今年も最後の1日。
あれよあれよという間に大晦日ですね。
今年は(も)休日に時間が十分取れなくて、展覧会に十分に回れなかったのが残念でした。仕事のこと、家族のこと、いろいろありますし、映画だって観たいし、芝居だって観たいし、本だって読みたいし、年々時間を捻出するのが難しくなるばかり。
さて、拙ブログの今年のエントリーは展覧会の感想のみで38本で、一番エントリーが多かった年の半分と言っていた昨年よりさらに少なくなってしまいました。展覧会の記事は会期が終わるまでに書こうとは思ってるのですが、結局書けずじまいものも多く…。
思うように展覧会に行けなかったのと、結構評判の良い展覧会を見逃がしていて、今年の展覧会ベスト10は全然参考にならないんじゃないかなと思います。そもそも観た分母が少ないこともあってか、ダントツでこれ!といった展覧会もそれほどなく、正直ベスト5以下はかなり迷いました。
とはいえ、今年は大好きな近世初期風俗画と、ここ数年高い関心を持っている京都画壇の作品を観る機会に恵まれ、特に近代京都画壇に連なる呉春の作品に多く触れられたのが個人的には最大の収穫でした。あまり展覧会を回ることができなかったものの、日本美術だけでなく、西洋美術や現代アート、やきものなど、自分が興味を持ったものが優先ではありますが、バランス良く観られたのがせめても救いかなと思います。
で、2019年のベスト10はこんな感じです。
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1位 『遊びの流儀 遊楽図の系譜』(サントリー美術館)
近世初期風俗画の展覧会は特に珍しくありませんが、本展がユニークだったのは、遊楽図に描かれた碁盤や双六、カルタなどが一緒に展示され、遊楽図の展開だけでなく、当時の人々の娯楽やファッションなど風俗が絵画の世界を超えてリアルに伝わってきたこと。遊楽図そのものも名品がずらりと並び、その充実感たるや今年一番だったと思います。これまで縁がなかった「松浦屏風」や「相応寺屏風」、「伝本多平八郎姿絵屏風」など近世初期風俗画の傑作に出会えたことも嬉しかったです。年末に大和文華館で観た『国宝彦根屏風と国宝松浦屏風 遊宴と雅会の美』では本展に出展されなかった「彦根屏風」を久しぶりに観ることもでき、『遊びの流儀』で若干不足していた部分も補って余りあるものがありました。近世初期風俗画ファンとしては大満足の一年でした。
2位 『円山応挙から近代京都画壇へ』(東京藝術大学大学美術館)
近代京都画壇がここ数年のマイブーム(古っw)なのですが、その中心となる円山四条派の祖・応挙と呉春から連なる近代京都画壇への流れをここまで大規模に、しかも東京で取り上げてくれたことにまず感動しました。応挙は見慣れてることもあり特段驚くことはないのですが、大乗寺障壁画の空間再現展示は見応え十分で、応挙門下や幕末から明治にかけての京都画壇が思いの外充実していて素晴らしいものがありました。円山派は円山派の、四条派は四条派のそれぞれの良さも分かり、近代になり両派が渾然一体となり京都画壇を創り上げていく様も見て取れました。
3位 『大竹伸朗 ビル景 1978-2019』(水戸芸術館現代美術ギャラリー)
『ビル景』が40年続いていることが何より驚きで、時に心象風景を具現化するように、時に体の内側から溢れる思いをぶつけるように、時に何かに取り憑かれたように、画面を縦横無尽に走る線や色や形を見てると、大竹伸朗にとって『ビル景』とは、旺盛な制作活動の中で何かに立ち返るための基点的な意味もあるんだろうなと感じたりもしました。何より500点余りという作品はどれも刺激的で、シビれるぐらいかっこよくて、ただただ圧倒されました。
4位 『岡上淑子 沈黙の奇蹟』(東京都庭園美術館)
何年も前から気になっていた岡上淑子の作品にやっと出会えた喜びというんでしょうか、その喜びが期待を超えるぐらいに衝撃的でした。とてもファッショナブルでエレガントで良い意味でクラシカル。超現実的でありながらも、どこか女性の空想や願望がイメージ化されたようなところがあり、そのシュールで洗練された不思議な世界に目を奪われました。旧朝香宮邸のクラシカルな空間も相まって、岡上淑子の魅惑的な夢物語の舞台に迷い込んだような気分になりました。
5位 『画家「呉春」 − 池田で復活(リボーン)!』(逸翁美術館)
春に『四条派のへの道 呉春を中心として』を観て、夏に『円山応挙から近代京都画壇へ』を観て、秋に『桃源郷展 − 蕪村・呉春が夢みたもの』を観て、その他にも呉春の作品を観る機会が多く、今までこんなに呉春に触れたことがあっただろうかというぐらい今年は呉春づいていました。その決定版がこの『ゴシュン展』だったと思います。展示は呉春の池田時代が中心でしたが、作品の充実度は申し分なく、相次ぐ近親者の死や、師・蕪村や池田の人々との交流も語られ、呉春がどういう思いで池田で過ごしたのかも伝わってくる構成がまた素晴らしかったです。
6位 『茶の湯の銘碗 高麗茶碗』(三井記念美術館)
今年のベスト10で、唯一記事にできていないのですが、今年いくつか観たやきものの展覧会の中では『高麗茶碗展』が一番印象に残っています。高麗茶碗の佇まいの渋さ、侘びた景色が好きなのですが、高麗茶碗と偏に言っても結構さまざまなタイプのものがあって、でもそれぞれに惹かれるものがあり、あらためて自分の好みであることを確信しましたし、高麗茶碗の奥深さに心打たれました。
7位 『奇想の系譜展』(東京都美術館)
まさに江戸絵画の奇想オールスータズ大集合。又兵衛、山雪、若冲、蕭白、芦雪、国芳などの過去の展覧会の集大成であり、ダイジェストであり、辻惟雄氏の『奇想の系譜』に強い影響を受けた身としては夢のような企画展でした。今は目が慣れて奇想を奇想と思わなくなっているところもありますが、江戸絵画の中でいかに彼らが異質だったかをあらためて考えるいい機会になったと思います。
8位 『江戸の園芸熱』(たばこと塩の博物館)
タイトルが園芸「熱」なのがミソで、武家から庶民まで江戸時代の園芸ブームの盛り上がりぶりが浮世絵を通してとてもよく伝わってきましたし、園芸が江戸の人々の身近にあったことも分かり興味深いものがありました。美人画でもなく、役者絵でもなく、名所絵でもなく、あくまでも主役は園芸絵。これまでに見ないタイプの浮世絵も多く、美人画や名所絵だけを観て、江戸の文化や風俗を知ったつもりになっていてはダメだなとも思ったりしました。
9位 『原三溪の美術』(横浜美術館)
