兵庫県西宮にある日本画や美術工芸品を多く所蔵する頴川(えがわ)美術館の名品を紹介する展覧会。東京では30年ぶりの公開だそうです。
出品数は重要文化財4点を含む135点(展示替えあり)。地下1階のフロアーには日本画、2階のフロアーは工芸品、茶道具を中心に墨跡や近代日本画など。名品展と謳うだけあって、なるほど優品揃いです。
まずはやまと絵。
近江の日吉山王社の霊験説話を描いた重文の「山王霊験記」や神於寺の縁起を描いた「光忍上人絵伝断簡」といった鎌倉・室町時代の絵巻がなかなか面白い。「山王霊験記」は比叡山の僧が料理を作ったりしてるんですが、どんな場面だったんだろう。江戸時代の土佐派を代表する土佐光起の「春秋花鳥図」も素晴らしい。色とりどりの花や鳥も美しく、濃青の水の表現がまた金屏風に映え、より華麗で洗練された雰囲気を創り上げています。
土佐光起 「春秋花鳥図」
江戸時代・17世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)
江戸時代・17世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)
やまと絵と括ってしまうにはちょっとレンジが広すぎますが、俵屋宗達や尾形乾山といった琳派や、狩野派の英一蝶も並んでます。やまと絵の画題を継承しているということなんでしょう。乾山の円窓の「叭々鳥図」が朴訥とした中にも味わいあるタッチで良かったです。
つづいて漢画・水墨画。
前期展示の白眉は何と言っても能阿弥と伝わる「三保松原図」。風景を広く捉えた構図と湿潤な空気感が見事ですね。この作品に先例があるのか知りませんが、「三保松原図」を観て思い浮かべたのが長谷川等伯の「松林図屏風」と雪舟の「天橋立図」で、空気感は等伯に、構図は雪舟にそれぞれ影響を与えてるんじゃないかと感じました。
「三保松原図」は現在は6幅の掛幅装になっていますが、元は六曲の屏風で、富士山を描いた一隻と合わせて六曲一双の屏風だったと考えられているそうです。一見水墨の屏風に見えるのですが、霞と雲にはうっすらと金泥が使われています。
伝・能阿弥 「三保松原図」(重要文化財)
室町時代・15世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)
室町時代・15世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)
ここでは式部輝忠の「蓮図」も傑作。室町期の水墨ですが、濃墨と薄墨で蓮の葉の表と裏を巧みに表現していて、宗達も参考したのではないだろうかと思わせるものがあります。
長谷川等雪の「人物花鳥図」も印象的。全12幅の掛軸で前期・後期で半分ずつの展示で、前期の6幅には太公望、豊干禅師、琴高仙人と錦鶏、鷺、山鳥がそれぞれ描かれていました。等雪は等伯の門人・長谷川宗圜の子だそうです。
南画ではなかなかお目にかかれない柳沢淇園があったのも嬉しい。南蘋派らしい濃厚な果物図でいいですね。南蘋派的といえば、中林竹洞の華麗な「花卉双鳩図」も見事。竹洞や山本梅逸の作品は複数あって、南画らしい趣きのある作品が並びます。山田宮常はその竹洞と梅逸の師。ゴージャスな長毛の猫のような「芙蓉麝香猫図」が面白い。
南画では他にも谷文晁や池大雅、椿椿山などもあって、充実したコレクションを感じます。
長沢蘆雪 「月夜山水図」(重要美術品)
江戸時代・18世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)
江戸時代・18世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)
写生画では円山応挙や呉春、松村景文といった円山派、四条派が中心。中には岸駒の「松下猛虎図」のように、応挙の流れは汲むものの写生画という感じはしないものもあります。ここでは応挙の弟子・蘆雪の「月夜山水図」がいい。濃墨と淡墨で近景と遠景を描き分け、満月の夜の雰囲気がよく出ています。
長次郎 「赤楽茶碗 銘 無一物(中興名物)」(重要文化財)
桃山時代・16世紀 頴川美術館蔵
桃山時代・16世紀 頴川美術館蔵
2階会場は工芸・茶道具が中心。ちょうど伺った日は暴風雨で帰るに帰れなかったのですが、たまたま頴川美術館の元館長で現理事の林屋晴三氏の講演があったので折角なので拝聴。茶道具に疎い自分ですが、「無一物」のことや長次郎と利休のこと、光悦茶碗の特長など凄く勉強になりましたし、茶器の見方がちょっと変わったかも。
林屋元館長の話で面白かったのが長次郎の「無一物」の入手秘話で、美術館の創設者・四代目頴川徳助の奥さんが「稽古用の茶碗が欲しい」という話になって、馴染みの古美術商が持ってきたのが「無一物」だったのだと。昭和27〜28年の値段で600万円ということですが、今だと幾ら位なんでしょう。それにしても稽古用って。。。
本阿弥光悦 「黒楽茶碗 銘水翁」
江戸時代・17世紀 頴川美術館蔵
江戸時代・17世紀 頴川美術館蔵
「無一物」は見た目ちょっと弥生式土器のような土肌感があって、かせた味わいやその姿が利休とリンクして心にグッと来るものがあります。口縁部が微かに内側に抱え込んでいて、これは利休好みの茶碗の特徴の一つなのだとか。
ここでは光悦の黒楽茶碗や室町初期の形を伝える古い茶釜、織田信長が所持していた唐物茶入で、本能寺の変の際に焼けてしまうも共繕いされて今に至るという「大名物 勢高」など、茶器のことが分からなくても興味深く感じる作品が多くあります。
無準師範 「墨跡 淋汗」
南宋時代・13世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)
南宋時代・13世紀 頴川美術館蔵(展示は4/24まで)
奥の部屋には墨跡と近代絵画。また東京ではなかなかお目にかかれない「浪花百景」なる浮世絵があって、これも面白かった。
絵画は前・後期で入れ替わりますが、工芸品は通期展示となります。
【頴川美術館の名品】
前期: 2016年4月5日(火)から4月24日(日)
後期: 2016年4月26日(火)から5月15日(日)
渋谷区立松濤美術館にて
名碗は語る
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