2017/05/12

木×仏像展

大阪市立美術館で開催中の『木×仏像 - 飛鳥仏から円空へ 日本の木彫仏1000年』を観てまいりました。

仏像の素材の「木」に着目し、日本の仏像史を展観するという企画展。時代ごとに、どういう種類の樹木が使われたのか、またそこから読み取れる仏像の傾向や特徴を紹介しています。

過去に東博で開催された『仏像 一木にこめられた祈り』と重なる部分もあって、内容に目新しさはありませんが、関東人にはなかなか観られない関西の仏像が多く、その充実ぶりに驚きました。やはり京都・奈良といった都の圏内だけのことはあるなと思います。関東で、関東の仏像だけで同じ企画を立てても、これだけの仏像は集まらないでしょう。

ガラスケースなしの露出展示も多く、ほとんどの仏像で360度ぐるりと観られるという展示方法も良かったです。



飛鳥時代はクスノキ、奈良時代後半になると主にカヤ材、平安時代初期には唐の白檀の檀像を手本に日本産出のカヤ材やヒノキ材などで代用した檀像が流行したといいます。東博所蔵の「木像 菩薩立像」は飛鳥時代に遡るという日本最古の木彫仏のひとつ。木材はクスノキで、仏教伝来期特有の大陸の影響を残す一方、どことなくプリミティブな素朴さを感じます。

「木造 菩薩立像」
飛鳥時代・7世紀 東京国立博物館蔵

2015年に国宝に指定されたばかりの「弥勒如来坐像」は東大寺の大仏を造るにあたっての試作と伝わることから“試みの大仏”とも呼ばれます。数年前に東大寺ミュージアムでも拝見しましたが、50cmにも満たないこじんまりとした仏像なのに、見た目からくる印象は非常にどっしりと大きなものがあります。ちょっと前のめりで話しかけるような面差しもとても優しそうで、見てるだけで心の奥が温かくなる気がします。こちらはカヤ材。

「木像 弥勒如来坐像 《試みの大仏》」 (国宝)
奈良時代・8世紀 東大寺蔵

美術館の目と鼻の先にある四天王寺からは複数の仏像が出品されています。「阿弥陀三尊像」は中尊はカヤ材の一木造、脇侍はヒノキ材で、それぞれ時代が異なるとのこと。カヤ材は匂いがいいという話を聞きますが、ケースに入っていないからといって、鼻を近づけても匂いは分からないですね(笑)。唐招提寺の「伝獅子吼菩薩立像」もカヤ材。両腕は欠損し、鼻も欠けてしまっていますが、鑑真とともに来朝した中国の仏師によって造られたのではないかともされ、どことなく異国的な雰囲気が漂います。

胸も厚くどっしりとした体躯が印象的な奈良・宮古薬師堂の「薬師如来坐像」はいい色に黒光りして、一体どんな木材なんだろうと思ったのですが、ヒノキの一木造で、実は後世に漆塗りされたのだそうです。薬師寺の「地蔵菩薩立像」は温和なお姿が印象的。ヒノキと見られる針葉樹材とのこと。大阪・蓮花寺の「地蔵菩薩立像」は木目もはっきりとし、力強さを感じる地蔵菩薩像。こちらは広葉樹材。

「木像 宝誌和尚立像」 (重要文化財)
平安時代・11世紀 西往寺蔵

本展の目玉の一つが「宝誌和尚立像」。宝誌が観音菩薩の変化身であったという説話に基づくもので、僧の顔が二つに裂け内側から観音の顔が現れるというその姿は日本の仏像の中でも奇怪なものとして有名ですね。しばらく京博の常設に展示されていたこともあり、何度か拝見していますが、鉈彫りであるとか、背中に大きな穴があるとか製法に注目したことがなかったので、その点でも興味深かったです。背中は正面のような鑿跡はなくて、腰上あたりから下半身にかけてふっくらとした丸みがあって、そんなことに気付けるのも360度展示の良さ。

昨年、東博で開催され話題になった『平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち』に出品された櫟野寺の仏像も3躯出品されていました。“甲賀様式”と呼ばれるすらりとした長身細身の仏像。腕が欠損しているものもありますが、地方仏らしい親しみがあります。

