当日は仕事の関係で、レクチャーには参加できなかったので、途中から館内の拝観だけさせていただきました。
7月末から東京国立近代美術館はリニューアル工事に入っていて、今回の展覧会はそのリニューアル・オープンの記念展ということです。
リニューアルの様子は、こちらのブログでいろいろと見れます。あのフローリングの床もちゃんとサンダーがけしてたんですね。
http://www.momat.go.jp/momat60/renewal/
それにしても、凄い物量でした。なにしろいつも特別展を行っている1階の会場だけでなく、通常は常設展の2~4階の展示室すべてをこの企画展にあてているのですから!
特別観覧会は2時間あったのですが、到底それだけの時間では鑑賞できません。自分はそんなにじっくり時間をかけて観る方ではないのですが、それでもたぶん一点一点ちゃんと観ていくと、3時間から4時間ぐらいかかるのではないでしょうか。いや、できれば半日ぐらい時間をかけてじっくり観たいレベルです。
本展は2部構成になっていて、第Ⅰ部「MOMATコレクションスペシャル」では、今年創立60周年を迎える東京国立近代美術館の60年間の収集活動の成果を披露、そして第Ⅱ部「実験場 1950s」では、東京国立近代美術館が開館した1950年代にスポットを当て、その時代の実験精神が何であったのかを探っていきます。
4F展示室1 ≪ハイライト≫
[写真左] 川合玉堂 「行く春」 (重要文化財) 1916年(大正5年)
まずは、4Fの≪ハイライト≫から。
「たくさんあり過ぎてどれを見ればいいのかわからない!」「短時間で有名な作品だけさっと見たい!」という声に応えて新しく作られたコーナーが、この≪ハイライト≫。国指定の重要文化財は、明治以降の絵画・彫刻に限ると51件あって、そのうちの13点(寄託作品も含む)が東京国立近代美術館に所蔵されているのだそうです。
本展では、萬鉄五郎の「裸体美人」、原田直次郎の「騎龍観音」、菱田春草の「賢首菩薩」、横山大観の「生々流転」など何れも重要文化財の7点が展示されていました。大観の代表作「生々流転」は数年前の『横山大観展』(国立新美術館)では確か全巻展示だったと思うのですが、さすがに40mという長大な絵巻なので、本展では前・後期で巻き替え展示になっています。個人的には、川合玉堂の「行く春」は大好きな作品で、久しぶりにお目にかかれて大変うれしかったです。色彩の美しさ、日本的な情緒感、素晴らしすぎます。
4F展示室2 ≪はじめの一歩≫
[写真左から] 萬鉄五郎 「裸婦(ほお杖の人)」 1926年(大正15年)
安井曽太郎 「金蓉」 1934年(昭和9年)
安井曽太郎 「金蓉」 1934年(昭和9年)
≪はじめの一歩≫では、記念すべき開館の年(1952年)に収集したという作品を中心に展示されています。重要文化財の黒田清輝の「舞妓」や土田麦僊の「湯女」、また安井曽太郎の「金蓉」や青木繁の「日本武尊」(展示は11/25まで)など、日本の近代美術を代表する傑作ばかり。中でも、松本俊介の絶筆「建物」は松本の絵にしては抽象画に近い作品で、暗闇に浮かぶ白い聖堂がとても印象的でした。ちなみに≪第Ⅱ部≫には鶴岡政男による「松本俊介の死(死の静物)」という作品がありました。
4F展示室3、4 ≪人を表す≫
[写真左] 和田三造 「南風」 1907年(明治40年)
≪人を表す≫では、自画像や身近な人、特定の人物を描いた絵画や彫刻を展示しています。日本の近代洋画の代表作、和田三造の「南風」や岸田劉生の「麗子像」シリーズ、村山槐多の代表作「バラと少女」、また彫刻では新海竹太郎の彫刻「ゆあみ」(重要文化財)や高村幸太郎の「手」、萩原守衛の「女」といった傑作が展示されています。
[写真左] 藤田嗣治 「五人の裸婦」 1923年(大正12年)
[写真右] 藤田嗣治 「自画像」 1929年(昭和4年)
[写真右] 藤田嗣治 「自画像」 1929年(昭和4年)
藤田嗣治の作品が2枚並んで展示されていました。藤田のシンボル的な“乳白色の下地”による女性の白く官能的な肌が印象的な「五人の裸婦」と、藤田らしく猫を抱いた「自画像」。3Fに展示されている藤田の作品ともよく比較して観てほしい作品です。
4F展示室5 ≪風景を描く≫
[写真左から] 佐伯祐三 「ガス灯と広告」 1927年(昭和2年)
岸田劉生 「道路と土手と堀」(重要文化財) 1915年(大正4年)
岸田劉生 「道路と土手と堀」(重要文化財) 1915年(大正4年)
