2018/11/03

フェルメール展

上野の森美術館で開催中の『フェルメール展』を観てきました。

17世紀オランダを代表する画家ヨハネス・フェルメールの35作品中9点(会期中、展示作品には変更あり)が来日すると話題の『フェルメール展』。今年一番のブロックバスター展覧会と言っていいでしょうね。

当然、どれだけの人が押し寄せるのか、ということは軽く想像できるので、今回の展覧会は『若冲展』や『怖い絵展』のような数時間にも及ぶ大行列を避けるため、日時指定入場制を導入したことも注目されています。

入場開始時間にはどうしても入場の待機列はできますが、それでも長時間並んで体調を崩すとか、折角観に行ったのに行列が長くて諦めたなんてことがなくなることを考えれば、日時指定制は正解。上野の森美術館は過去に『進撃の巨人展』で日時指定制を実施しているので、そうしたノウハウもあるのでしょう。欧米に比べて日本は日時指定制の導入が遅れているので、これを機に他館でも日時指定制が広がるといいなと思います。

よく日時指定制の反対意見としてお年寄りには無理という声を聞きましたが、前売り券を持って並んでる人の中には高齢者の方も多く、また値段は前売りに比べると若干高めですが、当日券も用意されているので、あまり心配することはないんじゃないかと実感しました。

さて、わたしも早速、開幕最初の日曜日(10/7)に行ってきました。前売り券を持ってるとはいえ、朝一で入りたかったので開館50分ぐらい前に行き、会場に入ると真っ先“フェルメール・ルーム”へ。人もまばらな空間でしばし8点のフェルメールに囲まれるという至福のひとときを過ごすことができました。


[写真左から] ヨハネス・フェルメール 「マルタとマリアの家のキリスト」
1654-1655年頃 スコットランド・ナショナル・ギャラリー蔵
「ワイングラス」 1661-1662年頃 ベルリン国立美術館蔵

1階の真っ白な通路の先に現れるフェルメール・ブルーの壁で覆われた広い空間が“フェルメール・ルーム”。8点のフェルメール作品が一部屋に集められているという贅沢さ。作品の素晴らしさは言うに及ばず、照度を落とした空間で照明の反射に悩まされることもなく作品に集中できました。

最初に展示されていた「マルタとマリアの家のキリスト」はフェルメール初期の宗教画。小型の作品が多いフェルメールの中ではかなり大きめな作品で、しゃがみ込んでキリストの話を熱心に聞き入るマリアとキリストの間に割って入るマルタの三角形の構図とバロック的な光のコントラストがバランスよくまとまっていて安定感があります。

「ワイングラス」は今回日本初公開の作品の一つ。ワインを飲み干すのをじっと見つめる紳士とワイングラスで顔の見えない女。何かちょっと意味ありげな様子に思えます。フェルメール初期の風俗画ですが、左からの光や壁にかけられた絵画、テーブルや椅子、リュートなどフェルメールならではのモチーフを早くも観ることができます。テーブルクロス(実は絨毯とか)や女性の赤いドレス、窓のステンドグラスなど繊細な描写や質感も素晴らしい。

[写真左から] ヨハネス・フェルメール 「リュートを調弦する女」
1662-1663年頃 メトロポリタン美術館蔵
「真珠の首飾りの女」 1662-1665年頃 ベルリン国立美術館蔵
「手紙を書く女」 1665年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵

「リュートを調弦する女」「真珠の首飾りの女」「手紙を書く女」に共通するのは黄色の服を着た女性。特に「真珠の首飾りの女」と「手紙を書く女」の服は全く同じで、恐らくモデルの女性も同じ人なのでしょう。リボンも色違いですし、耳飾りも同じ感じ。「手紙を書く女」のテーブルの上には真珠の首飾りが置かれていたりします。こうして実際の作品を見比べてみることができるのも今回の展覧会の贅沢ポイントですね。

[写真左から] ヨハネス・フェルメール 「赤い帽子の娘」
1665-1666年頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵
「手紙を書く婦人と召使い」 1670-1671年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー蔵

