世田谷パブリックシアターで『杉本文楽 女殺油地獄』を観てきました。
前回の『杉本文楽 曾根崎心中』から3年。ふたたび近松、しかも『女殺油地獄』に挑戦ということで、期待を抱かずにいられません。
杉本文楽版『女殺油地獄』は、下之巻「豊島屋油店の段」を前と奥に分け、「前」を素浄瑠璃、「奥」を人形浄瑠璃という構成。今回は一人遣いではありませんでしたが、『曾根崎心中』同様に手摺りはありませんでした。
冒頭、人間国宝・鶴澤清治が新たに作曲したという「序曲」を自ら三味線で聴かせ、つづいてあらかじめ録音された杉本博司の声で近松門左衛門の口上人形がご挨拶という仕掛け。公演回数が多いわけでないので、録音でなく生で話しても良かったんじゃないかと思いましたが、そこはプロの語り手でないので、しょうがないのかもしれません。
素浄瑠璃は義太夫を竹本千歳太夫、三味線を鶴澤藤蔵という組み合わせ。ところが千歳太夫の声の調子が最悪。公演初日から声の調子が悪いと漏れ聞こえていましたが、最後まで戻らなかったようです。
最後の「奥」は義太夫を豊竹呂勢太夫 豊竹靖太夫、人形遣いを吉田幸助、吉田一輔、吉田玉勢といった若手が勤めていました。
豊島屋の「前」を素浄瑠璃にしたのは面白いと思いましたが、義太夫の千歳太夫の声の調子が悪く、素浄瑠璃の迫力が十分活かされなかったのが残念。また演出方法を「前」と「奥」でがらりと分けたことで、「前」の臨場感の連続性が途切れ、奥がいまひとつ盛り上がらず、緊張感に欠けたものになってしまったように思います。
前回の『曾根崎心中』は目の肥えた文楽ファンから賛否両論あったとはいえ、文楽の固定概念を壊す演出に見るべきものはありましたが、
今回はそれもなかった。ただ杉本博司の遊びに付き合えるかどうか。近松を観る・聴くというより、杉本のインスタレーションを観る感覚に近いように感じました。
今回の『女殺油地獄』では、前回以上に通常の文楽公演では見ない観客層が多かった気もします。一般の文楽ファンは前回の『曾根崎心中』で早くも離れて行ってしまったのかもしれません。恐らく文楽を初めて観る人も多かったでしょうし、そもそも初心者に素浄瑠璃はハードルが高すぎたんじゃないでしょうか。あれじゃ初めて文楽を観る人が気の毒だと思いました。
叶うものなら、仁左衛門の与兵衛で『女殺油地獄』をまた観たいなと思いながら三軒茶屋をあとにしたのでした。
能・狂言/説経節/曾根崎心中/女殺油地獄/菅原伝授手習鑑/義経千本桜/仮名手本忠臣蔵 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集10)
週刊誌記者 近松門左衛門 最新現代語訳で読む「曽根崎心中」「女殺油地獄」 (文春新書)
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