2012/05/12

セザンヌ パリとプロヴァンス

国立新美術館で開催中の『セザンヌ パリとプロヴァンス』を観てきました。

展示作品は、フランスのオルセー美術館やパリ市立プティ・パレ美術館をはじめ、世界8ヶ国、約40館から集められ、これまで国内で開催されたセザンヌ展としては過去最大級の規模なのだとか。いま同じ国立新美術館では『エルミタージュ美術館展』も開催中ですが、そのエルミタージュ美術館からも何点かこちらに出展されています。

セザンヌといえば印象派を代表する画家の一人。でも、モネやルノワールといった同時代の印象派の画家たちが活躍したいた頃は全く評価をされなかったんですね。60歳を過ぎてパリで開いた個展で注目を集めた、どちらかというと遅咲きの画家なんだそうです。

この展覧会では、不遇の時代を送った初期の作品と、独自の構築的筆致を完成させた最晩年の作品をそれぞれ最初と最後に配置し、その間の作品を、セザンヌが得意とした風景画や静物画などのカテゴリーに分けて展示しています。

1章 初期

セザンヌは南フランスの裕福なブルジョアに生まれ、親に命じられるまま、法律とか学んでいたんですね。結局、画家になる夢を捨てられず、23歳でパリへ。でも順風とはいかなかったようです。

初期のセザンヌはとにかく色調が暗い。そしてとても厚塗り。静物画などを見るとデッサン力は相当あったみたいですが、この頃はまだ、いわゆるセザンヌらしさは微塵もありません。やがて印象派がセザンヌに大きな変化をもたらします。それでもサロンには10年以上落選。酷評にさらされながらも独自の表現を探求していきます。

「砂糖壺、洋なし、青いカップ」
1865-70年 グラネ美術館蔵(オルセー美術館より寄託)

2章 風景

印象派の影響を受け、色彩に目覚めたセザンヌ。しばらくパリと故郷エクス=アン=プロヴァンスを行き来しながらの活動が続きますが、やがて太陽の光に溢れたプロヴァンスに腰を落ち着けます。明るい陽光が差す長閑な田舎の風景と、今にも芽吹かんとする樹木。パリにはない自然の息吹を感じさせる一枚です。この頃になると、ようやくセザンヌらしくなってきます。

ちなみに、展示会場の作品パネルは、パリで描いた作品は作品名に青い下線が、プロヴァンスで描いた作品は作品名にオレンジの下線が引かれていて、どちらで制作された作品なのか分かるようになっています。

「首吊りの家、オーヴェール=シュル=オワーズ」
1873年 オルセー美術館蔵

サントヴィクトワール山はセザンヌの風景画の最も重要なモティーフ。ブリヂストン美術館の『あなたに見せたい絵があります』にもサントヴィクトワール山の絵が展示されていましたが、セザンヌはこの山を生涯80枚あまり描いたそうです。70年代の頃のセザンヌの風景画にはまだ古典的な牧歌的風景画の要素が見られますが、80年代も半ばを過ぎると色や形が単純になり、より感覚でとらえようとしていたことが分かります。

「サント=ヴィクトワール山」
1886-87年 フィリップス・コレクション蔵

3章 身体

晩年に力を入れていたもう一つのテーマが身体表現の探求。静物画や風景画が年代とともに変化していったように、水浴図もだんだんと肉体は大まかに描かれ、表情などはどうでもいいと言わんばかりに、色の組み立てと構図の配置を追求していきます。「3人の水浴の女たち」はセザンヌの作品の中でも大きな作品とのことで、マティスが長く所有していた絵なんだそうです。

「3人の水浴の女たち」
1876-77年頃 パリ市立プティ・パレ美術館蔵

4章 肖像

セザンヌの描く肖像画は、いわゆる一般的な肖像画のイメージではなく、まるで静物画のように肖像画を描いているといいたくなるような、そんな雰囲気を感じさせます。セザンヌは妻オルタンスをモデルに数十枚の肖像画を描いたそうです。でも、愛する妻を描いた割には表情がパッとしません。解説によると、セザンヌは装飾や心理的表現を意図的に省略したといいます。それよりも色を大胆に配置し、色彩が響き合う効果をどう見せるかの方に興味があったのでしょう。

「赤いひじ掛け椅子のセザンヌ夫人」
1877年頃 ボストン美術館蔵

5章 静物

初期は写実的だった静物画も、だんだんと、遠近感や具象性を無視した自由な構図や豊かな色彩の調和を重視してきていることが作品を観ていて分かります。壁の色と花瓶の色とアイリスの花の色が同系色なのに、それぞれの質感がちゃんと伝わる表現力の見事さ。絶妙な視覚的な心地よさを有しています。

「青い花瓶」
1889-90年 オルセー美術館蔵

「りんごとオレンジ」はセザンヌ60歳のときの作品で、静物画の最高傑作といわれています。傾いた長椅子と水平のりんご、大胆な布の配置という複雑な画面構成。セザンヌの静物画は、複数の、ゆがめられた多角的な視点から描いていることがよく語られますが、自分の理想のアングルを探すうちに、どんどんと独自のバランス感覚が発展していったのだろうなと感じました。

「りんごとオレンジ」
1899年頃 オルセー美術館蔵

6章 晩年

セザンヌの制作意欲は老いても衰えず、自然の複雑な様相を好んで探求し、さながら抽象画のような作品を創りあげています。初期の頃はあんなに厚塗りだった絵も、晩年になるとまるで水彩画のように薄塗りの軽いタッチになっていきます。ときには、絵の具を塗らず下地を残し、塗り残したところに温かさを出そうとしたといいます。晩年のコーナーは3作品だけの展示でしたが、最晩年に描いた「サント=ヴィクトワール山」の色彩の織物のような軽やかな質感と、「庭師ヴァリエ」の爽やかな季節の心地よさが伝わってくるような色彩のハーモニーがとても印象的でした。

「庭師ヴァリエ」
1906年頃 テート蔵

セザンヌはピカソやブラックなどキュビズムに大きな影響を与えたといわれています、特に晩年の作品を観ていると、セザンヌの絵画に対する革新的な狙いがよく分かります。でも、たとえセザンヌの絵が抽象絵画を予告していたとしても、ピカソらキュビズムのような不均衡さからくる視覚的心地悪さをセザンヌからは感じません。絶妙なバランスを保った心地よさ、豊かさがセザンヌの良いところなんだと思います。


【国立新美術館開館5周年 セザンヌ パリとプロヴァンス】
2012年6月11日(月)まで
国立新美術館にて


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