久しぶりに新橋演舞場へ。『吉例顔見世大歌舞伎』の夜の部に行ってまいりました。
片岡仁左衛門が2日目から体調不良で休演していて、とても心配していたのですが、自分が行った前日から舞台に復帰され、ほっと安堵しました。とはいえ、仁左衛門さんは歌舞伎界の宝。無理はしないでほしいですね。
さて、まずは『熊谷陣屋』から。
仁左衛門の『熊谷陣屋』は初めてなので、大変楽しみにしていました。今月はこれが目的だったぐらい。だから仁左衛門丈が復活してくれて、ほんと良かった。
『熊谷陣屋』は歌舞伎座さよなら公演で観ていて、あのときの吉右衛門の直実はあの年のナンバーワンといっていいぐらい素晴らしかったので、仁左衛門はどんなものだろうと思っていました。役者が違えば味わいがまた違うのが歌舞伎の楽しみの一つで、仁左衛門がどうの吉右衛門がどうのといった野暮なことは申しませんが、仁左衛門は仁左衛門らしい重厚さと情を感じる実にいい直実でした。恩人・藤の方への忠義を尽くすも我が子を犠牲にしたことを隠し、その責任から出家するという直実の深い思いをハラで演じ、それが一つの連綿とした流れとなり、感動的な結末を迎えました。松緑の代役版より5分押したようで、それだけたっぷりと演じてくれたのでしょう。
魁春の相模、秀太郎の藤の方が仁左衛門をしっかりと支え、非常にまとまっていて良かったと思います。梅玉の義経もまた素晴らしかった。左團次の弥陀六も左團次らしくて良いのですが、これは前に観た富十郎の弥陀六の印象が強く、少し物足らない感がありました。
次は、20分ほどの短い長唄舞踊で『汐汲』。
もう80歳を超えてるのに、全然危なげがない。晩年の芝翫や富十郎の舞踊は動きも少し鈍く、観ていてちょっとビクビクしたけど、藤十郎はまだまだ全然平気です。後半は翫雀との掛け合いがあって、この辺りは新演出だった模様。最後に花道に差し掛かったところで、地震があって、場内が少しどよめきましたが、そのまま難なく終了。
最後は、河竹黙阿弥の芝居で『四千両小判梅葉』。
江戸城の御金蔵から四千両を盗み出す話と聞いて、『鼠小僧』か『石川五右衛門』か、はたまた映画の『黄金の七人』のようなお話かと思ったら、盗み出す場面や捕まる場面もなく、いきさつと結果だけを舞台にしたような話でした。特に第三幕目の「伝馬町西大牢の場」はほとんど江戸時代の牢屋の実録ものという感じで、笑っていいんだかどうしていいんだか、こういう歌舞伎に慣れていないので、ちょっと戸惑いました。
筋書きを見ると、歌舞伎でかかるのは15年ぶり。これはあまりかからないわけだわ、と観ていて思いました。確かに、これは菊五郎劇団だからできる芝居で、途中、富蔵を勘三郎が演じても面白いだろうなと思ったりもしたのですが、第三幕目の「大牢の場」は、変に笑いに走ってしまうと、牢屋のリアリズムやホモソーシャルな暗喩がなくなってしまい、この芝居の良さが台無しになってしまうので難しいだろうなと感じました。
菊五郎は序幕から出ずっぱりで、菊五郎の巧さ、面白さで魅せる芝居でした。富蔵とコンビを組む藤十郎の梅玉はニンじゃないのですが、藤十郎の気弱さが出ていたと思います。「中仙道熊谷土手の場」の同心役の彦三郎がいい役で泣かせます。菊之助はチョイ役だったのが残念。
2012/11/18
美術にぶるっ! 第Ⅰ部 MOMATコレクションスペシャル
東京国立近代美術館で現在開催中の『美術にぶるっ!』の、ブロガー向け夜間特別観覧会が先日(といっても、もう2週間近く前ですが…)ありまして、そちらに参加させていただきました。
当日は仕事の関係で、レクチャーには参加できなかったので、途中から館内の拝観だけさせていただきました。
7月末から東京国立近代美術館はリニューアル工事に入っていて、今回の展覧会はそのリニューアル・オープンの記念展ということです。
リニューアルの様子は、こちらのブログでいろいろと見れます。あのフローリングの床もちゃんとサンダーがけしてたんですね。
http://www.momat.go.jp/momat60/renewal/
それにしても、凄い物量でした。なにしろいつも特別展を行っている1階の会場だけでなく、通常は常設展の2~4階の展示室すべてをこの企画展にあてているのですから!
特別観覧会は2時間あったのですが、到底それだけの時間では鑑賞できません。自分はそんなにじっくり時間をかけて観る方ではないのですが、それでもたぶん一点一点ちゃんと観ていくと、3時間から4時間ぐらいかかるのではないでしょうか。いや、できれば半日ぐらい時間をかけてじっくり観たいレベルです。
本展は2部構成になっていて、第Ⅰ部「MOMATコレクションスペシャル」では、今年創立60周年を迎える東京国立近代美術館の60年間の収集活動の成果を披露、そして第Ⅱ部「実験場 1950s」では、東京国立近代美術館が開館した1950年代にスポットを当て、その時代の実験精神が何であったのかを探っていきます。
4F展示室1 ≪ハイライト≫
まずは、4Fの≪ハイライト≫から。
「たくさんあり過ぎてどれを見ればいいのかわからない!」「短時間で有名な作品だけさっと見たい!」という声に応えて新しく作られたコーナーが、この≪ハイライト≫。国指定の重要文化財は、明治以降の絵画・彫刻に限ると51件あって、そのうちの13点(寄託作品も含む)が東京国立近代美術館に所蔵されているのだそうです。
本展では、萬鉄五郎の「裸体美人」、原田直次郎の「騎龍観音」、菱田春草の「賢首菩薩」、横山大観の「生々流転」など何れも重要文化財の7点が展示されていました。大観の代表作「生々流転」は数年前の『横山大観展』(国立新美術館)では確か全巻展示だったと思うのですが、さすがに40mという長大な絵巻なので、本展では前・後期で巻き替え展示になっています。個人的には、川合玉堂の「行く春」は大好きな作品で、久しぶりにお目にかかれて大変うれしかったです。色彩の美しさ、日本的な情緒感、素晴らしすぎます。
4F展示室2 ≪はじめの一歩≫
≪はじめの一歩≫では、記念すべき開館の年(1952年)に収集したという作品を中心に展示されています。重要文化財の黒田清輝の「舞妓」や土田麦僊の「湯女」、また安井曽太郎の「金蓉」や青木繁の「日本武尊」(展示は11/25まで)など、日本の近代美術を代表する傑作ばかり。中でも、松本俊介の絶筆「建物」は松本の絵にしては抽象画に近い作品で、暗闇に浮かぶ白い聖堂がとても印象的でした。ちなみに≪第Ⅱ部≫には鶴岡政男による「松本俊介の死(死の静物)」という作品がありました。