日本美術の展覧会を回っていると、「原三溪旧蔵」という文字を目にすることがありますが、いまは散逸し各地の美術館や個人コレクターの手に渡った「原三溪旧蔵」のコレクションが一堂に集まり、これもあれも原三溪が持っていたのかとその審美眼の確かさと趣味の良さに驚くばかりでした。三溪はコレクション公開のための美術館の建設を夢見ていたということを本展で知ったのですが、三溪生誕150年・没後80年という年に、ゆかりの深い横浜の地でこうして展覧会が開かれたこともとても意義深かったと思います。
10位 『塩田千春展 魂がふるえる』(森美術館)
アート作品を観ていて息苦しくなるとか、精神的なものに圧倒されるという経験はそうあるものではありません。塩田千春のこの展覧会は、どの作品からも命の叫びというか、魂も肉体もばらばらになるのを感じながら、制作に打ち込んできたのだろうことが強く伝わってきて、作品の前に立つたびにドーンと来るものがありました。なんだか凄いものを観た感という意味では今年一番のインパクトでした。
10位で迷ったのが埼玉県立歴史と民俗の博物館の『東国の地獄極楽』。関東を中心とした浄土宗の広がりや浄土信仰について詳しく、地味ながらもなかなか収穫の多い展覧会でした。今年も関西に遠征し、いくつか展覧会を観ましたが、京都国立博物館で観た『佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』も今後これだけまとめて佐竹本を観られるかと思うとベスト10に入れておきたかったところです。
今年は観た展覧会は少なかった分、ブログに記事にした展覧会はいずれも推しの展覧会ばかりで、つまらなかったものは一つもないのですが、ベスト10に入れられなかったものの強く印象に残った展覧会としては、『創作版画の系譜』、『へそまがり日本美術』、『国宝 一遍聖絵と時宗の名宝』、『大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋』、『学んで伝える絵画のかきかた』、『松方コレクション展』、『山口蓬春展』、『岸田劉生展』あたりでしょうか。現代アートでは『バスキア展』も楽しかったですね。展覧会とはいえないかもしれませんが、神保町の古書店で観た『奈良絵本を見る!』は観られてとても良かったと思います(第二弾に行けなかったのが残念ですが)。
記事としては書けていませんが、日本美術では『ラスト・ウキヨエ』、西洋美術では『ギュスターヴ・モロー展』や『クリムト展』、『ウィーン・モダン展』、『ルート・ブリュック展』、『メスキータ展』、『コートルード美術館展』もとても印象的でした。
残念ながら結局行けずじまいだった『顔真卿』、『ジョゼフ・コーネル展』や『世紀末ウィーンのグラフィック展』、『キスリング展』、地方で遠征できなかったのですが、『月僊展』、 『増山雪斎展』、『山元春挙展』、『驚異と怪異』あたりは観ておきたかったなと思います。
ちなみに今年アップした展覧会の記事で拙サイトへのアクセス数は以下の通りです。
1位 奇想の系譜展
2位 創作版画の系譜
3位 河鍋暁斎 その手に描けぬものなし
4位 岡上淑子 沈黙の奇蹟
5位 原三溪の美術
6位 はじめての古美術鑑賞 絵画のテーマ
7位 四条派のへの道 呉春を中心として
8位 桃源郷展
9位 大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋
10位 尾形光琳の燕子花図
このブログも今年でちょうど10年を迎えました。このブログの前にやっていた映画のホームページ時代から入れると、なんと20年もちまちまつまらないことを書いていたんですね。。。ちょうど切りも良いので今年でブログを一旦クローズしようと思います。どうしても記事にしたいという展覧会が出てきたり、思い出したように書き出したりするかもしれませんが、また時間が作れるようになって再オープンできる時までしばらくお休みするつもりです。10年間、こんな拙いサイトにも関わらず、足をお運びいただきありがとうございました。
【参考】
2018年 展覧会ベスト10
2017年 展覧会ベスト10
2016年 展覧会ベスト10
2015年 展覧会ベスト10
2014年 展覧会ベスト10
2013年 展覧会ベスト10
2012年 展覧会ベスト10
日経おとなのOFF 2020年 絶対に見逃せない美術展(日経トレンディ2020年1月号増刊)
美術展ぴあ2020 (ぴあ MOOK)
2019/12/31
2019/12/08
窓展:窓をめぐるアートと建築の旅
東京国立近代美術館で開催中の『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』を観てきました。
その人の人生や暮らし、時代…。窓にインスパイアされて制作された作品…。そうした窓を通して見えるいくつもの風景を、さまざまな切り口で紹介する企画展です。
「『窓学』を主宰する一般財団法人 窓研究所とタッグを組んで行われるこの展覧会」、 窓研究所とはなんぞやと思って調べたら、なるほど「窓のあるくらし」のコピーで有名なYKK APが設立した団体なんですね。なんでいきなり窓なんだろうと不思議に思ってました。
絵画や写真、サイレント映画や実験映像、インスタレーションや建築物などジャンルを超えた作品が‟窓”をテーマに14の章に分けて展示されています。開幕早々に観たのですが、展示作品は幅広く、特定のカテゴリーにターゲットを絞ったというわけでもないのですが、若い方も結構多く、みんな思い思いに作品を見入っているのが印象的でした。
美術館の前庭に何やら見知らぬ建物が。これも『窓展』の展示のひとつ。建築家・藤本壮介の窓の新しい概念を提示したインスタレーションだそうです。部屋?の中に木が立っていて、ここは中なのか外なのか中庭なのか。いろいろ想像が膨らみます。行った日は天気が悪くて、写真がいまいち映えなかったのが残念。
会場に入ると、壁一面にバスター・キートンの映画『キートンの蒸気船』が映し出されてます。家の外壁が倒れてきたと思ったら、家の前に立ってる人はうまいこと窓の枠の中にすっぽりはまって命拾いするという、まるでドリフのギャグ。
印象的だったのが、ニューヨークのアパートの窓から通りを見やる人々を捉えた郷津雅夫の写真。黒人や移民と思しき人々、老人や子どもたちが窓辺に集まって外を眺めています(パレードの様子を眺めてるとか)。下町のアパートに暮らす、決して裕福とはいえない人々のドラマが浮かび上がってくるようです。
ガラス技術が発展し、ショーウィンドウが都市に普及したのが19世紀だといいます。ショーウィンドウのマネキンや商品を眺める人々は写真の恰好の被写体になります。面白かったのがドアノーの写真で、ショーウィンドウに飾られた女性の裸婦像を観て驚く老婦人やじっと見つめる男性などが、まるで隠しカメラのように写されています。
