國學院大學博物館で開催中の『神仏・異類・人 -奈良絵本・絵巻にみる怪異-』を観てまいりました。
日本に古くからある不思議な物語。そんな現実にはありえない不思議なこと〔怪異〕を描いた奈良絵本や絵巻を通して、日本古来の物語の面白さや魅力を紹介するという展覧会です。
展覧会と言っても、博物館内の一区画で開かれている特別展で、スペースはそれほど広くありませんし、点数も20点ぐらい。でも少ないながらにも妖怪、異形、怪異もの好きにはたまらない充実した展覧会でした。
最初は説話画によくある稚拙な感じの素朴絵なんかをイメージしていたのですが、いやいやどうして、どれもクオリティが高いのには驚きました。江戸時代以降に印刷技術の発達とともに出回る大衆向けのいわゆる丹緑本や絵入本といった御伽草子とは異なり、展示されている作品の多くは金泥を贅沢にあしらった豪華な奈良絵本や絵巻で、物語やユニークな登場人物の面白さもさることながら、その緻密な描写や鮮やかな色彩にも見惚れます。
第1章 王朝の絵巻
まずは「竹取物語」「伊勢物語」「源氏物語」を描いた絵巻や奈良絵本から。といっても雅な王朝のお話ではなく、その物語に登場する怪異譚にスポットがあてられています。「竹取物語」では、かぐや姫のために龍宮の宝珠を求めて海に出た大伴大納言があわや難破しかかるという場面。「竹取物語」にそんな場面があったのですね。
室町時代後期から江戸時代初期の作という「伊勢物語」の奈良絵本は素朴なタッチの絵でしたが、宗達や光琳の作品でもよく見る八ッ橋が描かれています。参考展示に嵯峨本もあって、こうしたパターン化されたイメージが嵯峨本にも踏襲され、さらにそれがその後の日本画にも影響するという流れを感じます。
第2章 異類の顕現
「田村の草子」は鈴鹿山の鬼神を退治する田村丸と鈴鹿御前を描いていて、これも金泥をたくさん使ってやたらと豪華。「大織冠」は男女の関係になった中臣鎌足の頼みで宝珠を奪いに竜宮に向かう海女を描いたもの。よく見る物語では「俵藤太物語」の絵巻があって、ムカデ退治をした俵藤太(藤原秀郷)が龍宮でもてなしを受けるという場面。秀郷へのお土産もたんと用意されています。
「田村の草子」、「大織冠」、「俵藤太物語」は前期展示のみ。後期には「酒呑童子」や「羅生門」などと入れ替えになります。
“異類”とは鬼や妖怪といった化け物のほかに、鬼や蛇といった異形の姿に変化してしまった人間なども指し、ここでは有名な「道成寺」や、同じく安珍清姫物語の異本ともいえる「賢学草子」などもあります。
第3章 神仏の哀歓
神仏の前世を描く“本地物”の代表的な例として「熊野の本地」が紹介されています。五衰殿の女御らが日本の熊野に飛来して神となるという物語なのですが、面白いのが動物がいっぱい描かれていて、よく見ると十二支の動物たちだったりします。どんな物語なのでしょう。
「隠れ里」は七福神が描かれていて、祝言物として制作されたのではないかという作品。「異代同戯図」は孔子や観音様、大黒天がカルタをしていたり、神様たちが何やら遊んでいる様子を描いた楽しい作品。作者は探幽の弟・狩野安信の弟子・狩野昌運だといいます。
第4章 異類の活躍
最後は、擬人化された動物や道具などを描いた作品を紹介。老いたフクロウとうそ姫の悲恋の物語「ふくろう」や、古い奈良絵本の特徴を伝える「さくらの姫君」、使い古された道具たちを擬人化して描く「付喪神記」、よく分からない化け物たちがたくさん描かれていた「百鬼夜行絵巻」など、楽しげな作品が並んでいます。
國學院大學博物館は戦前に設立された考古学陳列室が前身だけあり、土器や埴輪、石器など考古・民族資料などが大変充実しています。これだけの物量を見られて、しかも入場無料というのが嬉しいですね。
なお、博物館は12/24~1/7まで休館なのでご注意を。
【神仏・異類・人 -奈良絵本・絵巻にみる怪異-】
前期: 2015年12月23日(水・祝)まで
後期: 2016年1月8日(金)~2月7日(日)まで
國學院大學博物館にて
[現代版]絵本 御伽草子 付喪神 (現代版 絵本御伽草子)
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