4F展示室3、4 ≪人を表す≫
≪人を表す≫では、自画像や身近な人、特定の人物を描いた絵画や彫刻を展示しています。日本の近代洋画の代表作、和田三造の「南風」や岸田劉生の「麗子像」シリーズ、村山槐多の代表作「バラと少女」、また彫刻では新海竹太郎の彫刻「ゆあみ」(重要文化財)や高村幸太郎の「手」、萩原守衛の「女」といった傑作が展示されています。
藤田嗣治の作品が2枚並んで展示されていました。藤田のシンボル的な“乳白色の下地”による女性の白く官能的な肌が印象的な「五人の裸婦」と、藤田らしく猫を抱いた「自画像」。3Fに展示されている藤田の作品ともよく比較して観てほしい作品です。
4F展示室5 ≪風景を描く≫
ここでは明治終わりから第二次世界大戦期にかけての「風景画」を紹介しています。解説には、この時期に日本の、山水画ではない、風景画が生まれたとありました。代々木の坂道を描いた岸田劉生の代表作「道路と土手と堀」や長谷川利行、松本俊介、また木村荘八の「墨東奇譚」の挿絵の原画なども展示されていました。その中でも、佐伯祐三の最晩年の作品「ガス灯と広告」には正に“ぶるっ!”ときました。汚れたポスターの色の感じや独特の字体なんて、いま観ても十分かっこいい。
岸田劉生が娘・麗子に宛てた葉書なんていうのもありました。劉生の絵のタッチと全然違うマンガチックな絵が楽しいです。
3F展示室6 ≪前衛の登場≫
“前で守(衛)る”という軍事用語が転じて、これまでの価値観を覆して「新しさ」を獲得しようとする芸術運動を指すようになったという「アヴァンギャルド」。ここでは、日本の初期の前衛芸術家たちの作品を紹介しています。
日本のダダ運動の先駆者、村山知義の作品や古賀春江のシュルレアリスム的な傑作「海」、また今なお高い評価を得ている瑛九のフォト・コラージュ作品などが展示されていました。
3F展示室7、8 ≪戦争の世紀に≫
日本が軍事国家の道を進み、太平洋戦争を迎えるこの時代は美術界にも大きな暗い影を落とします。時局に抵抗し、戦争画を一枚も描かなかった靉光、一方でそれまでの画風とは180度異なるタッチで戦争画を多く残した藤田嗣治。靉光は召集令状を受け赴いた先の中国で敗戦後に戦病死し、藤田は戦後、戦争協力者という批判を浴びフランスへ逃れます。二人の画家の人生を狂わせた戦争という悲劇にさまざまな思いが去来します。
このコーナーにはほかに、北脇昇のシュルレアリスム的な「クォ・ヴァディス」や、戦争画ではありませんが、戦時下のいつもと変わらぬ北京の風景を描いた梅原龍三郎の「北京秋天」や岡本太郎の戦後すぐの作品「夜明け」なども展示されています。
3F展示室9 ≪写真≫
戦争画のコーナーを抜けると、≪写真≫の小さなスペースがありました。ちょっと重い気分の作品を観たあとだからか、どこか戦後の開放的な気分、温かで平和的な空気さえ感じます。いわゆる“植田調”とよばれる植田正治の演出的な写真はスナップ写真というより、絵画にも通じるような物語性があって個人的にも大好きです。
ほかにも森山大道や石元泰博、東松照明といった戦後の写真史を代表する写真家の作品や、牛腸茂雄の代表作「SELF AND OTHERS」などが展示されています。写真は第二部にも多く展示されていました。
3F展示室10 ≪日本画≫
新しくリニューアルされた国立近代美術館では、≪日本画≫の独立したコーナーが設けられるそうで、日本画ファンとしては非常にうれしい限りです。このコーナーでは、重要文化財3作品を含む明治後期から戦後にかけての近代日本画を代表する画家の作品が展示されていました。
入り口には、昨年新たに重要文化財に指定された松園の「母子」がどーんと待ち構えています。並び(上の写真の左から)には、先日山種美術館で展覧会があったばかりの福田平八郎の代表作「雨」や徳岡神泉の「刈田」が展示されていました。その奥に展示されていた、谷中の五重塔の焼け落ちた姿を描いたという横山操の「塔」の圧倒的な存在感は凄かったぁ。
奥に回ると、近代日本画と琳派が融合したような観山の代表作「木の間の秋」、そして川端龍子の傑作「草炎」。今回、個人的にとても観たかった「草炎」を初めて拝見することができました。金蒔絵を屏風にしたかのような黒地に金という非常にシックで、美しく、そして力強く、今観てもカッコいい。まさに“ぶるっ!”です。よく見ると、金泥も微妙に濃淡の違いがあり、非常に繊細な表現がされています。
同じ並びには、清方の代表作「三遊亭円朝像」や加山又造の傑作「春秋波濤」、また速水御舟らの作品が展示されています。わがままを言えば、7月に来たときに展示されていた清方の「明治風俗十二ヶ月」もできればまた観たかったです。
2F展示室11、12 ≪疑うことと信じること≫
2階の展示室は現代美術、前衛美術。1950年代の作品は≪第Ⅱ部≫に展示されているので、こちらは主に1960年代、70年代の作品になります。
展示室に入ると、片方の壁には横尾忠則の作品が、もう片方の壁には草間彌生の作品が並んでいました。今回の展覧会に出展されている作品の画家、彫刻家、アーティストたちは(恐らく)故人の方ばかりですが、その中でも横尾忠則と草間彌生だけがいまだ現役というのは凄いなと思います。草間彌生の制作意欲なんて、衰えることを知らないですからね。すごい。
奥のフロアーには高松次郎や河原温といったコンセプチュアル・アートが展示されています。
2F展示室13 ≪海外作品とMOMAT≫
ここがまた凄い。東京国立近代美術館が所蔵する海外の画家の一堂に集められています。ピカソやクレー、ルソー、デュビュッフェから、スティーグリッツ、オキーフまで。その充実ぶりというか、収集作品の趣味の良さにはあらためて舌を巻きます。個人的にも非常に好きなカテゴリーの作品が多いので、ここは(も)かなりじっくり拝見しました。
もちろん、来春開催される『フランシス・ベーコン展』の宣伝も兼ねて(?)、ベーコンの作品も展示されています。来年の展覧会が今からとても楽しみです。
長かったですが、≪第一部≫はここまで。
さて、次は≪第二部≫へ!
