2012/10/21

ふるあめりかに袖はぬらさじ

赤坂ACTシアターで坂東玉三郎主演の『ふるあめりかに袖はぬらさじ』を観てきました。

ご存じ有吉佐和子原作で、杉村春子の当たり役だった作品。杉村春子による文学座公演の初演が1972年で、今年は40周年とのこと。玉三郎も1988年から杉村春子が演じたお園を演じていて、今回が10回目の公演になるそうです。

玉三郎も当初は新劇の役者さんたちと『ふるあめりかに袖はぬらさじ』を上演してきましたが、2007年には念願の歌舞伎公演を行っています。自分は残念ながら本公演は観ておらず、翌年シネマ歌舞伎で拝見したのですが、あまりの面白さに2度も観に行きました。

さて今回は、その歌舞伎版以来の公演で、南座、御園座と巡業して、亀遊役に壇れいを迎えての最終公演となります。

もともとは杉村春子のために書かれた舞台なので、流れ流れた年増芸者で、話好きで、世話好きで、酒飲みで、男にだらしがなくて、といかにも杉村春子が得意としそうなキャラを念頭においたような役。玉三郎はきれいすぎて、どちらかというとお園には不似合いなのですが、玉三郎は玉三郎らしいアプローチで、愛嬌のある“お園”を創りだしています。杉村本人は玉三郎のお園に最初は反対したそうですが、その舞台を見て太鼓判を押したともいわれています。

玉三郎は流石に慣れたもので、申し分のない演技で、時に新劇的だったり、時に世話物的だったりと“玉三郎のお園”ができあがっているなと感じました。珍しく台詞を言い間違えたり、言いよどんだりしたところがありましたが、観に行ったのが楽前だったので、長い公演の疲れだったのでしょうか。でも、存分に玉三郎のお園を楽しく拝見することができました。

前回の歌舞伎版では七之助がとても素晴らしかった亀遊を、今回は壇れいが演じるというのが話題ですが、壇れいの品の良さが邪魔をしてどうしても女郎に見えないというのはありましたが、薄幸の花魁の切なさや恋心、何より消え入りそうな儚さを難なく演じて、さすが巧いなと思いました。ただやはり歌舞伎と違って、女性が女性を演じるとリアルで、なんか生々しいもんですね。

ラストの演出が歌舞伎版と異なるなど、若干演出上の違いはあったようですが、基本的には同じ本なので、それほどの差異はなかったのように思います。ただ感じたのは役者さんの個性というか存在感の薄さ。役者のアクというか存在感が、玉三郎や壇れいを除くと平板というか、ちょっと寂しい印象を受けました。玉三郎のお気に入りらしい藤吉も、あの幕末の世に渡米して医者になろうという大志を抱いているほどの強さや熱さが残念ながら感じられませんでした。

歌舞伎版はそれぞれの役者さんの個性が強く、ほんのちょい役なのに海老蔵が出てくるだけで場の空気が変わるような存在感があったし、岩亀楼主人の勘三郎や思誠塾岡田の三津五郎なんかも、主役の玉三郎と渡り合う主張の強いいい芝居をしていたと思います。確かに歌舞伎版はオールスターキャストの贅沢な配陣でしたし、それぞれの役者の格を重んじる歌舞伎という舞台の特殊性故なのかもしれません。今回の舞台は、やはり玉三郎を“主演女優”にした企画という性格が強く、前面に玉三郎が出ていて、他の役者が一歩引いているような印象さえ受けました。特に後半は玉三郎の独壇場。もう少し玉三郎と対等に渡り合える役者がいれば、舞台にグッと厚みが出ただろうなと思います。

考えてみると、自分が玉三郎の舞台を見るのは、歌舞伎座さよなら公演の『助六』以来。この間、歌舞伎公演は東京では新橋演舞場を中心に行っていますが、玉三郎は“鹿鳴館事件”があってから演舞場とは犬猿の仲という話なので、東京で歌舞伎はル・テアトル銀座でお正月公演をやっただけ。あとは東京では舞踊公演や、去年の『牡丹亭』と今回の公演といった一般公演のみ。今年、人間国宝に選ばれた現役最高峰の歌舞伎女形の割には、ちょっと残念な気もします。

来年、新・歌舞伎座ができたら、玉三郎の歌舞伎をたくさん観られるのだろうとは思うのですが、当たり役といわれた役をいきなり封印したり、また一説には引退説までささやかれている人ですから、どこまで熱心に打ち込んでくれるのか、まだまだ予断を許しません。歌右衛門や雀右衛門や芝翫らの跡を継ぎ、歌舞伎で立女形として歌舞伎界を引っ張っていくつもりがあるのかどうか、ここ2年ばかりの玉三郎の行動を見ていると、ちょっと不安が残ります。

今回の『ふるあめりかに袖はぬらさじ』も、もしかしたら最後になるのでは?という一抹の不安があり、チケットを慌ててとりました。玉三郎が敬愛してやまない杉村春子は88歳になってもお園を演じていますが、はたして玉三郎はそこまでしてお園を演じるだろうかと思うのです。80歳を過ぎても下着姿で舞台の上に立ち、ブランチを演じてしまう女優魂の塊のような杉村春子や、老醜といわれながらも舞台に立ち続けた歌右衛門のように、玉三郎に“もう美しくない玉三郎”、“老けた玉三郎”を曝してまで舞台に立つ意志や覚悟はあるのか、そこがずっと気になっています。

お園は年を重ねても、ますます味の出てくる、いい役だと思います。一生続けられる芝居だと思うのです。またいつか玉三郎のお園が観られる日を楽しみにしていたいと思います。


ふるあめりかに袖はぬらさじ (中公文庫)ふるあめりかに袖はぬらさじ (中公文庫)

2 件のコメント:

  1. とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。。

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  2. 今日NHKで放送されていて飛んできました!
    前半をみられなかったので、どこに檀れいさんが出てくるんだ?と思いましたがそういうことだったんですね
    ありがとうございました

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