本展は山種美術館の所蔵作品の中から花と鳥をテーマに、江戸末期以降の日本画、特に明治以降の作品を集めた展覧会。色とりどりの美しい季節の花々や可憐な鳥たちなど、写実的な作風から、装飾性豊かな作風にいたるまで、バラエティに富んだ花鳥画を展観できます。
会場は
第1章 花と鳥の競演
第2章 花の世界
第3章 鳥の世界
で構成されています。
まず目に飛び込んでくるのが、御舟の最晩年の傑作「牡丹花(墨牡丹)」。妖艶であり、気高くもあり、なにか深遠な美しさがあります。墨の濃淡と滲みだけで花弁を描いていて、いつ観てもその高度な技巧に惚れ惚れとしますが、パネルの解説によると、花弁に礬水(どうさ)と呼ばれる滲み止めの技法を用いずに描いたか、もしくは滲ませたい部分に熱湯で礬水を抜くというテクニックを使っているのではないかということでした。
速水御舟 「牡丹花(墨牡丹)」
1934年(昭和9年)
1934年(昭和9年)
つづく岡本秋暉、狩野芳崖、橋本雅邦もなかなかいいのですが、個人的には今尾景年の作品に深い感銘を受けました。墨による松と青紅葉の「松楓啄木鳥図」、同じく墨の松と鮮やかな紅葉の「有紅葉小禽図」。墨と色絵の対比、構図の妙が素晴らしい。後半に展示されていた「朧月杜鵑図」も傑作ですね。いいものを観ました。
松林桂月 「春雪」
19-20 世紀(明治-昭和時代)
19-20 世紀(明治-昭和時代)
大好きな桂月も。笹の葉に積もった雪の表現が絶品。ただの白ではなく、溶けかかった雪の、水分を含んだような重みのある白。ただただ素晴らしい。南天の赤と小鳥がまた風情を演出しています。
菱田春草 「白牡丹」
1901年(明治34年)頃
1901年(明治34年)頃
御舟の「墨牡丹」が大人の色気なら、春草の「白牡丹」には清楚な若さがあります。27歳の頃の作品だそうで、春草の清新さがその筆から伝わってくるようです。牡丹を描いた作品では渡辺省亭の「牡丹に蝶図」も素敵でした。圧巻なのが川端龍子の「牡丹」。花びらの白と朱のコントラストが激しく、まるでハイキー効かせた写真のよう。なんとも艶やか。
鈴木其一 「四季花鳥図」
19世紀(江戸時代)
19世紀(江戸時代)
其一の「四季花鳥図」にも目を奪われます。右隻に春夏の草花、左隻に秋冬の草花。それぞれに鶏と鴛鴦が描かれています。金屏風に映える生命力に溢れた草花と濃厚な色彩。向日葵や朝顔の表情がいかにも其一らしい。
荒木十畝 「四季花鳥」
1885年(明治18年)
1885年(明治18年)
御舟の代表作「翠苔緑芝」と隣り合わせて展示されていたのが荒木十畝の「四季花鳥」。御舟の作品さえ霞んでしまうようなインパクト。右から「春(華陰鳥語)」「夏(玉樹芳艸)」「秋(林梢文錦)」「冬(山澗雪霽)」と四季の花木や鳥を描いた華麗な四幅対で、びっしり描き込んだ濃密な空間と中間色を多用した明るい色彩に目が眩みそうです。
速水御舟 「桃花」
1923年(大正12年)
1923年(大正12年)
<近代日本画への院体花鳥画の影響>として御舟の「桃花」などが紹介されていました。御舟は徽宗の名作「桃花図」の粉本を模写したりしていたそうで、この「桃花」も桃の花の色や枝の感じが徽宗の作品を思い起こさせます。落款も徽宗の書風を真似ているのだとか。
ほかに個人的に好きだった作品だけを挙げても、春草の「月四題(春)」や橋本関雪の「白梅に月」、横山大観の「叭呵鳥」、福田平八郎の「春」、小茂田青樹の「水仙」などなど、どれも優品揃い。別室にあった小山硬の四曲半双の「海鵜」にはしばし時間を忘れ見入ってしまいました。
菱田春草 「月四題のうち「春」」
1909-10年(明治42-43年)頃
1909-10年(明治42-43年)頃
何度か観てる作品もありますが、やはり良いものは良いですね。出品作が充実したいい展覧会でした
【花と鳥の万華鏡 -春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥-】
2015年4月12日(日)まで
山種美術館にて
菱田春草 (別冊太陽 日本のこころ 222)
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