【東京国立近代美術館60周年記念特別展
「美術にぶるっ!ベストセレクション 日本近代美術の100年」】
会期: 2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月・祝)
時間: 10:00~17:00 (※金曜日は午後8時まで開館)
休館: 月曜日、年末年始(12月28日~1月1日)。(※但し12月24日と1月14日は開館)
会場: 東京国立近代美術館 (千代田区北の丸公園3-1)
交通: 東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分
展覧会サイト: http://buru60.jp/
東京国立近代美術館60周年記念サイト: http://www.momat.go.jp/momat60/
日本近代美術史論 (ちくま学芸文庫)
藤田嗣治「異邦人」の生涯 (講談社文庫)
戦没画家 靉光の生涯―ドロでだって絵は描ける
父 岸田劉生 (中公文庫)
植田正治の世界 (コロナ・ブックス)
当日は仕事の関係で、レクチャーには参加できなかったので、途中から館内の拝観だけさせていただきました。
7月末から東京国立近代美術館はリニューアル工事に入っていて、今回の展覧会はそのリニューアル・オープンの記念展ということです。
リニューアルの様子は、こちらのブログでいろいろと見れます。あのフローリングの床もちゃんとサンダーがけしてたんですね。
http://www.momat.go.jp/momat60/renewal/
それにしても、凄い物量でした。なにしろいつも特別展を行っている1階の会場だけでなく、通常は常設展の2~4階の展示室すべてをこの企画展にあてているのですから!
特別観覧会は2時間あったのですが、到底それだけの時間では鑑賞できません。自分はそんなにじっくり時間をかけて観る方ではないのですが、それでもたぶん一点一点ちゃんと観ていくと、3時間から4時間ぐらいかかるのではないでしょうか。いや、できれば半日ぐらい時間をかけてじっくり観たいレベルです。
本展は2部構成になっていて、第Ⅰ部「MOMATコレクションスペシャル」では、今年創立60周年を迎える東京国立近代美術館の60年間の収集活動の成果を披露、そして第Ⅱ部「実験場 1950s」では、東京国立近代美術館が開館した1950年代にスポットを当て、その時代の実験精神が何であったのかを探っていきます。
4F展示室1 ≪ハイライト≫
[写真左] 川合玉堂 「行く春」 (重要文化財) 1916年(大正5年)
まずは、4Fの≪ハイライト≫から。
「たくさんあり過ぎてどれを見ればいいのかわからない!」「短時間で有名な作品だけさっと見たい!」という声に応えて新しく作られたコーナーが、この≪ハイライト≫。国指定の重要文化財は、明治以降の絵画・彫刻に限ると51件あって、そのうちの13点(寄託作品も含む)が東京国立近代美術館に所蔵されているのだそうです。
本展では、萬鉄五郎の「裸体美人」、原田直次郎の「騎龍観音」、菱田春草の「賢首菩薩」、横山大観の「生々流転」など何れも重要文化財の7点が展示されていました。大観の代表作「生々流転」は数年前の『横山大観展』(国立新美術館)では確か全巻展示だったと思うのですが、さすがに40mという長大な絵巻なので、本展では前・後期で巻き替え展示になっています。個人的には、川合玉堂の「行く春」は大好きな作品で、久しぶりにお目にかかれて大変うれしかったです。色彩の美しさ、日本的な情緒感、素晴らしすぎます。
4F展示室2 ≪はじめの一歩≫
[写真左から] 萬鉄五郎 「裸婦(ほお杖の人)」 1926年(大正15年)
安井曽太郎 「金蓉」 1934年(昭和9年)
安井曽太郎 「金蓉」 1934年(昭和9年)
≪はじめの一歩≫では、記念すべき開館の年(1952年)に収集したという作品を中心に展示されています。重要文化財の黒田清輝の「舞妓」や土田麦僊の「湯女」、また安井曽太郎の「金蓉」や青木繁の「日本武尊」(展示は11/25まで)など、日本の近代美術を代表する傑作ばかり。中でも、松本俊介の絶筆「建物」は松本の絵にしては抽象画に近い作品で、暗闇に浮かぶ白い聖堂がとても印象的でした。ちなみに≪第Ⅱ部≫には鶴岡政男による「松本俊介の死(死の静物)」という作品がありました。
4F展示室3、4 ≪人を表す≫
[写真左] 和田三造 「南風」 1907年(明治40年)
≪人を表す≫では、自画像や身近な人、特定の人物を描いた絵画や彫刻を展示しています。日本の近代洋画の代表作、和田三造の「南風」や岸田劉生の「麗子像」シリーズ、村山槐多の代表作「バラと少女」、また彫刻では新海竹太郎の彫刻「ゆあみ」(重要文化財)や高村幸太郎の「手」、萩原守衛の「女」といった傑作が展示されています。
[写真左] 藤田嗣治 「五人の裸婦」 1923年(大正12年)
[写真右] 藤田嗣治 「自画像」 1929年(昭和4年)
[写真右] 藤田嗣治 「自画像」 1929年(昭和4年)
藤田嗣治の作品が2枚並んで展示されていました。藤田のシンボル的な“乳白色の下地”による女性の白く官能的な肌が印象的な「五人の裸婦」と、藤田らしく猫を抱いた「自画像」。3Fに展示されている藤田の作品ともよく比較して観てほしい作品です。
4F展示室5 ≪風景を描く≫
[写真左から] 佐伯祐三 「ガス灯と広告」 1927年(昭和2年)
岸田劉生 「道路と土手と堀」(重要文化財) 1915年(大正4年)
岸田劉生 「道路と土手と堀」(重要文化財) 1915年(大正4年)
ここでは明治終わりから第二次世界大戦期にかけての「風景画」を紹介しています。解説には、この時期に日本の、山水画ではない、風景画が生まれたとありました。代々木の坂道を描いた岸田劉生の代表作「道路と土手と堀」や長谷川利行、松本俊介、また木村荘八の「墨東奇譚」の挿絵の原画なども展示されていました。その中でも、佐伯祐三の最晩年の作品「ガス灯と広告」には正に“ぶるっ!”ときました。汚れたポスターの色の感じや独特の字体なんて、いま観ても十分かっこいい。
岸田劉生が娘・麗子に宛てた葉書なんていうのもありました。劉生の絵のタッチと全然違うマンガチックな絵が楽しいです。
3F展示室6 ≪前衛の登場≫
[写真左] 萬鉄五郎 「もたれて立つ人」 1917年(大正6年)
[写真中] 古賀春江 「海」 1929年(昭和4年)
[写真右] 村山知義 「コンストルクチオン」 1925年(大正14年)
[写真中] 古賀春江 「海」 1929年(昭和4年)
[写真右] 村山知義 「コンストルクチオン」 1925年(大正14年)
“前で守(衛)る”という軍事用語が転じて、これまでの価値観を覆して「新しさ」を獲得しようとする芸術運動を指すようになったという「アヴァンギャルド」。ここでは、日本の初期の前衛芸術家たちの作品を紹介しています。