途中、建築や絵画における‟窓”の歴史が12mぐらいの長い年表で紹介されています。ヨーロッパの絵画に窓が登場するようになるのは約600年ぐらい前からになるそうですが、年表はそれこそ古代の窓と美術に関することから記されていて、窓の技術や歴史的な出来事にまで触れられていて、結構見入ってしまいます。
絵画は20世紀以降の作品が展示されています。ボナールやマティスといったポスト印象派から、ロスコやリヒター、キルヒナー、アルバース、リキテンシュタイン、デュシャンといった現代美術まで。ロスコ(福岡市美術館の所蔵品)がとても良かったのですが、現代美術はほとんど撮影禁止でした。
現代美術になると、これは窓なのか?ただの枠ではないのか?とか、クレーでさえ窓との関係がちょっとこじつけ感があるのですが、ラインハートの「抽象絵画」まで来ると最早窓を感じ取ることさえ難しい……。
岸田劉生の「麗子肖像」があって、この作品と‟窓”に何の関係が?と思ったのですが、そばにあった解説に「『絵画=窓』とするなら、額縁は窓枠のようなもの」であり、この作品は「『額縁に入った麗子の肖像画』を描いた絵」とありました。一方で、麗子の背景に影が薄く落ちていることから、麗子が背景から浮かび上がり、だまし絵のような効果を劉生は狙ったのではないかと。10月に観た『岸田劉生展』では北方ルネサンスの影響、特にデューラーについて触れられていましたが、本展ではクラナッハが取り上げられていました。
つづいて奈良原一高。代表作『王国』から12点が展示されています。『王国』は修道院と女子刑務所をという外部から隔絶された空間に生きる人々を写した作品。かれこれ5年前に同じ東近美で『王国』の特集展示があり、とても感動して写真集を買ったほどなのですが、今回はその中から窓が印象的な作品を選んで展示しているようです。
《TINTIN》が東京国立近代美術館に所蔵されているとは。今の時代なら「絶対マネしないように」って注意書きがありそうなシーン(笑)
ピンホールカメラの手法を用いた山中信夫の「ピンホール・ルーム」シリーズが一区画に3点ほど展示されていて、個人的にはとても好みでした。
後半にはいろいろユニークなインスタレーションがあったり、懐かしいリプチンスキーの映像があったりして飽きません。この日は用事があって、1時間ぐらいしかいられなかったのですが、ほんとならもっと時間を取って見たかったなと思います。
【窓展:窓をめぐるアートと建築の旅】
2020年2月2日(日)まで
東京国立近代美術館にて
窓展: 窓をめぐるアートと建築の旅
その人の人生や暮らし、時代…。窓にインスパイアされて制作された作品…。そうした窓を通して見えるいくつもの風景を、さまざまな切り口で紹介する企画展です。
「『窓学』を主宰する一般財団法人 窓研究所とタッグを組んで行われるこの展覧会」、 窓研究所とはなんぞやと思って調べたら、なるほど「窓のあるくらし」のコピーで有名なYKK APが設立した団体なんですね。なんでいきなり窓なんだろうと不思議に思ってました。
絵画や写真、サイレント映画や実験映像、インスタレーションや建築物などジャンルを超えた作品が‟窓”をテーマに14の章に分けて展示されています。開幕早々に観たのですが、展示作品は幅広く、特定のカテゴリーにターゲットを絞ったというわけでもないのですが、若い方も結構多く、みんな思い思いに作品を見入っているのが印象的でした。
藤本壮介 「窓の住む家/窓のない家」 2019
美術館の前庭に何やら見知らぬ建物が。これも『窓展』の展示のひとつ。建築家・藤本壮介の窓の新しい概念を提示したインスタレーションだそうです。部屋?の中に木が立っていて、ここは中なのか外なのか中庭なのか。いろいろ想像が膨らみます。行った日は天気が悪くて、写真がいまいち映えなかったのが残念。
会場に入ると、壁一面にバスター・キートンの映画『キートンの蒸気船』が映し出されてます。家の外壁が倒れてきたと思ったら、家の前に立ってる人はうまいこと窓の枠の中にすっぽりはまって命拾いするという、まるでドリフのギャグ。
郷津雅夫 「《Window》より」 1972−1990 個人蔵
印象的だったのが、ニューヨークのアパートの窓から通りを見やる人々を捉えた郷津雅夫の写真。黒人や移民と思しき人々、老人や子どもたちが窓辺に集まって外を眺めています(パレードの様子を眺めてるとか)。下町のアパートに暮らす、決して裕福とはいえない人々のドラマが浮かび上がってくるようです。
ロベール・ドアノー 「《ヴィトリーヌ、ギャルリー・ロミ、パリ》より」
1948 東京都写真美術館蔵
1948 東京都写真美術館蔵
ガラス技術が発展し、ショーウィンドウが都市に普及したのが19世紀だといいます。ショーウィンドウのマネキンや商品を眺める人々は写真の恰好の被写体になります。面白かったのがドアノーの写真で、ショーウィンドウに飾られた女性の裸婦像を観て驚く老婦人やじっと見つめる男性などが、まるで隠しカメラのように写されています。
途中、建築や絵画における‟窓”の歴史が12mぐらいの長い年表で紹介されています。ヨーロッパの絵画に窓が登場するようになるのは約600年ぐらい前からになるそうですが、年表はそれこそ古代の窓と美術に関することから記されていて、窓の技術や歴史的な出来事にまで触れられていて、結構見入ってしまいます。
ピエール・ボナール 「静物、開いた窓、トルーヴィル」
1934 アサヒビール大山崎山荘美術館蔵
1934 アサヒビール大山崎山荘美術館蔵
アンリ・マティス 「待つ」
1921−22 愛知県立美術館蔵
1921−22 愛知県立美術館蔵
絵画は20世紀以降の作品が展示されています。ボナールやマティスといったポスト印象派から、ロスコやリヒター、キルヒナー、アルバース、リキテンシュタイン、デュシャンといった現代美術まで。ロスコ(福岡市美術館の所蔵品)がとても良かったのですが、現代美術はほとんど撮影禁止でした。
パウル・クレー 「花ひらく木をめぐる抽象」
1925 東京国立近代美術館蔵
1925 東京国立近代美術館蔵
アド・ラインハート 「抽象絵画」
1958 東京国立近代美術館蔵
1958 東京国立近代美術館蔵
現代美術になると、これは窓なのか?ただの枠ではないのか?とか、クレーでさえ窓との関係がちょっとこじつけ感があるのですが、ラインハートの「抽象絵画」まで来ると最早窓を感じ取ることさえ難しい……。
岸田劉生 「麗子肖像(麗子五歳之像)」
1918 東京国立近代美術館蔵
1918 東京国立近代美術館蔵