印象的だった仏像の一つが、玄海という鎌倉時代の仏師の手による「釈迦如来立像」。見た目は清凉寺式の釈迦如来像ですが、頭が少し大きいのと、顔も原像とはかなり違って独特。今回の京阪の仏旅(?)では奈良博のなら仏像館と大津の三井寺でも清凉寺式釈迦如来像の模刻像を拝見しましたが、基本的な図像形式は同じでも、時代の好みも反映するのか、顔の感じもそれぞれ少しずつ違ったりするのが新しい発見でした。

玄海 「木像 釈迦如来立像」 (重要文化財)
鎌倉時代・文永10年(1273) 奈良国立博物館蔵

本展では、仏像の素材だけでなく、木彫りの製法についても紹介しています。平安時代までは1本の木材から像を丸彫する“一木造”ですが、その後、干割れを防ぐため一木造の像の前後を割り、内刳りを施したあとに再び矧ぎ合わせる“割矧造”という技法が生まれ、それが鎌倉時代以降主流となる“寄木造”に発展します。内刳りがどんな風になっているのか、寄木造がどのように製作されるのか、塑像の芯木はどういうものか、そういった点もちゃんとフォローされていて、実際の作品で観ることができます。

第二会場はバラエティに富み、四天王像から円空仏までさまざま。大阪・大門寺の「蔵王権現立像」は片足立ちの仏像で、よく立つことができるなと驚くような絶妙なバランス。 ちょっとでも揺れたら倒れそう。

圧倒されたのは新薬師寺の「四天王立像」。新薬師寺というと十二神将像が有名で、数年前に訪れたときもあまりのカッコよさに見惚れた覚えがありますが、この「四天王立像」の肉体表現も抜群にカッコいい。東大寺が平家により焼き討ちされた後、運慶・快慶ら慶派仏師により再興された四天王立像を模したとされ、その精緻な文様や彩色も大変素晴らしく、見応えがありました。

円空 「木造 秋葉権現三尊像」
江戸時代・17世紀 個人蔵

ちょうど『快慶展』を観るため関西に行く人も多いと思いますが、ちょっと大阪まで足を伸ばしてこちらも観れば、より充実した仏像の旅を堪能できますよ。


【木×仏像 - 飛鳥仏から円空へ 日本の木彫仏1000年】
平成29年6月4日(日)まで
大阪市立美術館にて


奈良 仏像めぐり (たびカル)奈良 仏像めぐり (たびカル)


京都仏像めぐり (たびカル)京都仏像めぐり (たびカル)

2017/05/07

花*Flower*華

山種美術館で開催中の『花*Flower*華 -琳派から現代へ-』を観てまいりました。

花の季節に相応しく花を描いた作品を集めた企画展。会場は、春から冬まで4つの章と、《花のユートピア》と《魅惑の華・牡丹》というテーマ展示で構成されていて、琳派から近代日本画、そして現代日本画まで、春夏秋冬、季節折々の花々が目を楽しませてくれます。

まぁいつも思うことですけど、山種美術館の日本画コレクションの充実度のハンパなさといったら、感心するばかりなのですが、四季の花をテーマにした展覧会は何度かやってるし、何度も観てるのだけど、初めてお目にかかるような作品もあるし、毎回趣向を凝らしていて、全く飽きることがないのがスゴイですね。


最初に目に飛び込んでくるのが、小林古径の「菖蒲」。大きな画面に勢いよく伸びた色とりどりの菖蒲。菖蒲のバランスに比べ小さな古伊万里の花瓶。今の季節を感じる爽やかな逸品です。並んで展示されていた古径の「鉢花」は春の作品。これから生けようとしているのか、根元を切り揃えた赤と白のチューリップが気持ちいい。

奥村土牛 「醍醐」
昭和47年(1972) 山種美術館蔵

奥村土牛は「醍醐」と「木蓮」。「醍醐」は何度も拝見していますが、桜の季節になると観たくなる傑作ですよね。「木蓮」は絵具のにじみが木蓮の色の陰影を作っていて、花のコントラストにより立体的な深みを増しています。

最近話題の渡辺省亭は「桜に雀」が出てます。この前の『日本画の教科書 東京編』に出品されていた「月に千鳥」と同じ三幅対の内の一幅。水墨による山桜のたおやかさも素晴らしいのですが、省亭はやはり“鳥”で、写実的な雀の巧さ。目に表情があります。