日本のダダ運動の先駆者、村山知義の作品や古賀春江のシュルレアリスム的な傑作「海」、また今なお高い評価を得ている瑛九のフォト・コラージュ作品などが展示されていました。
[写真左上] 瑛九 「フォト・デッサン その11」 1937年(昭和12年)
[写真左下] 瑛九 「フォト・デッサン その8」 1937年(昭和12年)
[写真右] 瑛九 「夜の子供達」 1951年(昭和26年)
[写真左下] 瑛九 「フォト・デッサン その8」 1937年(昭和12年)
[写真右] 瑛九 「夜の子供達」 1951年(昭和26年)
3F展示室7、8 ≪戦争の世紀に≫
[写真左] 靉光 「眼のある風景」 1938年(昭和13年)
[写真右] 靉光 「自画像」 1944年(昭和19年)
[写真右] 靉光 「自画像」 1944年(昭和19年)
日本が軍事国家の道を進み、太平洋戦争を迎えるこの時代は美術界にも大きな暗い影を落とします。時局に抵抗し、戦争画を一枚も描かなかった靉光、一方でそれまでの画風とは180度異なるタッチで戦争画を多く残した藤田嗣治。靉光は召集令状を受け赴いた先の中国で敗戦後に戦病死し、藤田は戦後、戦争協力者という批判を浴びフランスへ逃れます。二人の画家の人生を狂わせた戦争という悲劇にさまざまな思いが去来します。
[写真左] 藤田嗣治 「サイパン島同胞臣節を全うす」 1945年(昭和20年)
[写真右] 藤田嗣治 「アッツ島玉砕」 1943年(昭和18年)
[写真右] 藤田嗣治 「アッツ島玉砕」 1943年(昭和18年)
このコーナーにはほかに、北脇昇のシュルレアリスム的な「クォ・ヴァディス」や、戦争画ではありませんが、戦時下のいつもと変わらぬ北京の風景を描いた梅原龍三郎の「北京秋天」や岡本太郎の戦後すぐの作品「夜明け」なども展示されています。
3F展示室9 ≪写真≫
戦争画のコーナーを抜けると、≪写真≫の小さなスペースがありました。ちょっと重い気分の作品を観たあとだからか、どこか戦後の開放的な気分、温かで平和的な空気さえ感じます。いわゆる“植田調”とよばれる植田正治の演出的な写真はスナップ写真というより、絵画にも通じるような物語性があって個人的にも大好きです。
[写真左から] 植田正治 「パパとママと子供たち」 1948年(昭和23年)
植田正治 「妻のいる砂丘風景(Ⅱ)」 1950年(昭和25年頃)
植田正治 「妻のいる砂丘風景(Ⅲ)」 1950年(昭和25年頃)
植田正治 「妻のいる砂丘風景(Ⅱ)」 1950年(昭和25年頃)
植田正治 「妻のいる砂丘風景(Ⅲ)」 1950年(昭和25年頃)
ほかにも森山大道や石元泰博、東松照明といった戦後の写真史を代表する写真家の作品や、牛腸茂雄の代表作「SELF AND OTHERS」などが展示されています。写真は第二部にも多く展示されていました。
3F展示室10 ≪日本画≫
新しくリニューアルされた国立近代美術館では、≪日本画≫の独立したコーナーが設けられるそうで、日本画ファンとしては非常にうれしい限りです。このコーナーでは、重要文化財3作品を含む明治後期から戦後にかけての近代日本画を代表する画家の作品が展示されていました。
[写真右] 上村松園 「母子」(重要文化財) 1934年(昭和9年)
入り口には、昨年新たに重要文化財に指定された松園の「母子」がどーんと待ち構えています。並び(上の写真の左から)には、先日山種美術館で展覧会があったばかりの福田平八郎の代表作「雨」や徳岡神泉の「刈田」が展示されていました。その奥に展示されていた、谷中の五重塔の焼け落ちた姿を描いたという横山操の「塔」の圧倒的な存在感は凄かったぁ。
[写真左] 川端龍子 「草炎」 1930年(昭和5年)
[写真右] 下村観山 「木の間の秋」 1907年(明治40年)
[写真右] 下村観山 「木の間の秋」 1907年(明治40年)
奥に回ると、近代日本画と琳派が融合したような観山の代表作「木の間の秋」、そして川端龍子の傑作「草炎」。今回、個人的にとても観たかった「草炎」を初めて拝見することができました。金蒔絵を屏風にしたかのような黒地に金という非常にシックで、美しく、そして力強く、今観てもカッコいい。まさに“ぶるっ!”です。よく見ると、金泥も微妙に濃淡の違いがあり、非常に繊細な表現がされています。
[写真左] 加山又造 「春秋波濤」 1966年(昭和41年)
[写真右] 鏑木清方 「三遊亭円朝像」(重要文化財) 1930年(昭和5年)
[写真右] 鏑木清方 「三遊亭円朝像」(重要文化財) 1930年(昭和5年)
同じ並びには、清方の代表作「三遊亭円朝像」や加山又造の傑作「春秋波濤」、また速水御舟らの作品が展示されています。わがままを言えば、7月に来たときに展示されていた清方の「明治風俗十二ヶ月」もできればまた観たかったです。
2F展示室11、12 ≪疑うことと信じること≫
2階の展示室は現代美術、前衛美術。1950年代の作品は≪第Ⅱ部≫に展示されているので、こちらは主に1960年代、70年代の作品になります。
[写真左] 横尾忠則 「責め場」シリーズ 1969年(昭和44年)
[写真右] 横尾忠則 「風景」シリーズ 1969年(昭和44年)
[写真右] 横尾忠則 「風景」シリーズ 1969年(昭和44年)
展示室に入ると、片方の壁には横尾忠則の作品が、もう片方の壁には草間彌生の作品が並んでいました。今回の展覧会に出展されている作品の画家、彫刻家、アーティストたちは(恐らく)故人の方ばかりですが、その中でも横尾忠則と草間彌生だけがいまだ現役というのは凄いなと思います。草間彌生の制作意欲なんて、衰えることを知らないですからね。すごい。
[写真左] 草間彌生 「冥界への道標」 1976年(昭和51年)
[写真右] 草間彌生 「No. H. Red」 1961年(昭和36年)
[写真右] 草間彌生 「No. H. Red」 1961年(昭和36年)
奥のフロアーには高松次郎や河原温といったコンセプチュアル・アートが展示されています。
2F展示室13 ≪海外作品とMOMAT≫
ここがまた凄い。東京国立近代美術館が所蔵する海外の画家の一堂に集められています。ピカソやクレー、ルソー、デュビュッフェから、スティーグリッツ、オキーフまで。その充実ぶりというか、収集作品の趣味の良さにはあらためて舌を巻きます。個人的にも非常に好きなカテゴリーの作品が多いので、ここは(も)かなりじっくり拝見しました。
[写真左] フランシス・ベーコン 「スフィンクス―ミュリエル・ベルチャーの肖像」 1979年
もちろん、来春開催される『フランシス・ベーコン展』の宣伝も兼ねて(?)、ベーコンの作品も展示されています。来年の展覧会が今からとても楽しみです。
長かったですが、≪第一部≫はここまで。
さて、次は≪第二部≫へ!
