開催から2ヶ月を待たずして、すでに入場者が40万人を突破したという人気ぶり。ということはその混雑ぶりもスゴいのですが、平日でも20~30分待ちはザラということで、開場30分前に国立新美術館へ到着。
オルセーの会場は2階なので、エスカレーターでスーッと上がると、アレ?行列がない。。。30分前に来る人はいないのかな?と思ったら、違いました。連日の混雑のため、開場を30分早めていたようです。人混みの中で鑑賞することを予想していただけに、これ幸い、ゆっくりとオルセーの名画を堪能することができました。早起きは三文の徳ですね。
さて、今回のテーマは“ポスト印象派”。印象派がもたらした絵画の刷新を、その後の画家たちはどう継承し、どう否定し、どう変化させていったか。本展覧会では10ものパートに分けて、具体的に提示しています。
まずは、<第1章 1886年―最後の印象派>。1874年から始まった“印象派展”は1886年に早くも終わりを告げるのですが、ここでは、その転換期となった時期に描かれた印象派の作品が紹介されています。展示11点中5点がモネで、あとはベナール、ドガ、ピサロ等。それぞれ画家たちが自分たちの進むべき道を模索していたとはいえ、ここのコーナーはまだまだ“印象派”の色彩が濃厚です。
クロード・モネ「日傘の女性」
ポール・シニャック「井戸端の女たち」
つづいて、同じ“第8回印象派展”に登場した新世代のスーラとシニャックにスポットを当てた<第2章 スーラと新印象主義>。スーラとシニャックは、ご存知のように、印象派の“光”を科学的に捉え、独自の点描画法で有名ですが、このコーナーではその二人の絵を中心に、“新印象派”と呼ばれた画家たちの作品を紹介しています。自分が学生の頃、美術史の授業では“後期印象派”と教わりましたが、“後期印象派”って原語では“Post-impressionnisme”なんですね。そうすると、意味的には印象派の次の(あとの)流れということで、“ポスト印象派”という呼び名の方が正解なんでしょう。“後期印象派”と言われると、印象派の流れの中での後期の流派と思ってしまいます。確かにスーラやシニャックの絵を観ていると、ルノワールやモネら印象派の画家の作品と一緒にするのはどうかという気になります。
ポール・セザンヌ「水浴の男たち」
次は、<第3章 セザンヌとセザンヌ主義>。セザンヌといえば、“第一回印象派展”にも参加している印象派創生のメンバーの一人ですが、独自の画風を追求するために、早くにその流れから離脱した人でもあります。だから、本当は“ポスト印象派”とはちょっと違うんでしょうが、ゴーギャンやドニといった同時代の画家や、ピカソなど後のキュビズムやナビ派にも影響を与えたという観点で、“セザンヌ主義”として大きく取り上げられています。
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「黒いボアの女」
つづく<第4章>では、トゥールーズ=ロートレック、<第5章>では、ゴッホとゴーギャンというように、“ポスト印象派”を代表する画家が取り上げられています。トゥールーズ=ロートレックは3点だけの出展でしたが、ゴッホは7点、ゴーギャンは8点と数も多く、本展覧会の中でも一番広いスペースが割り当てられていて、見応え充分。中でも、ゴッホの「星降る夜」の前では、多くの人が立ち止まって鑑賞していました。写真で観るのと印象が異なり、星が正に降ってきそうな美しい星空に、夜風の涼しさ、波音の優しさが伝わってくるようで、とてもロマンチックで魅力的な作品でした。
フィンセント・ファン・ゴッホ「星降る夜」
ポール・ゴーギャン「《黄色いキリスト》のある自画像」
<第6章 ポン・タヴェン派>と<第7章 ナビ派>は、それぞれゴーギャンの影響を強く受けたベルナールやセリュジエ、ドニらの前衛的な画家たちの作品。ここまでくると、印象派の面影はかなり薄れますが、“ポスト印象派”という流れの中で、ゴーギャンを観て、そしてベルナールやナビ派の絵画を観ていくと、その系譜をよく理解できます。
モーリス・ドニ「木々の中の行列(緑の木立)」
オディロン・ルドン「キャリバンの眠り」
<第8章 内面への眼差し>は、さらに“ポスト印象派”という観点で象徴主義を紹介しています。なぜか、ハンマースホイも1点ありました。ハンマースホイが“ポスト印象派”と言われても、あまりピンときませんが、同時代の画家、また象徴主義の画家(ハンマースホイは“北欧象徴主義”の代表とされます)という接点で出展されたのでしょう。ルドンからハンマースホイまで、こうして観ると、象徴主義って、かなり幅があります。
ヴィルヘルム・ハンマースホイ「休息」
さあ、後半も残りわずかです。<第9章>は、アンリ・ルソーだけに一部屋あてがわれています。ルソーは2点だけですが、「戦争」と「蛇使い」という彼の代表作が来ています。ここに辿り着く前にすでにお腹いっぱい状態なのに、さらに大盛り飯が用意されていたという感じです。この2枚の絵だけでもお客さんを十分呼べると思うのですが、ゴッホにセザンヌ、ゴーギャン、どれだけオルセーの名品を観たことか…。あらためてこの展覧会の錚々たる、そして贅沢な出展作品の数々に驚愕します。
アンリ・ルソー「蛇使いの女」
最後は<第10章 装飾の勝利>。なにが勝利なのか、いまひとつ理解できませんでしたが、最後のコーナーでは、ボナールやヴュイヤールといったアール・ヌーヴォーな室内装飾画が飾られています。ポスト印象派が総合芸術として評価されるようになったことを言いたいんだと思いますが、ごめんなさい勉強不足でよく分かりませんでした。
とはいえ、“空前絶後”と宣伝されているように、これだけの名画が東京で観られるのは、正しく“空前絶後”であり、“奇跡”だと思います。ぼくみたいな庶民は、絵画が観たいからと言って、そうそう簡単にパリになんて行けませんから、まずは騙されたと思って観に行ってください。絵画の持つ力に圧倒されること必至です。
ギュスターヴ・モロー「オルフェウス」
【オルセー美術館展2010「ポスト印象派」】
国立新美術館にて
2010年8月16日(月)まで
オルセー美術館の名画101選--バルビゾン派から印象派 (アートセレクション) (小学館アート・セレクション)
印象派の誕生―マネとモネ (中公新書)
Pen (ペン) 2010年 6/1号 [雑誌]
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