鈴木其一 「四季花鳥図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵

《花のユートピア》では、鈴木其一の「四季花鳥図」が目を惹きますが、今回個人的に興味深かったのが山元春挙の「春秋草花」。春挙は円山四条派の流れを引く日本画や水墨の風景画の人とばかり思っていましたが、意外にもモダンな感じの作品で、作家名を二度見してしましました。比較的濃い色の絵具を使い、菜の花は割と厚塗り。春の菜の花とモンシロチョウ、秋のススキと桔梗にスズムシが日本画モダン的な構図に収まってます。

小茂田青樹の「四季草花画巻」も興味深い。平八郎というとモダンな日本画というイメージがありますが、「四季草花画巻」には椿やツツジ、芽張り柳、スミレ、ヤマブキなどが写実的にスケッチされています。花のそばにコマネズミの子が小さく描かれているのも可愛い。

山口蓬春 「梅雨晴」
昭和41年(1966) 山種美術館蔵

夏の作品に移ると、山口蓬春。「唐壺芍薬」は菱餅のような色合いの大きな花瓶に満開の芍薬。「梅雨晴」は紫陽花の小さな萼ひとつひとつにグラデーションがあり、紫陽花らしい色合いがなんとも美しい。

現代日本画家の牧進の「初夏の頃」も印象的。二曲一隻の屏風に描かれたピンク色のシャクナゲ。バックには竹垣が配され、濃緑の葉とのコントラストもいい。川端龍子に師事したとあり、なるほどと思いました。

日本画の山種美術館には珍しく油彩画もあって、梅原龍三郎、中川一政のバラの絵が並びます。そのとなりの森田沙伊の「薔薇」もてっきり油彩だと思ったのですが、実は油彩ではないらしい。キュビズム風で面白い。梅原龍三郎はゴッホの梅原流解釈ともいえる「向日葵」も。

秋の作品では、酒井抱一の「菊小禽図」と「秋草図」にやはり秋の情緒を感じます。冬の作品では、横山大観の「寒椿」がいい。色の深い金地に白く小さな椿の花。葉はたらし込みで描かれ、奥に仄かに浮かび上がる竹も雰囲気があります。昨年の『江戸絵画の視線』で強い興味を覚えた「竹垣紅白梅椿図」も出ていました。やはりいいですね。

上村松篁と加山又造の扇面散屏風も華やか。松篁の「日本の花・日本の鳥」は二曲一双の金地の屏風に12か所扇形を散らし、そこに季節の花鳥を描くという趣向を凝らした作品。松篁らしい花鳥が金地に映えます。加山又造の「華扇屛風」は変化に富んだ銀箔地に季節の花を描いた扇面を散らした加山ならではの装飾的で華やかな作品。

鈴木其一 「牡丹図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵

第2室は牡丹づくし。正面には先日まで加島美術の『蘇る!孤高の神絵師 渡辺省亭』に出品されてた「牡丹に蝶」が展示されています。となりにはこれも見事な其一の「牡丹図」があって、二つの牡丹図が並ぶ様はまるで花の香りにむせかえりそうになるぐらい濃厚。福田平八郎の色とりどりの牡丹や、紅の白粉を刷いたような安田靫彦の牡丹、望月春江の大ぶりの黄牡丹、華の盛りを過ぎても尚も艶やかな小倉遊亀の牡丹など、それぞれに華の競演といった趣きでうっとりします。

酒井抱一 「月梅図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵

最近、山種美術館は一部の作品だけ特別に撮影ができるようにしてくれていますが、今回の『花*Flower*華 展』ではなんと酒井抱一の「月梅図」が撮影可能。琳派ファンには嬉しいですね。


※酒井抱一「月梅図」以外の撮影は禁止されています。展示会場内の写真は特別の許可のもと撮影されたものです。


  山種美術館のもうひとつのお楽しみといえば、≪Cafe 椿≫。展示作品にちなんだ和菓子がいただけることでも人気ですが、今回から和菓子になってる作品には解説パネルに“和菓子マーク”がつくようになりました。絵を観ながら、これが和菓子になったら、と想像するのも一興かも(笑)。わたしは蓬春の「梅雨晴」にちなんだ「朝つゆ」をいただきました。紫陽花色の錦玉羹の中は白あん。美味しゅうございました。


