2017/06/04

大英自然史博物館展

国立科学博物館で開催中の『大英自然史博物館展』を観てまいりました。

イギリスの大英自然史博物館といえば、質・量ともに世界屈指の博物学標本を誇る博物館。本展はその厳選されたコレクションの世界巡回展で、日本が最初の巡回先なんだそうです。しかも、こんなもの何年も巡回してしまっていいの!?というような歴史に名を残す貴重な品々ばかり。さすが大英博物館、恐るべしという感じでした。

実は一度GWに行ったのですが、入場者の多さに整理券制になっていて、ちょっと時間の関係でパスしたものですから、再訪問してきました。

夜間開館は整理券もなくスムーズに入れましたが、会場内はそこそこの混み具合。国立科学博物館は親子連れも多いですが、さすがに夜は大人ばかり。自然史というと男性好みなのかなと思ってたのですが、半分以上は女性でした。標本とか化石とか隕石とか、子どもの頃に夢中になった展示品の数々にみなさん童心の返って覗き込んでいました。


展覧会の構成は以下の通りです:
序章 自然界の至宝~博物館への招待~
1章 大英自然史博物館の設立
2章 自然史博物館を貫く精神
3章 探検がもたらした至宝
4章 身の回りにも存在する至宝
5章 今日の社会のための博物館

「ブラシュカ(父子)によるガラス模型」

「古代エジプトの猫のミイラ」 2000年以上前

絶滅した動物の剥製とか化石とか、稀少な植物や貝の標本とか、隕石なら分かるんですが、生きた状態の色彩を再現したというマダコのガラス模型とか、集団交尾して窒息死した三葉虫とか、2000年前の猫のミイラとか、ダーウィンのペットのゾウガメとか、微化石のクリスマスカードとか、意表をつく展示品がいっぱいあって楽しすぎます。

「三葉虫」 カンブリア紀後期、約4億8700万年前

「『ダドリーイナゴ』と呼ばれたブローチ」 シルル紀後期、約4億3000万年前

たとえば通称“ダドリーイナゴ”と呼ばれる三葉虫のブローチなんて、ちょっと笑ってしまいそうでした。聞くところによると、19世紀中頃のイギリスでは三葉虫はコレクターの間で宝飾品として人気があったのだそうです。マニアっていつの時代も理解不能なことを考えますよね。

「呪われたアメジスト」

所有する人が次々に不幸に見舞われたという“いわくつき”の「呪われたアメジスト」。「デリーの紫サファイア」とも呼ばれ、19世紀にインドから持ち出されたものだといいます。この宝石の最後の所有者が運河に投げ捨てたにもかかわらず、何故か彼のもとに戻って来たのだとか。そんな逸話のある宝石をこうしてまじまじと眺められるのも展覧会だからこそ。

「ガラスケースのハチドリ」

「ガラスケースのハチドリ」は南米のハチドリの剥製が再現展示されたもので、大英自然史博物館の開館当時の目玉展示だったのだそうです。ガラスケースの中には7種35羽のハチドリがいて、今は色褪せた感じがしますが、当時は鮮やかだったんでしょうね。インターネットを検索すれば簡単に動画が見られたり、それこそ秘境にだって行けてしまう今と違って、遠い異国の美しい鳥は多くの人の興味を惹いたんだろうなと思います。

「クリフォードの植物標本集」

「モア全身骨格」 完新世、約500年前

もちろんただ標本や化石などを展示するのではなく、しっかりと自然史の歴史も追っていて、どういう経緯があってこれらの品々が収集されたのか背景もよく分かります。歴史的に貴重な展示品を直に見られるのですから、図鑑の中に入り込んだような気分になります。

「始祖鳥」 ジュラ紀後期、1億4700万年前
(写真左:裏、写真右:表)

そして、本展の目玉の「始祖鳥」。これまで10個ほどの骨格化石が発見されている始祖鳥の中でも、最も有名な「ロンドン標本」と呼ばれる貴重な標本で、海外で公開されるのは今回が初めてだといいます。こんなスゴイもの持ってきてしまっていいんだろうかと思ったら、案の定ロンドンでは反対の声も上がっていたようですね。

「ロンドン標本」は表側と反対側と2枚に分かれていて、2つが並んで展示されています。特に表側の標本は始祖鳥の特徴である鋭いカギ爪や尾の骨がはっきりと分かります。そばにパネルで始祖鳥の研究史が解説されていましたが、始祖鳥は果たして飛べたのか飛べなかったのか、鳥類か恐竜なのか、その答えはまだ出ていないとありました。

会場のところどころで流れている始祖鳥や絶滅した動物などの復元CG映像も見どころ。ナイトミュージアム風な演出についつい見入ってしまいます。

「ダーウィンのペットだった若いガラパゴスゾウガメ」

「微化石のクリスマス・カード」

“チャレンジャー号”による採集品の展示風景

『バンクス植物図譜』で知られるジョセフ・バンクスが世界各地から持ち帰ったコレクションや植物のスケッチや、チャレンジャー号による深海調査の採集品、南極で遭難したスコット隊が残した標本、ロスチャイルド卿の収集品など、こんなものまで展示されているのか!というぐらいのものが沢山あります。

「ニホンアシカ」

「輝安鉱」

日本に関するものもあって、日本では絶滅したとされる「ニホンアシカ」の剥製や貴重な「輝安鉱」なら分かるんですが、昭和天皇が採集した粘菌とか、日本に落ちた隕石とか、タカアシガニや松ぼっくりまで、なんでイギリスにあるの?というものもあったりします。

「ドードーの模型」

「オオナマケモノ」 更新世、約1万2000年前

「モア」や「ニホンアシカ」だけでなく、絶滅した動物の剥製や標本は多くて、「ドードー」の復元模型や、「バーバリーライオン」や「サーベルタイガー」の骨格標本なども展示されています。1万年以上前に絶滅した「オオナマケモノ」や「サーベルタイガー」はまだしも、ここ数百年の間に絶滅した「ドードー」や「バーバリーライオン」、「タスマニアンタイガー」などはほぼ100%人間が絶滅に追いやったわけで、当時は罪の意識がなかったかもしれませんが、わたしたち人類の過去の行為を標本とともに思い返すと複雑な気持ちにもなります。

「オオツノジカ頭骨」 更新世後期、約1万3000年前

会場の最後には、近代科学史上最大の捏造といわれる「ピルトダウン人」の頭骨が展示されています。類人猿と人類と繋ぐ貴重な化石とされるも、約40年後に偽造と発覚。実際はオラウータンの骨で、重クロム酸カリウムで古く見えるように着色していたのだとか。現代は科学分析も発達してるので、こうした捏造もすぐにバレるでしょうが。絶滅した動物やピルトダウン人の展示は未来への教訓として本展の締めくくりに相応しい展示だという気がしました。

「ピルトダウン人」の頭骨片と頭骨復元の展示

ずっと理系の授業を避けて生きてきたような文系人間のわたしにとっては、ちょっと難しいところがあるのかなと思ってたんですが、全然そんなことなくて、子どもの頃に夢中で読んだ図鑑や冒険譚、七不思議的な物語なんかを思い出させてくれるような、とても楽しい展覧会でした。


【大英自然史博物館展】
2017年6月11日(日)まで
国立科学博物館にて


大英自然史博物館の《至宝》250大英自然史博物館の《至宝》250

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