2015/05/30
海の夫人
新国立劇場でイプセンの『海の夫人』を観てきました。
演出は、2010年新国立劇場で観た同じくイプセンの『ヘッダ・ガーブレル』と同じ宮田慶子。現代の口語調に近い新訳による上演で、演出的な意図でもあるんでしょうが、イプセン劇にしては軽い感じがあります。若手の役者の台詞もアクセントやイントネーションがイマドキの若者の語感で、最初はちょっと違和感がありました。
医師ヴァンゲルと後妻のエリーダの関係と、エリーダと義娘たちとの関係、娘たちと若者2人との関係、そしてエリーダとかつての恋人との関係、そうした関係の中で感情の昂りや気持ちの波が寄せては返し寄せては返しを繰り返します。
エリーダとヴァンゲルのやり取りの合間々々に挿入される若者たちの戯れは、夫婦の深刻で重い空気を振り払うかのような喜劇性があり、まるで北欧の短い夏を謳歌する様にも似て、どこかベルイマンの『夏の夜は三たび微笑む』を思い起こさせもします。最初は戸惑った現代的な言葉のやり取りは、若者たちやこの家族の日常を生き生きとしたものにし、結果それが芝居のいいアクセントになっています。この軽さが逆にイプセンの世界をリアルで身近なものにしていて、これはこれで清新でいいかなと思うようになりました。
幼子を失ってから精神的にも不安定なエリーダを演じる麻実れいはイプセンらしい女主人公を体現していて圧倒的です。死んだと思っていたかつての恋人が生きていることを知り動揺するその姿、そして自分のアイデンティティに気づき自分を見つめ直す姿。その世界にどんどん引き込まれてしまいます。まわりの役者も巧くコントロールされた演技でバランスがとれています。みんなよく役のキャラクターを掴んでいて、とても好ましい演技だと思いました。
自由とはなんなのか。最後のエリーダの台詞に涙ぐむ女性がちらほら。ラストシーンは自分もちょっとぐっときました。
イプセン戯曲選集―現代劇全作品
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