※会場内の写真は主催者の許可を得て撮影したものです。
【東京国立近代美術館60周年記念特別展
「美術にぶるっ!ベストセレクション 日本近代美術の100年」】
会期: 2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月・祝)
時間: 10:00~17:00 (※金曜日は午後8時まで開館)
休館: 月曜日、年末年始(12月28日~1月1日)。(※但し12月24日と1月14日は開館)
会場: 東京国立近代美術館 (千代田区北の丸公園3-1)
交通: 東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分
展覧会サイト: http://buru60.jp/
東京国立近代美術館60周年記念サイト: http://www.momat.go.jp/momat60/
日本近代美術史論 (ちくま学芸文庫)
藤田嗣治「異邦人」の生涯 (講談社文庫)
戦没画家 靉光の生涯―ドロでだって絵は描ける
父 岸田劉生 (中公文庫)
植田正治の世界 (コロナ・ブックス)
美術にぶるっ! 第Ⅱ部 実験場 1950s
さて、東京国立近代美術館で現在開催中の『美術にぶるっ!』。つづきまして、第Ⅱ部「実験場 1950s」です。
≪第Ⅰ部≫でもすでに十分お腹いっぱいぐらいに観てきたのに、ここからがまた物凄い物量(映像もいっぱいあるし…)。
今回の展覧会は(いつもと同じですが)一度外に出てしまうと再入場ができないので、一枚のチケットで≪第Ⅰ部≫から≪第Ⅱ部≫まで全部観ようとすると当然続けて観なくてはなりません。ところどころに休めるように椅子などは用意されていますが、全部観ると相当な時間がかかるので、途中退出してどこかで食事や休憩をして、また再入場できるような配慮が欲しかったところです。
さて、第Ⅱ部「実験場 1950s」では、東京国立近代美術館が開館した1950年代にスポットを当て、その時代の実験精神を10のテーマを立てて再考しています。
会場に入ると、薄暗い空間に土門拳らの原爆ドームや原爆の被災者たちの写真が並んでいます。第Ⅱ部は<原爆の刻印>から始まります。
戦後、急激に復興を遂げたとはいえ、まだまだ戦争の生々しい記憶が残っていた1950年代。戦争という影を引きづり、そしてその上に成り立っていた時代なのだなと、思い知らされます。
このコーナーではほかにも、広島と長崎に原爆が落とされた直後に現地に入り、撮影を敢行したものの、GHQによる情報統制により1952年まで日の目を見ることがなかったという幻の記録フィルムも上映されていました。原爆による被害の生々しさに言葉を失います。
<静物としての身体>では、鶴岡政男の油彩画や彫刻、浜田知明の版画などが展示されています。どれも死んだように横たわる身体だったり、人体の断片だったり、疲弊した人の姿だったり、戦争体験による死のイメージなのか、どこか不穏で、ダークな雰囲気があります。このコーナーには、河原温の初期の代表作「浴室」シリーズ全28点も公開されていました。
次のコーナーでは、絵画や写真、文学など同時多発的にまた横断的に沸き起こった“ルポルタージュ”を取り上げています。この辺は戦前の言論統制の反動もあるのでしょうか、記録にとどめる、社会を批判(風刺)する、生活を記録する、ということが運動として盛り上がっていたようです。社会を変革しようとする1950年代の社会運動的な波も、ある意味こうした流れと同じものがあるのだろうなと、一つにつながっていきます。
戦後日本のアイデンティティを求めようというリアリズムの流れと繋がっているのでしょうか、1950年代はナショナリズムが昂揚した時代で、そこから伝統の問い直しが起こり、岡本太郎のようにプリミティヴィズムや、木村伊兵衛などによる風土への着目といった流れがあったようです。
1950年代というと、こういうイメージですよね。近代化、工業化とともに、デザイン的にもモダンなものが溢れた時代。伝統や風土を再評価する流れがある一方で、その伝統から解き放たれる力、工業化・機械化への信奉が同居していたというより、同時に突き進んでいた面白い時代なのだと思います。
最後は≪多層化するリアリティのアプローチ≫として、<コラージュ/モンタージュ>や<方法としてのオブジェ>を取り上げています。岡本太郎や中村宏、また福島秀子や草間彌生などが展示されていました。一見かわいい絵だけど、よく見ると気味の悪い山下菊二の「あけぼの村物語」や足に絵の具をつけて描いたという“超”厚塗りの白髪一雄の「天慧星へん命三郎(水滸伝豪傑の内)」などが印象に残りました。
会場の4ヶ所にこうしたミニ新聞が置かれています。作品鑑賞のお供にどうぞ。
最後に、東京国立近代美術館が総力をあげて取り組んだだけあり、質・量ともに非常にハイレベルの素晴らしい展覧会です。先にも書きましたが、途中退場できないので、体調や体力(食事も含め)、知力を十分に整えて鑑賞したほうがいいと思います。これだけの作品が展示されている展覧会ですから、図録も充実していましたが、出展作品の全ての絵・写真が載ってるわけではないので、ご注意を。
【東京国立近代美術館60周年記念特別展
「美術にぶるっ!ベストセレクション 日本近代美術の100年」】
会期: 2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月・祝)
時間: 10:00~17:00 (※金曜日は午後8時まで開館)
休館: 月曜日、年末年始(12月28日~1月1日)。(※但し12月24日と1月14日は開館)
会場: 東京国立近代美術館 (千代田区北の丸公園3-1)
交通: 東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分
展覧会サイト: http://buru60.jp/
東京国立近代美術館60周年記念サイト: http://www.momat.go.jp/momat60/
美術家たちの証言東京国立近代美術館ニュース『現代の眼』選集
木村伊兵衛の秋田
川崎市岡本太郎美術館所蔵作品集 TARO
≪第Ⅰ部≫でもすでに十分お腹いっぱいぐらいに観てきたのに、ここからがまた物凄い物量(映像もいっぱいあるし…)。
