山種美術館開館50周年を記念した山種コレクション名品選の第2弾。今回は山種美術館が誇る浮世絵の優品を展観します。
六大絵師の競演とはいっても、実際には春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重+αで、中には1、2点しかない絵師もいるので期待してるとガックリくるかもしれません。広重が一番充実していて、本当のことをいえば“歌川広重と六大浮世絵師展”といった方が正解。
山種美術館の浮世絵コレクションは総点数90点ほどだそうですが、今回は浮世絵だけで86点あるので、ほとんどの作品が出てるのでしょうか。とはいえ、どの作品も状態は良く、その絵師を代表する作品が多いので、見応えもあるし、さすが名品展といった趣です。
まず最初に北斎の“赤富士”。パスポートの新デザインに採用されたことでも話題の浮世絵の代表作ですね。赤く染まった富士山の雄大な姿がインパクト大ですが、濃い藍色と薄く透明感のあるベロ藍(プルシアンブルー)、そして白い鰯雲の調和が素晴らしいですね。
葛飾北斎 「冨嶽三十六景 凱風快晴」
文政13年(1830)頃 山種美術館蔵
文政13年(1830)頃 山種美術館蔵
会場には浮世絵を愉しむためのキーワードが紹介されていたりして、浮世絵初心者にもやさしい後世になっています。浮世絵版画のさまざまな用語がパネルで解説されていたりして、“紅絵”や“錦絵”、“美人画”といったテーマごとにその例となる作品が並んで展示されています。最近の山種美術館は日本画の専門的な用語や技法を分かりやすく解説したりしていて、日本画をより広く親しんでもらえるようにとすごく努力しているなと思います。
鈴木春信 「梅の枝折り」
明和4~5年(1767-68)頃 山種美術館蔵
明和4~5年(1767-68)頃 山種美術館蔵
浮世絵前期の彩色技法である“紅絵”の例としては奥村政信が、“美人画”では鈴木春信や鳥居清長といった美人画の名手の作品が紹介されています。浮世絵でなかなか難解な少女と少年の見分け方とかも解説があったりします。春信の「色子と共」は一見すると若い女の子の二人連れなのですが、よくよく見ると片方の子は前髪を残した元結で元服前の男子の若衆髷に似た髪型だと分かります。でも振袖姿だし簪してるし、言われないと気づけません。
鳥居清長 「風俗東之錦 武家の若殿と乳母、侍女二人」
天明4年(1784)頃 山種美術館蔵
天明4年(1784)頃 山種美術館蔵
喜多川歌麿 「青楼七小町 鶴屋内 篠原」
寛政6~7年(1794-95)頃 山種美術館蔵
寛政6~7年(1794-95)頃 山種美術館蔵
清長の頃は十頭身はありそうな長身小顔のモデル体型の美人画が持て囃されたようですが、歌麿は大首絵よろしくバストアップの美人画で人気を博します。当然、顔も接写されるので、“毛割”という髪の生え際の細密な描写技法が生まれるのですが、ここは絵師ではなく彫師の担当だったようで、1ミリに4~5本、中には7本という超絶技巧的な腕を持つ彫師も現れたのだとか。
[写真左から] 東洲斎写楽 「二代目嵐龍蔵の金貸石部金吉」
「三代目坂田半五郎の藤川水右衛門」
寛政6年(1794) 山種美術館蔵
「三代目坂田半五郎の藤川水右衛門」
寛政6年(1794) 山種美術館蔵
これも最近の山種美術館のサービスの一つですが、一部の作品のみ写真撮影が可能です。本展では写楽の2枚で、ともに大首絵の代表作。雲母摺はとても褪色しやすいのですが、きれいに残っていて、角度を変えて観たりするとその輝きに気付きます。役者絵では北斎と同時代の歌川豊国や、今年展覧会もあった勝川春章などもあります。
歌川広重 「東海道五拾三次之内 日本橋・朝之景」
天保4~7年(1833-36)頃 山種美術館蔵
天保4~7年(1833-36)頃 山種美術館蔵
広重は「東海道五拾三次」が全て出ていてそれだけでも観ていて楽しい。山種美術館所蔵の「東海道五拾三次」は、もとは画帖仕立てのものだったようで、「扉」付きの数少ない例だといいます。かなり最初期の摺りらしく、後摺りとの違いなども説明されていて、たとえば一番目の「日本橋・朝之景」は空の左右に雲が摺られているのですが、後の摺りでは省略されているとか。
「東海道五拾三次」を制作するにあたり、広重は実際に旅したわけではないのですが、その風景の参考にしたという「東海道名所図絵」もパネルで展示されています。比較して見ると、広重は視点を低くとり、俯瞰的な「東海道名所図絵」の説明臭さを失くしていることが分かります。
ほかにも広重では、「近江八景」や「名所江戸百景」、「木曽街道六拾九次」などの作品も展示されています。
歌川広重 「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」
安政4年(1857)頃 山種美術館蔵
安政4年(1857)頃 山種美術館蔵
奥の第2室には小林古径や東山魁夷、加山又造といった近代日本画の名品を展示。伊藤園の“お~いお茶”の秋ボトルのパッケージに採用されたという酒井鶯蒲の「夕もみぢ図」も出品されています。
【開館50周年記念特別展 山種コレクション名品選Ⅱ
浮世絵 六大絵師の競演 -春信・清長・歌麿・写楽・北斎・広重-】
2016年9月29日(日)まで
山種美術館にて
歌川広重保永堂版 東海道五拾三次 (謎解き浮世絵叢書)
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