2018/08/19

モネ それからの100年

横浜美術館で開催中の『モネ それからの100年』展を観てきました。

モネの展覧会かと思いきや、モネの絵画と現代アートを並べ、モネの革新性や今なお影響を与えるモネの魅力を探るというモネ・トリビュートな展覧会でした。

モネの作品25点を中心に、いくつかのテーマに分けて、モネの影響を受けた or モネ作品を引用した現代アーティストたちによる絵画・版画・写真・映像66点を一緒に並べるという構成。ポスト印象派やモネのフォロワーなどはなく、完全に現代アートに絞っているというのが潔いし、そこに面白味を感じます。モネと現代アートの中間というのがスッポリ抜けてるというのはありますが、その分モネと抽象画の関係や、今なお影響を与えるもモネの革新性や魅力が分かりやすい。

出品作はほぼ国内の美術館の所蔵作品や個人蔵の作品(初公開のモネ作品が2点あります)に限られ、よくあるモネの展覧会のように海外からの目玉の作品があるわけではないのですが、十分充実してるし、観ていてワクワクします。企画の勝利ですね。


Ⅰ 新しい絵画へ -立ちあがる色彩と筆触

会場の入口にはモネの「睡蓮」(群馬県立近代美術館蔵)。観に行ったのが、よりにもよって日曜日の午後という一番混雑する時間だったこともあり、大勢の人が囲むようにして見入っていました。掴みはOK。

クロード・モネ 「モンソー公園」
1876年 泉屋博古館分館蔵

最初はモネの主に前期の作品が並んでいて、モネ絵画の特徴である筆触分割のことなどが解説されています。赤い花をつけたマロニエの木が美しい「モンソー公園」は第2回印象派展の年の作品とか。近くで観ると点々と色を置き並べているだけですが、離れて観るとことで明るい色彩が得られます。「海辺の船」も黄色や緑、赤、青、白などさまざまな色を配列することで、海岸の砂の輝くような印象を与えています。その隣りにはフランスの現代美術家ルイ・カーヌ。カラフルな色を点々と配色していて、現代アートにはありがちな作品ですが、モネと一緒に並べられると、なるほどモネから生まれた概念なのかと繋がります。

ウィレム・デ・クーニング 「風景の中の女」
1966年 東京国立近代美術館蔵

ここではウィレム・デ・クーニングやジョアン・ミッチェル、堂本尚郎、中西夏之など、いわれてみればモネの筆触分割や色彩感覚を思わせるような現代アートも展示されています。アクション・ペインティングやアンフォルメルといった括りで見がちなデ・クーニングや堂本尚郎らの作品とモネを関連づけたことがなかったものですから、個人的にはとても新鮮で、でも確かに考えてみれば行き着くところはモネだよなと感じながら観ていました。中西夏之の「G/Z 夏至・橋の上」なんかも、それだけで観てたら気づかなかったかもしれませんが、「なるほどモネだよ、モネ」となるのが面白いですね。


Ⅱ 形なきものへの眼差し -光、大気、水

光、大気、水をテーマにしたコーナーではモネの作品は景色が霧に包まれるように、対象が曖昧になり、色彩がさらに渾然一体となっていきます。

クロード・モネ 「ジヴェルニー近くのリメツの草原」
1888年 吉野石膏美術振興財団蔵

クロード・モネ 「霧の中の太陽」
1904年 個人蔵

モネが晩年を過ごすジヴェルニーを描いた「ジヴェルニー近くのリメツの草原」は「草原」と言われないと分からないぐらい具象性が失われていますが、「草原」と知ると明るい陽光に照らされパステルカラーの草原が風に揺れるように見えます。 「霧の中の太陽」は霧に包まれたロンドンのテムズ河を描いた作品。構図的にモネの代表作「印象・日の出」を彷彿とさせますが、筆触分割はさらに次の段階に移った感があります。

ゲルハルト・リヒター 「アブストラクト・ペインティング(CR845-8)」
1997年 金沢21世紀美術館蔵

モネ目当てで来ているお客さんも相当数いるようで(たぶんほとんど?)、モネの作品の前では何重にも人垣ができているのに、ロスコやリヒターといった現代アートの巨匠の作品の前ではほぼ素通りで、独占状態で観られるというなかなか興味深い現象も。モネの隣に展示されていた現代アートをしばらく観たあとで「あっ、これモネじゃないのね」と気づいて、さーっと立ち去る人とか、人間観察も面白い展覧会でした。


Ⅲ モネへのオマージュ -さまざまな「引用」のかたち

モネの代表作のひとつ「積みわら」をドットで表し、原色や白、黒といった色でパターン化したリキテンスタインの「積みわら」や誰が見てもモネのオマージュだと分かる「日本の橋のある睡蓮」など。リキテンスタイン、こういう作品も描いていたのかという意外な驚き(ただ単に私が知らなかっただけですが)。

ロイ・リキテンスタイン 「日本の橋のある睡蓮」
1992年 国立国際美術館蔵

日本の現代アーティストの作品もいくつかあったのですが、印象的だったのが児玉麻緒の「IKEMONET」と「SUIREN」。太い輪郭線とペインティングナイフの硬質な面で表した睡蓮が面白い。


Ⅳ フレームを超えて -拡張するイメージと空間

丸く壁で囲んだ空間にモネの睡蓮の絵が並んでいて、さながらオランジュリー美術館の「睡蓮の間」といった趣き。壁の半分側には鈴木理策の「水鏡」シリーズが展示されています。モネの印象派の明るい色彩の睡蓮と、鈴木理策の明るく透明感のある睡蓮との対比が楽しい。

クロード・モネ 「睡蓮」
1906年 吉野石膏株式会社蔵

モネは生涯、200点もの睡蓮を描いたといいます。最晩年は白内障の影響で、かつてのような色彩や睡蓮の形は見られなくなりますが、それでも亡くなる前年の作品「バラの小道の家」を観ていると、モネは最後まで光と色彩の表現を追い求めていたんだなということを感じることができます。

最後は、サム・フランシスやウォーホルをはじめ、日本の現代アーティストたちの作品のコーナー。都会の景色を望む高層ビルのレストランを睡蓮の池に見立てた福田美蘭の「睡蓮の池」がとてもいいなと思いました。

鈴木理策 「水鏡 14, WM-77」
2014年 作家蔵


【モネ それからの100年】
2018年9月24日まで
横浜美術館にて


もっと知りたいモネ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたいモネ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)


印象派で「近代」を読む 光のモネから、ゴッホの闇へ (NHK出版新書)印象派で「近代」を読む 光のモネから、ゴッホの闇へ (NHK出版新書)

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