岸田劉生の「麗子肖像」があって、この作品と‟窓”に何の関係が?と思ったのですが、そばにあった解説に「『絵画=窓』とするなら、額縁は窓枠のようなもの」であり、この作品は「『額縁に入った麗子の肖像画』を描いた絵」とありました。一方で、麗子の背景に影が薄く落ちていることから、麗子が背景から浮かび上がり、だまし絵のような効果を劉生は狙ったのではないかと。10月に観た『岸田劉生展』では北方ルネサンスの影響、特にデューラーについて触れられていましたが、本展ではクラナッハが取り上げられていました。
奈良原一高 「《王国》より 沈黙の園」
東京国立近代美術館蔵
東京国立近代美術館蔵
つづいて奈良原一高。代表作『王国』から12点が展示されています。『王国』は修道院と女子刑務所をという外部から隔絶された空間に生きる人々を写した作品。かれこれ5年前に同じ東近美で『王国』の特集展示があり、とても感動して写真集を買ったほどなのですが、今回はその中から窓が印象的な作品を選んで展示しているようです。
エルジュ 「《タンタン アメリカへ》より No.19」
1931 東京国立近代美術館蔵
1931 東京国立近代美術館蔵
《TINTIN》が東京国立近代美術館に所蔵されているとは。今の時代なら「絶対マネしないように」って注意書きがありそうなシーン(笑)
山中信夫 「ピンホール・ルーム2」
1973 東京国立近代美術館蔵
1973 東京国立近代美術館蔵
ピンホールカメラの手法を用いた山中信夫の「ピンホール・ルーム」シリーズが一区画に3点ほど展示されていて、個人的にはとても好みでした。
後半にはいろいろユニークなインスタレーションがあったり、懐かしいリプチンスキーの映像があったりして飽きません。この日は用事があって、1時間ぐらいしかいられなかったのですが、ほんとならもっと時間を取って見たかったなと思います。
ゲルハルト・リヒター 「8枚のガラス」
2012 ワコウ・ワークス・オブ・アート蔵
2012 ワコウ・ワークス・オブ・アート蔵
【窓展:窓をめぐるアートと建築の旅】
2020年2月2日(日)まで
東京国立近代美術館にて
窓展: 窓をめぐるアートと建築の旅
2019/11/24
佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美
京都国立博物館で開催中の『流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』に行ってきました。
ほんとはもっと早くに観に行くつもりで、10月に新幹線もホテルも予約していたのですが、台風19号と重なり残念ながらキャンセル。11月の連休は仕事があり、今回は無理かなと思ってたのですが、幸いなことに仕事の調整がつき、なんとか観に来ることができました。
「佐竹本三十六歌仙絵」は鎌倉時代に制作された歌仙絵を代表する名品。もとは下鴨神社に所蔵されていたとされ、江戸時代末期に秋田藩主佐竹家に伝わったことから佐竹本と呼ばれています。
しかし、ちょうど100年前の大正8年(1919)、佐竹家から売りに出されますが、その高価さから買い手がつかず、各歌人ごとに分割され、それぞれ異なる買主の手に渡ることに・・・。今回タイトルにある『流転100年』はそこに由来します。
1986年に「佐竹本三十六歌仙絵」が20点集まる展覧会があったそうですが、今回はそれを遥かに超える30歌人(下巻巻頭の「住吉明神」を入れると31点)が分割されて以来100年ぶりに集結します。近年だと、2016年に東京国立博物館で6点が集まる歌仙絵の特集展示があったり、2018年に出光美術館の『歌仙と古筆』で4点が集まるなど、数点を観る機会はありましたが、ここまでまとめて観る機会というのは恐らくそうはないと思います。今度集まるのはいつになることやら。
会場の構成は以下の通りです:
第1章 国宝《三十六人家集》と平安の名筆
第2章 ‟歌聖”柿本人麻呂
第3章 ‟大歌仙”佐竹本三十六歌仙絵
第4章 さまざまな歌仙絵
第5章 鎌倉時代の和歌と美術
第6章 江戸時代の歌仙絵
まずは古筆の名品から。平安の三色紙(継色紙「いそのかみ」、升色紙「かみなゐの」、寸松庵色紙「ちはやふる」)や、古今和歌集最古の写本である「高野切」と本阿弥光悦旧蔵の「本阿弥切」、三大手鑑のひとつ「藻塩草」や豪華な「西本願寺本三十六人歌集」など、流麗な仮名文字や美しい料紙装飾にうっとり。すでに気分は雅やか。
つづいて、歌聖・柿本人麻呂像がずらり。人麻呂の図像には筆や紙も持たず脇息にもたれ虚空を見つめる姿と、右手に筆、左手に紙を持ち、同じく左上を見やる姿の2系統が主なパターンだといいます。前者の系統の最古例として京博本と、同系統の常盤山文庫本が展示されていて、藤原信実の筆と伝わる京博本はどこか悲しげな精緻な願望表現が印象的。でも重文指定は常盤山文庫本だけなんですね。中国の維摩居士図のポーズとの類似が指摘されていたのも興味深い。東博所蔵の伝・信実筆の人麻呂像は珍しく右向き。顔の表情もかなり違うのが面白い。
先の出光美術館の『歌仙と古筆』展でも同様の章がありましたが、人麻呂がなぜ歌聖として崇められたのかについては出光美の方が、人麻呂の図像については今回の京博の方が解説も詳しく、また分かりやすかったかなと思います。ちなみに、出光美術館の『歌仙と古筆』展では特に人麿影供について詳しく触れていて、また柿本人麻呂と山部赤人の同一人物説を取り上げ、図像の近似性を分析していたのも興味深かったです。
2階に下りると、そこは「佐竹本三十六歌仙絵」一色。まずは「佐竹本三十六歌仙絵」がどのような経緯で誰が決断し分断されたのか、抽選はどこでどのように行われたのか、などが少しドキュメンタリー仕立てに構成され、関連展示とともに解説されていました。
くじで使われ今は花入れに仕立てられた竹筒や実際のくじなんかもあったり、いろいろ興味を引きます。東京国立博物館の庭園に「応挙館」がありますが、なんとあそこが抽選会場だったんですね(もとは名古屋市郊外の明眼院の書院として建てられものを、益田孝(鈍翁)が品川の邸内に移築。その後東博に移築)。
本展では、凡河内躬恒、猿丸大夫、斎宮女御、藤原清正、伊勢、中務の6点が未出品。中務以外は全て個人所蔵なので、なかなか理解が得られなかったのかもしれません。残念。わたしが観に行った日(11/3)は27点が展示されていたのですが、展示替えで観られなかった作品の内、山部赤人と藤原敦忠と源順は過去に観ているので、これで「佐竹本三十六歌仙絵」の内、30点を観たことになります。
「佐竹本三十六歌仙絵」は絵を藤原信実、詞書を後京極良経とされていますが、あくまでも伝承で、特に絵は複数の絵師が関わっているといわれています。佐竹本以外にも本展では歌仙絵がいくつか展示されていて、結構な割合で藤原信実筆というのを目にするのですが、筆致に共通性はあまり見られなかったりします。それだけ信実が当時評価されていたということなんでしょうね(信実は「北野天神縁起絵巻(承久本)」の筆者ともされている絵師)。書のことはよく分かりませんが、後京極良経の書はお世辞にも流麗とは言えないと思ったのは内緒(笑)。
