけの作品、そしてルーベンス作品の複製画が存在するようです。
写真右: ペーテル・パウル・ルーベンス 「復活のキリスト」
1616年頃 パラティーナ美術館蔵
写真左: ペーテル・パウル・ルーベンス(工房) 「アッシジの聖フランチェスコ」
1630年代中頃 ストラスブール美術館蔵
1616年頃 パラティーナ美術館蔵
写真左: ペーテル・パウル・ルーベンス(工房) 「アッシジの聖フランチェスコ」
1630年代中頃 ストラスブール美術館蔵
今回の展覧会でとても印象に残った作品のひとつがこの「復活のキリスト」。埋葬されたキリストが復活をする場面で、左手には旗を高く掲げ、天使が月桂冠を被せようとしています。キリスト像というと、痩せた身体と深く思慮する表情が頭に浮かびますが、ルーベンスの描くキリストは堂々たる体躯で、その身体からは光が放たれています。ルーベンスはキリストを死に対する勝利者として描いたといい、神々しさと同時に強いパワーが伝わってくるようです。誇張された筋肉の描写や光と影のバランスにバロックらしさを感じる作品です。
写真右: ペーテル・パウル・ルーベンス 「ヘクトルを打ち倒すアキレス」
1630-35年頃 ポー美術館蔵
1630-35年頃 ポー美術館蔵
今回の出展作品で個人的に一番のお気に入りだったのは、この「ヘクトルを打ち倒すアキレス」。トロイア戦争でギリシャのアキレスとトロイの王子ヘクトルが一騎打ちをする場面を描いた作品で、クオリティの高さから大部分をルーベンス自らが描いたと考えられているそうです。もともとはタペストリーのための原画なので、左右の彫像や上部の天使などデザイン化されています。構図といい、色の美しさといい、躍動感といい、素晴らしい作品でした。
ルーベンスと版画制作
先日観たラファエロ展でもラファエロが原画を手がけた版画が展示されていましたが、ルーベンスも版画製作に熱心で、工房の画家と同じように版画職人をかかえていて、ルーベンス作品の版画を数多く制作していました。工房で多くの注文を捌いていたとはいえ、版画は大量生産でき、より広い層に販売できるため、収入源としても、ルーベンスの名を広めるためにも、当時は有効な手段だったのかもしれません。ルーベンスの品質管理と指示は徹底していて、キレた職人によるルーベンス暗殺未遂事件が起きたほどだったとか。
写真左: ルーベンス原画 「キリストの磔刑(槍の一突き)」
写真右: ルーベンス原画 「キリスト降架」
写真右: ルーベンス原画 「キリスト降架」
ルーベンスといえば、テレビアニメ『フランダースの犬』でその名を知ったという方も多いと思います。最終回でルーベンスに憧れていたネロはアントワープ大聖堂で念願のルーベンスの絵を観ますが、その作品が「キリスト降架」で、本展ではその版画が展示されています。版画のためオリジナルの作品とは左右反転しています。
写真左: ルーベンス原画 「聖母マリアの被昇天」
写真右: ルーベンス原画 「ご訪問」
写真右: ルーベンス原画 「ご訪問」
ルーベンスは聖母被昇天を題材にした作品をいくつか手がけているようで、その作品の一つの版画も展示されていました。『フランダースの犬』には、先の「キリスト降架」と「キリスト昇架」(未出品)は観覧料を払わないと観ることができなかったのですが、大聖堂の「聖母被昇天」は誰でも観ることができたので、ネロは毎日のように大聖堂に通い、時が経つのも忘れてその絵に見入るという場面があります。本展に出展されている「聖母マリアの被昇天」はネロが観た作品とは異なりますが、聖母の美しさ、舞い上がるようなふわりとした柔らかさ、何よりも光に包まれて昇天していく情景はこの作品からも伝わってきます。ちなみにネロが見たアントワープ大聖堂の「聖母被昇天」の原画は昨年の『マルリッツハイス美術館展』に出展されていました。
専門画家たちとの共同制作
ギャラリートークの中で、ルーベンスは人物画を得意だったけれども、風景画などはあまり得意ではなく、そのため人物はルーベンスが描いて、風景など周辺は工房の弟子たちが描いたという話もされていました。ここでは、ルーベンスとほかの画家たちがコラボレートした作品を展示しています。見もののひとつは、ルーベンスと静物画や動物画で定評のあったフランス・スネイデルス、そして工房との合作による「熊狩り」で、熊が人を襲う絵なんてルネサンスやバロックの絵画では観た記憶がないのでちょっと衝撃的です(笑)。
(※このあとは写真撮影不可だったため写真はありません)
工房の画家たち
ルーベンスの工房は教育機関的な役割も果たしていて、工房からは優秀な画家たちが巣立っていきます。ここではヴァン・ダイクやディーペンベークなど、ルーベンスの工房で活動した経験を持つ画家たちの作品を展示しています。特に、アントーン・ヴァン・ダイクの「悔悛のマグダラのマリア」はヴァン・ダイクらしい上品な雰囲気をたたえつつ、劇的な描写が印象的な作品です。マリアの目に浮かぶ涙はまるで玉が浮き上がったかのような立体感があり、これは実物ではないと分からない素晴らしさ。ヴァン・ダイクはルーベンスの工房には4年ぐらいしかいなかったようですが、ルーベンスが最も信頼していた弟子だったといい、工房での修業のあと、イタリアに渡り、その後イギリスの宮廷画家(主に肖像画家)としても活躍します。
同じバロック期のオランダ・フランドル絵画でもレンブラントとルーベンスはアプローチが大きく異なります。ダイナミックさと滑らかさ、華やかさと豊かさがハーモニーとなって繰り広げられるルーベンスの作品の数々を一堂に観られる格好の展覧会だと思います。
※会場内の写真は主催者の許可を得て撮影したものです。
【ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア】
Bunkamuraザ・ミュージアムにて
2013年4月21日(日)まで
開館時間: 10:00-19:00(入館は18:30まで)
※毎週金・土曜日は21:00まで開館(入館は20:30まで)
※会期中無休
主催:Bunkamura、毎日新聞社、TBS
http://www.bunkamura.co.jp/
後援:外務省、イタリア大使館、オーストラリア大使館、ベルギー大使館、ベルギー・フランダース政府観光局、フランダースセンター
巡回先:
北九州市立美術館本館 2013年4月28日(日)~6月16日(日)
新潟県立近代美術館(予定) 2013年6月29日(土)-8月11日(日)
ルーベンス ネロが最後に見た天使 (e-MOOK 宝島社ブランドムック)
バロック美術の成立 (世界史リブレット)
素晴らしい記事にまとめて頂きありがとうございました!
返信削除>Takさん
返信削除いつもありがとうございます!
先日のギャラリートークは途中からの参加でしたが、とても勉強になりました。最初から聞けていれば、良かったのにと思います。
またよろしくお願いいたします!
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