上村松園を筆頭に、近代・現代の日本画壇で活躍した女性画家にスポットを当てた展覧会。松園の作品はたびたび拝見していますが、女性画家だけの展覧会は最近(少なくとも)東京ではなかったように思います。私自身も女性画家だけを特集した展覧会を観るのは初めて。
本展は山種美術館と実践女子学園香雪記念資料館の連携企画とのことで、両館所蔵の、明治・大正・昭和の女流日本画家の作品で構成されています。日本画で定評のある山種美術館のコレクションに、香雪記念資料館の女性画家コレクションを加えることで、より充実した内容の展覧会になっています。
第1章 上村松園
山種美術館ではこれまでも松園の作品を特集した展覧会が行われていますが、本展では山種美術館が所蔵する松園作品全18点が展示されています。
夏を意識してか、蛍や簾、蚊帳といった夏をイメージするものを取り入れた作品がいくつか並んでいます。蛍は松園が初期から晩年まで描きつづけたモティーフ。「新蛍」は簾越しの女性の立ち姿を、「蛍」は蚊帳を吊るす女性を描いていて、夏の夜風を感じるような風情があります。
上村松園 「蛍」
大正2年(1913) 山種美術館蔵
大正2年(1913) 山種美術館蔵
松園は徳川末期の風俗に一番関心を持っていたといいます。花を愛でる女性、歌を詠む女性、鶴を折る女性、針に糸を通す女性…。情緒があったり、可憐であったり、しおらしかったり。着物や帯の柄、髪型や簪、小道具など、どの絵も細かなところまでこだわりを見せ、女性の美しさを引き立たせているなと感じます。
上村松園 「詠哥」
昭和17年(1942) 山種美術館蔵
昭和17年(1942) 山種美術館蔵
第2章 野口小蘋と帝室技芸員
松園に先立つこと40年前、女性で初めて帝室技芸員になったのが明治・大正時代に女流南画家として名を馳せた野口小蘋。本展には小蘋の作品が11点が出品されています。過去に何度か拝見していますが、これだけまとめて、ちゃんと観たのは初めて。
野口小蘋 「平安長春図」
大正3年(1914)頃 実践女子学園香雪記念資料館蔵
大正3年(1914)頃 実践女子学園香雪記念資料館蔵
初期の画業では美人画を多かったそうですが、本展では南画が中心。とはいっても、女性らしさとっていっていいのか、丹念な筆致が隅々まで行き届いていて、繊細で柔らかな南画です。小難しい賛詩があったり、筆が変に闊達になっていないのもいい。
風雅な文人好みの理想郷といった趣の「幽壑閑居図」や「春山僲隠図」や、文人墨客の宴を描いた「西園雅集図」、中国画風のバラと水墨の笹の取り合わせが絶妙な「平安長春図」など、どれもとてもいい。
野口小蘋 「芙蓉夏鴨」
明治33年(1900) 山種美術館蔵
明治33年(1900) 山種美術館蔵
もとは四条派の絵師に師事していたというだけあり、鳥や植物が写実的だったりします。南画風の屏風「箱根真景図」も惹かれます。何ともない風景画なんですが、湖畔からの穏やかな眺めとのびやかな山の稜線、抑えた色合いが落ち着いた味わいでありながらも、適度に使われた金砂子が雅やかな品を感じさせます。
第3章 華麗なる女性画家た-幕末から現代まで
ここでは奥原晴湖、河邊青蘭といった南画系の女性画家の作品が充実。青蘭の「紅白冨貴図」は艶やかな牡丹と黒い岩のコントラストが秀逸。鮮やかな青緑山水の「松陰楼観図」も素晴らしい。白眉は中国風の官女たちの遊興する姿を描いた「態濃意遠図」で、豊かな人物描写、色とりどりの着物や花、細部までこだわった丁寧な筆致など、女性らしい視点で描いた非常に魅力的な一枚だと思います。
河辺青蘭 「松陰楼観図」
大正9年(1920) 実践女子学園香雪記念資料館蔵
大正9年(1920) 実践女子学園香雪記念資料館蔵
河辺青蘭 「態濃意遠図」
明治22年(1889) 実践女子学園香雪記念資料館蔵
明治22年(1889) 実践女子学園香雪記念資料館蔵
<人物画・風俗画>では伊藤小坡をはじめ、京都の松園とともに“三都三園”と並び称された東京の池田焦園と大阪の島成園の作品があります。ただ、焦園、成園とも一点ずつなのでちょっと物足らなさ感も。特別出品の池田焦園の夫・輝方の六曲一双の屏風「夕立」がとても端正な筆致で魅せます。
池田蕉園 「春流」
明治~大正時代 実践女子学園香雪記念資料館蔵
明治~大正時代 実践女子学園香雪記念資料館蔵
木谷千種 「夢の通路」
大正6年(1917) 実践女子学園香雪記念資料館蔵
大正6年(1917) 実践女子学園香雪記念資料館蔵
ここで特に印象に残ったのは木谷千種の「夢の通路」。なんでしょ、この艶めかしさ。ゾクゾクするような美しさです。ほかにも河鍋暁斎の娘・暁翠の「紫式部図」や、松園に師事したという九條武子の「紅葉狩」もいい。九條武子は“大正三美人”に数えられたほどの美人だそうで、写真が飾ってありましたが横顔がさすがに綺麗。
片岡球子 「北斎の娘おゑい」
昭和57年(1982) 山種美術館蔵
昭和57年(1982) 山種美術館蔵
戦後の女性画家の代表といえば、片岡球子と小倉遊亀。片岡球子の「北斎の娘おゑい」はまるで啖呵を切ってるようなインパクトのある作品。小倉遊亀も舞妓や芸妓をモデルにした作品や、料亭の女将を描いた凛とした佇まいの「涼」などが並びます。
[左] 小倉遊亀 「舞う(舞妓)」 昭和46年(1971) 山種美術館蔵
[右] 小倉遊亀 「舞う(芸者)」 昭和47年(1972) 山種美術館蔵
[右] 小倉遊亀 「舞う(芸者)」 昭和47年(1972) 山種美術館蔵
山種美術館から徒歩約10分ほどのところにある実践女子学園の香雪記念資料館では『華麗なる江戸の女性画家たち』が開催されているので、併せてご覧になるとさらに充実した美術鑑賞になってオススメです。
【上村松園 生誕140年記念 松園と華麗なる女性画家たち】
2015年6月21日(日)まで
山種美術館にて
上村松園画集
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