2013/09/22

東京国立博物館 秋の特別公開

東京国立博物館の「秋の特別公開」を観てきました。

トーハクでは「博物館に初もうで」や「博物館でお花見を」といった季節に応じた企画を開催していますが、今回は平成館などで特別展のないこの時期に、トーハク所蔵の優品などを公開する「秋の特別公開」が行われています。

料金は、通常の入場料(一般600円)のみ。トーハクの年間パスポートを持ってる人だったら、もちろん無料です。

詳細はトーハクのホームページに譲るとして、秋の特別公開の期間限定公開作品や、そのほかの展示作品を中心に、気になった作品をいくつかご紹介したいと思います。

まず本館2階から。

仏像展示の彫刻室、現在、国宝「華厳宗祖師絵伝 元暁絵 巻上」(京都・高山寺蔵)を公開中(10/6まで)の国宝室を抜けた3室の≪仏教の美術 平安~室町≫には秋の特別公開作品として国宝「円珍戒牒」が展示されています。

【特別公開作品】国宝 「円珍戒牒(円珍関係文書のうち)」(部分)
平安時代・天長10年(833) (展示は9/29まで)

『和様の書』のあとだからか、いつにも増して書の展示が充実しています。『和様の書』で書に興味を持たれた方にはオススメです。

【特別公開作品】重要文化財 「和漢朗詠集巻下(益田本)」(部分)
平安時代・11世紀 (展示は9/29まで)

こちらも秋の特別公開作品の「和漢朗詠集巻下(益田本)」。「和漢朗詠集」は先だっての特別展『和様の書』でも断簡や関戸本が展示されていましたが、益田本は出品されなかったので貴重な機会です。中国・宋の唐紙、染紙に雲母砂子を撒いた料紙や雲紙などを使用した贅沢な逸品です。

重要文化財 「法華経 久能寺経 安楽行品」
平安時代・12世紀 (展示は10/27まで)

そばには美しい久能寺経も展示されていました。『和様の書』に展示されていた国宝「久能寺経」と同じく久能寺に伝わったもので、鳥羽法皇の皇后・待賢門院ら貴族が制作にかかわったとされています。


重要文化財 「土蜘蛛草子絵巻」
鎌倉時代・14世紀 (展示は10/27まで)

≪宮廷の美術 平安~室町≫には、平安時代の武将・源頼光とその郎等・渡辺綱が土蜘蛛を退治する物語の絵巻が展示されています。歌舞伎の舞踊「土蜘」や「蜘蛛の拍子舞」でも知られる土蜘蛛伝説です。やまと絵の美しい絵巻とおどろおどろしい大蜘蛛がとても面白かったです。

【特別公開作品】国宝 伝・周文 「竹斎読書図」
室町時代(文安4年)・1447年 (展示は9/29まで)

≪禅と水墨画 鎌倉~室町≫には秋の特別公開作品・国宝「竹斎読書図」が展示されています。周文の作と伝わる山水画に禅僧が詩を寄せた作品とのこと。周文様式を考える上で最も重要な作品の一つといわれているそうです。

重要文化財 伝・狩野元信 「祖師図(香厳撃竹)」
室町時代・16世紀 (展示は10/27まで)

そばには、もとは大仙院の障壁画の祖師図(現存全6幅)の一部が展示されています。初期狩野派を代表する元信の作とされています。また、元信の弟・之信の作との説もある美しい「花鳥図屏風」も見ものだと思います。

【特別公開作品】重要文化財 酒井抱一 「夏秋草図屏風」
江戸時代・17世紀 (展示は9/29まで)

7室には酒井抱一の最高傑作「夏秋草図屏風」をはじめ、抱一の弟子・酒井鴬浦の「扇面散屏風」、宗達派の「扇面散屏風」が展示されています。


本館は写真撮影が可能なので、気に入った作品の撮影ができるのがいいところ。人が空いていれば、接写だってできます。(※一部、写真撮影不可の作品もあるのでご注意を。また写真撮影する場合、フラッシュはNGです。)

酒井抱一 「四季花鳥図巻 下巻」
江戸時代・文化15年(1818) (展示は9/29まで)

江戸絵画を展示する8室には、抱一の「四季花鳥図巻 下巻」が展示されています。トーハクのサイトでは「四季花鳥図巻」の好きな場面の投票コーナーもありますよ。

金井烏洲 「山水図」
江戸時代・嘉永4年(1851) (展示は9/29まで)

8室では、谷文晁や、文晁に教えを受けた渡辺崋山や金井烏洲、また春木南溟、池大雅、与謝蕪村など南画、文人画が比較的多く展示されていました。

鳥居清長 「風俗東之錦・汐汲み」
江戸時代・18世紀 (展示は10/14まで)

