2016/10/04

動き出す!絵画 ペール北山の夢

東京ステーションミュージアムで開催中の『動き出す!絵画 ペール北山の夢 -モネ、ゴッホ、ピカソらと大正の若き洋画家たち-』を観てまいりました。

まずペール北山って誰?というところから興味を覚えた展覧会なのですが、ペール北山こと北山清太郎は、明治から大正にかけて、美術雑誌を発刊したり、フュウザン会など美術団体の運営に携わり、日本の近代洋画の発展を裏で支えた人なのだとか。その献身的な姿は、ゴッホやセザンヌらを援助したモンマルトルの画材商ペール・タンギーになぞらえ、“ペール北山”と呼ばれるようになったといいます。

本展ではそのペール北山が発刊した美術雑誌で日本に紹介された印象派などの西洋画や、所縁のある明治・大正の青年画家たちの作品を紹介しています。作品はいずれも国内の美術館や個人コレクター等から集められていますが、その作品のセレクションが素晴らしく、明治・大正の美術運動に情熱を燃やした芸術家たちの熱い想いが伝わってくるようです。


1章 動き出す夢 ペール北山と欧州洋画熱

ペール北山の美術専門誌『現代の洋画』など明治時代の美術叢書で取り上げられ、日本の若き芸術家たちが憧れた画家の作品を展観。作品は基本的に印象派とポスト印象派で、ルノワールやドガ、ゴッホ、ピサロ、セザンヌから、ムンクやボナール、ピカソまで。なかなかの優品揃い。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「雪原で薪を集める人びと」
1884(明治17)年 吉野石膏株式会社蔵(山形美術館に寄託)

ゴッホの「雪原で薪を集める人びと」はまだ暗い色調が中心だった初期の作品ですが、一日の仕事を終えた農民の姿が主役とはいえ、雪原の白さと夕陽の鮮やかな赤がとても印象に残ります。「泉による女」もいかにもルノワールな裸婦画。「泉による女」と同じ大原美術館の所蔵のアマン=ジャンの「髪」も印象的でした。こちらは児島虎次郎が大原孫三郎(大原美術館の創設者)に購入してもらった作品の一枚とか。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「泉による女」
1914(大正3)年 大原美術館蔵

会場には実際にゴッホの「雪原で薪を集める人びと」やルノワールの「泉による女」などを紹介した美術雑誌なども展示されています。


2章 動き出す時代 新帰朝者たちの活躍と大正の萌芽

次に国内の洋画家の作品で、先日観た中村屋サロン美術館の『日本近代洋画への道』と同じく、渡欧し西洋絵画の技術を身につけ、最新の西洋美術の表現を日本に紹介していった画家たちの作品を中心に展観。藤島武二や南薫造、津田青楓、中村彝、萬鉄五郎、岸田劉生など、どの作品も新しい美術の流れを生み出そうとする清新の気に溢れています。

斎藤豊作 「秋の色」
明治45年(1912)

日本で白馬会だ外光派だとやってる頃には既に西洋ではポスト印象派の時代になり、フォービスムやキュビズムが出てきているわけで、特に明治後半にヨーロッパに渡った若い画家たちの作品を観ると、早くも黒田清輝らの外光派は過去のものと切り捨て、新しい西洋画を日本に広めようという意気込みを感じます。

マティス風の作品やセザンヌ風の作品、ルノワール風の作品、新印象派風の点描画など、西洋の画家を模範としているものもあれば、すでに自分の画風を確立しているものもあって、バラエティに富んでます。

中村彝 「麦藁帽子の自画像」
明治44年(1911) 株式会社中村屋蔵

中村彝が小さめの作品だけど、肖像画と静物が2点ずつ並んでて、これがとても素敵なんです。特に「帽子を被る少女」の真んまると大きな美しい瞳。渡辺与平の「ネルの着物」の華奢な夫人も良い。ちょっと困ったような何とも言えない表情が印象的です。個人的に特に好きだったのが山脇信徳。ブルーのトーンの冷たさと寂寥感がタイトルにもマッチしていて凄くいい。山脇はもう1作あって、こちらは暖色で秋か冬の夕陽を思わせる暖かな雰囲気。