【企画展 花*Flower*華 -琳派から現代へ-】
2017年6月18日(日)まで
山種美術館にて


四季の花 (上巻)四季の花 (上巻)


四季の花 (下巻)四季の花 (下巻)

2017/05/06

松岡コレクション 美しい人びと

松岡美術館で開催中の『松岡コレクション 美しい人びと』を観てまいりました。

実は1月から開催していて、すでに後期展示も後半。4月は忙しくて展覧会にほとんど足を運べなかったのですが、連休に入りようやく時間が作れたので早速伺ってきました。

1階はミイラやブロンズ神像といった古代オリエンタル美術、ヘンリー・ムーアなどの現代彫刻、インドから中国にかけての古代東洋彫刻を展示。2階に上がると、中国やベトナム、日本などの陶磁を集めた『館蔵 東洋陶磁展』、そして日本画の『美しい人びと』と続きます。

『美しい人びと』はその名のとおり、上村松園や鏑木清方、伊東深水、伊藤小波といった近代日本画を代表する美人画家の作品がずらり。

松園は代表作の「春宵」が出ているのが嬉しい。小波の「秋の夕」は何か観たことがあるなと思ったら、松園の「夕べ」(山種美術館蔵 ※本展には出品されていません)に倣ったものとか。深水は能を舞う女性のきりりとした姿が美しい「仕舞熊野」がいい。深水でここまで大きな作品はあまり観たことがないような気がします。

[写真左から] 伊藤小波 「秋の夕」、鏑木清方 「菖蒲」、伊東深水 「夕涼み」

上村松園 「春宵」
昭和11年(1936)

伊東深水「仕舞熊野」
昭和37年(1962)

その中でも目を惹いたのが池田蕉園・輝方の屏風「桜舟・紅葉狩」。輝方が描いたという左隻「紅葉狩」は、美少年を振り返って見つめる女性たち、妻・蕉園が描いたという右隻「桜舟」は花見の舟で若衆と楽しげに過ごす女性たちという構図が面白い。これも美しい人びと。

池田蕉園・輝方 「桜舟・紅葉狩」
明治45年(1912)頃

そして、加島美術の『蘇る!孤高の神絵師 渡辺省亭』の関連展示として、松岡美術館が所蔵する渡辺省亭の作品も展示されています。澄んだ水の中をゆっくりと泳ぐ鯉。長閑な景色の中を悠々と飛ぶ雀。桜や藤、青梅といった、春から初夏にかけての花や果実との組み合わせがまたいいですね。鳥や鯉の写実的な表現はさすがに巧いのですが、青梅や藤、寒菊の描写が味わいがあるというか、生き物とはまた違う巧さ。

[写真左から] 渡辺省亭 「寒菊図」 「青梅に雀の図」 「遊鯉図」

[写真左から] 渡辺省亭 「藤花遊鯉之図」 「桜にやまどりの図」

美術館の一部屋だけの特集展示なので、作品数は多くありませんが、良質な美人画が揃っています。渡辺省亭もこの機会に是非。


【松岡コレクション 美しい人びと】
2017年5月14日(日)まで
松岡美術館にて


渡辺省亭: 花鳥画の孤高なる輝き渡辺省亭: 花鳥画の孤高なる輝き

2017/05/05

勝部如春斎展

西宮市大谷記念美術館で開催中の『西宮の狩野派 勝部如春斎』を観てまいりました。

1泊2日で大阪・奈良・京都・大津をまわってきたのですが、時間的にちょっと厳しいので、この『勝部如春斎展』はコースから外していたのですが、大阪に向かう途中の新幹線の中で、ちょうどアップされたばかりの @yugyo7e さんのブログ記事を読んでしまい(笑)、やはりこれは観なくてはと急遽予定を変更。幸い東京発6時台の新幹線だったので、開館前に到着しました。

如春斎は西宮や摂津を中心に活動した狩野派の絵師。江戸後期を代表する絵師、森狙仙の師として知られます。かつては山本如春斎という名前で語られ、わたしも“山本”で聞き覚えがあったのですが、実は誤伝されたものとか。戦前には展覧会もあったようですが、戦後ここまで大きく紹介されるのは初めてだそうです。


