東京都写真美術館で開催中の『杉本博司 ロスト・ヒューマン』に観てまいりました。
約1年半にわたる改装工事を終えてのリニューアル・オープン記念展。待ちに待ったリニューアルということもあるでしょうし、人気の杉本博司ということもあるのでしょう。切符売り場には長い行列ができてました(前売り券があれば、会場まで直接行けます)。
会場は2階と3階の2フロアー。3階は人類と文明の終焉をテーマにしたインスタレーション、2階は世界初発表となる新シリーズ<廃墟劇場>と三十三間堂の千手観音像を撮影した<仏の海>の写真展示という構成です。
まずは3階から。今回展示室も改装されたのでしょうが、3階は壁一面がいきなり汚いトタンの覆われていて、ちょっとビックリします。
3階の<今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>は千葉市美術館の『趣味と芸術-味占郷/今昔三部作』とはまた異なる私的蒐集品の見せ方で、ただただ圧倒されます。前回は知的好奇心をくすぐる部分とちょっとスノッブなところが綯い交ぜになった独特の雰囲気と空間演出があったように思うのですが、今回はそこにさらに強いメッセージとフェイクの紙一重の哲学と遊び心、そしてニヒリズムが加わり、渾然一体となっている感じがしました。
33のテーマがカミュの『異邦人』の書き出しをもじったテキストで紹介されています。会場入口で“肉筆考”というリストがいただけるので、それと照らし合わせながら見ると面白いと思います。それぞれユニークな代筆者の個性的な文字を見るのも楽しいし、この人こういう字を書くんだと、意外な発見があったりします。
最初の《理想主義者》は千葉市美の<味占郷>の展示を彷彿とさせる硫黄島の地図と戦艦の模型の床飾り。《遺伝子学者》では牛乳店の木箱の中にバイアグラがあったり、《物神崇拝者》ではストレッチャーの上に男根崇拝の石棒が寝かせられてたり、《ロボット工学者》では機械仕掛けの文楽人形の“かしら”がカタカタ音を鳴らして動いたり、その組み合わせの妙に唸らされます。《バービーちゃん》はレンチドールとバービー人形が卒塔婆で囲まれた空間に置かれ、まるで人形墓場だし、《美術史学者》に置かれていた板や柱が廃材かと思いきや當麻寺の天平時代の古材だったりして、その使い方に驚くことしきり。
出品リストに作家名は記されてませんが、杉本博司の10代の頃の油絵も展示されています。絵の角に“HIROSHI”とあるのでそれと分かるはず。でも何であの部屋に展示されていたのでしょうね。
こうした私的蒐集品を展示するという構成も極めた感じがあって、そろそろ飽きも出てくるでしょうから、次に杉本博司がどんな仕掛けで作品を見せるのか、そのあたりも気になります。
<廃墟劇場>は朽ち果てた劇場のスクリーンだけが明るく光を発しているのですが、その露光として使われた映画のタイトルとストーリーが足元に掲示されています。キューブリックの『博士の異常な愛情』とかスタンリー・クレーマーの『渚にて』とか黒澤明の『羅生門』とか実相寺昭雄の『無常』とか、映画のそのセレクションがまた終末観を醸し出しています。
そして<仏の海>。33の終焉で始まり、観音菩薩の33身を意味する三十三間堂の千手観音の写真で終わる。全体を覆うのは得も言われぬ無常観。無常ゆえの美しさが伝わってきます。人間の叡智で造り上げられた技術や文明、歴史もいつか終わりがあり、そしてその先には浄土の世界がある。杉本博司が構成・演出を手掛けた文楽『曾根崎心中』を思い出さずにはいられませんでした。
【杉本博司 ロスト・ヒューマン】
2016年11月13日(日)まで
東京都写真美術館にて
アートの起源
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