2019/08/31

大竹伸朗 ビル景 1978-2019

水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催中の『大竹伸朗 ビル景 1978-2019』を観てきました。

夏休みだし、9連休もあって都内でうろちょろするのも飽きたし、 ちょっと遠くに行こうかな(それでも水戸)と思って、水戸芸術館に行ってきました。それほど積極的に現代美術を観てないので今まで縁がなかった美術館ですが、上野から特急で1時間ちょいなので近いですよね。こんなに近いなら山口晃のときも行けばよかった。

大竹伸朗の個展も久しぶり。現代美術をあまり観ない私がなぜ大竹伸朗かというと、高校から大学にかけてバイトをしていたレコード屋さんのお客さんだったんですね、大竹伸朗さんが(笑)。

わたしと大竹伸朗(すいません、以下敬称略)は同じ中学校の出身で(年齢は一回り違いますが)、アトリエが近くにあったこともあって、ちょくちょくお店に来ては店長と音楽談義をして、レコードのダンボールを持っていかれてました。まだあの頃はほとんど無名だったので、どんな作品を創ってるのかも知らなかったし、ちょうど日比野克彦が話題になってた時で、あんな作品なのかなと思ってたぐらいだったのですが、大竹伸朗がデザインした坂本龍一のCD-BOX(『PLAYING THE ORCHESTRA』)を見たとき、おおーっ凄い人だったんだーっとなったものです。それ以来のファンです。

大竹伸朗 「Catholicism with Pagan」 1986年

大竹伸朗 「Bldg.」 1984年

で、今回の個展(というより、この規模だと展覧会ですが)では、1970年代から現在までの約40年間にわたり、大竹伸朗が描き続けた『ビル景』という絵画シリーズのみを取り上げています。絵画だけでなく一部立体作品もありますが、その他諸々の作品はありません。

その他諸々と言いたくなるぐらい、大竹伸朗はニューペインティングからコラージュ、スクラップブック、廃材の立体彫刻、映像作品、インスタレーションなどまで、さまざまな類の作品を手掛けているわけですが、そんな中で学生時代から現在まで40年もの間、『ビル景』にこだわり描き続けていることを初めて知りましたし、大竹伸朗の長いキャリアの根底で延々と続いているこのエネルギーにちょっと面食らいました。最早ライフワークですね。

大竹伸朗 「東京-プエルトリコ」 1986年
公益財団法人福武財団蔵

大竹伸朗 「ソーホー、ニューヨークⅢ」 1983年

多数の未発表作品から最新作まで、過去に公開された作品も一部ありますが、800点を超えるという作品群の中から、ペインティングやコラージュ、立体作品、ドローイングなどなど、約600点が展示されています。40年の積み重ねと膨大なボリュームにはただただ圧倒されます。

[写真左から] 大竹伸朗 「Bldg.Ⅰ」 1984年
「A House」 1986年 「Night Market」 1983年

大竹伸朗 「Tokyo Ⅵ」「Tokyo Ⅴ」 1984年

大竹伸朗 「黒い池」「円柱のあるビル」 1986年

作品は年代順に並んでいるわけではない(まとまっていたりはする)のですが、古いものは1978年の作品からあって、新しいものだと今年制作された新作もありますし、80年代、90年代、00年代と万遍なく制作活動が続いていることが分かります。作品自体に制作年が書き込まれているものもあって、自分がアルバイトしていた時期と重なる作品を見つけると、あの頃はこんな作品を描いていたのかと思ったりもしました。

大竹伸朗 「緑色竜巻」 1986年

大竹伸朗 「水路街」 1986年

作品リストに大竹伸朗のコメントがあって、絵のモチーフとして「ビルディング」を最初に意識したのは1979年から80年代後半にかけて度々訪れた香港のビルの風景だったと書かれていました。その頃は既に新宿副都心にも高層ビルが建ち並んでいましたが、制作意欲を掻き立てたのは東京ではなく香港の、あの混沌とした摩天楼だったんですね。

大竹伸朗 「鉄棒の突き刺さる小屋」 1985年

大竹らしい廃材を使った作品もありました。ペインティングも割とオーソドックスな油彩画的なものもあればニューペインティングと呼んでいいものもあるし、具象も抽象も、平面も立体も、書きなぐったり引っ掻いたり、切ったり貼ったり、さまざまなビルの景色、さまざまな色彩、いろいろなマチエールがとても楽しい。

