花の季節に相応しく花を描いた作品を集めた企画展。会場は、春から冬まで4つの章と、《花のユートピア》と《魅惑の華・牡丹》というテーマ展示で構成されていて、琳派から近代日本画、そして現代日本画まで、春夏秋冬、季節折々の花々が目を楽しませてくれます。
まぁいつも思うことですけど、山種美術館の日本画コレクションの充実度のハンパなさといったら、感心するばかりなのですが、四季の花をテーマにした展覧会は何度かやってるし、何度も観てるのだけど、初めてお目にかかるような作品もあるし、毎回趣向を凝らしていて、全く飽きることがないのがスゴイですね。
最初に目に飛び込んでくるのが、小林古径の「菖蒲」。大きな画面に勢いよく伸びた色とりどりの菖蒲。菖蒲のバランスに比べ小さな古伊万里の花瓶。今の季節を感じる爽やかな逸品です。並んで展示されていた古径の「鉢花」は春の作品。これから生けようとしているのか、根元を切り揃えた赤と白のチューリップが気持ちいい。
奥村土牛 「醍醐」
昭和47年(1972) 山種美術館蔵
昭和47年(1972) 山種美術館蔵
奥村土牛は「醍醐」と「木蓮」。「醍醐」は何度も拝見していますが、桜の季節になると観たくなる傑作ですよね。「木蓮」は絵具のにじみが木蓮の色の陰影を作っていて、花のコントラストにより立体的な深みを増しています。
最近話題の渡辺省亭は「桜に雀」が出てます。この前の『日本画の教科書 東京編』に出品されていた「月に千鳥」と同じ三幅対の内の一幅。水墨による山桜のたおやかさも素晴らしいのですが、省亭はやはり“鳥”で、写実的な雀の巧さ。目に表情があります。
《花のユートピア》では、鈴木其一の「四季花鳥図」が目を惹きますが、今回個人的に興味深かったのが山元春挙の「春秋草花」。春挙は円山四条派の流れを引く日本画や水墨の風景画の人とばかり思っていましたが、意外にもモダンな感じの作品で、作家名を二度見してしましました。比較的濃い色の絵具を使い、菜の花は割と厚塗り。春の菜の花とモンシロチョウ、秋のススキと桔梗にスズムシが日本画モダン的な構図に収まってます。
小茂田青樹の「四季草花画巻」も興味深い。平八郎というとモダンな日本画というイメージがありますが、「四季草花画巻」には椿やツツジ、芽張り柳、スミレ、ヤマブキなどが写実的にスケッチされています。花のそばにコマネズミの子が小さく描かれているのも可愛い。
山口蓬春 「梅雨晴」
昭和41年(1966) 山種美術館蔵
昭和41年(1966) 山種美術館蔵
夏の作品に移ると、山口蓬春。「唐壺芍薬」は菱餅のような色合いの大きな花瓶に満開の芍薬。「梅雨晴」は紫陽花の小さな萼ひとつひとつにグラデーションがあり、紫陽花らしい色合いがなんとも美しい。
現代日本画家の牧進の「初夏の頃」も印象的。二曲一隻の屏風に描かれたピンク色のシャクナゲ。バックには竹垣が配され、濃緑の葉とのコントラストもいい。川端龍子に師事したとあり、なるほどと思いました。
日本画の山種美術館には珍しく油彩画もあって、梅原龍三郎、中川一政のバラの絵が並びます。そのとなりの森田沙伊の「薔薇」もてっきり油彩だと思ったのですが、実は油彩ではないらしい。キュビズム風で面白い。梅原龍三郎はゴッホの梅原流解釈ともいえる「向日葵」も。
秋の作品では、酒井抱一の「菊小禽図」と「秋草図」にやはり秋の情緒を感じます。冬の作品では、横山大観の「寒椿」がいい。色の深い金地に白く小さな椿の花。葉はたらし込みで描かれ、奥に仄かに浮かび上がる竹も雰囲気があります。昨年の『江戸絵画の視線』で強い興味を覚えた「竹垣紅白梅椿図」も出ていました。やはりいいですね。
上村松篁と加山又造の扇面散屏風も華やか。松篁の「日本の花・日本の鳥」は二曲一双の金地の屏風に12か所扇形を散らし、そこに季節の花鳥を描くという趣向を凝らした作品。松篁らしい花鳥が金地に映えます。加山又造の「華扇屛風」は変化に富んだ銀箔地に季節の花を描いた扇面を散らした加山ならではの装飾的で華やかな作品。
鈴木其一 「牡丹図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
第2室は牡丹づくし。正面には先日まで加島美術の『蘇る!孤高の神絵師 渡辺省亭』に出品されてた「牡丹に蝶」が展示されています。となりにはこれも見事な其一の「牡丹図」があって、二つの牡丹図が並ぶ様はまるで花の香りにむせかえりそうになるぐらい濃厚。福田平八郎の色とりどりの牡丹や、紅の白粉を刷いたような安田靫彦の牡丹、望月春江の大ぶりの黄牡丹、華の盛りを過ぎても尚も艶やかな小倉遊亀の牡丹など、それぞれに華の競演といった趣きでうっとりします。
酒井抱一 「月梅図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
最近、山種美術館は一部の作品だけ特別に撮影ができるようにしてくれていますが、今回の『花*Flower*華 展』ではなんと酒井抱一の「月梅図」が撮影可能。琳派ファンには嬉しいですね。
※酒井抱一「月梅図」以外の撮影は禁止されています。展示会場内の写真は特別の許可のもと撮影されたものです。
山種美術館のもうひとつのお楽しみといえば、≪Cafe 椿≫。展示作品にちなんだ和菓子がいただけることでも人気ですが、今回から和菓子になってる作品には解説パネルに“和菓子マーク”がつくようになりました。絵を観ながら、これが和菓子になったら、と想像するのも一興かも(笑)。わたしは蓬春の「梅雨晴」にちなんだ「朝つゆ」をいただきました。紫陽花色の錦玉羹の中は白あん。美味しゅうございました。 |
【企画展 花*Flower*華 -琳派から現代へ-】
2017年6月18日(日)まで
山種美術館にて
四季の花 (上巻)
四季の花 (下巻)
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