絵はそれぞれ詠歌に込められた作者の心情などが反映されているというようなことが解説にあったのですが、そこまでの深読みは素人にはなかなか難しいのが正直なところ。鎌倉時代の絵画によく見る似絵ですが、顔の表情というより、平安貴族の装束やその文様、下を向いていたり後ろ姿だったりという、全体のムードやちょっとした仕草が繊細に描かれていて、その点ではいろいろ比較しては楽しんでいました。
佐竹本の他にも「上畳本三十六歌仙絵」や「時代不同歌合絵」などさまざま歌仙絵が出ているのですが、佐竹本より同じ伝・信実筆の「上畳本三十六歌仙絵」の方が人物表現が細やかで、表情や仕草にも個性があって、どちらかというと個人的には好みでした。佐竹本では女性歌人は(わたしの行った日は)小野小町しか観られなかったのですが、「後鳥羽院本三十六歌仙絵」では小大君と伊勢と中務が出ていて、少し丸みを帯びた顔も可愛らしく、ちょっと素朴絵っぽい雰囲気もあって面白い。表具がまた華麗。
出光美の『歌仙と古筆』展では俵屋宗達の「西行物語絵巻」が出てましたが、こちらは鎌倉時代のオリジナルが、今は徳川美術館と文化庁に分蔵されている2巻とも出品されていて感動しました。人々の表情や屋敷内の様子も細かく丁寧に描かれてる一方、山や樹木の描写が当時のやまと絵に比べるとちょっと個性的なのが印象的でした。
江戸時代の歌仙絵は屏風が3点のみで、ちょっとあっけない。やまと絵の土佐光起と京狩野の狩野永岳は完全に装飾で、歌仙絵も様式化されていますが、その中で其一はユーモラスで楽しい。狩野探幽や岩佐又兵衛の歌仙絵も出てれば、より充実したものになったのにと思ったりもしました。
【流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美】
2019年11月24日まで
京都国立博物館にて
古今和歌集 (岩波文庫)
ほんとはもっと早くに観に行くつもりで、10月に新幹線もホテルも予約していたのですが、台風19号と重なり残念ながらキャンセル。11月の連休は仕事があり、今回は無理かなと思ってたのですが、幸いなことに仕事の調整がつき、なんとか観に来ることができました。
「佐竹本三十六歌仙絵」は鎌倉時代に制作された歌仙絵を代表する名品。もとは下鴨神社に所蔵されていたとされ、江戸時代末期に秋田藩主佐竹家に伝わったことから佐竹本と呼ばれています。
しかし、ちょうど100年前の大正8年(1919)、佐竹家から売りに出されますが、その高価さから買い手がつかず、各歌人ごとに分割され、それぞれ異なる買主の手に渡ることに・・・。今回タイトルにある『流転100年』はそこに由来します。
1986年に「佐竹本三十六歌仙絵」が20点集まる展覧会があったそうですが、今回はそれを遥かに超える30歌人(下巻巻頭の「住吉明神」を入れると31点)が分割されて以来100年ぶりに集結します。近年だと、2016年に東京国立博物館で6点が集まる歌仙絵の特集展示があったり、2018年に出光美術館の『歌仙と古筆』で4点が集まるなど、数点を観る機会はありましたが、ここまでまとめて観る機会というのは恐らくそうはないと思います。今度集まるのはいつになることやら。
会場の構成は以下の通りです:
第1章 国宝《三十六人家集》と平安の名筆
第2章 ‟歌聖”柿本人麻呂
第3章 ‟大歌仙”佐竹本三十六歌仙絵
第4章 さまざまな歌仙絵
第5章 鎌倉時代の和歌と美術
第6章 江戸時代の歌仙絵
詫磨栄賀 「柿本人麻呂像」(重要文化財)
応永2年(1395)・室町時代 常盤山文庫蔵
応永2年(1395)・室町時代 常盤山文庫蔵
まずは古筆の名品から。平安の三色紙(継色紙「いそのかみ」、升色紙「かみなゐの」、寸松庵色紙「ちはやふる」)や、古今和歌集最古の写本である「高野切」と本阿弥光悦旧蔵の「本阿弥切」、三大手鑑のひとつ「藻塩草」や豪華な「西本願寺本三十六人歌集」など、流麗な仮名文字や美しい料紙装飾にうっとり。すでに気分は雅やか。
つづいて、歌聖・柿本人麻呂像がずらり。人麻呂の図像には筆や紙も持たず脇息にもたれ虚空を見つめる姿と、右手に筆、左手に紙を持ち、同じく左上を見やる姿の2系統が主なパターンだといいます。前者の系統の最古例として京博本と、同系統の常盤山文庫本が展示されていて、藤原信実の筆と伝わる京博本はどこか悲しげな精緻な願望表現が印象的。でも重文指定は常盤山文庫本だけなんですね。中国の維摩居士図のポーズとの類似が指摘されていたのも興味深い。東博所蔵の伝・信実筆の人麻呂像は珍しく右向き。顔の表情もかなり違うのが面白い。
先の出光美術館の『歌仙と古筆』展でも同様の章がありましたが、人麻呂がなぜ歌聖として崇められたのかについては出光美の方が、人麻呂の図像については今回の京博の方が解説も詳しく、また分かりやすかったかなと思います。ちなみに、出光美術館の『歌仙と古筆』展では特に人麿影供について詳しく触れていて、また柿本人麻呂と山部赤人の同一人物説を取り上げ、図像の近似性を分析していたのも興味深かったです。
詞・伝後京極良経、絵・伝藤原信実 「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麻呂」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 出光美術館蔵 (展示は11/10まで)
鎌倉時代・13世紀 出光美術館蔵 (展示は11/10まで)
2階に下りると、そこは「佐竹本三十六歌仙絵」一色。まずは「佐竹本三十六歌仙絵」がどのような経緯で誰が決断し分断されたのか、抽選はどこでどのように行われたのか、などが少しドキュメンタリー仕立てに構成され、関連展示とともに解説されていました。
くじで使われ今は花入れに仕立てられた竹筒や実際のくじなんかもあったり、いろいろ興味を引きます。東京国立博物館の庭園に「応挙館」がありますが、なんとあそこが抽選会場だったんですね(もとは名古屋市郊外の明眼院の書院として建てられものを、益田孝(鈍翁)が品川の邸内に移築。その後東博に移築)。
詞・伝後京極良経、絵・伝藤原信実 「佐竹本三十六歌仙絵 平兼盛」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 MOA美術館蔵 (展示は11/10まで)
鎌倉時代・13世紀 MOA美術館蔵 (展示は11/10まで)
本展では、凡河内躬恒、猿丸大夫、斎宮女御、藤原清正、伊勢、中務の6点が未出品。中務以外は全て個人所蔵なので、なかなか理解が得られなかったのかもしれません。残念。わたしが観に行った日(11/3)は27点が展示されていたのですが、展示替えで観られなかった作品の内、山部赤人と藤原敦忠と源順は過去に観ているので、これで「佐竹本三十六歌仙絵」の内、30点を観たことになります。