大竹伸朗 「Paper Shelter 1」 2019年

大竹伸朗 「時憶/Bldg.」 2019年

こちらは今年(2019年)制作された新作。この大きな箱?は音がする仕掛けになってました。

大竹伸朗 「スクラップブック#53(イスタンブール)より」 1994-95年

これも大竹らしい作品、スクラップブック。「40年続いてることはスクラップブックと『ビル景』しかない」のだそうです。

大竹伸朗 「ビルと飛行機、N.Y. 1」「ビルと飛行機、N.Y. 2」 2001年

大竹伸朗 「Bldg. 青」 2003年

ニューヨークの同時多発テロを描いた作品も。まだ生々しい記憶が覚めやらぬ頃に描かれたんでしょう。なんかとてもダイレクトな表現だったのが印象的でした。

大竹伸朗 「12 Rushmore House 4」 2005-07年

大竹伸朗 「12 Rushmore House 2」 2005-07年

40年もの間の作品が集まっているだけあって、さまざまなタイプ、さまざまなタッチの作品、ラッセル・ミルズとかキーファーとかトゥオンブリーとかベーコンとか影響を受けたと思しき画家を彷彿とさせる作品があったりするのですが、一貫してどれもカッコいい。比較的80年代の作品が好きだったのですが、いやいや全然2000年代の作品もシビれるぐらいかっこいいし、最近の作品もすこぶるカッコいいんですよ。

大竹伸朗 「ビル/赤」 2005-08年 「赤いビル2」 2003-06年

[写真左から] 大竹伸朗 「タンジール/青」 2003年
「モンテビデオ」「路景」 2007年

多様な素材や色彩と混沌としたイメージ。大半が実在の風景の写実ではなく、香港やロンドン、ニューヨーク、東京といった都市の記憶や、意識的・無意識的に断続的に現れる「ビルのある風景」によって描かれた作品だといいます。それは、記憶や時間、空気や湿気、熱波や匂い、ノイズやテロ、さまざまなものを喚起します。

大竹伸朗 「遠景の黒いビル」 2000-03年

大竹伸朗 「バグレイヤー/東京Ⅰ」 2000-01年

大竹伸朗 「Bldg. グレー」 1986年

こうした『ビル景』が40年続いていることが何より驚きなのですが、時に心象風景を具現化するように、時に体の内側から溢れる思いをぶつけるように、時に何かに取り憑かれたように、画面を縦横無尽に走る線や色や形を見てると、大竹にとって『ビル景』とは、旺盛な制作活動の中で何かに立ち返るための基点的な意味もあるんだろうかと感じたりもしました。

大竹伸朗 「暗殺者の準備運動(日常とビルの窓 7)」 2000年

大竹伸朗 「キカイダー好きの青い女(日常とビルの窓 8)」 2000年

「『質感』の異なるモノ同士が混在する出発点、そこから一気にイメージが動き始める。」
子どもの頃から「ナニカにナニカを貼る」のが好きだったということが作品リストに書かれていましたが、それが今も続いているということは凄いなと思います。

大竹伸朗 「放棄地帯」 2019年

大竹伸朗 「白壁のビル1」「白壁のビル2」 2017年

最後に展示されていた「白壁のビル」、これもとても印象に残った作品。壊れたようなビルや建物らしき形、電信柱などが奥行くのある箱庭みたいに立体的に貼り付けられていて、廃墟というより、まるで怪獣に破壊された東京の街みたい。

大竹伸朗 「セル1」 2017年

正直なところ、個人的に大竹伸朗の作品は好きな系統と苦手な系統があるのですが、今回の『ビル景』は抜群に好きというぐらい好きな系統です。もの凄く刺激的だし、なんかとても感動しました。ほんと観に来て良かった。

ちなみに会場は一点だけを除き、すべて写真撮影可能です。


【大竹伸朗 ビル景 1978-2019】
2019年10月6日(日)まで
水戸芸術館・現代美術ギャラリーにて


大竹伸朗 ビル景 1978–2019

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