久しぶりに新橋演舞場へ。『吉例顔見世大歌舞伎』の夜の部に行ってまいりました。
片岡仁左衛門が2日目から体調不良で休演していて、とても心配していたのですが、自分が行った前日から舞台に復帰され、ほっと安堵しました。とはいえ、仁左衛門さんは歌舞伎界の宝。無理はしないでほしいですね。
さて、まずは『熊谷陣屋』から。
仁左衛門の『熊谷陣屋』は初めてなので、大変楽しみにしていました。今月はこれが目的だったぐらい。だから仁左衛門丈が復活してくれて、ほんと良かった。
『熊谷陣屋』は歌舞伎座さよなら公演で観ていて、あのときの吉右衛門の直実はあの年のナンバーワンといっていいぐらい素晴らしかったので、仁左衛門はどんなものだろうと思っていました。役者が違えば味わいがまた違うのが歌舞伎の楽しみの一つで、仁左衛門がどうの吉右衛門がどうのといった野暮なことは申しませんが、仁左衛門は仁左衛門らしい重厚さと情を感じる実にいい直実でした。恩人・藤の方への忠義を尽くすも我が子を犠牲にしたことを隠し、その責任から出家するという直実の深い思いをハラで演じ、それが一つの連綿とした流れとなり、感動的な結末を迎えました。松緑の代役版より5分押したようで、それだけたっぷりと演じてくれたのでしょう。
魁春の相模、秀太郎の藤の方が仁左衛門をしっかりと支え、非常にまとまっていて良かったと思います。梅玉の義経もまた素晴らしかった。左團次の弥陀六も左團次らしくて良いのですが、これは前に観た富十郎の弥陀六の印象が強く、少し物足らない感がありました。
次は、20分ほどの短い長唄舞踊で『汐汲』。
もう80歳を超えてるのに、全然危なげがない。晩年の芝翫や富十郎の舞踊は動きも少し鈍く、観ていてちょっとビクビクしたけど、藤十郎はまだまだ全然平気です。後半は翫雀との掛け合いがあって、この辺りは新演出だった模様。最後に花道に差し掛かったところで、地震があって、場内が少しどよめきましたが、そのまま難なく終了。
最後は、河竹黙阿弥の芝居で『四千両小判梅葉』。
江戸城の御金蔵から四千両を盗み出す話と聞いて、『鼠小僧』か『石川五右衛門』か、はたまた映画の『黄金の七人』のようなお話かと思ったら、盗み出す場面や捕まる場面もなく、いきさつと結果だけを舞台にしたような話でした。特に第三幕目の「伝馬町西大牢の場」はほとんど江戸時代の牢屋の実録ものという感じで、笑っていいんだかどうしていいんだか、こういう歌舞伎に慣れていないので、ちょっと戸惑いました。
筋書きを見ると、歌舞伎でかかるのは15年ぶり。これはあまりかからないわけだわ、と観ていて思いました。確かに、これは菊五郎劇団だからできる芝居で、途中、富蔵を勘三郎が演じても面白いだろうなと思ったりもしたのですが、第三幕目の「大牢の場」は、変に笑いに走ってしまうと、牢屋のリアリズムやホモソーシャルな暗喩がなくなってしまい、この芝居の良さが台無しになってしまうので難しいだろうなと感じました。
菊五郎は序幕から出ずっぱりで、菊五郎の巧さ、面白さで魅せる芝居でした。富蔵とコンビを組む藤十郎の梅玉はニンじゃないのですが、藤十郎の気弱さが出ていたと思います。「中仙道熊谷土手の場」の同心役の彦三郎がいい役で泣かせます。菊之助はチョイ役だったのが残念。
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