今年の春に、新潟市美術館の美術品の管理体制が問題視され、一時開催が危ぶまれたものの、最終的に長岡の新潟県立近代美術館で無事開催されたあの仏像展が巡回で東京に来ています。
今回の企画展は、新潟・東京・奈良と移動しますが、各会場により出展される仏像も結構異なっているようで、新潟開催時の目玉になった中宮寺の国宝「菩薩半跏像」は東京には来ていません。とはいえ、三箇所に出展される仏像・関連資料は計120点。その内の約半分が東京で観ることができるそうです。その名のとおり“奈良”の由緒ある寺院から貴重な仏像がたくさん貸し出されていて、法隆寺、東大寺、興福寺、薬師寺、唐招提寺をはじめ、秋篠寺、當麻寺、橘寺、般若寺、室生寺等々計20寺院。奈良に行ったって、ここまでのお寺さんを一日やそこらでは回りきれません。そう考えると、すごい企画の展覧会だと、あらためて驚いてしまいます。だけど果たして、遷都1300年で賑わう奈良から、こんなに仏さまをつ連れてきてしまって、いいのだろうか?
奈良には仕事では何度か行ってるのですが、プライベートで寺院を訪れるなんぞ、中学の修学旅行以来ありません。やれ唐招提寺だ薬師寺だ中宮寺だ興福寺だといっても、最近観てる仏像はみんな、東京でですから。考えてみると、すごいことですよね、最近の仏像の展覧会ブームは。
さて、三井記念美術館は初めて伺いましたが、会場はいくつかの部屋に分かれていて、それぞれテーマごとに仏像を陳列しています。
岡寺「菩薩半跏像(伝如意輪観音)」(重要文化財)
<展示室1・2>は小金銅仏。どれも時代的には飛鳥時代から奈良時代の20~40cm程度の小さな金銅仏がケースに収められて陳列しています。このコーナーのものは、すべて重要文化財。止利様式の傑作・法隆寺の「釈迦如来立像」やたおやかな姿が美しい岡寺の「菩薩半跏像」など、観るべきものがたくさんあります。ここは入ってすぐのコーナーなので人がたまりやすく、混雑必至です。
<展示室3>は會津八一の書と資料を集めた小間。つづく<展示室4>は東大寺・西大寺・唐招提寺・薬師寺の仏像を陳列したコーナーです。まず目に付くのが西大寺の塔本四仏像の4躯(釈迦、阿弥陀、宝生、阿閦の4如来)。東京と奈良の国立博物館に分かれて寄託されているため、こうして4躯揃うのは実に20数年ぶりだそうです。仏さまもさぞうれしいことでしょう。
西大寺「塔本四仏像」(重要文化財)
西大寺の仏像以上に異彩を放っていたのが東大寺の「五劫思惟阿弥陀如来坐像」。写真ではお見かけしたことがありますが、実物は想像以上にファンキーです(ごめんなさい)。どうも長いこと修行している間に髪が伸びてこんなになってしまった、ということらしいのですが、如来さま自体が長~い年月修行をした方なので、どんだけ修行してたのよ、という感じです。アフロなヘアーにばかり目が行きがちですが、とても柔らかい、いい表情のお顔をしています。このコーナーには、ほかにも東大寺の「四天王像」や薬師寺の「地蔵菩薩立像」など、素晴らしい仏さまがいらっしゃいました。
東大寺「五劫思惟阿弥陀如来坐像」(重要文化財)
<展示室5>は仏教工芸品。<展示室6>はもういちど會津八一の書。最後の<展示室7>には長谷寺・室生寺・當麻寺・橘寺・法隆寺・大安寺・秋篠寺・元興寺の仏像が陳列されています。東京展の目玉は、なんといっても室生寺の「釈迦如来坐像」(国宝)でしょう(公開は7/25で終了)。平安前期を代表する檜の一木造の仏像だそうで、どっしりとした体躯と厳しさの中にも慈愛を感じさせる表情で、写真家の土門拳が「日本一の美男子の仏」といったのも頷けます。身にまとう衣の紋様がまた滑らかで美しく、とても印象的です。「釈迦如来坐像」は室生寺でも滅多に観れない仏像だそうで、それが奈良にも行かず東京で拝めるのですから、贅沢というか、東京で楽して観ること自体が、バチ当たりではないかと思ってしまいます。
室生寺「釈迦如来坐像」(国宝)
この最後のコーナーには、秋篠寺の「地蔵菩薩像」や橘寺の「伝日羅立像」、さらに法隆寺の国宝「観音菩薩立像(夢違観音)」といった仏像ファンを唸らせる傑作が多く、ちょっと眩暈がするほど濃厚感がありました。
法隆寺「観音菩薩立像(夢違観音)」(国宝)
国宝・重文クラスの仏像が大挙集まっているとはいえ、どちからというと地味さが漂い、昨今の仏像展のような派手さはありませんが、それ故、“ツウ好み&”といった感じの展覧会でした。
【奈良の古寺と仏像 ~會津八一のうたにのせて~】
三井記念美術館にて
9/20まで
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