まず一階は襖絵と屏風。見事な花鳥の襖絵が並べられています。「秋草に鶴図」は金地に鶴と菊や薔薇、牡丹といった花が華やかな作品。動きに富んだ鶴もいいし、青い流水紋も画面の装飾性を引き立てます。「松桜に孔雀図」と「松楓に孔雀図」はそれぞれ4面の対となる障壁画。大木の松は狩野派の大画様式を感じますが、孔雀は狩野派というより、応挙や円山四条派の影響を受けているように見えます。松と花と孔雀の華麗な競演は智積院の長谷川等伯の「楓図」を思わせなくもありません。

勝部如春斎 「松桜に孔雀図」
明和元年~天明4年(1764~1784) 弘誓寺蔵

「四季草花図/芦雁図」は六曲一双の屏風の表裏に描かれた作品。表は金屏風で、右隻に野薔薇やタンポポ、百合、蕨、菖蒲、山吹といった春から初夏の花々、左隻に女郎花や桔梗、萩など秋の花々が咲き、華やか。草花は必ずしも丁寧に描いてるわけでなく、どちらかというと、かなりゆるい描き方ですが、その分、肩ひじ張らない親しみやすさがあります。岩の描写なんかも、あまり狩野派ぽくありません。裏に回ると一転水墨の「芦雁図」。余白を活かしたまとまりのある構図で、静寂な情緒を感じます。二曲一隻の「牡丹図」もなかなか。牡丹のシルエットを白い絵具で表し、葉や茎は墨で描くという洒脱な筆遣い。狩野派では見たことのない筆法。

勝部如春斎 「三十三観音図 大自在天身」
宝暦13年(1763)頃 茂松寺蔵

二階は仏画、花鳥、道釈画など。仏画では東福寺にある明兆の「三十三観音図」を模写したという「三十三観音図」。観音図がずらりと並ぶ様は壮観。明兆の「三十三観音図」のうち「大自在天身」も参考展示されています。ちなみに明兆の「三十三観音図」は今年重要文化財に指定され、東京国立博物館の『平成29年 新指定 国宝・重要文化財展』にも5幅だけ出品されています。如春斎の「三十三観音図」は基本的に原本に忠実ですが、明兆に比べると、色調が明るいせいか軽い感じがします。のびのびと描いているように見えて、人物の衣文線などは実に巧み。となりにあった「十八天図」も明兆の仏画の模写。

「龍虎図」の押絵貼屏風も面白い。一扇ごとに龍虎虎龍虎龍みたいに並び、とてもよく描けているのですが、獰猛さはなく、それぞれに愛嬌があります。

勝部如春斎 「小袖屏風虫干図巻」(部分)
明和元年~天明4年(1764~1784) 大阪市立美術館蔵

絵巻の「小袖屏風虫干し図巻」が傑作。小袖や屏風を並べ、虫干しする様子を描いた作品で、虫干しというと夏ですが、虫干しの場面の前後には春夏秋冬の花木も描かれ華を添えます。画中の屏風は狩野派の粉本によるものでしょうか、朝顔の屏風絵は狩野山雪の「朝顔図襖」と酷似しています。如春斎は大坂と京都を行き来していたと解説にあったので、もしかしたら京都で山雪の朝顔を観ていたのかもしれません。狩野派に学んだとされる岩佐又兵衛にも似た朝顔の作品があって、朝顔図の図様についてはちょっと気になっています(参照:『岩佐又兵衛展』)。

[写真左] 勝部如春斎 「小袖屏風虫干図巻」(部分)
[写真右・参考] 狩野山雪 「朝顔図襖」(部分)

与謝蕪村の書簡とともに表具した「鵜飼図」もいい。人物の動きを見事に捉えています。他の作品でもそうですが、如春斎は人物表現に優れた技量を見せるようです。「旭図」が3点。いずれも赤い旭にドーナツの穴のような金の丸。「旭図」は吉祥画としてよく見かけますが、真ん中に金の丸を描いたものは見かけたことがないような。

