2019/03/02

江戸の園芸熱

たばこと塩の博物館で開催中の『江戸の園芸熱』を観てきました。

浮世絵に見る江戸の園芸ブームがテーマなんですが、タイトルが園芸「熱」なのがミソで、武家から庶民まで園芸ブームの盛り上がりぶりがとてもよく伝わってきますし、園芸が江戸の人々の身近にあったことも分かり、とても興味深いものがありました。6年前に江戸東京博物館で同様の展覧会があったそうなのですが、そちらも観たかったなと思います。

たばこと塩の博物館は渋谷にあった頃は何度か行ったことがありますが、2015年に墨田区に移転してから実は初めて。なんでこんな場所にというところにありますが、日曜日の午後とあって結構お客さんが入ってました。自分は下町方面が不案内なので隅田川から向こうに行くこともあまりなく、なかなか訪問の機会もなかったのですが、近くには東京スカイツリーがありますし、浅草もすぐなので、遊びに行ったついでに寄れるといえば寄れますね。

その名の通り、タバコと塩に関する資料の収集や調査を行うことを目的に開設された博物館ではありますが、ここは浮世絵のコレクションでは大変定評のあるところで、これまでもたびたび興味深い展覧会が開かれています。今回の展覧会もとても評判がいいようで、久しぶりに足を運んでみました。


会場の構成は以下の通りです。
序章 花見から鉢植へ
第1章 身の回りの園芸
第2章 見に行く花々
第3章 役者と園芸

歌川国房 「植木売りと役者」
たばこと塩の博物館蔵

庶民からお殿様までみんなが熱を上げた江戸の園芸ブーム。江戸時代後期の江戸の町は花見や園芸が大ブームだったというのは割と知られた話ですが、園芸をテーマにした浮世絵がこれだけ集まると、その盛り上がりぶりが手に取るように分かります。庶民の家は狭く、庭があればいい方、あってもたかが知れてますから、鉢植は重宝されたようです。鉢植は露店や振り売りで売られていたと解説にありました。振り売りというのは天秤棒に担いで売り歩く行商で、歌舞伎にも天秤棒で魚や蕎麦を売り歩く芝居がありますが、鉢植もそのような売り方をされていたんですね。

歌川国貞(三代歌川豊国) 「五代目松本幸四郎の福寿草売り」
個人蔵

植木売りの露店や屋台の様子を見ると、松や梅、椿、牡丹といった一般的なものから、サボテンや蘇鉄など江戸時代にこんなものが流通していたのかと思うようなものもあります。正月には松や梅、福寿草、七草かごなどを買い求めたり、朝顔の様子を見ながら歯を磨いたり、園芸好きの様子は昔も今も変わらず、鉢植えを見比べたり、水を上げたりする庶民の姿は微笑ましくもあります。

歌川国芳 「縞揃女弁慶」
個人蔵

これが朝顔?と思うような複雑な形の変化朝顔や、和紙や竹ひごで丁寧に手入れをする菊、見頃より早く出荷できるよう温室で育てた草花など、園芸ブームの盛り上がりぶりがさまざまな浮世絵から知ることができます。国芳の「縞揃女弁慶」は菊の名前を名札に書き入れようとするところですが、弁慶の名と制札形の名札を見て分かるように、『熊谷陣屋(一谷嫩軍記)』の見立てになっているところが面白いですね。

今でいう古典園芸の松葉蘭や万年青がとても人気が高かったことも知りました。斑の入り方で数十両に高騰したと書いてある資料もありました。『切られ与三』の芝居絵のお富の家に朝顔と並んで松葉蘭があったぐらいですから余程人気があったのでしょう。

歌川豊国 「隅田川花屋敷 梅の図」
個人蔵

豊国の描いた一連の「隅田川花屋敷」は今の向島百花園の宣伝チラシのようなものとか。各月の花の見ごろとか、園内で買える名物とか、筑波山が見えて眺めがいいですよとか、情報や宣伝文句がいろいろ書いてあって、商売がうまいなと思いますし、豊国に依頼するなど力が入ってるなと思います。

植木づくしの浮世絵がいくつかあって、これも見入ってしまいました。変化朝顔がいい例ですが、今はもう栽培方法が分からなかったり絶えてしまった品種などもあるんだろうなと思いながら見ていました。瀬戸物の植木鉢づくしや庭道具づくし、箱庭づくしなんていうにもありました。こういうの見ると、どれだけ江戸の人々は園芸に熱を上げていたかが分かります。

歌川貞房 「新板手遊瀬戸物箱庭尽」
個人蔵

浮世絵だけでなく、植木の栽培方法や切花を保育する方法などが書かれた園芸に関する摺本や花の名所のガイドブック、江戸時代の瀬戸物の植木鉢などもいくつか出ていて、いろいろ興味が尽きません。瀬戸物の植木鉢ってなかなかいいものが売ってないんですよね。わざわざ長野で大量買いして、新幹線でえっちらおっちら持って帰ってきたことがありますよ。

歌麿、栄泉、広重、国貞、豊国と人気浮世絵師も多く、これだけ充実していてたったの100円! とても面白い展覧会でした。


【江戸の園芸熱 浮世絵に見る庶民の草花愛】
2018年3月10日(日)まで
たばこと塩の博物館


江戸の園芸―自然と行楽文化 (ちくま新書)江戸の園芸―自然と行楽文化 (ちくま新書)

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