ここでは明治終わりから第二次世界大戦期にかけての「風景画」を紹介しています。解説には、この時期に日本の、山水画ではない、風景画が生まれたとありました。代々木の坂道を描いた岸田劉生の代表作「道路と土手と堀」や長谷川利行、松本俊介、また木村荘八の「墨東奇譚」の挿絵の原画なども展示されていました。その中でも、佐伯祐三の最晩年の作品「ガス灯と広告」には正に“ぶるっ!”ときました。汚れたポスターの色の感じや独特の字体なんて、いま観ても十分かっこいい。
岸田劉生が娘・麗子に宛てた葉書なんていうのもありました。劉生の絵のタッチと全然違うマンガチックな絵が楽しいです。
3F展示室6 ≪前衛の登場≫
[写真左] 萬鉄五郎 「もたれて立つ人」 1917年(大正6年)
[写真中] 古賀春江 「海」 1929年(昭和4年)
[写真右] 村山知義 「コンストルクチオン」 1925年(大正14年)
[写真中] 古賀春江 「海」 1929年(昭和4年)
[写真右] 村山知義 「コンストルクチオン」 1925年(大正14年)
“前で守(衛)る”という軍事用語が転じて、これまでの価値観を覆して「新しさ」を獲得しようとする芸術運動を指すようになったという「アヴァンギャルド」。ここでは、日本の初期の前衛芸術家たちの作品を紹介しています。
日本のダダ運動の先駆者、村山知義の作品や古賀春江のシュルレアリスム的な傑作「海」、また今なお高い評価を得ている瑛九のフォト・コラージュ作品などが展示されていました。
[写真左上] 瑛九 「フォト・デッサン その11」 1937年(昭和12年)
[写真左下] 瑛九 「フォト・デッサン その8」 1937年(昭和12年)
[写真右] 瑛九 「夜の子供達」 1951年(昭和26年)
[写真左下] 瑛九 「フォト・デッサン その8」 1937年(昭和12年)
[写真右] 瑛九 「夜の子供達」 1951年(昭和26年)
3F展示室7、8 ≪戦争の世紀に≫
[写真左] 靉光 「眼のある風景」 1938年(昭和13年)
[写真右] 靉光 「自画像」 1944年(昭和19年)
[写真右] 靉光 「自画像」 1944年(昭和19年)
日本が軍事国家の道を進み、太平洋戦争を迎えるこの時代は美術界にも大きな暗い影を落とします。時局に抵抗し、戦争画を一枚も描かなかった靉光、一方でそれまでの画風とは180度異なるタッチで戦争画を多く残した藤田嗣治。靉光は召集令状を受け赴いた先の中国で敗戦後に戦病死し、藤田は戦後、戦争協力者という批判を浴びフランスへ逃れます。二人の画家の人生を狂わせた戦争という悲劇にさまざまな思いが去来します。
[写真左] 藤田嗣治 「サイパン島同胞臣節を全うす」 1945年(昭和20年)
[写真右] 藤田嗣治 「アッツ島玉砕」 1943年(昭和18年)
[写真右] 藤田嗣治 「アッツ島玉砕」 1943年(昭和18年)
このコーナーにはほかに、北脇昇のシュルレアリスム的な「クォ・ヴァディス」や、戦争画ではありませんが、戦時下のいつもと変わらぬ北京の風景を描いた梅原龍三郎の「北京秋天」や岡本太郎の戦後すぐの作品「夜明け」なども展示されています。
3F展示室9 ≪写真≫
戦争画のコーナーを抜けると、≪写真≫の小さなスペースがありました。ちょっと重い気分の作品を観たあとだからか、どこか戦後の開放的な気分、温かで平和的な空気さえ感じます。いわゆる“植田調”とよばれる植田正治の演出的な写真はスナップ写真というより、絵画にも通じるような物語性があって個人的にも大好きです。
[写真左から] 植田正治 「パパとママと子供たち」 1948年(昭和23年)
植田正治 「妻のいる砂丘風景(Ⅱ)」 1950年(昭和25年頃)
植田正治 「妻のいる砂丘風景(Ⅲ)」 1950年(昭和25年頃)
植田正治 「妻のいる砂丘風景(Ⅱ)」 1950年(昭和25年頃)
植田正治 「妻のいる砂丘風景(Ⅲ)」 1950年(昭和25年頃)
ほかにも森山大道や石元泰博、東松照明といった戦後の写真史を代表する写真家の作品や、牛腸茂雄の代表作「SELF AND OTHERS」などが展示されています。写真は第二部にも多く展示されていました。
3F展示室10 ≪日本画≫
新しくリニューアルされた国立近代美術館では、≪日本画≫の独立したコーナーが設けられるそうで、日本画ファンとしては非常にうれしい限りです。このコーナーでは、重要文化財3作品を含む明治後期から戦後にかけての近代日本画を代表する画家の作品が展示されていました。
[写真右] 上村松園 「母子」(重要文化財) 1934年(昭和9年)
