2014/10/07

輝ける金と銀

山種美術館で開催中の『輝ける金と銀 -琳派から加山又造まで-』を観てきました。

本展は、近現代の日本画家が用いた金と銀の表現を振り返るとともに、その発想の源となった平安時代の料紙装飾や江戸時代の琳派の絵画などをたずねるという展覧会。

タイトルからだと金屏風銀屏風的なものを少し予想しそうですが、日本画の装飾性や効果性を高めるために金と銀がどのように使われてきたかという観点で作品が集められていて、いい意味で裏切られたというか、とても面白い展覧会でした。

日本画専門の山種美術館ならではの企画で、絵画表現としての金と銀の表現の幅の広さと先人の知恵と技術に感服します。


第1章 伝統に挑む -近代日本画に受け継がれた金と銀

最初に目に飛び込んでくるのが松岡映丘の装飾性豊かな復興やまと絵。平安後期に絵画表現に用いられるようになったという砂子撒きや箔散らしといった技法をふんだんに使用し、平安王朝の華やかさを再現しています。

松岡映丘 「春光春衣」
大正6年(1917) 山種美術館蔵

会場は≪金銀で飾る-箔≫や≪金銀で飾る-雲霞≫、≪金銀で飾る-金地・銀地≫といったようにテーマごとに作品が分けられています。華麗な料紙装飾の「石山切(貫之集下)」や雲霞状に砂子撒きを施した狩野永岳の花鳥図、薄く金泥を敷き効果を上げている岩佐又兵衛の「官女観菊図」などが代表例として展示されています。

酒井抱一 「秋草鶉図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵

各コーナーにはそれぞれの技法を紹介したサンプル(日本画家の並木秀俊さんが再現サンプルや比較サンプルを作成したそうです)があって、これが目から鱗。たとえば金泥・箔押し・撒きつぶしがどう違うのか、裏箔の有り無しで絵の印象がどう変わるか、金属の砂子を紙に漉き込むとどう変わるのかなど実際のサンプルを例に比較できるので、とても参考になります。

御舟の「名樹散椿」は何度も観ていますが、撒きつぶしに着目してじっくり観たのは初めて。この質感や違いは実物でなければ絶対に分かりません。大観の「喜撰山」も何度か観てますが、裏に金箋紙(金箔を塗布した加工紙)を使い効果を出しているとは気づきませんでした。

速水御舟 「名樹散椿」(重要文化財)
昭和4年(1929) 山種美術館蔵

白眉は川端龍子の「草の実」で、黒を背景にした龍子の「草炎」に似て、濃紺の絹地に焼金や青金、プラチナなどさまざまなタイプの金泥で秋の草花を見事に表現しています。そのほか、初公開という神坂雪佳の三幅の「蓬萊山・竹梅図」もいい。特に蓬萊山のユニークな図様。


第2章 新たなる試み -戦後の日本画にみる金と銀

戦後の日本画では既成概念にとらわれず、金や銀の使用も伝統的な絵画表現に必ずしもこだわっていないのがよく分かります。装飾性というよりも、金や銀を使うことでの効果や表現、質感といったところにそれぞれの画家の特徴が出ていて面白く感じます。

山本丘人 「真昼の火山」
昭和34年(1959) 山種美術館蔵

個人的には、東京都美術館の『世紀の日本画』で強い印象の残っていた小山硬と小松均の作品(『世紀の日本画』の出品作とは別作品)が出ていたのが興味深かったところ。小山硬は「天草」シリーズの一つがあって、これがまた強く惹きつけるものがあります。小松均の「富士山」も何とも異様で蠢くような生命力と力強さがあって素晴らしい。

ほかに横山操の「マンハッタン」、山本丘人の「真昼の火山」、牧進の「春飇」が印象的。

横山操 「アメリカ五題の内 マンハッタン」
昭和36年(1961) 山種美術館蔵

そして加山又造の屏風も相変わらずかっこいい。銀を様々に変色させた大胆な構図が面白い。又造はほかに3点出品されています。

加山又造 「華扇屏風」
昭和41年(1966) 山種美術館蔵

装飾としての金と銀、アクセントとしての金と銀、日本画家たちが狙いがいろいろと感じられ、今までと違った視点で作品が観られて、とても興味深く、また勉強になる展覧会でした。


【輝ける金と銀 -琳派から加山又造まで-】
2014年11月16日(日)まで
山種美術館にて


加山又造全版画集―1955‐2003加山又造全版画集―1955‐2003

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