画稿もいくつか展示されていて、これを見ると如春斎は相当腕のある絵師と分かるのですが、実際の作品は手堅い筆致の中にも軽さや緩さがあったり、アレンジを利かせている感じを受けます。琳派を思わせる作品や南画風の作品もあり、狩野派にとらわれず、硬軟自在にさまざまな画風を取り入れ、顧客のニーズに応えたのだと思います。

勝部如春斎 「西王母図」
明和元年~天明4年(1764~1784) 個人蔵

最後に再び1階に下り、18世紀に摂津で活躍した絵師の作品を展観。大坂を代表する狩野派の絵師・大岡春卜の「鶴図」が実に巧い。この人の絵も一度ちゃんと観てみたい。大坂ということで木村蒹葭堂や鶴亭の作品も。月岡雪鼎の肉筆浮世絵も二幅。美人画で知られますが、「曲水之図」はやたらと美男子。如春斎に師事したという森狙仙の二曲一双の「猿図」がまた素晴らしい。狙仙の猿もいろいろ観てますが、これはかなりの傑作。松にたくさんの猿。岩から飛んでる猿が面白い。 ほかに狙仙の兄・周峰、如春斎の兄・勝部松貫や弟子らの作品が並びます。



如春斎は戦災で失われてしまった作品も多いといいます。参考展示されていた戦前の書籍に載った作品名を見ると、どんな作品だったのかと、残念な思いがします。如春斎は江戸絵画史に名を残すような第一級の絵師ではないですし、際立った個性もありませんが、狩野派というお高い感じはなく、地元密着型の狩野派というか、親しみのある画風に好感が持てました。


【西宮の狩野派 勝部如春斎】
2017年5月7日(日)まで
西宮市大谷記念美術館にて

2017/04/28

雪村 奇想の誕生

東京藝術大学大学美術館で開催中の『雪村 奇想の誕生』を観てまいりました。(こちらもすっかりアップが遅くなり、すでに前期展示が終わってしまいましたが…)

本展は、戦国時代の関東水墨画を代表する画僧・雪村(せっそん)の待望の展覧会。主要作品約100数点と関連作品約30件で構成され、雪村の回顧展としては過去最大規模だといいます。

雪村(雪村周継)は中世の重要な水墨画家という位置づけでありながら、近年なかなか一堂に観る機会がなくて、わたし自身もここまでまとめて観るのは初めて。その名前からも察せられるように、雪舟を強く意識していたともいわれ、雪舟に近い時代の画僧というイメージがあったのですが、実は狩野元信の一回り下で、晩年は安土桃山時代であり、雪村を最後に関東水墨画は終焉を迎えたということも初めて知りました。まだまだ知らないことも多くあって、非常に興味深く、有意義な展覧会でした。


第1章 常陸時代、画僧として生きる

雪村は生没年も明確でなく、その生涯は謎に包まれています。京に上ることもなく、人生の半分以上を常陸の地で過ごしたといわれます。常陸というと都からも鎌倉からも離れ、絵の修業をするには条件的に恵まれていないように思いますが、常陸時代の雪村作品を観ていると、そんな環境でどうしてここまでの画技を身につけることができたのか、とても興味を覚えます。

雪村周継 「滝見観音図」
室町時代・16世紀 正宗寺蔵 (展示は4/23まで)

初期作品は、観音図など仏画や中国の故事を題材にした作品、瀟湘八景図、山水画、花鳥画等、レパートリーは意外に広いのですが、画風としてはオーソドックスな印象を受けます。ただ、筆者不詳の「滝見観音図」を模写したとされる作品を観ても雪村がこの頃すでに高い技術を有していたことが分かります。雪村の「滝見観音図」では善財童子が観音様を仰ぎ見るように変更されていて、先日『高麗仏画展』で観た水月観音図を彷彿とさせますし、雪村に私淑したという狩野芳崖の「悲母観音」の構図に近いものも感じます。

雪村周継 「夏冬山水図」 (重要文化財)
室町時代・16世紀 京都国立博物館蔵 (展示は4/23まで)

「夏冬山水図」は雪舟や関東水墨画の祥啓のような楷体水墨画であり、「葛花、竹に蟹図」は院体画風であり、雪村の個性はまだ現れていないながらも、それぞれに完成されていることに驚きます。そんな中で「柳鷺図」の白鷺の描写や幻想的な空気感は格別。後年の「花鳥図屏風」を思わせます。後期展示ですが、「風濤図」の強風の表現もいかにも雪村という感じ。

