2019/06/21

夢のCHITABASHI美術館!?

千葉市美術館で開催中の『板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展 -夢のCHITABASHI美術館!?』に行ってきました。

千葉市美術館と、現在改修工事のため休館中の板橋区立美術館(※2019年6月29日にリニューアルオープン予定)の所蔵作品を中心に構成されていて、もしも2館が合体した「CHITABASHI(ちたばし)美術館」があったら?というユニークなコンセプトのコラボ展です。

千葉市美術館も板橋区立美術館も日本有数の充実した江戸絵画コレクションで知られた美術館だけに、市区の美術館の所蔵作品展とは思えない質の高い作品が並び、見応え十分。これでたったの200円で観られるとは。いくらなんでも安すぎでしょ。


第1章 江戸琳派とその周辺

入口入ってすぐに展示されていた俵屋宗達の「許由巣父図」にまず目が留まります。許由と巣父の2幅からなる作品で、墨の広がりや滲みを活かした薄墨のトーンが秀逸。尾形乾山もしくは光琳に学んだとされる立林何帛の「扇面貼交屏風」の乾山風のぼたりとした描きっぷりも面白い。

光琳は所蔵してないのかなかったのですが、‟自称光琳風”と紹介されていた中村芳中による『光琳画譜』や酒井抱一の『光琳百図』といった画譜類がいくつかあって、宗達から光琳、抱一へと繋がる琳派の系譜を辿れます。抱一が乾山を写した『乾山遺墨』は乾山にしてはすっきりした線でまとめられていて、抱一ぽいなと思うところも。 

鈴木其一 「芒野図屏風」
天保後期~寛永期(1830-54) 千葉市美術館

其一も多くて、個人的にも大好きな「芒野図屏風」がまた観られたのも嬉しい。やまと絵の武蔵野図に着想を得たと思われる一面の芒(薄)の野原と漂う靄の流れ。銀箔の上に芒を銀泥と墨で描き分けることで靄の濃さを表現しているのですが、銀が経年の酸化で変色してしまっているものの、より渋さが増しているというか、芒野の静けさや寂しさが恐らく制作当時より深まっているのではないかと感じます。

酒井道一 「桐菊流水図屏風」
明治時代(19-20世紀) 板橋区美術館

もともと千葉市美は琳派が充実していますが、そこに板橋区美のコレクションが加わるともう最強。抱一や其一、また抱一の弟子たちの作品は多く、2011年に開催された『酒井抱一と江戸琳派の全貌』でも抱一以後の琳派について詳しく触れられていましたが、池田孤邨や抱一の孫弟子世代にあたる鈴木守一や野崎真一など、琳派の展覧会では省略されがちな幕末から明治にかけての琳派の流れもまとめて観ることができます。

特に印象的だったのが抱一の雨華庵を継いだ酒井道一の「桐菊流水図屏風」。師・其一に似た濃彩と抱一的な洒脱な構図美、さらには光琳の「藤花図屏風」を思わせる右隻から左隻に伸びる桐の枝葉に琳派の確かな継承を感じさせます。


第2章 ちたばし個性派選手権

個性的な江戸絵画といえばやはり板橋区美。狩野典信の「大黒天図」が圧巻です。横幅2メートルはあろうかという大画面いっぱいいっぱいに力強く描かれた大黒天の迫力がすごい。

狩野典信 「大黒図」
江戸時代(18世紀) 板橋区美術館

千葉市美と板橋区美から一点ずつ展示された英一蝶も面白い。鴨川の川床で月見酒を愉しむ人々の姿を軽やかな筆遣いで描いた「四条河原納涼図」。水に濡れないように投げ縄と剣を外し滝に打たれる不動明王が可笑しい「不動図」。どちらも一蝶らしい諧謔味が感じられます。

加藤信清の「五百羅漢図」がこれまた個性的。1幅に10人、50幅で500人の羅漢を描きお寺に寄進したということなのですが、その羅漢の輪郭線や袈裟の色も全てお経で書かれているという作品。単眼鏡で覗くとその細かさに驚きます。


第3章 幕末・明治の技巧派

柴田是真、岡本秋暉、小原古邨の作品を中心に展示。千葉市美の岡本秋暉、板橋区美の柴田是信のコレクションにそれぞれが所蔵作品を補い、より見どころのある内容になっています。

岡本秋暉というと南蘋派の影響を受けた写実実のある華麗な花鳥図というイメージがあるのですが、水墨の鷲図もあれば、若冲ばりの蓮池図や力強い雲竜図もあって、秋暉の画技の広さに驚きます。返す返すも2011年の『岡本秋暉展』を見逃がしたのが残念。

岡本秋暉 「百花一瓶図」
江戸時代(19世紀) 摘水軒記念文化振興財団蔵

是真は四条派的な「鴨図」から月次絵の「十二ヶ月短冊帖」、漆絵の「貝尽図屏風」や「蜘蛛の巣図」など画法も技法も画題もバラエティに富んでます。漆工に優れた是真だけあり、漆絵の「貝図」の質感が気になってよく観てみると、細かく切った貝や金箔が貼り付けられていたりするんですね。是真らしいユーモアを感じさせる「猫鼠を覗う図」も楽しい。

柴田是真 「猫鼠を覗う図」
明治17年(1884) 板橋区美術館


第4章 江戸の洋風画

板橋区美に寄託されている歸空庵コレクションを中心に、小田野直武や司馬江漢、亜欧堂田善など江戸時代後期に描かれた洋風画を紹介しています。

直武の「岩に牡丹図」は不思議な魅力というんでしょうか、写実的な牡丹も素晴らしいのですが、青い牡丹の妖しさがちょっと怪異的な感じもあって後を引きます。一見西洋の風景画かと思ったら広尾だったという「広尾親父茶屋図」や熱した荏胡麻油に絵具を混ぜて描いたという油彩画など司馬江漢のチャジンジングな作品も面白い。

小田野直武 「岩に牡丹図」
安永(1772-80)年間  歸空庵蔵

司馬江漢や亜欧堂田善は他の展覧会等でも割と目にする機会はあるのですが、今回一番興味深かったのが「ファン・ロイエン筆花鳥図模写」で知られる石川大浪・孟高兄弟の‟洋風画ブラザーズ”の作品で、水墨の「天使図」にまずビックリ。顔はちょっと不気味ですが、ちゃんと陰影をつけ立体感を出した天使や、「火喰鳥図」や「獅子図」など、鎖国のあの時代によくここまで西洋画の技術を見よう見まねで身に付けたなと感心します。


【板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展 -夢のCHITABASHI美術館!?】
2019年6月23日まで
千葉市美術館にて

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