2013/05/01

大神社展

東京国立博物館で開催中の『国宝 大神社展』に行ってきました。

もっと早くに行きたかったのですが、4月はいろいろと忙しく、休日は歌舞伎に費やしていたので(汗)、ようやくGWになって行くことができました。

神社本庁をはじめ、熊野大社、春日大社など日本全国の神社の全面的な協力を得て、神社の宝物や日本の神々に関する貴重な史料が集められているとあり、非常に楽しみにしていました。

なにしろ、国宝・重要文化財が160件、神像彫刻が約40体、過去最大の神道美術展ということで、気持ちも高ぶります。

最近はパワースポットブームだの、古事記ブームだのもあり、神道に注目が集まっている(気がする)ので、タイミングのいい好企画という感じがします。ただ、昨年同じトーハクで『古事記1300年・出雲大社大遷宮 特別展「出雲―聖地の至宝―」』(残念ながら自分は未見)がありましたので、そのためか出雲大社からの出品は今回はありませんでした。


第1章 古神宝

“神宝”とは、神社の本殿に納められる調度品、装束類、また祭事にまつわる宝物のことで、伊勢神宮の式年遷宮のように「式年造替」が行われる神社では、その際に“神宝”も新たに神前に納め、古い“神宝”は取り下げられます。この取り下げられた神宝を“古神宝”というのだそうです。

展示品は平安時代後期から室町時代の物で、ほぼ全てが国宝と重要文化財。前期(5/6まで)は春日大社と熊野速玉大社の古神宝を、後期(5/8(水)から)は厳島神社、鶴岡八幡宮、熱田神宮の古神宝が展示されます。それぞれの神宝は当時権力を握っていた貴族や武家などからの奉納品で、一見、神社や神道とは無関係そうに思える品々も、その裏にある政治的、文化的背景、また貴族らの信仰という点を考えると非常に興味が湧きます。

「橘蒔絵手箱および内容品」(国宝)
南北朝時代・明徳元年(1390年) 熊野速玉大社蔵(展示は5/6まで)

前期展示の目玉のひとつが「橘蒔絵手箱および内容品」という橘の花や実を螺鈿で装飾した高蒔絵と、中に納めた鏡や櫛、鋏などの化粧道具で、室町時代の贅を極めた逸品です。また、藤原頼長が春日大社に奉納したという弓矢類(前期展示)は蒔絵が施されたり、水晶が使われてたりという贅沢なもので、武具の歴史上から見ても貴重なものだそうです。

神宝は奉納品なので、誰かが日常的に使用したものではありませんから、どれも状態が良く、年代のことを考えると装束類の保存状態の良さには驚きました。


第2章 祀りのはじまり

“古神宝”といっても所詮奉納品ですから、神道的なところを期待してきた人にはちょっと肩すかしかもしれませんが、ここからは神道や古代史に絡んだ宝物類が並びます。

神道のはじまりはそもそも八百万の神への信仰で、それは仏教伝来の遥か以前から日本人の精神の拠り所として存在していて、その畏れ敬う心が“祀り”に繋がっていきます。ここでは、特に山の神と海の神にスポットを当て、奈良の山ノ神遺跡と福岡の沖ノ島祭祀遺跡から発見された様々な遺物や史料を紹介しています。

「方格規矩鏡」(国宝)
古墳時代・4~5世紀 福岡・宗像大社蔵

沖ノ島遺跡は古墳時代に始まる祭祀遺跡で、玄界灘に浮かぶ孤島です。当時既に大陸との交流があり、沖ノ島遺跡から発見された神宝など遺物は約10万点にのぼるともいわれ、そのため海の正倉院と呼ばれているそうです。

定規やコンパスのような文様が独特の「方格規矩鏡」や精巧に作られた織機のミニチュア「金銅製雛機」、また「日本書紀」などが展示されています。


第3章 神社の風景

本章では、神社の景観を鳥瞰図的に表した宮曼荼羅や、参詣曼荼羅、また神社の縁起絵巻など、神道美術を紹介しています。

「日吉曼荼羅図」(重要文化財)
鎌倉時代・14世紀 大和文華館所蔵(展示は5/6まで)

「日吉曼荼羅図(ひえまんだらず)」は比叡山の麓の日吉大社伝来のもので、本地垂迹説の考えにのっとって延暦寺の守る神々を描いた曼荼羅図だそうです。このほかにも、「春日宮曼荼羅」や「富士浅間曼荼羅」(前期展示)などのほか、室町時代の第一級の絵巻という「誉田宗庿縁起絵巻(中巻)」(前期展示)などが出品されています。