雪村周継 「風濤図」 (重要文化財)
室町時代・16世紀 野村美術館蔵 (展示は4/25から)


第2章 小田原・鎌倉滞在-独創的表現の確立

雪村が遍歴の旅に出るのは40歳代後半といわれ、小田原・鎌倉には50代の頃に滞在していたようです。小田原・鎌倉は京都の禅宗寺院との繋がりも深く、関東水墨画を代表する賢江祥啓の弟子も多くいたでしょうし、また狩野正信の画系を引く小田原狩野と呼ばれた一派もあって、この時期に得たものはかなり大きかったのではないでしょうか。

雪村周継 「高士観瀑図」
室町時代・16世紀 個人蔵 (展示は4/23まで)

雪村周継 「列子御風図」
室町時代・16世紀 アルカンシエール美術財団蔵 (展示は4/23まで)

もともと画技に優れた雪村ですが、この時代になると筆遣いは豊かになり、構図も大胆になります。中国画や室町水墨画の影響は色濃く、やはり京の洗練とは違うのですが、真体にしても草体にしてもレベルは高く、独特の個性も感じられるようになります。「高士観瀑図」は右下に滝を見上げる高士たちを小さく描き、滝の大きさと遠景の雪山を際立たせた構図が斬新。「列士御風図」はいまだかつて見たことのないような不思議な構図で、後の「呂洞賓図」に繋がるものを感じます。

雪村周継 「竹林七賢酔舞図」
室町時代・16世紀 メトロポリタン美術館蔵

「竹林七賢酔舞図」のユニークな人物表現、「百馬図帖」の単純化された軽快な動きのある線、「瀟湘八景図」(正木美術館蔵)の薄墨と濃墨の絶妙なバランス。どの作品も個性豊かな表現と自在な筆致に溢れています。


第3章 奥州滞在-雪村芸術の絶頂期

この頃になると、雪村の自由な発想や大胆な構図が明らかに“奇想”化していくのが分かります。奇抜な造形に目を奪われがちですが、その自在で変化に富んだ筆線、何より墨の濃淡の使い分けの巧みさに感動します。

雪村周継 「呂洞賓図」 (重要文化財)
室町時代・16世紀 大和文華館蔵 (展示は4/23まで)

龍の頭に乗り天空の龍と対峙する呂洞賓。手に持つ水瓶から立ち上る煙は龍となり、天の龍を威嚇します。雪村の“奇想”の代表作「呂洞賓図」は昨年の『禅展』で初めて拝見したのですが、その奇妙な構図は見れば見るほど不思議。その独創的な図像は雪村以前には例がないといいます。「呂洞賓図」はいくつか描いているようで、本展では他の同題作も紹介されています。

道釈人物画も複数展示されていました。これも小田原・鎌倉時代の絵画学習の成果でしょうか。古典的な系譜にありながら、思わず顔がほころんでしまいそうなユニークな図像は唯一無二のものがあります。肥痩の強いしなやかな衣文線と影のように引かれた淡墨も独特です。

雪村周継 「龍虎図屏風」
室町時代・16世紀 根津美術館蔵 (展示は4/25~5/7まで)

雪村の「龍虎図屏風」というと、根津美術館本とクリーブランド美術館本があるのですが、4/25~5/7まで根津美術館本が限定公開。わたしが観にいたときはクリーブランド美術館本の高精細複製品が展示されていました。幸いにも過去に両方とも実物を拝見したことがありますが、雲は竜に従い風は虎に従うという言葉どおりの迫力のある素晴らしい作品です。日本に「龍虎図」が伝えられたのは南宋時代(13世紀)の画僧・牧谿が初めてともいわれますが、一双の屏風に最初に描いたのは誰なのでしょう? 「龍虎図屏風」は特に戦国時代から江戸初期にかけて、さまざまな絵師が取り組んだ画題ですが、雪村の屏風は頭一つ抜きん出ているというか、当時の水墨画としてはエポックメイキングだったんじゃないかなと感じます。

雪村周継 「花鳥図屏風」 (重要文化財)
室町時代・16世紀 大和文華館蔵 (展示は4/23まで)

