といっても、遊行寺宝物館、神奈川県立歴史博物館、神奈川県立金沢文庫の3つに分かれての展示なので、全巻を観るなら、それぞれの会場に足を運ばなくてはなりません。。。日本美術ファンとしてはやはり一度は観ておきたい絵巻なので、愚痴は抑えて3館を歩いてきました。
「一遍聖絵(一遍上人絵伝)」は鎌倉時代中期の時宗宗祖・一遍上人の生涯を描いたもので、一遍の十回忌に制作されたといわれます。
全12巻48段あり、全巻合わせると全長約130mという長大な絵巻。絹本著色の絵巻としては国内最古のものだといいます。一遍の絵伝としてだけでなく、信濃善光寺や四天王寺、熊野や石清水八幡宮といった古寺や古社などが描かれていたり、鎌倉時代の風俗や文化を伝える上でも貴重な史料となっています。
ちなみに、各会場の絵巻の分散はこんな感じです:
- 第1、7、11、12巻 →遊行寺宝物館
- 第2、3、8、9巻 →神奈川県立金沢文庫
- 第4、5、6、10巻 →神奈川県立歴史博物館
「一遍聖絵 第七巻」(部分)
※写真は東京国立博物館所蔵品(国宝)
※写真は東京国立博物館所蔵品(国宝)
まずは朝一で藤沢の遊行寺へ。この「一遍聖絵」は時宗総本山である遊行寺(清浄光寺)の所蔵品。今回の全巻公開も遊行寺宝物館のリニューアルを記念したものなのであります。11月中旬までは遊行寺で全ての巻を展示していたのですが、なにせ展示室が狭いので、どの巻もちょっと出し。より多く、つぶさに観るのなら、この3館共同展示に足を運ぶしかないというわけです。
ここでは第1巻の全段と第12巻の頭の方を除く2/3ぐらいが出ていて、なんだか連続ドラマの最初とラストをいきなり見てしまったような気分(笑)。あと第7巻と第11巻が一部の段だけ展示されていました。この7巻のみ実は後補とされ、オリジナルは江戸時代に流出し、現在は東京国立博物館の所蔵となっています(東博本第7巻は東博で同時期に公開中です)。
「一遍聖絵 第十二巻」(部分)
※写真は模本。東京国立博物館蔵
※写真は模本。東京国立博物館蔵
時宗といえば浄土宗から派生した一派で、踊り念仏が有名ですね。「一遍聖絵」にもたびたび描かれる踊り念仏のグルーブ感がたまりません。大勢で念仏踊りをするものだから縁側が踏み落とされたなんていうエピソードもありました。
「一遍聖絵」にはよくある宗教的な奇跡がほとんどなく、一遍も控えめに描かれているのも興味深いところです。その分、風俗や風景の描写、名所絵的な要素が強くなってるのも面白い。どの巻も思った以上に状態が良く、自然の描写も繊細で、人々の生き生きとした姿がとにかく素晴らしい。単眼鏡で覗くとその描写の細かさや丁寧さがよく分かります。
遊行寺ではほかに、重文の「一遍上人絵伝断簡(江之島)」や「一遍上人縁起絵」などが展示されていて、また現在の第6巻に断簡を補い、江ノ島の場面を復元した図もパネルで紹介されています。
「一遍聖絵 第三巻」(部分)
※写真は模本。東京国立博物館蔵
※写真は模本。東京国立博物館蔵
「一遍聖絵 第九巻」(部分)
※写真は模本。東京国立博物館蔵
※写真は模本。東京国立博物館蔵
つづいては金沢文庫へ。ここでは第2巻が全段展示。残りは部分展示。金沢文庫で展示されている巻には高野山や熊野、四天王寺、石清水八幡宮、当麻寺などの場面が描かれていて、参考展示としてそれらに関連した絵や史料が紹介されています。該当する巻に並行して展示されているのも分かりやすくていいですね。
同じ敷地内にある称名寺の所蔵品が多いのも特徴。重要文化財も多く展示されていて、白描画に火焔だけ朱をさした「摩尼珠像」が印象的でした。遊行寺の所蔵品も来ていて、「二河白道図」と「一遍上人像」はなかなかの逸品。
最後に神奈川県立歴史博物館。ここはスペースも広いので、展示されている4つの巻が全て全段展示。やはり全段観られるのは有難いし、パネル展示や解説も丁寧で、ここが一番満足感があったかもしれません。特に第5巻には鎌倉入りをもくろむも阻止される一遍一行の場面があり、鎌倉の風景を描いた同時代の絵としては唯一のものだといい、興味深いものがあります。
ここでは阪神淡路大震災のときに一遍の供養塔から発見されたという備前焼の「骨蔵器」や、踊り念仏で使われた打楽器の一種の「鉦鼓」、また400年前も昔のものという時宗独特の法衣の「阿弥衣」など、貴重な遺物も見ものです。「阿弥衣」はもともと粗末な布切れだと思うのですが、正直かなりボロボロで、展示するのもギリギリという感じでした。ほかの参考展示としては桃山時代の作という「箱根権現縁起絵巻」がユニーク。ちょっと素朴絵風ですが、箱根の当時の賑わいが良く分かるし、とても面白い。
「一遍聖絵 第五巻」(部分)
※写真は模本。東京国立博物館蔵
※写真は模本。東京国立博物館蔵
全巻全場面展示と謳っていても、ほとんどの巻は場面替えがあるので、全段を観るには各会場を何度か通わないといけないのが難。同じ県内に分かれているとはいえ、それなりに距離はあるので交通費もバカになりません。また、スタンプラリーを開催してるのですが、台紙は東博と藤沢駅観光案内所でしか配布しておらず、しかも遊行寺を最後に持って来ないと景品が貰えないなど、ちょっと開催者都合というか、来場者に不親切なのが残念に思いました。
【国宝 一遍聖絵】
2015年12月14日(日)まで
第1会場 遊行寺宝物館
2015年12月13日(日)まで
第2会場 神奈川県立歴史博物館
第3会場 神奈川県立金沢文庫
連携企画 東京国立博物館
※観覧券の半券提示で、お一人様各館(第1~3 会場)1 回ずつ団体料金が適用になります。
一遍聖絵 (岩波文庫)
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