初めて新派を観てきました。三越劇場で公演中の『香華』です。
三越劇場は20年ぶりなんですが、久しぶりに来ると、その狭さにビックリ。こんな狭いところで芝居をやるのかと、正直ちょっと驚きました。昔はここで歌舞伎もやってたんですよね。
さて、原作はもちろん有吉佐和子の人気小説。実はこの『香華』は新派では初演なんだそうです。有吉佐和子の小説といえば、新劇はもちろん、新派でもいくつも舞台化されているので、再演なのだとばかり思ってましたが、意外でした。それだけに今回の公演は、とても力の入ったものだったのだと思います。
『香華』といえば、舞台では山田五十鈴が“山田五十鈴十種”の一つとして500回以上も演じた当たり役ですが、その郁代を水谷八重子がどう演じるかというのが、観る前からの楽しみでした。自分自身は山田五十鈴の舞台は拝見していませんが、小説を読んだときは、大輪の花・郁代=大女優・山田五十鈴を頭に描きながら読んだものです。
その郁代を水谷八重子は豊かな表現力で、時に楽しく、時にシリアスに思う存分に演じていました。娘・朋子役の波乃久里子は舞台の初っ端は桃割れの半玉なので、見た目どうしても無理がありましたが、水谷八重子はちょっと年増の花魁という役だから思ったほど違和感なく、逆に“年増なのに花魁やってる”という郁代の年を考えない行動が体現されていたと思います。華のある女優さんなのでこういう少々派手な役はピッタリでした。第一幕では、人前で「母」と呼べない遊廓の中で、久しぶりに親子の関係を取り戻せた喜びが話の中心になるのですが、第二幕以降、母の身勝手な行動がだんだんと明らかになってくると、水谷八重子の本領発揮で、時に飛ばしすぎじゃないかと思うほど面白おかしく郁代を演じ、観客を笑いの渦に巻き込んでいました。もちろん山田五十鈴はこうは演じていなかっただろうと想像はできるのですが、水谷八重子のこの郁代もありだなと思いました。
原作は長編小説ですし、映画も3時間半近くある長い作品でしたが、そのあたりはベテランの石井ふく子が演出ということもあり、舞台はかなりコンパクトにうまくまとめられていました。どうでしょう、五十鈴版は分かりませんが、新派版では遊廓や芸妓のいわゆる花柳界があまり表立たず、どちらかというと“母と娘の絆”という家族的というか、庶民的な面が殊のほか強調されていたように思います。そのあたりは、石井ふく子のカラーとか、新派の観客層というのもあるのかもしれません。
朋子の恋人・江崎役の松村雄基は軍人ということもあり、姿かたちも格好よく、それなりに適役だったと思います。本公演で新派初参加という佐藤B作が和歌山時代から郁代を慕ってきた下男の八郎を大変好演していました。新派の役者陣の中にいても全く遜色なく、さすが舞台俳優だけあって巧いなと感心していましたが、病気療養するため舞台を急遽降板するとのこと。本人もさぞ無念だと思いますが、しっかりと病気を治し、また舞台に戻ってきて欲しいと思います。
泣いて笑って、これからたぶん新派の人気作品になるんじゃないかと思う、そんな舞台でした。
【香華】
三越劇場にて
8月22日まで
(以後、地方巡業あり)
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