山脇信徳 「雨の夕」
明治41年(1908) 高知市蔵


3章 動き出す絵画 ペール北山とフュウザン会、生活社

ここではペール北山が事務局を務め、展覧会開催に尽力したというヒュウザン会(のちのフュウザン会)の作品を中心に紹介。フュウザン会とは反アカデミズム的な芸術家の集まりで、近代洋画を観ているとその名をよく聞きます。こうしてまとめて観ると、その拠り所になっていたのがポスト印象派(かつての“後期印象派”)で、ナビ派風な表現主義的な作品もあれば、ムンクを思わせる作品もあり、ゴッホに感化された作品もあれば、マティスやピカソに影響された作品もあって、当時としては前衛的な色合いが強かったんだろうなと感じます。

萬鉄五郎 「雲のある自画像」
明治45~大正2年(1912-13) 岩手県立美術館蔵

萬鉄五郎 「女の顔(ボアの女)」
明治45/大正元年(1912) 岩手県立美術館蔵

フュウザン会の活動自体は1年余りと短いのですが、展覧会に出品した画家や彫刻家には岸田劉生や高村光太郎、木村荘八、斎藤与里、萬鉄五郎、川上凉花などがいて、日本の美術運動の表現主義的な流れの先駆けとして興味深いものがあります。

個人的には作品が複数あった萬鉄五郎や、川上凉花の「あざみ」、木彫家の川上邦世の作品などが印象に残りました。中村彝はルノワールに傾倒していた中村らしい裸婦画も良かったのですが、となりに展示されていた死の前年に描いたという「カルピスの包み紙のある静物」がいい。解説を読むと悲しいんだけど、マティス的な雰囲気もして、中村彝のこういう作品は観たことがなかったのである意味新鮮でした。

斎藤与里 「木陰」
明治45/大正元年(1912) 加須市蔵

フュウザン会の解散のきっかけは斎藤与里と岸田劉生の対立だったわけですが、斎藤と岸田がそれぞれ制作したフュウザン会の展覧会会場の装飾画が対照的なタッチで、二人の方向性の違いがよく出ていてとても面白いと思います。

 
岸田劉生 「日比谷の木立」
明治45/大正元年(1912) 下関市立美術館蔵


4章 動き出した先に 巽画会から草土社へ

ここでは巽画会や草土社の中心メンバーとなる岸田劉生や木村荘八、椿貞雄らの作品を紹介。岸田と木村は前の章でも作品の傾向が近かったので、同じ方向の画家たちで固まってきたというところなのかもしれません。このあたりになると岸田劉生も独自の画風を確立していて、郊外の風景を題材にした作品を描けば、それに触発される画家が現れるなど、美術運動の中でもリーダー格になっていたことが分かります。

岸田劉生 「童女図(麗子立像)」
大正12年(1923) 神奈川県立近代美術館蔵

木村荘八 「壺を持つ女」
大正4年(1915) 愛知県美術館蔵


エピローグ 動き出す絵 北山清太郎と日本アニメーションの誕生

最後にペール北山こと北山清太郎が手掛けたという日本の初期のアニメーション作品を紹介。解説や年表などを見ると北山清太郎は日本のアニメーションの草分けとしてかなりの作品を残しているのですね。会場では北山清太郎のアニメーション作品や現存する日本最古のアニメーション作品という「なまくら刀」などを観ることができます。

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ちょうど同時期に開催されている中村屋サロン美術館で開催してる『日本近代洋画への道展』と併せて観ると、日本の近代洋画の流れも分かり、とても良いと思います。東京国立近代美術館の常設展にも中村彝作品が複数出ていました。


【動き出す!絵画 ペール北山の夢 -モネ、ゴッホ、ピカソらと大正の若き洋画家たち-】
2016年11月6日(日)まで
東京ステーションギャラリーにて


日本初のアニメーション作家 北山清太郎 (ビジュアル文化シリーズ)日本初のアニメーション作家 北山清太郎 (ビジュアル文化シリーズ)

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