第4章 祭りのにぎわい

神前で奉納された能、舞楽などの面や装束のほか、祭礼の様子を今に伝える品々を展示しています。和歌山の鞆淵八幡神社に伝わる12世紀の神輿「沃懸地螺鈿金銅装神輿」(国宝)は当時の祭礼がどれだけ神聖なものだったのかが分かる非常に貴重なものだと思います。

狩野内膳 「豊国祭礼図屏風(左隻)」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 豊国神社蔵(展示は5/8から)

このほか、前期には土佐光茂(伝)の「日吉山王祇園祭礼図屛風」が、後期には狩野内膳の「豊国祭礼図屛風」が展示され、当時の祭礼の賑やかな様子をうかがうことができます。


第5章 伝世の名品

神社に代々伝わる宝物、いわゆる社宝を中心に、祭礼に用いられたもの、奉納されたものなど神社伝来の鏡や調度、刀剣、甲冑、馬具、絵画等を展示しています。

「七支刀」(国宝)
古墳時代・4世紀 石上神宮蔵(展示は5/12まで)

一番の見もの、というより本展最大の見ものが、この「七支刀」でしょう。石上神宮(いそのかみじんぐう)に神宝として伝世した鉄剣で、4世紀に百済王から倭王に贈られたものとされ、『日本書紀』にもその記述があるといいます。教科書や美術書などで見たことがある人も多いのではないでしょうか。左右に六つの枝刃をもつ特異な形状で、両面に61文字の銘文が金象嵌で刻まれています。見れば見るほど何か謎めいていて、とても神秘的です。滅多に公開されることがないのですが、本展では前半(5/12まで)に限って公開されています。この機会を逃すと、もう観られないかもしれない貴重な宝物です。

「海獣葡萄鏡」(国宝)
唐または奈良時代・8世紀 香取神宮蔵

このほか、葡萄唐草文の地文に獅子・蝶・蜻蛉・蜂・雉・鳳凰・麒麟・鹿などが配された白銅製の鏡「海獣葡萄鏡」や、古代にさかのぼる直刀としては最大の「直刀 黒漆平文大刀」(国宝)、また「平家納経(願文・観普賢経)」(国宝・展示は5/6まで)が展示されています。後期には「北野天神縁起絵巻(巻第八)」(国宝)も展示されます。


第6章 神々の姿

最後の章では神像を中心に、神の“姿”を描いた作品を紹介しています。仏像の展覧会はよくありますが、神像をこれだけ観られる機会は初めてではないでしょうか。

「男神坐像・女神坐像・男神坐像」(重要文化財)
平安時代・9世紀 松尾大社蔵

神像は仏像の影響で8世紀から作られ始めたといわれています。松尾大社の神像は現存している神像では最初期にあたるものだとか。男神2躯と女神1躯で、男神は老年像と壮年像ということでした。男神が貴族の装束を着ているのが仏像と異なります。

「女神坐像(八幡三神像のうち)」(国宝)
平安時代・9世紀 東寺蔵

神像の表現は9世紀末には確立し、神像独自の変化を遂げて行ったようです。神像は仏像に比べ、足の部分の奥行きがなかったり、坐像が多いのも特徴みたいです。東寺の「女神坐像」は面部の起伏が単純化されていたり仏像にはない表現をしているとのことですが、言われるほどの違いはよく分かりませんでした。神像の中にはお坊さんのような姿のものや十一面観音のようなもの、またまるで四天王像のようなものもあり、かなり仏像の影響を受けて作られていることがよく分かります。

「春日神鹿御正体」(重要文化財)
南北朝時代・14世紀 細見美術館蔵

「春日神鹿御正体」は鹿をかたどった金銅製の作品。鹿は雲の上に乗り、背には榊を立て、春日社の本地五仏を線刻した鏡像(御正体)を掲げています。神道曼荼羅である春日曼荼羅(鹿曼荼羅)を立体化させたものだそうで、神様にしては鹿がとても可愛らしい表情をしているのが印象的でした。

「吉野御子守神」
南北朝時代・14世紀 個人蔵

最後のコーナーに展示されていたのが、本展のチラシにも使われている「吉野御子守神」。宮廷の装束を着た女神像を代表する作品とありました。もともとは水の神様(みくまり=水配り)で、その名前が変化し、”子守り”の神様になったそうです。

ここまで神道や神社をテーマにした展覧会はこれまでなかったので、個人的に少し期待が大きすぎてしまったのは正直なところです。また肝心の伊勢神宮や出雲大社からの展示がなかったのも少し残念な気もしました。ただ、出品されているものは第一級の貴重な宝物ばかりで、特に神像は基本的に御神体ですから門外不出のものや、これを逃すとまたいつ見られるのか分からないようなものも多くあり、これだけの作品を一度に観られるのは極めて稀だと思います。ぜひお見逃しのないように。


【国宝 大神社展】
2013年6月2日(日)まで
東京国立博物館にて


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