今回の展覧会は(いつもと同じですが)一度外に出てしまうと再入場ができないので、一枚のチケットで≪第Ⅰ部≫から≪第Ⅱ部≫まで全部観ようとすると当然続けて観なくてはなりません。ところどころに休めるように椅子などは用意されていますが、全部観ると相当な時間がかかるので、途中退出してどこかで食事や休憩をして、また再入場できるような配慮が欲しかったところです。
さて、第Ⅱ部「実験場 1950s」では、東京国立近代美術館が開館した1950年代にスポットを当て、その時代の実験精神を10のテーマを立てて再考しています。
会場に入ると、薄暗い空間に土門拳らの原爆ドームや原爆の被災者たちの写真が並んでいます。第Ⅱ部は<原爆の刻印>から始まります。
土門拳 「原爆病院の患者たち」シリーズ
1957年 財団法人土門拳記念館蔵
1957年 財団法人土門拳記念館蔵
戦後、急激に復興を遂げたとはいえ、まだまだ戦争の生々しい記憶が残っていた1950年代。戦争という影を引きづり、そしてその上に成り立っていた時代なのだなと、思い知らされます。
このコーナーではほかにも、広島と長崎に原爆が落とされた直後に現地に入り、撮影を敢行したものの、GHQによる情報統制により1952年まで日の目を見ることがなかったという幻の記録フィルムも上映されていました。原爆による被害の生々しさに言葉を失います。
河原温 「浴室」シリーズ
1953-54年 東京国立近代美術館蔵
1953-54年 東京国立近代美術館蔵
<静物としての身体>では、鶴岡政男の油彩画や彫刻、浜田知明の版画などが展示されています。どれも死んだように横たわる身体だったり、人体の断片だったり、疲弊した人の姿だったり、戦争体験による死のイメージなのか、どこか不穏で、ダークな雰囲気があります。このコーナーには、河原温の初期の代表作「浴室」シリーズ全28点も公開されていました。
『美しい暮らしの手帖』 暮らしの手帖社
1948-60年 東京国立近代美術館蔵
1948-60年 東京国立近代美術館蔵
次のコーナーでは、絵画や写真、文学など同時多発的にまた横断的に沸き起こった“ルポルタージュ”を取り上げています。この辺は戦前の言論統制の反動もあるのでしょうか、記録にとどめる、社会を批判(風刺)する、生活を記録する、ということが運動として盛り上がっていたようです。社会を変革しようとする1950年代の社会運動的な波も、ある意味こうした流れと同じものがあるのだろうなと、一つにつながっていきます。
[写真左奥] 岡本太郎 「赤のイコン」 1961年 川崎市岡本太郎美術館蔵
[写真中奥] 菅井汲 「響」 1958年 姫路市立美術館蔵
[写真右奥] 山口長男 「転」 1961年 東京国立近代美術館蔵
[写真中奥] 菅井汲 「響」 1958年 姫路市立美術館蔵
[写真右奥] 山口長男 「転」 1961年 東京国立近代美術館蔵
戦後日本のアイデンティティを求めようというリアリズムの流れと繋がっているのでしょうか、1950年代はナショナリズムが昂揚した時代で、そこから伝統の問い直しが起こり、岡本太郎のようにプリミティヴィズムや、木村伊兵衛などによる風土への着目といった流れがあったようです。
[写真左] 難波田龍起 「天体の運行」 1956年 東京国立近代美術館蔵
[写真右上] 亀倉雄策 「ニッコールレンズ」「ニコン」
1954-55年 東京国立近代美術館工芸館蔵
[写真右上] 亀倉雄策 「ニッコールレンズ」「ニコン」
1954-55年 東京国立近代美術館工芸館蔵
1950年代というと、こういうイメージですよね。近代化、工業化とともに、デザイン的にもモダンなものが溢れた時代。伝統や風土を再評価する流れがある一方で、その伝統から解き放たれる力、工業化・機械化への信奉が同居していたというより、同時に突き進んでいた面白い時代なのだと思います。
[写真左] 中村宏 「階段にて」 1960年 東京国立近代美術館蔵
[写真中] 中村宏 「革命首都」 1959年 東京現代美術館蔵
[写真右] 中村宏 「基地」 1957年 宮城県美術館蔵
[写真中] 中村宏 「革命首都」 1959年 東京現代美術館蔵
[写真右] 中村宏 「基地」 1957年 宮城県美術館蔵
最後は≪多層化するリアリティのアプローチ≫として、<コラージュ/モンタージュ>や<方法としてのオブジェ>を取り上げています。岡本太郎や中村宏、また福島秀子や草間彌生などが展示されていました。一見かわいい絵だけど、よく見ると気味の悪い山下菊二の「あけぼの村物語」や足に絵の具をつけて描いたという“超”厚塗りの白髪一雄の「天慧星へん命三郎(水滸伝豪傑の内)」などが印象に残りました。
会場の4ヶ所にこうしたミニ新聞が置かれています。作品鑑賞のお供にどうぞ。
最後に、東京国立近代美術館が総力をあげて取り組んだだけあり、質・量ともに非常にハイレベルの素晴らしい展覧会です。先にも書きましたが、途中退場できないので、体調や体力(食事も含め)、知力を十分に整えて鑑賞したほうがいいと思います。これだけの作品が展示されている展覧会ですから、図録も充実していましたが、出展作品の全ての絵・写真が載ってるわけではないので、ご注意を。
※会場内の写真は主催者の許可を得て撮影したものです。
【東京国立近代美術館60周年記念特別展
「美術にぶるっ!ベストセレクション 日本近代美術の100年」】
会期: 2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月・祝)
時間: 10:00~17:00 (※金曜日は午後8時まで開館)
休館: 月曜日、年末年始(12月28日~1月1日)。(※但し12月24日と1月14日は開館)
会場: 東京国立近代美術館 (千代田区北の丸公園3-1)
交通: 東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分
展覧会サイト: http://buru60.jp/
東京国立近代美術館60周年記念サイト: http://www.momat.go.jp/momat60/
美術家たちの証言東京国立近代美術館ニュース『現代の眼』選集
木村伊兵衛の秋田
川崎市岡本太郎美術館所蔵作品集 TARO
2012/11/03
琳派芸術Ⅱ
出光美術館で開催中の『琳派芸術Ⅱ』に行ってきました。
昨年開催された『琳派芸術』が、東日本大震災により途中閉幕となってしまったため、その展覧会の展示テーマや展示構成をリニューアルしたものとなります。