左手の窓から差す明るい光源、手紙を書く女性、使用人。「手紙を書く婦人と召使い」はフェルメールらしい構図とモチーフでありながら、本来は作品の中心になるはずの手紙を書く女性より後ろの外を見つめる召使いの方が存在感があるのが気になります。意図的なのか、どんな意味が隠れているのか、謎です。

「赤い帽子の影」も初来日の作品。フェルメール作品の中でも最も小さく、ほぼB5サイズ。ソフトフォーカス気味に描かれた赤い帽子をかぶった女性はどことなく少年のようにも見えます。「真珠の耳飾りの少女」を反転させたような構図と、フェルメールにしては珍しい右からの光源が逆にユニークで強く印象に残ります。

“フェルメール・ルーム”の最後は「牛乳を注ぐ女」。11年ぶりの再会です。今回は目の前でゆっくり観られたのと、単眼鏡を持っていたので、細部までじっくり鑑賞することができました。服の生地の質感や抑制の効いた色の加減、硬さまで伝わってくるようなパンや濃度も感じられるような牛乳、籠の細密な描写など、どれも驚くほど繊細で丁寧に描かれていて驚きの連続でした。そして小さな窓から入る光による室内の明暗の微妙な調子。フェルメール作品で最も完成度が高いと言われるのも頷けます。

ヨハネス・フェルメール 「牛乳を注ぐ女」
1658-1660年頃 アムステルダム国立美術館蔵

今回8点のフェルメール作品を観たわけですが、個人的にはこれまで『フェルメール『牛乳を注ぐ女』とオランダ風俗画展」(2007年・国立新美術館)、『フェルメール展 ー光の天才画家とデルフトの巨匠たち』(2008年・東京都美術館)、『ルーヴル美術館展』(2009年・国立西洋美術館)、『フェルメールからのラブレター展』(2011年・Bunkamura ザ・ミュージアム)、『ベルリン国立美術館展』(2012年・国立西洋美術館)、『マウリッツハイス美術館展』(2012年・東京都美術館)、『ルーブル美術館展』(2015年・国立新美術館』)でフェルメールを観ていて、今回初見の「ワイングラス」と「赤い帽子の女」を含めて計16点のフェルメール作品を観たことになります。国立西洋美術館に所蔵されている「聖プラクセディス」(真筆かどうかは異説あり)を含めれば17点。日本にいながらフェルメール作品の半分近くを観ることができたのですから凄いことです。

[写真左から] ハブリエル・メツー 「手紙を書く男」
1664-1666年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー蔵
「手紙を読む女」 1664-1666年頃 アイルランド・ナショナル・ギャラリー蔵

さて、再び2階に戻り、最初から鑑賞。オランダ黄金期の絵画が、肖像画、神話画と宗教画、風景画、静物画、風俗画に分かれて紹介されていて、コンパクトにまとめられているのでオランダ絵画の流れがよく分かります。やはりオランダの風俗画は魅力的で、噂のメツーもなるほど傑作。黄色の服の質感はフェルメールに劣りますが、光沢のある光の表現はフェルメールに優るとも劣りません。メツーの作品はかつてはフェルメールよりも高額だったとか。ダウの「本を読む老女」もいいですね。厚い本を読み耽る老女の表情、その写実性も素晴らしいのですが、本の文字が本当に印刷されたように細かい。今回の展覧会はフェルメール以外の作品も優品が多く、見ごたえがありました。

[写真左から] ヘラルト・ダウ 「本を読む老女」
1631-1632年頃 アムステルダム国立美術館蔵

会場に入ると、作品解説の書かれたミニカタログがいただけて、音声ガイドも無料で借りられます(音声ガイドは借りなくてもOK)。チケットの入場開始時間はどうしても並ぶので、入場時間枠の後半に入るのが良さそうです。


【フェルメール展】
2019年2月3日 (日)まで
上野の森美術館にて


フェルメール会議 (双葉社スーパームック)フェルメール会議 (双葉社スーパームック)

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