2018/09/01

春日権現験記絵 -甦った鎌倉絵巻の名品-

三の丸尚蔵館で開催中の『春日権現験記絵 -甦った鎌倉絵巻の名品-』を観てきました。

鎌倉時代の傑作絵巻『春日権現験記絵』の13年に及ぶ修理事業の完成披露記念展。館内は狭いので限りはありますが、全20巻の一部(巻第1・6・10・11・20を除く15巻)を前後期に分けて展観しています。

『春日権現験記絵』は三の丸尚蔵館の所蔵品、つまりは宮内庁=皇室の御物。宮内庁の所有物は慣例として国宝・重要文化財の指定対象外になっていますが、日本の絵巻の最高峰の名品の一つであり、紛れもなく国宝クラスの作品といえます。

これまでもその一部は、昨年開催された『絵巻マニア列伝』『春日大社 千年の至宝』(2015)、『皇室の名宝』(2009)でも公開されたり、東博では特集展示(『春日権現験記絵模本Ⅱ -神々の姿-』)で模本を公開したことがありますが、これだけの場面を観る機会というのはなかなかありません。

『春日権現験記絵』は、藤原氏一門の西園寺公衡が一門のさらなる繁栄を祈願し、春日社へ奉納した絵巻で、春日神(春日権現)の霊験が20巻にわたり描かれています。絵は「玄奘三蔵絵巻」や「石山寺縁起絵巻」(最初の3巻)の作者とされる宮廷絵所預の高階隆兼が手掛け、詞書を前関白鷹司基忠父子4人が担当。20巻全てが一場面も欠けることなく、絵巻の収納箱や外櫃、目録に至るまで、ほぼ完全な形で残っている点も大変貴重です。

「春日権現験記絵 巻第一」(写真は一部)
鎌倉時代・延慶2年(1309)頃 三の丸尚蔵館所蔵

700年以上も前の絵巻なので、もちろん経年の傷みで絵具の剥落が見られる箇所もありますが、精緻な描写、鮮やかな色彩はさすが鎌倉絵巻の傑作というだけあり素晴らしい。丁寧かつ豊かな人物表現、衣服や生活風景などの風俗表現、着物の文様や屋敷内など細かな描写はもちろんですが、草木や山並み、季節の景色などのやまと絵がとても魅力的。永徳ばりの唐獅子や銀泥による半月、画中画として描かれた漢画の襖絵など気になる描写がいくつもあります。

会場には、修理についての説明などもパネルで丁寧に紹介されていて、表紙や見返し、絵巻の軸首の螺鈿装飾など今回の修復で美しさを取り戻した実物を観ることもできます。表紙などの修復には皇后陛下が皇居内で育てられた蚕から採った絹糸が使われたといいます。

「春日権現験記絵 巻第十九」(写真は一部)
鎌倉時代・延慶2年(1309)頃 三の丸尚蔵館所蔵

三の丸尚蔵館の展覧会はいつも見開きの簡単なリーフレットだけですが、今回は図録も販売されていて、全巻全段が掲載されています。絵巻ファン必見の展覧会です。


【春日権現験記絵 -甦った鎌倉絵巻の名品-】
2018年10月21日(日)まで
三の丸尚蔵館にて


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