詞・伝後京極良経、絵・伝藤原信実 「佐竹本三十六歌仙絵 素性法師」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 個人蔵
鎌倉時代・13世紀 個人蔵
「佐竹本三十六歌仙絵」は絵を藤原信実、詞書を後京極良経とされていますが、あくまでも伝承で、特に絵は複数の絵師が関わっているといわれています。佐竹本以外にも本展では歌仙絵がいくつか展示されていて、結構な割合で藤原信実筆というのを目にするのですが、筆致に共通性はあまり見られなかったりします。それだけ信実が当時評価されていたということなんでしょうね(信実は「北野天神縁起絵巻(承久本)」の筆者ともされている絵師)。書のことはよく分かりませんが、後京極良経の書はお世辞にも流麗とは言えないと思ったのは内緒(笑)。
絵はそれぞれ詠歌に込められた作者の心情などが反映されているというようなことが解説にあったのですが、そこまでの深読みは素人にはなかなか難しいのが正直なところ。鎌倉時代の絵画によく見る似絵ですが、顔の表情というより、平安貴族の装束やその文様、下を向いていたり後ろ姿だったりという、全体のムードやちょっとした仕草が繊細に描かれていて、その点ではいろいろ比較しては楽しんでいました。
詞・伝後京極良経、絵・伝藤原信実 「佐竹本三十六歌仙絵 藤原高光」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 逸翁美術館蔵
鎌倉時代・13世紀 逸翁美術館蔵
佐竹本の他にも「上畳本三十六歌仙絵」や「時代不同歌合絵」などさまざま歌仙絵が出ているのですが、佐竹本より同じ伝・信実筆の「上畳本三十六歌仙絵」の方が人物表現が細やかで、表情や仕草にも個性があって、どちらかというと個人的には好みでした。佐竹本では女性歌人は(わたしの行った日は)小野小町しか観られなかったのですが、「後鳥羽院本三十六歌仙絵」では小大君と伊勢と中務が出ていて、少し丸みを帯びた顔も可愛らしく、ちょっと素朴絵っぽい雰囲気もあって面白い。表具がまた華麗。
出光美の『歌仙と古筆』展では俵屋宗達の「西行物語絵巻」が出てましたが、こちらは鎌倉時代のオリジナルが、今は徳川美術館と文化庁に分蔵されている2巻とも出品されていて感動しました。人々の表情や屋敷内の様子も細かく丁寧に描かれてる一方、山や樹木の描写が当時のやまと絵に比べるとちょっと個性的なのが印象的でした。
詞・伝藤原為家、絵・伝藤原信実 「上畳本三十六歌仙絵 藤原仲文」
鎌倉時代・13世紀 個人蔵
鎌倉時代・13世紀 個人蔵
江戸時代の歌仙絵は屏風が3点のみで、ちょっとあっけない。やまと絵の土佐光起と京狩野の狩野永岳は完全に装飾で、歌仙絵も様式化されていますが、その中で其一はユーモラスで楽しい。狩野探幽や岩佐又兵衛の歌仙絵も出てれば、より充実したものになったのにと思ったりもしました。
鈴木其一 「三十六歌仙図屏風」
江戸時代・19世紀 個人蔵
江戸時代・19世紀 個人蔵
【流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美】
2019年11月24日まで
京都国立博物館にて
古今和歌集 (岩波文庫)
2019/11/16
福美コレクション展
京都・嵐山に先月新しくオープンした福田美術館に行ってきました。
嵐山は観光客で混んでるし行きたくないなと思ったのですが、コレクション展のラインナップを観たら、これは行かなくてはいけないだろうなと思い、十数年ぶりに嵐山へ。
嵐山のお土産屋さんが並ぶメインの通りは原宿の竹下通りか鎌倉の小町通りかというぐらい混んでるので、裏道を通っていくのをお薦めします。美術館は嵐山屈指の観光名所、渡月橋のすぐそば。人気のアラビカ京都嵐山に隣接した桂川沿いにあります。超絶いい場所。
これだけの土地、どれだけのお金があれば買えるんだろうとは野暮な話ですが、福田美術館のオーナーは消費者金融大手・アイフルの創業者の方。つまり私設美術館なんですね。「京都という土地に対して、恩返しがしたい」という思いから美術館を設立したといいます。
所蔵点数は約1500点。琳派から円山・四条派、京都画壇など京都に馴染みの深い近世・近代日本画の作品が多くあるようです。で、今回の『福美オールスターズ』と題したコレクション展は、その膨大なコレクションの中から選りすぐりの作品、日本画は75点(2期計)、洋画は7点(展示替えなし)が2期に分けて公開されるわけですが、噂には聞いてましたが、いやーこんなに優品揃いとは思いませんでした。
まずは受付。事前にオンラインチケットの購入がオススメです。受付でチケットを購入するより割引になってます。音声ガイドはスマートフォンを持っていれば、無料。作品リストの裏面には音声ガイドに利用方法が書いてあります。イヤホンのレンタルは有料なので、イヤホンは忘れずに持って行きましょう。
2階は明治から昭和初期にかけての近代日本画。展示室内に入ってすぐ目に飛び込んでくるのが竹内栖鳳の獅子と虎。いきなりインパクトのある栖鳳の写実に目が釘付けです。獅子の迫力も凄いけど、正面から虎をリアルに描いた観察力に感服します。
隣には竹林に淡い青を刷き、靄の中にも奥行きを感じさせる大観の「竹林図」と、波が打ちつける荒磯にこちらも青色を効果的に使った「波濤図」。大観らしい雲海に浮かぶ富士の屏風を挟んで、ここにも春草の掛軸が2点。水墨も良いですが、春草の彩色の清新な美しさはまた格別ですね。特に「春庭」の若草の緑から春の陽光へと変わるグラデーションの綺麗なこと。朦朧体に印象的な色彩を用いることにより独自のスタイルを築いた春草らしい逸品です。
とても印象的だったのが木島櫻谷の対幅の「遅日(ちじつ)。比較的大きな掛軸で、墨一色なのに非常に繊細にグラデーションをつけることで、モノトーンの独特の色合いが柔らかさと深みを与え、他にない新しい水墨の世界を創り出すことに成功しています。
松園が2点。行灯のもと読書に夢中の若い娘と灯芯を上げて明るくしてあげる年上の女性を描いた「長夜」。髪型や着物を描き分けることで二人の女性の年齢や性格を表しています。「軽女悲離別図」は赤穂浪士・大石良雄と愛妾・お軽の別れを描いた一枚。いずれも松園初期の作品で、後年の美人画と異なり、作品に物語性があるのが個人的には好きなところ。
そばには速水御舟の巨大な「山頭翠明」。いわゆる群青中毒にかかっていた頃の作品と思われますが、別にこんなに大きく描く意味なかったでしょ…というところがあって、なんだなかなーという感じ(笑)。
