さてさて、3年の工事を経て、ようやく開場を迎えた新生・歌舞伎座の杮落し公演に行って参りました。
4月から6月までは3部制で、今月はとりあえずご祝儀(?)と思い3部全て観て参りました。(しかも全て一等席で!おかげで大大大赤字!!!)
この3年の間に富十郎、芝翫、雀右衛門、勘三郎、そして團十郎と、まるで人柱にでもされたかのように、歌舞伎界の至宝と呼ぶべき役者たちが次々に天に召されてしまいました。特に、新生・歌舞伎座の中心にいたであろう團十朗と勘三郎が亡くなったのは本当に残念なこと。この2人が生きていれば、どれだけ歌舞伎のレパートリーの幅も、観に行く楽しみも広がっていただろうに…。
まぁ、いつまでも嘆いていても何も始まりません。もう前に進むのみ。
備忘録的な個人的感想の羅列で恐縮ですが、まずは第一部から。
幕開けはおめでたく、藤十郎、染五郎、魁春、そして次世代を担う若手御曹司たちによる『壽祝歌舞伎華彩』から。祝祭的な舞踊で、弥が上にも気分は盛り上がります。それにしても藤十郎の若さは何でしょう。動きに老いを全く感じません。いつまでも元気で、素晴らしい芸を見せていただきたいと思います。
二幕目は“十八世勘三郎に捧ぐ”として『お祭り』を。中村座や勘三郎に所縁の面々が賑やかに繰り出します。勘九郎と七之助が勘九郎の息子の七緒八くんを連れて登場するともう割れんばかりの拍手。勘三郎の追悼的な意味合いの、ややもするとしんみりしてしまいそうな演目を、七緒八くんがどれだけ明るく、前向きな気持ちにしてくれたことか。しかも2歳とは思えないしっかりした様子で、少し早いですが、将来の役者としての片鱗を見た思いがしました。
三幕目は『熊谷陣屋』。吉右衛門の熊谷直実に、玉三郎の相模、菊之助の藤の方、そして仁左衛門の義経と豪華な大顔合わせ。舞踊2本が続いたあと、ようやく歌舞伎らしい狂言の登場に、これを待ってたんだよ、と思わずにいられませんでした。
さよなら公演でも吉右衛門で『熊谷陣屋』がかかって、吉右衛門の熊谷に非常に感動したのを覚えています。さよなら公演のときは歌舞伎座が閉場するという気持ちの高ぶりもあったかもしれませんが、今回は前回より気持ちを抑えて少し冷静に見ることができたような気もします。もちろん吉右衛門は素晴らしかったのですが、今回は玉三郎の相模と仁左衛門の義経に感情移入されるところも多かったかもしれません。特に玉三郎はここまでやるかというぐらい感情的というか、生々しい気さえしましたが、その分ストレートに感情に訴えてきました。ただ相模という役としてはちょっとやり過ぎではないかと思うところもなきにしもあらず。
さて、第二部。
まずは菊五郎の弁天小僧による『弁天娘女男白浪』。さよなら公演のときは「浜松屋」と「稲瀬川」のみでしたが、今回は「浜松屋見世先の場」から「滑川土橋の場」まで。メンバーも南郷力丸に左團次、赤星十三郎に時蔵、浜松屋の倅に菊之助と、いつもの菊五郎劇団の面々で、息の合ったところを見せます。團十郎が予定されていた日本駄右衛門は吉右衛門が演じ、貫録を見せつけました。菊五郎は極楽寺の屋根上の立ち回りもあり、大変だったと思いますが、やっぱり菊五郎の弁天小僧はかっこいい。今月の演目の中ではこれが個人的に一番満足度が高かったです。
つづいては玉三郎の『忍夜恋曲者(将門)』。ここ最近、大宅太郎光圀を獅童が務めていましたが、本公演では松緑。痩せたからか動きが軽やかで、もともと舞踊には定評のある方ですから安心して観ることができ、玉三郎の相手役としては申し分なかったと思います。ただ、玉三郎が少し精彩を欠いていたような気がしたのは、観た日が楽前で疲れでも出てたのでしょうか。この日は常磐津が調子外れでかなり残念に思いました。
さてさて、第三部。
まずは『盛綱陣屋』。『熊谷陣屋』ともちろん筋は違うけど“陣屋”つながり、しかも共に首実検があったりして、ときどきこんがらがります(笑)。『熊谷陣屋』では吉右衛門に仁左衛門が付きあい、『盛綱陣屋』では仁左衛門に吉右衛門が付きあうというパターン。團十郎がいなくなると、仁左衛門、吉右衛門、そして菊五郎への負担が予想以上に大きくなるのだなぁと痛感します。大顔合わせというと、もうこの人たちしかいないものね…。仁左衛門の『盛綱陣屋』は個人的には二度目ですが、初めて観たときよりも非常に重いものが伝わってきたのは、仁左衛門の肩にかかる重圧と重なって見えたからかもしれません。
『盛綱陣屋』では女形の三人、東蔵の微妙、時蔵の篝火、芝雀の早瀬がとても良かったのは特筆していいでしょう。東蔵丈の微妙はどうかと思いながら観てましたが、控えめながらも情感豊かで胸に迫るものがありました。そのほか、翫雀の伊吹藤太、橋之助の信楽太郎も舞台に華を添え、また小四郎の金太郎くんと小三郎の大河くんも頼もしい芝居を見せてくれました。
最後は勧進帳。2008年に東大寺奉納大歌舞伎で上演1000回を達成し、本公演の千穐楽の日に1100回を迎えた弁慶・幸四郎の『勧進帳』。富樫を菊五郎が、さらに四天王が染五郎、松緑、勘九郎、そして左團次ということで個人的には今月の演目の中で一番楽しみにしていました。幸四郎が初日からお疲れ気味の様子というツイートをいくつか見たので心配だったのですが、幸四郎の弁慶は自分は初めてだったので、これが公演の疲れによるものか、年齢的なものか、こういう弁慶なのか分からないのですが、義経を守らんとする迫力というか生気があまり感じられなかったような気もしました。
残念でならなかったのが、飛び六方で手拍子が起きたこと。初日のNHKのテレビ中継で手拍子があったので嫌な予感はしたのですが、私が観に行った日もやはり手拍子が起きてしまいました。歌舞伎で手拍子をするという感覚がそもそも理解できないのですが、あの六方にどういう意味があるか、少なくともあのあと弁慶、そして義経がどういう運命を辿るかを考えれば、手拍子などできるはずないと思うのです。手拍子している人は自分の無知をひけらかしているようなもので、杮落し公演ということで歌舞伎にあまり親しんでない人が多いのかもしれませんが、少なくても歌舞伎ファンはそういう見識が疑われるような行動は慎んでほしいと思います。
今月は散在してしまったので、来月以降はちょっとペースを落とすつもりです。。。
z和樂 2013年 06月号 [雑誌]
観にいきたい!はじめての歌舞伎 (学研ムック)
歌舞伎のぐるりノート (ちくま新書)
歌舞伎座誕生 團十郎と菊五郎と稀代の大興行師たち (朝日文庫)
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