2016/07/17

ポンピドゥー・センター傑作展

東京都美術館で開催されている『ポンピドゥー・センター傑作展』に行ってきました。(といっても1ヶ月前ですが・・・)

近現代アートではヨーロッパ最大規模を誇るフランス・パリのポンピドゥー・センター国立近代美術館の所蔵作品を通して20世紀アートを展観するという展覧会。英語題に『Timeline 1906-1977』とあるように、1906年から1977年までの作品に限定し、しかも1年1アーティスト1作品縛りという制限を設けるというユニークな試みをとっています。

フランスの美術館ということもあり、フランス中心なのは致し方ないところ。戦前はまだしも、戦後になってくると個人的には知らない人も多くいたのですが、逆に馴染みのないフランスの現代美術に触れる機会として面白いですし、フランスやヨーロッパの20世紀美術の傾向とか概略が掴めるのでよろしいのではないかと思います。

『若冲展』であれだけ混雑した東京都美術館がガラガラとか独占状態とかいうツイートを複数見てたので、どんなものかと思いましたが、訪問したのが日曜午後とあって、さすがにそこそこのお客さんが入っていました。とはいえ、まだまだストレスなく観ることができました。

ラウル・デュフィ 「旗で飾られた通り」
1906年 ポンピドゥー・センター蔵

1年に1作品。その年を代表する作品、その時代に活躍した画家を象徴する作品が選ばれてるようです。作品のそばには画家・作品についての解説とその画家の言葉が紹介されていたりもします。ポンピドゥー・センターの“傑作”に挙げられる程の画家や芸術家たちの声だけに、なかなか含蓄のある言葉が並びます。

最初はラウル・デュフィ。ちょうどマティスに出会い、フォーヴィスムに関心を寄せていた頃の作品。モネの絵に着想を得た作品とのことですが、デュフィらしい明るい色彩が印象的です。

翌1907年はジョルジュ・ブラックの、これもフォーヴィスム時代の作品。次はモーリス・ド・ヴラマンクで、これもフォーヴィスム。やがて抽象絵画の走りのような作品が現れたり、椅子の上に車輪を置いただけのマルセル・デュシャンのレディメイドがあったり、キュビズムや未来派が登場したり、シュルレアリスムを予感させる作品があったりと、時代の流行や20世紀初頭のアートシーンの流れがよく分かります。

レオナール・フジタ 「画家の肖像」
1928年 ポンピドゥー・センター蔵

第一次世界大戦あたりはやはり戦争をテーマにした作品が、1920年代にはエコール・ド・パリを感じさせる作品が並びます。やはり知っている画家や芸術家、写真家が多くいる1930年代頃までの作品は面白いですし、安心して観ていられます。

個人的に印象に残った作品としては、 マルク・シャガールと妻と娘が描かれた幸福感溢れる「ワイングラスを掲げる二人の肖像」、藤田嗣治の乳白色の自画像「画家の肖像」、色とりどりの木の葉が強烈な印象を残すセラフィーヌ・ルイの「楽園の樹」、ナチスに退廃芸術とされ非業の死を遂げたオットー・フロイントリッヒの幾何学的な抽象画「私の空は赤」、マリー=テレーズを描いたといわれるシュルレアリスム時代の作品らしいピカソの「ミューズ」、ピカソの絵を彫刻にしたようなパブロ・ガルガーリョの「預言者」などが良かったかなと。

オットー・フロイントリッヒ 「私の空は赤」
1933年 ポンピドゥー・センター蔵

パブロ・ピカソ 「ミューズ」
1935年 ポンピドゥー・センター蔵

1945年だけは絵画も彫刻もありません。そこにはピアフの「ばら色の人生」が静かに流れるだけ…。

アンリ・マティス 「大きな赤い室内」
1948年 ポンピドゥー・センター蔵

そして戦後。晩年のマティスやビュフェ、ジャコメッティやクリストなどがあったり、クリス・マルケルの前衛映画『ラ・ジュテ』が流れていたりしますが、それ以外の多くは(わたしの)知らないアーティストたち。こうして見ると、戦前のフランスの芸術運動の華々しさに比べて、戦後はヨーロッパからアメリカへ現代美術のメインストリームが移ってしまったこともあり、それぞれの作品は興味深いものなのですが、なにか取り残された感的な淋しさを感じます。

ベルナール・ビュフェ 「室内」
1950年 ポンピドゥー・センター蔵

その中でも、幾何学的な構成にコンクリートのような絵肌が印象的なニコラ・ド・スタールの「コンポジション」、3分で完成させたというジョージ・マチューのドリッピング作品、子どもが描いたジグソーパズルのようなポップさが楽しいジャン・デュビュッフェの「騒がしい風景」はかなり好み。

ニコラ・ド・スタール 「コンポジション」
1949年 ポンピドゥー・センター蔵

最後には、ユニークな外観が特徴的なポンピドゥー・センターの建設の様子や模型などもあって、ポンピドゥー・センター建設のために壊される17世紀の建物の映像なんて流れてて、なかなか興味深いものがあります。

変に縛りを設けてしまって苦心してる感じもありますが、ポンピドゥー・センターの歩みとともに20世紀の現代美術の流れを知るという点では面白かったと思います。


【ポンピドゥー・センター傑作展 -ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで-】
2016年9月22日(木・祝)まで
東京都美術館にて


Pen(ペン) 2016年 6/15号 [ポンピドゥー・センターと作った、アートの教科書。]Pen(ペン) 2016年 6/15号 [ポンピドゥー・センターと作った、アートの教科書。]


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