みなとみらいにはよく行きますが、馬車道の方まで来たのはほんと久しぶり。県立歴史博物館にも初めて伺いました。建物は明治37年に横浜正金銀行本店として建てられたもので、重要文化財にも指定されているとか。横浜の歴史を感じさせる雰囲気のある建物です。
さて、本展は正直ノーマークで、“白絵”が何なのかさえも知らなかったのですが、Twitter上でたびたび評判を目にし、ちょうど文化の日が入場無料と聞き(笑)、早速拝見してきました。そしたらこれが大当たり。とても興味深い作品が多く、非常に良い企画展でした。
“白絵”と聞いて、最初は白描画のことを思い浮かべたのですが、それとは異なり、白い地に白で着色し、出産や子どもの成長、婚礼など人生の節目で使われる調度品に描いた絵画や文様を“白絵”というのだそうです。仏教で“白”は清浄な信仰心を表す色とされ、いにしえから生や死の場面である種の祈りを込めて使われたといいます。
本展は
第1章 〈白〉き誕生
第2章 〈白〉の諸相
第3章 〈白〉が紡ぐ祈り
の3つの章で構成されています。
会場に入ってすぐのところには、本展の目玉である「白絵屏風」。平安時代には白い綾織りの絹を貼った“白綾屏風”を産所に飾る風習があって、南北朝時代には吉祥文様を白紙地に描いた“白絵屏風”に代わっていったそうです。しかし、“白絵屏風”はお七夜が済むと焼いてしまう習慣があり、現存するのは僅か2例とか。本展ではその貴重な一点が展示されています。
伝・原在中 「白絵屏風」
江戸時代 京都府立総合資料館蔵
江戸時代 京都府立総合資料館蔵
応挙の弟子、原在中と伝わる「白絵屏風」は松竹鶴亀の画題を胡粉や雲母を贅沢に使い、白の濃淡だけで描いたもので、なんとも華麗で美しい。地の茶色は色焼けで、もとは白地だったのだそうです。屈んで見上げると顔料の濃淡がよく分かります。逆に今の方が胡粉の文様が浮き出て分かりやすいかも。
聖徳太子の誕生が描かれた「聖徳太子絵伝」や神功皇后が応神天皇を出産した様子を描く「住吉の本地」、親鸞誕生に触れた「親鸞上人絵伝」などでは、白装束の産婦や介添え者、白い調度品などが描かれていて、古来より白には特別な意味が込められていたのだなと感じます。
「六道絵 人道不浄相」(国宝)
鎌倉時代 聖衆来迎寺蔵
鎌倉時代 聖衆来迎寺蔵
仏教において白は清浄な信仰心を表し、生老病死の起点となっていたとのこと。「東照社縁起絵巻」(狩野探幽筆)や「聖徳太子絵伝」(根津美術館蔵)には葬列の場面で白装束の駕輿丁が柩輿を担ぐ様子描かれています。
国宝の「六道絵 人道不浄相」では野辺に捨てられた女性の遺骸は白地に銀模様の着物を身にまとい、やがて朽ちていく様子が9段で描かれています。ちなみに聖衆来迎寺の「六道絵」は15幅あり、内4幅は東京国立博物館の『日本国宝展』で展示されています(前後期で2幅ずつ)。
「白絵松竹鶴亀図鉄漿筆箱」
江戸時代 彦根城博物館蔵
江戸時代 彦根城博物館蔵
そのほか、白木に松竹鶴亀を描き、産所で使う湯水や邪除けの蒔米に使われた押桶や、災厄から子供を守るための天児(あまがつ)や這子(ほうこ)、婚礼や成長に関わる白絵の描かれた調度品など、美術という観点だけでなく、文化的・民俗的に大変貴重な品々が並びます。
県立歴史博物館は常設展もとても充実していて、仏像は複製も多かったのですが、鎌倉幕府や箱根の関所、横浜の開港など歴史的史料が盛りだくさんでなかなか楽しめました。オススメの展覧会です。
【白絵 -祈りと寿ぎのかたち-】
2014年11月16日(日)まで
神奈川県立歴史博物館にて
源氏物語の結婚 - 平安朝の婚姻制度と恋愛譚 (中公新書)
浮世絵で読む、江戸の四季とならわし (NHK出版新書 424)
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