昨年の『琳派芸術』は二部構成で、 ≪第一部≫では俵屋宗達と尾形光琳を中心に、≪第二部≫では酒井抱一と鈴木其一を中心にした構成になっていました。
特に、昨年は酒井抱一の生誕250年ということもあり、琳派作品の優れたコレクションで名高い出光美術館らしい、充実したラインナップになっていましたが、残念ながら震災により会期途中で展示中止に。今回の展覧会は、その『琳派芸術』の≪第二部≫の基本的には焼き直しで、酒井抱一の作品をメインに江戸琳派の作品を特集していますが、新たなアプローチも加えて、あらためて琳派の魅力を紹介したものになっています。
Ⅰ 金と銀の世界
会場を入って右手には、琳派継承の象徴的作品、抱一の「風神雷神図屏風」が展示されています。抱一の「風神雷神図屏風」は光琳の「風神雷神図屏風」を模写したもので、宗達のものは観ていないのは有名な話ですが、自然への畏敬の念が感じられる宗達の風神雷神図に比べて、抱一の風神雷神図は風神と雷神の表情もどこから通俗的で、親しみやすい感じがします。
このほかに、その抱一が模写した光琳の「風神雷神図屏風」に裏絵として描いた「夏秋草図屏風」の下絵「夏秋草図屏風草稿」や、光琳の「八ツ橋図屏風」(メトロポリタン美術館蔵)を模写した「八ツ橋図屏風」、また内裏雛の背後に立てる雛屏風として作られたという8曲1双の贅沢なミニ屏風「四季花鳥図屏風」(裏・波濤図屏風)などが展示されています。
第Ⅰ章は、伝・田中抱二の「秋草図屏風」を除き、展示されている6作品は前回の『琳派芸術』に出展されていた作品で、今回の展覧会では前後期の入れ替えなしで展示されるそうです。
Ⅱ 草花図の伝統
このコーナーでは琳派の代表的な画題である草花図の流れを追います。
まずは出光美術館所蔵の酒井抱一の「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」。何度も観ている作品ですが、抱一の花鳥図はいつ観ても優美で色彩感があり、もしこれを掛け軸にして毎月々々代わる代わる家に飾れたらどんなに素敵だろうと思いながらいつも観ています(笑)。
左側の壁には、「伊年印草花図」と呼ばれる宗達工房の草花図屏風の代表的作例「四季草花図屏風」、工房の三代目・喜多川相説の「四季草花図貼付屏風」、尾形光琳の作と伝えられる「秋草図屏風」などが並び、琳派の草花図の変遷が分かるようになっています。
宗達と光琳の間には約100年の開きがあるわけですが、宗達の100年後にいきなり光琳が現れて琳派を誕生させたなんてことは当然なく、その間には喜多川相説のような絵師がいて、光琳の琳派も生まれたということが、この時系列的な展示を観ていくと非常によく納得できます。
Ⅲ 江戸琳派の先駆者
ここでは、酒井抱一が大成させた江戸琳派の先駆者となる3人の絵師の作品を紹介しています。
先ほどの宗達=光琳の流れと同じく、抱一は光琳のおよそ100年後に登場し、光琳に私淑して琳派を継承していくわけですが、ここでもいきなり抱一が江戸琳派を花開かせたわけではなく、その途中には光琳から抱一へとつながっていく江戸琳派の流れがあったことが、この展示からよく理解できます。
加賀出身の医者と伝えられ、晩年の尾形乾山の弟子となり、江戸琳派風の作画を行った最初期の絵師の立林何帠(かげい)、抱一の『光琳百図』より先に『光琳画譜』として光琳の作品をまとめ、江戸でいち早く光琳風を広めた中村芳中、宗達・光琳に私淑して俵屋を名乗り、洒脱で瀟洒な造形性で江戸琳派の先駆けとなった俵屋宗理。いずれも非常に興味深く、このあたりをもっと観てみたいと思わせる展示でした。
ちなみに、このコーナーは抱一の「燕子花図屏風」を除いて、前回の『琳派芸術』には出展されていない作品で全て構成されています。
Ⅳ 俳諧・機知・闇
抱一は絵師として活動する前から、もともとが書画や俳句を嗜み、また江戸の文化人たちと広く交流をしていて、風流で機知に富んだ作品を多く発表しています。ここでは抱一や弟子の其一の作品を中心に、江戸琳派の特徴のひとつである新奇な画題や、意表をつく趣向を取り入れた作品を紹介しています。
雪の重みに耐えかねて落ちる雪と慌てて飛び出す雀、それに対する梅図の静けさ。其一の「雪中竹梅小禽図」は琳派の展覧会で何度かお目にかかっている作品ですが、其一らしい丁寧な描写と造形性、そして構図の素晴らしさに、いつ観ても感嘆します。
これも昨年、千葉市美術館で開催された『酒井抱一と江戸琳派の全貌』で拝見した作品。色づき始めた紅葉を墨の濃淡で表現した色彩感、何よりほのかな月明かりとたなびく雲から伝わる静謐さ、抱一の卓越した描写力を見事に表した一枚だと思います。
こちらのコーナーも抱一の2作品を除いて、前回の『琳派芸術』には出展されていない作品で構成されています。
Ⅴ 抱一門下の逸材
最後のコーナーは抱一門下の作品ということなのですが、実際には鈴木其一の作品だけで、しかも全作品(前後期あわせて8作品)が前回の『琳派芸術』でも展示済みの作品でした。昨年の『酒井抱一と江戸琳派の全貌』では池田孤邨や田中抱二(本展では2点出展されている)など抱一の弟子たちの優れた作品が多く展示されていて、大変興味深く感じたのですが、其一が抱一の門人の中でもいかに群を抜いて優れていたとはいえ、取り上げるのが其一だけで、しかも前回と同じ作品というのは、いくら何でも芸がないのではないでしょうか。
ここ数年、琳派の展覧会が多く続いてますので、既出感は拭えませんが、いいものは何度観てもいいもので、江戸琳派を中心にまとめ、また宗達・光琳・抱一以外の琳派の流れにも着目したという点で興味深い展覧会でした。
【琳派芸術Ⅱ】
2012年12月16日(日)まで
出光美術館にて
すぐわかる琳派の美術
日本の図像 琳派 (Pie Books)
琳派を愉しむ―細見コレクションの名品を通して
昨年開催された『琳派芸術』が、東日本大震災により途中閉幕となってしまったため、その展覧会の展示テーマや展示構成をリニューアルしたものとなります。
昨年の『琳派芸術』は二部構成で、 ≪第一部≫では俵屋宗達と尾形光琳を中心に、≪第二部≫では酒井抱一と鈴木其一を中心にした構成になっていました。
特に、昨年は酒井抱一の生誕250年ということもあり、琳派作品の優れたコレクションで名高い出光美術館らしい、充実したラインナップになっていましたが、残念ながら震災により会期途中で展示中止に。今回の展覧会は、その『琳派芸術』の≪第二部≫の基本的には焼き直しで、酒井抱一の作品をメインに江戸琳派の作品を特集していますが、新たなアプローチも加えて、あらためて琳派の魅力を紹介したものになっています。
