2012/07/16

ベルリン国立美術館展

上野の国立西洋美術館で開催中の『ベルリン国立美術館展』に行ってきました。

いま上野は二つの美術館にフェルメール作品が来日し、大賑わい。『ベルリン国立美術館展』には「真珠の首飾りの少女」が初来日しています。「真珠の耳飾りの少女」が来日する東京都美術館の『マウリッツハイス美術館展』がはじまったら、大変な混雑になると思い、6月の内に観てきたのですが、ブログのアップがついつい遅くなってしまいました。

もちろん見どころはフェルメールだけではなく、「学べるヨーロッパ美術の400年」とあるように、15世紀のルネサンスから18世紀のロココに至るまで、ヨーロッパ美術を代表する作品の数々が来日しており、ベルリン国立美術館の所蔵作品を通して西洋美術史に触れられるようになっています。

ベルリン国立美術館(ベルリン国立美術館群)は、博物館島を中心に市内に点在する美術館・博物館の総称で、現在15の部門から成るそうです。もともとは19世紀のプロイセン帝国が国家事業として蒐集した膨大なコレクションを保護するために設立された美術館がその発祥となっています。今回はベルリンの絵画館、彫刻コレクション、素描版画館から、西洋美術史を彩る107点の作品が集められています。

展示構成は以下の通りです。
第一章 15世紀:宗教と日常生活
第二章 15-16世紀:魅惑の肖像画
第三章 16世紀:マニエリスムの身体
第四章 17世紀:絵画の黄金時代
第五章 18世紀:啓蒙の近代へ
第六章 魅惑のイタリア・ルネサンス絵画

ドナテッロの工房 「聖母子とふたりのケルビム」
1460年頃 ベルリン国立美術館彫刻コレクション蔵

中世の西洋美術とキリスト教は切っても切り離せません。まずは聖母子像や受胎告知といった宗教画や彫刻作品から、西洋美術の成り立ちや宗教との深い関係を探っていきます。

入口を入ってすぐのところには聖母子像の彫刻が3点展示されていました。さりげなくドナッテロ(工房作ですが)の彫刻があり、導入部から贅沢感が漂います。本展は、絵画だけでなく彫刻の優品が揃っていたのがとても印象的でした。

ベルナルディーノ・ピントゥリッキオ 「聖母子と聖ヒエロニムス」
1490年頃 ベルリン国立美術館絵画館蔵

聖母子を描いた作品は12世紀頃に成立したといわれていますが、ゴシック期になると、それまで神聖化されていた聖母子はごく人間的な母子として描かれるようになり、やがてルネサンス期に入ると聖母に女性の理想の姿を求めるようになります。このピントゥリッキオの聖母子も、ルネサンス的な柔和で優美な姿が印象的です。聖ヒエロニムスとは聖書をラテン語に翻訳をした聖人で、幼いキリストがその聖書に何かを書き込んでいます。

ティルマン・リーメンシュナイダー 「龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス」
1490年頃 ベルリン国立美術館彫刻コレクション蔵

このコーナーはルネサンスの宗教画や彫刻が中心なので、どうしてもイタリア美術中心になりがちですが、ティルマン・リーメンシュナイダーの作品(工房作も含め)が3点も展示されているのは、やはりドイツの美術館の展覧会ならでは。リーメンシュナイダーの「龍を退治する馬上の聖ゲオルギウス」は菩提樹の木彫りで、いかにも西洋的なドラゴンを退治している構図がユニーク。どこか邪鬼を踏みつける日本の四天王像を思わせます。龍は異教徒を表しているそうで、ドイツの彫刻らしい陰影に富んだ彫りが印象的です。

アルブレヒト・デューラー 「ヤーコプ・ムッフェルの肖像」
1526年 ベルリン国立美術館絵画館蔵

肖像画のコーナーには、商人の肖像画やルターといった著名人の肖像画が展示されています。ヴェロッキオの工房による「コジモ・デ・メディチの肖像」のレリーフが展示されていましたが、それが象徴するように、ルネサンスに入ると、画家たちのパトロンが教会や支配階級から裕福な商人たちへ広がります。

このコーナーには、北方ルネサンスの画家の作品が展示されていたのが非常に嬉しいところ。「ヤーコプ・ムッフェルの肖像」はデューラー最晩年の作品。その徹底した写実的な技量と表現力にはただただ驚くばかりです。

