来年2015年は高野山の開創1200年という節目の年だそうで、それを記念しての展覧会です。
高野山は、唐で密教を学んだ弘法大師空海が密教修行の根本道場として開山した日本仏教の聖地。「山の正倉院」と呼ばれるほど仏教芸術では国内最大規模の所蔵を誇り、日本の国宝の2%は高野山上にあるといいます。
空海ゆかりの宝物をはじめ、高野山に伝わる寺宝のうち、国宝・重要文化財を含む約60件(そのうち1/3が仏像)が期間中に展示されます。わたしが観に行った日も出品作は40数点と数としては多くありませんが、仏教史・仏像史に残る傑作が多いので、非常に満足度の高い展覧会でした。
会場は3つの章で構成されています。
第1章 大師の生涯と高野山
第2章 高野山の密教指導
第3章 多様な信仰と宝物
最初のコーナーでは、高野山に残る空海請来の遺品をはじめ、空海の伝記をまとめた絵巻や弘法大師像、密教法具などが展示されています。
「諸尊仏龕」は空海が唐から持ち帰ったもの。白檀の内部に仏像を彫り出した厨子で、観音開きの扉を備え、携帯できるようになっていることから「枕本尊」とも呼ばれたといいます。高さ20cmほどの小ぶりな仏龕ですが、彫刻は非常に細密に造られています。3年前に東京国立博物館で開催された『空海と密教美術展』にも出品されていましたね。
「諸尊仏龕」(国宝)
中国・唐時代 8世紀 金剛峯寺蔵
中国・唐時代 8世紀 金剛峯寺蔵
そのほか4階の第一会場には、密教諸尊を視覚化した「両界曼荼羅図」や「板彫胎蔵曼荼羅図」、真言密教の根本仏である大日如来、胎蔵界の不動明王や金剛界の愛染明王にまつわる仏像や仏画が並びます。
快慶 「執金剛神立像」(重要文化財)
鎌倉時代・建久8年(1197) 金剛峯寺
鎌倉時代・建久8年(1197) 金剛峯寺
白檀の一材製で小さな仏像ながらも精緻な截金文様が今も美しい「毘沙門天立像(胎内仏)」やエキゾチックな「大日如来坐像」など珠玉の仏像の中、やはり素晴らしいのは快慶の仏像。
「執金剛神立像」は以前は快慶作と断定されていませんでしたが、近年、仏像の内部から東大寺を再興した僧・重源の要請で快慶が像を作ったことを示す文書が発見されたそうで、本展では快慶作と紹介されていました。端正な作風の快慶にしては珍しいとのことですが、ダイナミックな造形がカッコイイ。
快慶 「四天王立像」(重要文化財)
鎌倉時代・12~13世紀 金剛峯寺
※左から、 持国天、増長天、広目天、多聞天
鎌倉時代・12~13世紀 金剛峯寺
※左から、 持国天、増長天、広目天、多聞天
第一会場の一番奥には同じく快慶の「四天王立像」。上の写真とは順番が異なり、実際には右から「多聞天」「持国天」「増長天」「広目天」の順で並んでいます。快慶とその工房の作とされ、特に最も精巧で力強い「広目天」は快慶作と断定されているようです。東大寺大仏殿に安置されていた四天王像(1567年に焼失)の制作のための雛型とも指摘されているとか。四軀とも忿怒の相を表し、どれも非常に勇壮な姿が見事です。
快慶 「孔雀明王坐像」(重要文化財)
鎌倉時代・正治2年(1200) 金剛峯寺
鎌倉時代・正治2年(1200) 金剛峯寺
さて、3階に降りた第二会場には、中央にどどーんとこれまた立派な「孔雀明王坐像」。高野山・孔雀堂の本尊で、明快な面貌と端正な作風は快慶前半期の特徴とのこと。美しい仏像もさることながら、孔雀の羽を模った光背や台座の孔雀も非常に華やか。
そばには、もとは東寺伝来で、秀吉が高野山に奉納したとされる「五大力菩薩像」が展示されています。5幅あった内の3幅が現存していて、3幅とも期間を替えて1幅ずつ展示。菩薩様なのに怒りに燃えた表情と火焔が強烈な印象を残します。
「五大力菩薩像のうち金剛吼菩薩」(国宝)
平安時代・10~11世紀 有志八幡講蔵 (展示は11/3まで)
平安時代・10~11世紀 有志八幡講蔵 (展示は11/3まで)
最後の第三会場の広い空間には「不動明王坐像」とその眷属である「八大童子像」。会場配置が上手く考えられていて、観やすい高さでじっくり鑑賞できます。高野山に行ってもこんなに間近で観ることなんてできないのではないでしょうか。
八大童子の内、6体は運慶(および一門)の作とされ、阿耨達童子と指徳童子のみ後補だそうです。なるほど運慶作とされる6体と見比べると、後代のものは造りが明らかに違いますし、彩色もされてませんし、何より目が違います。運慶作の6体は玉眼が効果を上げていて、その眼差しは生気に満ち、強い意志すら感じます。リアルな表現力に圧倒されっぱなしです。
運慶 「八大童子像」(国宝)
鎌倉時代・12世紀(内2体は南北朝時代・14世紀) 金剛峯寺
※左から、指徳童子、恵光童子、矜羯羅童子、制多伽童子、烏倶婆誐童子、清浄比丘童子、恵喜童子、阿耨達童子
鎌倉時代・12世紀(内2体は南北朝時代・14世紀) 金剛峯寺
※左から、指徳童子、恵光童子、矜羯羅童子、制多伽童子、烏倶婆誐童子、清浄比丘童子、恵喜童子、阿耨達童子
サントリー美術館の適度な暗さと空間が、高野山の仏像や美術品の荘厳さを失うことなく、ある種の高みすら感じさせる素晴らしい展覧会でした。よくぞここまで貸し出してくれたことに感謝感謝。
【高野山開創1200年記念 高野山の名宝】
2014年12月7日まで
サントリー美術館にて
高野山 (岩波新書)
空海・高野山の教科書
日本美術全集7 運慶・快慶と中世寺院 (日本美術全集(全20巻))
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