入り口には、昨年新たに重要文化財に指定された松園の「母子」がどーんと待ち構えています。並び(上の写真の左から)には、先日山種美術館で展覧会があったばかりの福田平八郎の代表作「雨」や徳岡神泉の「刈田」が展示されていました。その奥に展示されていた、谷中の五重塔の焼け落ちた姿を描いたという横山操の「塔」の圧倒的な存在感は凄かったぁ。
[写真左] 川端龍子 「草炎」 1930年(昭和5年)
[写真右] 下村観山 「木の間の秋」 1907年(明治40年)
[写真右] 下村観山 「木の間の秋」 1907年(明治40年)
奥に回ると、近代日本画と琳派が融合したような観山の代表作「木の間の秋」、そして川端龍子の傑作「草炎」。今回、個人的にとても観たかった「草炎」を初めて拝見することができました。金蒔絵を屏風にしたかのような黒地に金という非常にシックで、美しく、そして力強く、今観てもカッコいい。まさに“ぶるっ!”です。よく見ると、金泥も微妙に濃淡の違いがあり、非常に繊細な表現がされています。
[写真左] 加山又造 「春秋波濤」 1966年(昭和41年)
[写真右] 鏑木清方 「三遊亭円朝像」(重要文化財) 1930年(昭和5年)
[写真右] 鏑木清方 「三遊亭円朝像」(重要文化財) 1930年(昭和5年)
同じ並びには、清方の代表作「三遊亭円朝像」や加山又造の傑作「春秋波濤」、また速水御舟らの作品が展示されています。わがままを言えば、7月に来たときに展示されていた清方の「明治風俗十二ヶ月」もできればまた観たかったです。
2F展示室11、12 ≪疑うことと信じること≫
2階の展示室は現代美術、前衛美術。1950年代の作品は≪第Ⅱ部≫に展示されているので、こちらは主に1960年代、70年代の作品になります。
[写真左] 横尾忠則 「責め場」シリーズ 1969年(昭和44年)
[写真右] 横尾忠則 「風景」シリーズ 1969年(昭和44年)
[写真右] 横尾忠則 「風景」シリーズ 1969年(昭和44年)
展示室に入ると、片方の壁には横尾忠則の作品が、もう片方の壁には草間彌生の作品が並んでいました。今回の展覧会に出展されている作品の画家、彫刻家、アーティストたちは(恐らく)故人の方ばかりですが、その中でも横尾忠則と草間彌生だけがいまだ現役というのは凄いなと思います。草間彌生の制作意欲なんて、衰えることを知らないですからね。すごい。
[写真左] 草間彌生 「冥界への道標」 1976年(昭和51年)
[写真右] 草間彌生 「No. H. Red」 1961年(昭和36年)
[写真右] 草間彌生 「No. H. Red」 1961年(昭和36年)
奥のフロアーには高松次郎や河原温といったコンセプチュアル・アートが展示されています。
2F展示室13 ≪海外作品とMOMAT≫
ここがまた凄い。東京国立近代美術館が所蔵する海外の画家の一堂に集められています。ピカソやクレー、ルソー、デュビュッフェから、スティーグリッツ、オキーフまで。その充実ぶりというか、収集作品の趣味の良さにはあらためて舌を巻きます。個人的にも非常に好きなカテゴリーの作品が多いので、ここは(も)かなりじっくり拝見しました。
[写真左] フランシス・ベーコン 「スフィンクス―ミュリエル・ベルチャーの肖像」 1979年
もちろん、来春開催される『フランシス・ベーコン展』の宣伝も兼ねて(?)、ベーコンの作品も展示されています。来年の展覧会が今からとても楽しみです。
長かったですが、≪第一部≫はここまで。
さて、次は≪第二部≫へ!
※会場内の写真は主催者の許可を得て撮影したものです。
【東京国立近代美術館60周年記念特別展
「美術にぶるっ!ベストセレクション 日本近代美術の100年」】
会期: 2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月・祝)
時間: 10:00~17:00 (※金曜日は午後8時まで開館)
休館: 月曜日、年末年始(12月28日~1月1日)。(※但し12月24日と1月14日は開館)
会場: 東京国立近代美術館 (千代田区北の丸公園3-1)
交通: 東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分
展覧会サイト: http://buru60.jp/
東京国立近代美術館60周年記念サイト: http://www.momat.go.jp/momat60/
日本近代美術史論 (ちくま学芸文庫)
藤田嗣治「異邦人」の生涯 (講談社文庫)
戦没画家 靉光の生涯―ドロでだって絵は描ける
父 岸田劉生 (中公文庫)
植田正治の世界 (コロナ・ブックス)
0 件のコメント:
コメントを投稿