六曲一双の大きな屏風で写真に収まりきらなかったのですが、橋本関雪の「後醍醐帝」が素晴らしかった。右隻に尊氏、左隻に女性の格好(よく見ると髭がある!)をして御所を抜け出す後醍醐帝を描いていて、その緊張感のある構図もさることながら、人物表現の巧さ、馬の丁寧な描きこみ、鎧の精緻な描写など見れば見るほど唸るばかり。長く所在不明だったものが近年発見され、107年ぶりに公開されたのだそうです。
近代日本画の最後は竹久夢二の肉筆画がずらり。福田美術館は夢二のコレクションでも国内有数なのだとか。個人的に夢二はそれほど好きではないのですが、こうした掛軸の夢二もなかなか雰囲気があっていいですね。
さて、ひとつ上の階は江戸絵画。いきなり宗達芸術を代表する「伊勢物語図色紙(益田家旧蔵本)」があってビックリ。状態も良く、小さな画面に凝縮された構図のまとまりと金地の濃密な色彩に見惚れてしまいました。
隣には尾形乾山の珍しい歌仙絵「三十六歌仙絵 伊勢」。乾山らしいおおらかで愛嬌のある歌仙絵ですが、十二単が実に丁寧に描かれていて、実はとても繊細な作品でした。その隣には光琳の「十二ヶ月歌意図屏風」も。
琳派では深江芦舟の「草花図屏風」も印象的。芦舟というと「蔦の細道図屏風」が有名ですが、出光美術館で以前見た「四季草花図屏風」が斬新で殊の外素晴らしかったのですが、この「草花図屏風」もどこか幻想的な草花の美しさで、宗達や光琳ともまた違う装飾性が目を引きます。
若冲があって、応挙があって、蘆雪があって、蕭白があって、つくづく良い作品を持ってるな〜と感心。蕭白の「荘子胡蝶之夢図」の胡蝶の夢を見てるのか荘子の眠る姿がほのぼのとしてかわいい。
こちらにも呉春。退色してるのか色が少し薄めでしたが、とても細かに描きこまれていて、アクの強い羅漢の表情も良い。象が並んだ表装裂もユニーク。
隣には呉春の師・蕪村のなんだかとても豪華な屏風が。よく見ると一般的な絹本ではなく高価な絖(ぬめ)絹に描かれていて、蕪村のいわゆる屏風講時代の作品だと分かります。絖の屏風に描きたいという蕪村の希望を叶えるため、弟子たちが屏風講を組んで資金を集めたという逸話が残されていて、この作品もいつになく緻密な筆致と鮮やかな色彩で、人物も実に丁寧に描かれています。
今回最も驚いた作品のひとつが筋目描きも見事な若冲の「群鶏図押絵貼屏風」。若冲の群鶏図の屏風はいくつか観ていますが、本作が特徴的なのは各扇の構図が極めて似通っているのと、雌鶏が描かれているものはあるものの雛や蔬菜など余計なものは一切描かれず、ほぼ雄鶏が大きくクローズアップされていること。パターン化されているとはいっても、濃淡使い分けた巧みな筆さばきで鶏のさまざまな姿態を描いていて、見飽きることはありません。家に帰って過去の若冲の展覧会の図録をひっくり返して調べたら、千葉市美の『若冲アナザーワールド』や山種美術館の『ゆかいな若冲・めでたい大観』に出品された個人蔵のものと同じでした。その図録によると左隻第六扇と他の11図では制作された時期が異なるとありました。
来年3/20からは『若冲誕生-葛藤の向こうがわ』という企画展を開催するそうで、どんな若冲作品が出てくるのか、今から楽しみです。
最後に肉筆浮世絵。春章、広重、北斎。特に北斎「墨堤三美人図」がいいですね。着物の表現がとても繊細。
同じ階には桂川沿いの展望室を兼ねた展示スペースがあり、こちらには西洋画が展示されていました。数は多くありませんでしたが、モネやマティス、ローランサンなどが展示されています。2階にはカフェもあって、嵐山の風景を眺めながらゆっくりできるのでこちらもオススメです。
福田美術館のコンセプトが「100年続く美術館」だそうで、これかもコレクションは増えていくんでしょうね。嵐山は混むからこれまで避けてましたがが、今後来る機会が増えそうな気がします。
【開館記念 福美コレクション展】
[Ⅰ期] 2019年10月1日(火)~11月18日(月)
[Ⅱ期] 2019年11月20日(水)~2020年1月13日(月・祝)
福田美術館にて
和樂(わらく) 2019年 10 月号 [雑誌]
嵐山は観光客で混んでるし行きたくないなと思ったのですが、コレクション展のラインナップを観たら、これは行かなくてはいけないだろうなと思い、十数年ぶりに嵐山へ。
嵐山のお土産屋さんが並ぶメインの通りは原宿の竹下通りか鎌倉の小町通りかというぐらい混んでるので、裏道を通っていくのをお薦めします。美術館は嵐山屈指の観光名所、渡月橋のすぐそば。人気のアラビカ京都嵐山に隣接した桂川沿いにあります。超絶いい場所。
これだけの土地、どれだけのお金があれば買えるんだろうとは野暮な話ですが、福田美術館のオーナーは消費者金融大手・アイフルの創業者の方。つまり私設美術館なんですね。「京都という土地に対して、恩返しがしたい」という思いから美術館を設立したといいます。
所蔵点数は約1500点。琳派から円山・四条派、京都画壇など京都に馴染みの深い近世・近代日本画の作品が多くあるようです。で、今回の『福美オールスターズ』と題したコレクション展は、その膨大なコレクションの中から選りすぐりの作品、日本画は75点(2期計)、洋画は7点(展示替えなし)が2期に分けて公開されるわけですが、噂には聞いてましたが、いやーこんなに優品揃いとは思いませんでした。
[写真右] 竹内栖鳳 「金獅図」 明治39年(1906)
[写真左] 竹内栖鳳 「猛虎」 昭和5年(1930)
[写真左] 竹内栖鳳 「猛虎」 昭和5年(1930)
まずは受付。事前にオンラインチケットの購入がオススメです。受付でチケットを購入するより割引になってます。音声ガイドはスマートフォンを持っていれば、無料。作品リストの裏面には音声ガイドに利用方法が書いてあります。イヤホンのレンタルは有料なので、イヤホンは忘れずに持って行きましょう。
2階は明治から昭和初期にかけての近代日本画。展示室内に入ってすぐ目に飛び込んでくるのが竹内栖鳳の獅子と虎。いきなりインパクトのある栖鳳の写実に目が釘付けです。獅子の迫力も凄いけど、正面から虎をリアルに描いた観察力に感服します。
横山大観 菱田春草 「竹林図・波濤図」 明治40年(1910)頃
[写真右] 菱田春草 「梅下白猫」 明治36年(1903)
[写真左] 菱田春草 「春庭」 明治30年代(1897-1906)
[写真左] 菱田春草 「春庭」 明治30年代(1897-1906)
隣には竹林に淡い青を刷き、靄の中にも奥行きを感じさせる大観の「竹林図」と、波が打ちつける荒磯にこちらも青色を効果的に使った「波濤図」。大観らしい雲海に浮かぶ富士の屏風を挟んで、ここにも春草の掛軸が2点。水墨も良いですが、春草の彩色の清新な美しさはまた格別ですね。特に「春庭」の若草の緑から春の陽光へと変わるグラデーションの綺麗なこと。朦朧体に印象的な色彩を用いることにより独自のスタイルを築いた春草らしい逸品です。