Ⅰ 金と銀の世界
会場を入って右手には、琳派継承の象徴的作品、抱一の「風神雷神図屏風」が展示されています。抱一の「風神雷神図屏風」は光琳の「風神雷神図屏風」を模写したもので、宗達のものは観ていないのは有名な話ですが、自然への畏敬の念が感じられる宗達の風神雷神図に比べて、抱一の風神雷神図は風神と雷神の表情もどこから通俗的で、親しみやすい感じがします。
酒井抱一 「風神雷神図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵
江戸時代 出光美術館蔵
このほかに、その抱一が模写した光琳の「風神雷神図屏風」に裏絵として描いた「夏秋草図屏風」の下絵「夏秋草図屏風草稿」や、光琳の「八ツ橋図屏風」(メトロポリタン美術館蔵)を模写した「八ツ橋図屏風」、また内裏雛の背後に立てる雛屏風として作られたという8曲1双の贅沢なミニ屏風「四季花鳥図屏風」(裏・波濤図屏風)などが展示されています。
酒井抱一 「八ツ橋図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵
江戸時代 出光美術館蔵
第Ⅰ章は、伝・田中抱二の「秋草図屏風」を除き、展示されている6作品は前回の『琳派芸術』に出展されていた作品で、今回の展覧会では前後期の入れ替えなしで展示されるそうです。
Ⅱ 草花図の伝統
このコーナーでは琳派の代表的な画題である草花図の流れを追います。
まずは出光美術館所蔵の酒井抱一の「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」。何度も観ている作品ですが、抱一の花鳥図はいつ観ても優美で色彩感があり、もしこれを掛け軸にして毎月々々代わる代わる家に飾れたらどんなに素敵だろうと思いながらいつも観ています(笑)。
酒井抱一 「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」(左隻)
江戸時代 出光美術館蔵
江戸時代 出光美術館蔵
左側の壁には、「伊年印草花図」と呼ばれる宗達工房の草花図屏風の代表的作例「四季草花図屏風」、工房の三代目・喜多川相説の「四季草花図貼付屏風」、尾形光琳の作と伝えられる「秋草図屏風」などが並び、琳派の草花図の変遷が分かるようになっています。
宗達と光琳の間には約100年の開きがあるわけですが、宗達の100年後にいきなり光琳が現れて琳派を誕生させたなんてことは当然なく、その間には喜多川相説のような絵師がいて、光琳の琳派も生まれたということが、この時系列的な展示を観ていくと非常によく納得できます。
Ⅲ 江戸琳派の先駆者
ここでは、酒井抱一が大成させた江戸琳派の先駆者となる3人の絵師の作品を紹介しています。
先ほどの宗達=光琳の流れと同じく、抱一は光琳のおよそ100年後に登場し、光琳に私淑して琳派を継承していくわけですが、ここでもいきなり抱一が江戸琳派を花開かせたわけではなく、その途中には光琳から抱一へとつながっていく江戸琳派の流れがあったことが、この展示からよく理解できます。
俵屋宗理 「朝顔図」
江戸時代 細見美術館蔵
江戸時代 細見美術館蔵
加賀出身の医者と伝えられ、晩年の尾形乾山の弟子となり、江戸琳派風の作画を行った最初期の絵師の立林何帠(かげい)、抱一の『光琳百図』より先に『光琳画譜』として光琳の作品をまとめ、江戸でいち早く光琳風を広めた中村芳中、宗達・光琳に私淑して俵屋を名乗り、洒脱で瀟洒な造形性で江戸琳派の先駆けとなった俵屋宗理。いずれも非常に興味深く、このあたりをもっと観てみたいと思わせる展示でした。
ちなみに、このコーナーは抱一の「燕子花図屏風」を除いて、前回の『琳派芸術』には出展されていない作品で全て構成されています。
Ⅳ 俳諧・機知・闇
抱一は絵師として活動する前から、もともとが書画や俳句を嗜み、また江戸の文化人たちと広く交流をしていて、風流で機知に富んだ作品を多く発表しています。ここでは抱一や弟子の其一の作品を中心に、江戸琳派の特徴のひとつである新奇な画題や、意表をつく趣向を取り入れた作品を紹介しています。
鈴木其一 「雪中竹梅小禽図」
江戸時代 細見美術館蔵 (11/18まで展示)
江戸時代 細見美術館蔵 (11/18まで展示)
雪の重みに耐えかねて落ちる雪と慌てて飛び出す雀、それに対する梅図の静けさ。其一の「雪中竹梅小禽図」は琳派の展覧会で何度かお目にかかっている作品ですが、其一らしい丁寧な描写と造形性、そして構図の素晴らしさに、いつ観ても感嘆します。
酒井抱一 「月夜楓図」
江戸時代 静岡県立美術館蔵 (11/18まで展示)
江戸時代 静岡県立美術館蔵 (11/18まで展示)
これも昨年、千葉市美術館で開催された『酒井抱一と江戸琳派の全貌』で拝見した作品。色づき始めた紅葉を墨の濃淡で表現した色彩感、何よりほのかな月明かりとたなびく雲から伝わる静謐さ、抱一の卓越した描写力を見事に表した一枚だと思います。
こちらのコーナーも抱一の2作品を除いて、前回の『琳派芸術』には出展されていない作品で構成されています。
Ⅴ 抱一門下の逸材
最後のコーナーは抱一門下の作品ということなのですが、実際には鈴木其一の作品だけで、しかも全作品(前後期あわせて8作品)が前回の『琳派芸術』でも展示済みの作品でした。昨年の『酒井抱一と江戸琳派の全貌』では池田孤邨や田中抱二(本展では2点出展されている)など抱一の弟子たちの優れた作品が多く展示されていて、大変興味深く感じたのですが、其一が抱一の門人の中でもいかに群を抜いて優れていたとはいえ、取り上げるのが其一だけで、しかも前回と同じ作品というのは、いくら何でも芸がないのではないでしょうか。
鈴木其一 「四季花木図屏風」(左隻)
江戸時代 出光美術館蔵
江戸時代 出光美術館蔵
ここ数年、琳派の展覧会が多く続いてますので、既出感は拭えませんが、いいものは何度観てもいいもので、江戸琳派を中心にまとめ、また宗達・光琳・抱一以外の琳派の流れにも着目したという点で興味深い展覧会でした。
【琳派芸術Ⅱ】
2012年12月16日(日)まで
出光美術館にて
すぐわかる琳派の美術
日本の図像 琳派 (Pie Books)
琳派を愉しむ―細見コレクションの名品を通して