ルーカス・クラーナハ(父) 「ルクレティア」
1533年 ベルリン国立美術館絵画館蔵

つづくマニエリスムは、ミケランジェロに代表される技法を模倣し、引き伸ばされた身体や手足、ねじれたポーズなど誇張した身体表現が特徴的な表現形態。ルネサンス後期からバロックへと移行する過程で発生し、あまり独立して取り上げられることの少ないマニエリスムにスポットがあてられているのがユニークです。

このコーナーの展示はほとんど彫刻ですが、その中で異彩を放っていたのが、このクラーナハ(父)の「ルクレティア」。ルクレティアはローマ王の息子セクストゥスに凌辱され自害した貞淑の象徴とされる女性。誇張的に身体をくねらせたポーズには、貞淑な女性像というより肉感的なエロティシズムを感じます。

レンブラント派 「黄金の兜の男」
1650-1655年頃 ベルリン国立美術館絵画館蔵

そして、17世紀絵画。展示室に入ると、まずはレンブラントがお出迎え。レンブラントの傑作「ミネルヴァ」と、かつてレンブラントの作品といわれていた「黄金の兜の男」が並んで展示されています。

昨年、国立西洋美術館で開催された『レンブラント展』にも「書斎のミネルヴァ」という作品が出品されていましたが、ベルリンの「ミネルヴァ」はそれより前に描かれたもので、真っ暗な闇を背景に赤いローブを纏った金髪のミネルヴァが描かれています。本当は暗闇の中にメデューサの頭が彫られた盾があるそうですが、照明のせいなのか、経年の汚れのせいなのか、見えなかったのが残念でした。

「黄金の兜の男」はかつてはレンブラントの真作といわれていましたが、“レンブラント・リサーチ・プロジェクト”によりレンブラントの弟子の作品とされるようになったもの。こちらも暗闇に浮かぶ黄金の兜と強い陰影に富んだ男の表情とのコントラストが印象的です。素人目にはいかにもレンブラントの作品としか見えません。明暗の劇的な表現という意味では「黄金の兜の男」の方がゾクゾクするものがあります。

フェルメール 「真珠の首飾りの少女」
1662-1665年頃 ベルリン国立美術館絵画館蔵

やはりここは本邦初公開の「真珠の首飾りの少女」。光の魔術師と呼ばれるだけあり、窓から差し込む光の明るさ、美しさには目を見張ります。そして少女の顔の表情。フェルメールの他の作品にも通じることですが、フェルメールが描く女性の表情や仕草といった細かな心理描写はこの時代の画家の中では断トツの素晴らしさです。ただ残念なのは、油彩画面のヒビが予想以上にあり、肉眼でもはっきり分かるところ。いつか修理されることになるのでしょうか。

このコーナーにはほかにも、ベラスケス、ルーベンス、ロイスダールなど見どころがいっぱい。17世紀絵画のコーナーの充実度たるやビックリします。欲を言えば、同じベルリンの絵画館が所蔵しているフェルメールの「紳士とワインを飲む女」も連れて来てほしかったところです。

ジャン=バティスト=シメオン・シャルダン 「死んだ雉と獲物袋」
1760年 ベルリン国立美術館絵画館蔵

次の展示室は、18世紀のコーナー。フランスの画家シャルダンの静物画やイタリアのセバスティアーノ・リッチの「バテシバ」などをはじめ、ロココ様式の絵画や彫刻作品が並びます。

地下から1階に上がった最後の第六章では、ミケランジェロやボッティチェッリなどのイタリア・ルネサンスの素描を展示しています。これらの素描は作品保護のために、今後4年間非公開になってしまうのだそうです。見どころは、ボッティチェッリの「神曲」の挿絵素描とミケランジェロの「聖家族のための習作」(東京のみ展示)でしょうか。ほかにも、ダヴィンチ周辺の画家の素描といった気になるものもありました。

 ミケランジェロ・ブオナローティ 「聖家族のための習作」
1503-1504年頃 ベルリン国立美術館素描版画館蔵

フェルメールばかりに目が行きがちですが、4年をかけて作品を選んだというだけあり、見どころがたくさんあり、充実した内容の展覧会でした。


【ベルリン国立美術館展 学べるヨーロッパ美術の400年】
2012年9月17日まで
国立西洋美術館にて


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