木島櫻谷 「遅日」 大正15年(1926)
とても印象的だったのが木島櫻谷の対幅の「遅日(ちじつ)。比較的大きな掛軸で、墨一色なのに非常に繊細にグラデーションをつけることで、モノトーンの独特の色合いが柔らかさと深みを与え、他にない新しい水墨の世界を創り出すことに成功しています。
[写真右] 上村松園 「軽女悲離別図」 明治33年(1900)
[写真左] 上村松園 「長夜」 明治40年(1907)
[写真左] 上村松園 「長夜」 明治40年(1907)
松園が2点。行灯のもと読書に夢中の若い娘と灯芯を上げて明るくしてあげる年上の女性を描いた「長夜」。髪型や着物を描き分けることで二人の女性の年齢や性格を表しています。「軽女悲離別図」は赤穂浪士・大石良雄と愛妾・お軽の別れを描いた一枚。いずれも松園初期の作品で、後年の美人画と異なり、作品に物語性があるのが個人的には好きなところ。
そばには速水御舟の巨大な「山頭翠明」。いわゆる群青中毒にかかっていた頃の作品と思われますが、別にこんなに大きく描く意味なかったでしょ…というところがあって、なんだなかなーという感じ(笑)。
六曲一双の大きな屏風で写真に収まりきらなかったのですが、橋本関雪の「後醍醐帝」が素晴らしかった。右隻に尊氏、左隻に女性の格好(よく見ると髭がある!)をして御所を抜け出す後醍醐帝を描いていて、その緊張感のある構図もさることながら、人物表現の巧さ、馬の丁寧な描きこみ、鎧の精緻な描写など見れば見るほど唸るばかり。長く所在不明だったものが近年発見され、107年ぶりに公開されたのだそうです。
[写真右から] 竹久夢二 「秘薬紫雪」 昭和3年(1928)頃
「切支丹波天連渡来之図」 大正3年(1914)、「待宵」 大正元年(1912)頃、「庭石」 昭和6年(1931)頃
「切支丹波天連渡来之図」 大正3年(1914)、「待宵」 大正元年(1912)頃、「庭石」 昭和6年(1931)頃
近代日本画の最後は竹久夢二の肉筆画がずらり。福田美術館は夢二のコレクションでも国内有数なのだとか。個人的に夢二はそれほど好きではないのですが、こうした掛軸の夢二もなかなか雰囲気があっていいですね。
俵屋宗達 「益田家本 伊勢物語図色紙 第二段 西の京」 江戸時代・17世紀
さて、ひとつ上の階は江戸絵画。いきなり宗達芸術を代表する「伊勢物語図色紙(益田家旧蔵本)」があってビックリ。状態も良く、小さな画面に凝縮された構図のまとまりと金地の濃密な色彩に見惚れてしまいました。
隣には尾形乾山の珍しい歌仙絵「三十六歌仙絵 伊勢」。乾山らしいおおらかで愛嬌のある歌仙絵ですが、十二単が実に丁寧に描かれていて、実はとても繊細な作品でした。その隣には光琳の「十二ヶ月歌意図屏風」も。
深江芦舟 「草花図屏風」(重要文化財) 江戸時代・18世紀前半
琳派では深江芦舟の「草花図屏風」も印象的。芦舟というと「蔦の細道図屏風」が有名ですが、出光美術館で以前見た「四季草花図屏風」が斬新で殊の外素晴らしかったのですが、この「草花図屏風」もどこか幻想的な草花の美しさで、宗達や光琳ともまた違う装飾性が目を引きます。
[写真右] 曽我蕭白 「荘子胡蝶之夢図」 安永年間(1772ー1781)
[写真左] 長沢芦雪 「薬玉図」 天明8年(1788)
[写真左] 長沢芦雪 「薬玉図」 天明8年(1788)
若冲があって、応挙があって、蘆雪があって、蕭白があって、つくづく良い作品を持ってるな〜と感心。蕭白の「荘子胡蝶之夢図」の胡蝶の夢を見てるのか荘子の眠る姿がほのぼのとしてかわいい。
呉春 「三羅漢図」 天明3年(1783)
こちらにも呉春。退色してるのか色が少し薄めでしたが、とても細かに描きこまれていて、アクの強い羅漢の表情も良い。象が並んだ表装裂もユニーク。
隣には呉春の師・蕪村のなんだかとても豪華な屏風が。よく見ると一般的な絹本ではなく高価な絖(ぬめ)絹に描かれていて、蕪村のいわゆる屏風講時代の作品だと分かります。絖の屏風に描きたいという蕪村の希望を叶えるため、弟子たちが屏風講を組んで資金を集めたという逸話が残されていて、この作品もいつになく緻密な筆致と鮮やかな色彩で、人物も実に丁寧に描かれています。
与謝蕪村 「茶筵酒宴図屏風」 明和3年(1766)
伊藤若冲 「群鶏図押絵貼屏風」 寛政9年(1797)
今回最も驚いた作品のひとつが筋目描きも見事な若冲の「群鶏図押絵貼屏風」。若冲の群鶏図の屏風はいくつか観ていますが、本作が特徴的なのは各扇の構図が極めて似通っているのと、雌鶏が描かれているものはあるものの雛や蔬菜など余計なものは一切描かれず、ほぼ雄鶏が大きくクローズアップされていること。パターン化されているとはいっても、濃淡使い分けた巧みな筆さばきで鶏のさまざまな姿態を描いていて、見飽きることはありません。家に帰って過去の若冲の展覧会の図録をひっくり返して調べたら、千葉市美の『若冲アナザーワールド』や山種美術館の『ゆかいな若冲・めでたい大観』に出品された個人蔵のものと同じでした。その図録によると左隻第六扇と他の11図では制作された時期が異なるとありました。
来年3/20からは『若冲誕生-葛藤の向こうがわ』という企画展を開催するそうで、どんな若冲作品が出てくるのか、今から楽しみです。
[写真右から] 勝川春章 「桜下美人図」 安永9年〜天明2年(1780ー1782)
歌川広重 「美人と猫図」 安政4年(1857)、葛飾北斎 「砧美人図」 文化8年〜文政3年(1811ー1820)
歌川広重 「美人と猫図」 安政4年(1857)、葛飾北斎 「砧美人図」 文化8年〜文政3年(1811ー1820)
最後に肉筆浮世絵。春章、広重、北斎。特に北斎「墨堤三美人図」がいいですね。着物の表現がとても繊細。
葛飾北斎 「墨堤三美人図」 文化年間(1804-1818)
同じ階には桂川沿いの展望室を兼ねた展示スペースがあり、こちらには西洋画が展示されていました。数は多くありませんでしたが、モネやマティス、ローランサンなどが展示されています。2階にはカフェもあって、嵐山の風景を眺めながらゆっくりできるのでこちらもオススメです。
福田美術館のコンセプトが「100年続く美術館」だそうで、これかもコレクションは増えていくんでしょうね。嵐山は混むからこれまで避けてましたがが、今後来る機会が増えそうな気がします。
【開館記念 福美コレクション展】
[Ⅰ期] 2019年10月1日(火)~11月18日(月)
[Ⅱ期] 2019年11月20日(水)~2020年1月13日(月・祝)
福田美術館にて
和樂(わらく) 2019年 10 月号 [雑誌]