雪村周継 「花鳥図屏風」
室町時代・16世紀 ミネアポリス美術館蔵

二つの「花鳥図屏風」も見もの。祥啓が師事した芸阿弥の父・能阿弥の「四季花鳥図屏風」を思わせる柔らかな光と湿潤な空気が花と鳥の楽園を幻想的に演出しています。ミネアポリス美術館蔵の「四季花鳥図屏風」は夜の静寂を打ち破るかのように波音を立てて浮かび上がる鯉の描写が秀逸。右隻の白鷺は慌てふためき、左隻の白鷺はビクッとしたり、様子を伺ったり、その対照的な表現も面白い。


第4章 身近なものへの眼差し

雪村の作品には動物や昆虫といった身近な生き物がよく描かれているそうで、ひとつの章として紹介されています。「猿猴図」の猿は牧谿の猿を参照してるのでしょうが、蟹を捕まえようとする猿とその様子を後ろから覗く猿のユーモラスさが傑作ですね。「猫小禽図」の虎のような猫と猫をあざ笑うかのような鳥も面白い。

雪村周継 「猿猴図」
室町時代・16世紀 個人蔵 (展示は4/23まで)


第5章 三春時代 筆力衰えぬ晩年

雪村の発想力は晩年になるほど冴え渡っていたようで、いわゆる“奇想”と評される作品は晩年になるほど多い気がします。

雪村周継 「蝦蟇鉄拐図」
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵 (展示は4/23まで)

今回の展覧会で一番驚愕したのが「金山寺図屏風」。解説パネルには“仮想現実”の世界とありましたが、SF映画的といいましょうか、幻想文学風といいましょうか、建物の精緻な描写や雪村的な波紋の表現もさることながら、その独特の世界観にビックリしました。「蝦蟇鉄拐図」や「呂洞賓図」、「列士御風図」などのユニークさは確かに面白いし、雪村を特徴づけるものだと思うのですが、個人的には第3章の2つの「花鳥図屏風」やこの「金山寺図屏風」の夢幻的な美しさに強く惹かれます。「金山寺図屏風」もそうですが、建物の中のミニチュアな人物を描くとき目鼻を省略することが多いようで、それでもその表情や仕草が伝わるから凄いなと思います。

雪村周継 「金山寺図屏風」
室町時代・16世紀 笠間稲荷美術館蔵


光琳が愛した雪村

光琳との繋がりも興味深い。雪村は関東の画僧なので、光琳も京ではなく江戸でその作品に触れたのでしょうか。雪村の作品を模写した「琴高仙人図」は以前にも観て知っていましたが、光琳が他にも雪村風の作品を多く残していたことは知りませんでした。それはもう私淑といっていいレベルで、琳派と雪村の意外な接点に驚きます。「渓橋高逸図」は光琳の印がなければ光琳と分からないぐらいだし、特に雪村の「欠伸布袋・紅白梅図」と光琳の「紅白梅図屏風」の梅の木の図様の近似性の指摘は興味深い発見でした。

雪村周継 「欠伸布袋・紅白梅図」
室町時代・16世紀 茨城県立歴史館蔵


第6章 雪村を継ぐ者たち

最後の一部屋は、雪村の弟子の作品と、江戸時代から明治にかけての絵師たちへの雪村の影響をその作品から探っています。狩野派が雪村の作品を参照していたのも興味深かったですし、狩野芳崖や橋本雅邦といった近代日本画の黎明期の画家に大きな影響を与えていたという事実はとても意外でした。芳崖が骨董店で観た雪村の「竹虎図」(実際は雪村ではなかったという)を記憶だけで模写した絵が展示されていて、その再現性の高さにも驚きました。

橋本雅邦 「昇龍図」
明治時代・19世紀 山崎美術館蔵 (展示は4/23まで)

海外からの里帰り作品もあって、雪村の主要作品が一堂に観ることができるという意味で日本美術ファン必見の展覧会だと思いますし、雪村が奇想たる由縁が良く分かります。後期はがらりと展示替えがあるようなのでまた行かなければ。


【雪村 -奇想の誕生-】
2017年5月21日(日)まで
東京藝術大学大学美術館にて


もっと知りたい雪村 ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい雪村 ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)