2015/06/30
ゴミ、都市そして死
世田谷パブリックシアターで劇団SWANNYの『ゴミ、都市そして死』を観てきました。2013年の紀伊国屋ホールの舞台の再演です。
『ゴミ、都市そして死』は、ドイツの映画監督でドイツ現代演劇の演出家としても知られるライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが1974年に発表した戯曲。ダニエル・シュミットが『天使の影』として映画化し、ファスビンダーはヒモ役で出演もしています。ファスビンダーの演出による舞台も計画されていたようですが、ファスビンダーの死により実現には至りませんでした。
SWANNYの舞台は初めてですし、はたしてファスビンダーの戯曲を日本でちゃんと舞台化できるのか少々心配だったのですが、ファスビンダーやシュミットの映画ほど深刻な芝居でもなく、それでいてファスビンダーらしい退廃的なムードはちゃんとあって、適度に計算して演出したんでしょうね。
舞台はドイツの都市フランクフルトの片隅でもあり、月面の架空の場所でもあり、という設定(舞台の背景には大きな月がある)になっていて、都会のゴミ溜めのようなところならどこでもいいのかもしれません。虚と実、貧と富、男と女、ユダヤとファシズム、さまざまなものがタテにもヨコにも、深く複雑に入り乱れ、そして混沌としています。
娼婦とそのヒモ、同性愛、ユダヤ人、女装した歌手、暴行、貧乏、急に舞い込む大金、孤独、絶望、殺し…。いかにもファスビンダーという感じのキーワードが次から次へと出てきます。メランコリックで破滅的、愛を求める姿と歪んだ愛の姿。差別的な言葉や性的な言葉がひっきりなしに飛び交います。ファスビンダーの作品に理性は無いに等しい。話の展開もファスビンダーらしいものでした。
主役の売春婦ローマ・Bを演じる緒川たまきはそんな難しいファスビンダーの芝居を体当たりの演技で演じ切っていたと思います。ローマ・Bのヒモの名前はフランツ。ファスビンダー作品では彼の分身としてたびたび登場する役名です。『天使の影』でもファスビンダー自身が演じていましたが、この役者(仁科貴)がファスビンダー似だったのがちょっとツボでした。
舞台の右奥に生演奏のバンド(石橋英子 with ぎりぎり達)がいて、どこか退廃的な舞台の雰囲気を盛り上げていました。歌手役で登場する渚ようこがまたカッコいい!
映画版しか観たことがないので、原作にどのぐらい忠実なのかは分かりませんが、冒頭歌われるアカペラの輪唱やオペラの歌曲、ドイツ語の原曲のまま流れる音楽などは『天使の影』で使われた曲をそのまま使っているようです。ところどころ、これはペーア・ラーベンだなというメロディーもありました。
開演前に、「こんにちは、ファスビンダーです。草葉の陰から・・・」と注意事項のアナウンスがあって、椅子から転げ落ちそうになりました。いつからファスビンダーはこんなキャラになったのだと(笑)
出だしがそんなだったので、大丈夫かな?と最初不安になりましたが、わたし的にはかなり楽しめました。もうひとつの『猫の首に血』も観に行けば良かった。
ゴミ、都市そして死 (ドイツ現代戯曲選30 第25巻)
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