2014/06/25

六月大歌舞伎

歌舞伎座で六月大歌舞伎を観て参りました。今月は右肩の手術による休養から復帰の仁左衛門と、尾上松緑の長男・藤間大河くんの三代目尾上左近襲名が見どころ。

まずは昼の部。
最初は舞踊で『お国山三 春霞歌舞伎草』。
新作舞踊なのかと思ったら、初演は大正3年、六代目菊五郎なんですね。出雲の阿国一座の歌舞伎踊りを披露しているところに名古屋山三の亡霊が現れるという幻想的かつ春らしい舞踊で、時蔵、菊之助に加えて若手花形衆が華やか。中でも、成長株の米吉の可愛らしさと上手さが目立っていました。ただ、時蔵・菊之助で舞踊なら、他に何か適した演目がなかったのかな、と。

つづいて 『実盛物語』。実盛に菊五郎、小万に菊之助、葵御前に梅枝、瀬尾十郎に左團次。菊五郎の実盛はたっぷりした味わいを見せつつも、時代物の重厚さはあまり感じられず。これはこれで菊五郎の味なのでしょう。梅枝が実に良く、武家の品格を見せ素晴らしい。菊之助はさすがの安定感ですが、今月は先ほどの舞踊とこの小万と夜の水無瀬御前というのがファンには物足らない。左團次もこの人ならではの大きさと手堅さ。家橘と右之助の九郎助夫婦は少々地味というか、味わいに欠けるというか、劇団の芝居にちょっと染まってない感じがしました。

次に真山青果の『大石最後の一日』。討ち入りのあとに“お達し”を待つ重苦しい空気の中の芝居ということもあり、また昼食後の動きに乏しい台詞劇ということもあって(しかも場内暗転)、睡魔との闘い。何度か寝落ちしました(笑)。大石の幸四郎がとうとうと語る台詞は長く、さして面白いものではありませんが、孝太郎のおみのと彌十郎の堀内のやりとりは聞かせるものがありました。ただ、やはり暗い芝居。

最後は、待ってました!の仁左衛門の『お祭り』。仁左衛門丈の元気そうな様子と千之助くんの成長ぶり、何よりいつまでも若々しい仁左衛門ですが孫を見て嬉しそうな様子が微笑ましい。


さて、夜の部。
こちらは左近くんの襲名興行で『蘭平物狂』。奴蘭平実は伴義雄に松緑、一子繁蔵に左近、女房おりく実は音人妻明石に時蔵、水無瀬御前に菊之助、そして在原行平に菊五郎。左近くんは既に堂々としたもので、子役の危なげなさもなく立派。松緑も力が入っていて、実に魅せる芝居でした。蘭平・繁蔵の父子関係と松緑・左近の父子関係が重なり、左近を見つめる松緑の目が蘭平のものなのか、松緑としてのものなのか交錯します。

アクロバティックな大立ち回りも素晴らしく、ちょっとしたサーカス気分。花道寄りのかぶり席で観ていたものですから、梯子の真下でハラハラドキドキしておりました(笑)。やゑ亮くんは大活躍ですね。テーピングやシップ(?)巻いてる人や、舞台袖で足をモミモミしてる人もいて、これ大変だわと痛感。みなさん怪我なく千秋楽まで務められたでしょうか? 最後に襲名口上。

つづいて松羽目物で『素襖落』。太郎冠者に幸四郎。観る前は少し不安だったのですが、幸四郎のコミカルさと大名某の左團次、次郎冠者の彌十郎の軽妙さが相まってなかなか面白かったです。ただ、『素襖落』は初めて観たので比較対象がないのですが、こんなものですかね。吉右衛門や三津五郎も演じているようなので、機会があれば観てみたいなと思います。高麗蔵の姫御寮も良し。

最後は『名月八幡祭』。縮屋新助に吉右衛門、芸者美代吉に芝雀。婀娜っぽさで売る深川芸者にはどうしても見えないのですが、根っからの男に甘い女というか、悪気のない浅はかさというか、福助とはまた違う美代吉。芝雀にしては珍しい役でこれが意外な発見でした。ここの見ものはやはり播磨屋。段々と狂っていく様子が非常にリアルで、『籠釣瓶』とはまた別の気狂い。その心理描写は抜群ですが、少し作り込みすぎていて、芝居から浮いてしまってるような気もしないでもありません。脇が充実していて、三次の錦之助、魚惣の歌六、女房の歌女之丞、藤岡の又五郎をはじめ、美代吉の母の京蔵、松本女房の京妙、幇間の吉三郎といった面々が要所要所をしっかり固め、ドラマに重層的な厚みと江戸のリアリティを与えていました。

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