2019/12/08

窓展:窓をめぐるアートと建築の旅

東京国立近代美術館で開催中の『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』を観てきました。

その人の人生や暮らし、時代…。窓にインスパイアされて制作された作品…。そうした窓を通して見えるいくつもの風景を、さまざまな切り口で紹介する企画展です。

「『窓学』を主宰する一般財団法人 窓研究所とタッグを組んで行われるこの展覧会」、 窓研究所とはなんぞやと思って調べたら、なるほど「窓のあるくらし」のコピーで有名なYKK APが設立した団体なんですね。なんでいきなり窓なんだろうと不思議に思ってました。

絵画や写真、サイレント映画や実験映像、インスタレーションや建築物などジャンルを超えた作品が‟窓”をテーマに14の章に分けて展示されています。開幕早々に観たのですが、展示作品は幅広く、特定のカテゴリーにターゲットを絞ったというわけでもないのですが、若い方も結構多く、みんな思い思いに作品を見入っているのが印象的でした。

藤本壮介 「窓の住む家/窓のない家」 2019

美術館の前庭に何やら見知らぬ建物が。これも『窓展』の展示のひとつ。建築家・藤本壮介の窓の新しい概念を提示したインスタレーションだそうです。部屋?の中に木が立っていて、ここは中なのか外なのか中庭なのか。いろいろ想像が膨らみます。行った日は天気が悪くて、写真がいまいち映えなかったのが残念。


会場に入ると、壁一面にバスター・キートンの映画『キートンの蒸気船』が映し出されてます。家の外壁が倒れてきたと思ったら、家の前に立ってる人はうまいこと窓の枠の中にすっぽりはまって命拾いするという、まるでドリフのギャグ。

郷津雅夫 「Window》より」 1972−1990 個人蔵

印象的だったのが、ニューヨークのアパートの窓から通りを見やる人々を捉えた郷津雅夫の写真。黒人や移民と思しき人々、老人や子どもたちが窓辺に集まって外を眺めています(パレードの様子を眺めてるとか)。下町のアパートに暮らす、決して裕福とはいえない人々のドラマが浮かび上がってくるようです。

ロベール・ドアノー 「《ヴィトリーヌ、ギャルリー・ロミ、パリ》より」
1948 東京都写真美術館蔵

ガラス技術が発展し、ショーウィンドウが都市に普及したのが19世紀だといいます。ショーウィンドウのマネキンや商品を眺める人々は写真の恰好の被写体になります。面白かったのがドアノーの写真で、ショーウィンドウに飾られた女性の裸婦像を観て驚く老婦人やじっと見つめる男性などが、まるで隠しカメラのように写されています。

途中、建築や絵画における‟窓”の歴史が12mぐらいの長い年表で紹介されています。ヨーロッパの絵画に窓が登場するようになるのは約600年ぐらい前からになるそうですが、年表はそれこそ古代の窓と美術に関することから記されていて、窓の技術や歴史的な出来事にまで触れられていて、結構見入ってしまいます。

ピエール・ボナール 「静物、開いた窓、トルーヴィル」
1934 アサヒビール大山崎山荘美術館蔵

アンリ・マティス 「待つ」
1921−22 愛知県立美術館蔵

絵画は20世紀以降の作品が展示されています。ボナールやマティスといったポスト印象派から、ロスコやリヒター、キルヒナー、アルバース、リキテンシュタイン、デュシャンといった現代美術まで。ロスコ(福岡市美術館の所蔵品)がとても良かったのですが、現代美術はほとんど撮影禁止でした。

パウル・クレー 「花ひらく木をめぐる抽象」
1925 東京国立近代美術館蔵

アド・ラインハート 「抽象絵画」
1958 東京国立近代美術館蔵

現代美術になると、これは窓なのか?ただの枠ではないのか?とか、クレーでさえ窓との関係がちょっとこじつけ感があるのですが、ラインハートの「抽象絵画」まで来ると最早窓を感じ取ることさえ難しい……。

岸田劉生 「麗子肖像(麗子五歳之像)」
1918 東京国立近代美術館蔵

岸田劉生の「麗子肖像」があって、この作品と‟窓”に何の関係が?と思ったのですが、そばにあった解説に「『絵画=窓』とするなら、額縁は窓枠のようなもの」であり、この作品は「『額縁に入った麗子の肖像画』を描いた絵」とありました。一方で、麗子の背景に影が薄く落ちていることから、麗子が背景から浮かび上がり、だまし絵のような効果を劉生は狙ったのではないかと。10月に観た『岸田劉生展』では北方ルネサンスの影響、特にデューラーについて触れられていましたが、本展ではクラナッハが取り上げられていました。


奈良原一高 「《王国》より 沈黙の園」
東京国立近代美術館蔵

つづいて奈良原一高。代表作『王国』から12点が展示されています。『王国』は修道院と女子刑務所をという外部から隔絶された空間に生きる人々を写した作品。かれこれ5年前に同じ東近美で『王国』の特集展示があり、とても感動して写真集を買ったほどなのですが、今回はその中から窓が印象的な作品を選んで展示しているようです。

エルジュ 「《タンタン アメリカへ》より No.19」
1931 東京国立近代美術館蔵

《TINTIN》が東京国立近代美術館に所蔵されているとは。今の時代なら「絶対マネしないように」って注意書きがありそうなシーン(笑)

山中信夫 「ピンホール・ルーム2」
1973 東京国立近代美術館蔵

ピンホールカメラの手法を用いた山中信夫の「ピンホール・ルーム」シリーズが一区画に3点ほど展示されていて、個人的にはとても好みでした。

後半にはいろいろユニークなインスタレーションがあったり、懐かしいリプチンスキーの映像があったりして飽きません。この日は用事があって、1時間ぐらいしかいられなかったのですが、ほんとならもっと時間を取って見たかったなと思います。

ゲルハルト・リヒター 「8枚のガラス」
2012 ワコウ・ワークス・オブ・アート蔵


【窓展:窓をめぐるアートと建築の旅】
2020年2月2日(日)まで
東京国立近代美術館にて



窓展: 窓をめぐるアートと建築の旅

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