2017/05/05

勝部如春斎展

西宮市大谷記念美術館で開催中の『西宮の狩野派 勝部如春斎』を観てまいりました。

1泊2日で大阪・奈良・京都・大津をまわってきたのですが、時間的にちょっと厳しいので、この『勝部如春斎展』はコースから外していたのですが、大阪に向かう途中の新幹線の中で、ちょうどアップされたばかりの @yugyo7e さんのブログ記事を読んでしまい(笑)、やはりこれは観なくてはと急遽予定を変更。幸い東京発6時台の新幹線だったので、開館前に到着しました。

如春斎は西宮や摂津を中心に活動した狩野派の絵師。江戸後期を代表する絵師、森狙仙の師として知られます。かつては山本如春斎という名前で語られ、わたしも“山本”で聞き覚えがあったのですが、実は誤伝されたものとか。戦前には展覧会もあったようですが、戦後ここまで大きく紹介されるのは初めてだそうです。


まず一階は襖絵と屏風。見事な花鳥の襖絵が並べられています。「秋草に鶴図」は金地に鶴と菊や薔薇、牡丹といった花が華やかな作品。動きに富んだ鶴もいいし、青い流水紋も画面の装飾性を引き立てます。「松桜に孔雀図」と「松楓に孔雀図」はそれぞれ4面の対となる障壁画。大木の松は狩野派の大画様式を感じますが、孔雀は狩野派というより、応挙や円山四条派の影響を受けているように見えます。松と花と孔雀の華麗な競演は智積院の長谷川等伯の「楓図」を思わせなくもありません。

勝部如春斎 「松桜に孔雀図」
明和元年~天明4年(1764~1784) 弘誓寺蔵

「四季草花図/芦雁図」は六曲一双の屏風の表裏に描かれた作品。表は金屏風で、右隻に野薔薇やタンポポ、百合、蕨、菖蒲、山吹といった春から初夏の花々、左隻に女郎花や桔梗、萩など秋の花々が咲き、華やか。草花は必ずしも丁寧に描いてるわけでなく、どちらかというと、かなりゆるい描き方ですが、その分、肩ひじ張らない親しみやすさがあります。岩の描写なんかも、あまり狩野派ぽくありません。裏に回ると一転水墨の「芦雁図」。余白を活かしたまとまりのある構図で、静寂な情緒を感じます。二曲一隻の「牡丹図」もなかなか。牡丹のシルエットを白い絵具で表し、葉や茎は墨で描くという洒脱な筆遣い。狩野派では見たことのない筆法。

勝部如春斎 「三十三観音図 大自在天身」
宝暦13年(1763)頃 茂松寺蔵

二階は仏画、花鳥、道釈画など。仏画では東福寺にある明兆の「三十三観音図」を模写したという「三十三観音図」。観音図がずらりと並ぶ様は壮観。明兆の「三十三観音図」のうち「大自在天身」も参考展示されています。ちなみに明兆の「三十三観音図」は今年重要文化財に指定され、東京国立博物館の『平成29年 新指定 国宝・重要文化財展』にも5幅だけ出品されています。如春斎の「三十三観音図」は基本的に原本に忠実ですが、明兆に比べると、色調が明るいせいか軽い感じがします。のびのびと描いているように見えて、人物の衣文線などは実に巧み。となりにあった「十八天図」も明兆の仏画の模写。

「龍虎図」の押絵貼屏風も面白い。一扇ごとに龍虎虎龍虎龍みたいに並び、とてもよく描けているのですが、獰猛さはなく、それぞれに愛嬌があります。

勝部如春斎 「小袖屏風虫干図巻」(部分)
明和元年~天明4年(1764~1784) 大阪市立美術館蔵

絵巻の「小袖屏風虫干し図巻」が傑作。小袖や屏風を並べ、虫干しする様子を描いた作品で、虫干しというと夏ですが、虫干しの場面の前後には春夏秋冬の花木も描かれ華を添えます。画中の屏風は狩野派の粉本によるものでしょうか、朝顔の屏風絵は狩野山雪の「朝顔図襖」と酷似しています。如春斎は大坂と京都を行き来していたと解説にあったので、もしかしたら京都で山雪の朝顔を観ていたのかもしれません。狩野派に学んだとされる岩佐又兵衛にも似た朝顔の作品があって、朝顔図の図様についてはちょっと気になっています(参照:『岩佐又兵衛展』)。

[写真左] 勝部如春斎 「小袖屏風虫干図巻」(部分)
[写真右・参考] 狩野山雪 「朝顔図襖」(部分)

与謝蕪村の書簡とともに表具した「鵜飼図」もいい。人物の動きを見事に捉えています。他の作品でもそうですが、如春斎は人物表現に優れた技量を見せるようです。「旭図」が3点。いずれも赤い旭にドーナツの穴のような金の丸。「旭図」は吉祥画としてよく見かけますが、真ん中に金の丸を描いたものは見かけたことがないような。

画稿もいくつか展示されていて、これを見ると如春斎は相当腕のある絵師と分かるのですが、実際の作品は手堅い筆致の中にも軽さや緩さがあったり、アレンジを利かせている感じを受けます。琳派を思わせる作品や南画風の作品もあり、狩野派にとらわれず、硬軟自在にさまざまな画風を取り入れ、顧客のニーズに応えたのだと思います。

勝部如春斎 「西王母図」
明和元年~天明4年(1764~1784) 個人蔵

最後に再び1階に下り、18世紀に摂津で活躍した絵師の作品を展観。大坂を代表する狩野派の絵師・大岡春卜の「鶴図」が実に巧い。この人の絵も一度ちゃんと観てみたい。大坂ということで木村蒹葭堂や鶴亭の作品も。月岡雪鼎の肉筆浮世絵も二幅。美人画で知られますが、「曲水之図」はやたらと美男子。如春斎に師事したという森狙仙の二曲一双の「猿図」がまた素晴らしい。狙仙の猿もいろいろ観てますが、これはかなりの傑作。松にたくさんの猿。岩から飛んでる猿が面白い。 ほかに狙仙の兄・周峰、如春斎の兄・勝部松貫や弟子らの作品が並びます。



如春斎は戦災で失われてしまった作品も多いといいます。参考展示されていた戦前の書籍に載った作品名を見ると、どんな作品だったのかと、残念な思いがします。如春斎は江戸絵画史に名を残すような第一級の絵師ではないですし、際立った個性もありませんが、狩野派というお高い感じはなく、地元密着型の狩野派というか、親しみのある画風に好感が持てました。


【西宮の狩野派 勝部如春斎】
2017年5月7日(日)まで
西宮市大谷記念美術館にて

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