新宿駅のすぐそば、新宿通りに面し、2年前に建て替えられた新宿中村屋本店のビルにある小さな美術館。目の前が賑やかな大通りだということを忘れるぐらい、ひっそりと静かな美術館です。
中村屋の創業者・相馬愛蔵が芸術の造詣が深く、若い芸術家を支援し、“サロン”的な役割を果たしていたことから、ビル建て替えにあたり、美術館を開設したといいます。
開館以来、中村屋と所縁の深い芸術家の作品を中心にした展覧会を開いていますが、今回は茨城の笠間日動美術館に収蔵されてるヤンマーの創業者・山岡孫吉のコレクションによる展覧会。点数は29点と多くありませんが、日本の近代洋画の黎明期の良質な作品が揃っています。
第1章 江戸幕末の洋画
ここでは高橋由一と、由一の師で日本人画家に洋画の技法を教えるなど大きな役割を果たしたチャールズ・ワーグマンを紹介。由一は3点あって、油彩による唯一の自画像という「丁髷姿の自画像」はちょっとぎこちなさも残りますが、彼の代表作「鮭図」は板の上に直接油彩で描かれ、板目を活かすことでリアルさが出ています。「鮭図」はいくつかバージョンがあって、一番有名なのは重要文化財に指定された東京藝術大学所蔵のものですが、2012年の『高橋由一展』で個人的に一番感心したのは実はこの板目を活かした「鮭図」だったりしました。
高橋由一 「鮭図」
明治12~13年(1879-80) 笠間日動美術館蔵
明治12~13年(1879-80) 笠間日動美術館蔵
第2章 明治初期留学生と工部美術学校
明治に入ると本格的に西洋画を学ぶためヨーロッパへ留学する者も現れ、ヨーロッパで身につけた絵画技法や見聞した美術動向を帰国後に広め、それが日本の近代洋画発展の大きな礎となります。ここでは明治前期に渡欧した画家の作品を中心に展観。五姓田義松や川村清雄、山本芳翠らの作品が並びます。
山本芳翠_けしと小鳥」
明治25年(1892) 笠間日動美術館蔵
明治25年(1892) 笠間日動美術館蔵
ここでとても興味深かったのが女性画家の作品。五姓田義松の妹で義松から指導を受けたという渡辺幽香の「房州根本海岸」は義松ばりの写実的な光景が見事。女性洋画家の草分けとして有名なラグーザ玉の「保津川の渓流」は絵具を叩きつけるような力強い筆致が印象的です。グイド・レーニの「聖ヒエロニムス」の模写とされる山下りんの「ヤコブ像」もなかなかの腕前。いずれも男性の洋画家に劣らぬ傑作でした。
山下りん 「ヤコブ像」
笠間日動美術館蔵
笠間日動美術館蔵
第3章 明治外光派と浪漫主義
最後は明治後期の日本洋画界を席巻する外光派とその後のロマン主義にスポットを当てています。黒田清輝は父・清兼の未完成の肖像画のみでしたが、久米桂一郎や藤島武二、北蓮蔵といった黒田に近い画家の作品や、黒田に対抗した中村不折や、浪漫主義の青木繁など少ないながらも充実したコレクションが揃っています。 個人的には岡田三郎助の深みのあるリアリズム調の「彫刻師」が強く印象に残りました。
青木繁 「二人の少女」
明治42年(1909) 笠間日動美術館蔵
明治42年(1909) 笠間日動美術館蔵
開館日は19時までやってますし、入館料も300円ととてもリーズナブルなので、新宿にお買物のついでに寄られるのもいいと思いますよ。
【高橋由一から藤島武二まで 日本近代洋画への道 山岡コレクションを中心に】
2016年12月11日(日)まで
中村屋サロン美術館にて
異界の海 ―芳翠・清輝・天心における西洋
0 件のコメント:
コメントを投稿