≪第Ⅰ部≫でもすでに十分お腹いっぱいぐらいに観てきたのに、ここからがまた物凄い物量(映像もいっぱいあるし…)。
今回の展覧会は(いつもと同じですが)一度外に出てしまうと再入場ができないので、一枚のチケットで≪第Ⅰ部≫から≪第Ⅱ部≫まで全部観ようとすると当然続けて観なくてはなりません。ところどころに休めるように椅子などは用意されていますが、全部観ると相当な時間がかかるので、途中退出してどこかで食事や休憩をして、また再入場できるような配慮が欲しかったところです。
さて、第Ⅱ部「実験場 1950s」では、東京国立近代美術館が開館した1950年代にスポットを当て、その時代の実験精神を10のテーマを立てて再考しています。
会場に入ると、薄暗い空間に土門拳らの原爆ドームや原爆の被災者たちの写真が並んでいます。第Ⅱ部は<原爆の刻印>から始まります。
土門拳 「原爆病院の患者たち」シリーズ
1957年 財団法人土門拳記念館蔵
1957年 財団法人土門拳記念館蔵
戦後、急激に復興を遂げたとはいえ、まだまだ戦争の生々しい記憶が残っていた1950年代。戦争という影を引きづり、そしてその上に成り立っていた時代なのだなと、思い知らされます。
このコーナーではほかにも、広島と長崎に原爆が落とされた直後に現地に入り、撮影を敢行したものの、GHQによる情報統制により1952年まで日の目を見ることがなかったという幻の記録フィルムも上映されていました。原爆による被害の生々しさに言葉を失います。
河原温 「浴室」シリーズ
1953-54年 東京国立近代美術館蔵
1953-54年 東京国立近代美術館蔵
<静物としての身体>では、鶴岡政男の油彩画や彫刻、浜田知明の版画などが展示されています。どれも死んだように横たわる身体だったり、人体の断片だったり、疲弊した人の姿だったり、戦争体験による死のイメージなのか、どこか不穏で、ダークな雰囲気があります。このコーナーには、河原温の初期の代表作「浴室」シリーズ全28点も公開されていました。
『美しい暮らしの手帖』 暮らしの手帖社
1948-60年 東京国立近代美術館蔵
1948-60年 東京国立近代美術館蔵
次のコーナーでは、絵画や写真、文学など同時多発的にまた横断的に沸き起こった“ルポルタージュ”を取り上げています。この辺は戦前の言論統制の反動もあるのでしょうか、記録にとどめる、社会を批判(風刺)する、生活を記録する、ということが運動として盛り上がっていたようです。社会を変革しようとする1950年代の社会運動的な波も、ある意味こうした流れと同じものがあるのだろうなと、一つにつながっていきます。
[写真左奥] 岡本太郎 「赤のイコン」 1961年 川崎市岡本太郎美術館蔵
[写真中奥] 菅井汲 「響」 1958年 姫路市立美術館蔵
[写真右奥] 山口長男 「転」 1961年 東京国立近代美術館蔵
[写真中奥] 菅井汲 「響」 1958年 姫路市立美術館蔵
[写真右奥] 山口長男 「転」 1961年 東京国立近代美術館蔵
戦後日本のアイデンティティを求めようというリアリズムの流れと繋がっているのでしょうか、1950年代はナショナリズムが昂揚した時代で、そこから伝統の問い直しが起こり、岡本太郎のようにプリミティヴィズムや、木村伊兵衛などによる風土への着目といった流れがあったようです。
[写真左] 難波田龍起 「天体の運行」 1956年 東京国立近代美術館蔵
[写真右上] 亀倉雄策 「ニッコールレンズ」「ニコン」
1954-55年 東京国立近代美術館工芸館蔵
[写真右上] 亀倉雄策 「ニッコールレンズ」「ニコン」
1954-55年 東京国立近代美術館工芸館蔵
1950年代というと、こういうイメージですよね。近代化、工業化とともに、デザイン的にもモダンなものが溢れた時代。伝統や風土を再評価する流れがある一方で、その伝統から解き放たれる力、工業化・機械化への信奉が同居していたというより、同時に突き進んでいた面白い時代なのだと思います。
[写真左] 中村宏 「階段にて」 1960年 東京国立近代美術館蔵
[写真中] 中村宏 「革命首都」 1959年 東京現代美術館蔵
[写真右] 中村宏 「基地」 1957年 宮城県美術館蔵
[写真中] 中村宏 「革命首都」 1959年 東京現代美術館蔵
[写真右] 中村宏 「基地」 1957年 宮城県美術館蔵
最後は≪多層化するリアリティのアプローチ≫として、<コラージュ/モンタージュ>や<方法としてのオブジェ>を取り上げています。岡本太郎や中村宏、また福島秀子や草間彌生などが展示されていました。一見かわいい絵だけど、よく見ると気味の悪い山下菊二の「あけぼの村物語」や足に絵の具をつけて描いたという“超”厚塗りの白髪一雄の「天慧星へん命三郎(水滸伝豪傑の内)」などが印象に残りました。
会場の4ヶ所にこうしたミニ新聞が置かれています。作品鑑賞のお供にどうぞ。
最後に、東京国立近代美術館が総力をあげて取り組んだだけあり、質・量ともに非常にハイレベルの素晴らしい展覧会です。先にも書きましたが、途中退場できないので、体調や体力(食事も含め)、知力を十分に整えて鑑賞したほうがいいと思います。これだけの作品が展示されている展覧会ですから、図録も充実していましたが、出展作品の全ての絵・写真が載ってるわけではないので、ご注意を。
※会場内の写真は主催者の許可を得て撮影したものです。
【東京国立近代美術館60周年記念特別展
「美術にぶるっ!ベストセレクション 日本近代美術の100年」】
会期: 2012年10月16日(火)~2013年1月14日(月・祝)
時間: 10:00~17:00 (※金曜日は午後8時まで開館)
休館: 月曜日、年末年始(12月28日~1月1日)。(※但し12月24日と1月14日は開館)
会場: 東京国立近代美術館 (千代田区北の丸公園3-1)
交通: 東京メトロ東西線竹橋駅1b出口徒歩3分
展覧会サイト: http://buru60.jp/
東京国立近代美術館60周年記念サイト: http://www.momat.go.jp/momat60/
美術家たちの証言東京国立近代美術館ニュース『現代の眼』選集
木村伊兵衛の秋田
川崎市岡本太郎美術館所蔵作品集 TARO
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