浮世絵を展示する10室では、鳥居清長の作品ばかり32点が展示されています。鳥居派のお家芸の芝居絵をはじめ、「箱根七湯名所」シリーズや「風俗東之錦」、「十体画風俗」など、ちょっとした鳥居清長展です。

鳥居清長 「女風俗十寸鏡・娘」
江戸時代・18世紀 (展示は10/14まで)

さて1階では、14室で特集陳列「運慶・快慶周辺とその後の彫刻」を展示しています。運慶作と推定される2体の大日如来坐像(真如苑蔵および栃木・光得寺蔵)をはじめ、快慶作2点、定慶作1点など運慶・快慶周辺の仏師による仏像を比較展示しています。

[左4つ] 重要文化財 「十二神将立像」 鎌倉時代13世紀 浄瑠璃寺伝来
[右] 「阿弥陀如来坐像」 鎌倉時代12~13世紀 (展示は11/17まで)
 
1階18室≪近代美術 絵画・彫刻≫には平櫛田中の彫刻や、横山大観・下村観山・今村紫紅・小杉未醒らによる「東海道五十三次絵巻(巻第4)」、菱田春草や寺崎広葉、川合玉堂らの作品が展示されています。

長野草風 「高秋霽月」
大正15年(1926)  (展示は9/29まで)

個人的に気になったのが長野草風の「高秋霽月」で、満月の夜空に点々と浮かぶちぎれ雲が幻想的な、抽象的な味わいを醸し出していて、非常に印象に残りました。解説には安田靫彦や小林古径らと研鑽を積んだとありましたが、現在ではほとんど無名とあり、わたしも今回初めて作品に触れました。草風の現存作品は少ないそうですが、他の作品も観てみたいものです。



そのほか、東洋館でも秋の特別公開作品が展示されていますのでお見逃しなく。

9/17から本館手前の表慶館(重要文化財)の中も1階のみですが一般公開されています。イスとテーブルも置いてあり、休憩スペースとして利用可能です。

また、休館中の黒田記念館(芸大前)には上島珈琲店が先日オープンしました。スペースの関係でちょっと混んでますが、テラス席もあり、これからの季節、気持ちよさそうです。

秋の特別公開は9/29(日)まで。お早目に!





秋の特別公開
日程: 2013年9月18日(水) ~ 2013年9月29日(日)
休館日: 毎週月曜日 ただし9/23(月・祝)は開館、翌9/24(火)は休館
観覧料:一般600円、大学生400円
詳しくは東京国立博物館のウェブサイトでご確認ください。


日テレムック ぶらぶら美術・博物館プレミアムアートブック2013-2014日テレムック ぶらぶら美術・博物館プレミアムアートブック2013-2014


おとなのぴあ 2013秋ー2014春 首都圏 絶対見るべき美術展完全案内 (ぴあMOOK)おとなのぴあ 2013秋ー2014春 首都圏 絶対見るべき美術展完全案内 (ぴあMOOK)

2013/09/21

竹内栖鳳展

東京国立近代美術館で開催中の『竹内栖鳳展 近代日本画の巨人』に行ってきました。

去年も山種美術館で『竹内栖鳳 -京都画壇の画家たち』があったばかりなので、どーしようかなぁと思ったのですが、出展作品数も多く、代表作とされるものが一堂に介すようですので、こういう機会は今後あまりないかと思い、足を運んできました。

山口晃さんが著書『ヘンな日本美術史』の中で、「あまりに突き抜けた上手さにまで到達して、その上手さが鼻に付かなくなるくらいになることで、『上手のいやらしさ』から脱却」した画家として、西洋画ではルーベンスを、日本画では竹内栖鳳の名を挙げていますが、プロの画家が歴史上の名だたる画家の中でも栖鳳の名を引き合いに出すほどですから相当なのだと思います。その「突き抜けた上手さ」を実感する展覧会です。


【第1章 画家としての出発 1882-1891】

「東の大観、西の栖鳳」と称されるように、竹内栖鳳は明治から昭和戦前にかけての京都画壇を代表する日本画家。もとは四条派の土田英林、そして同派の名手・幸野楳嶺に学び、すぐに頭角を現したといいます。楳嶺がもとは円山派の出ということもあり、円山派の事物観察と四条派の軽妙洒脱な筆遣いによる情緒表現を身につけた栖鳳は、さらに狩野派など他派の筆法も貪欲に吸収。さまざまな流派を寄せ集めて描いたその画は「鵺派」と揶揄されたそうです。

竹内栖鳳 「池塘浪静」
明治20年代 京都市美術館蔵

初期の代表作「池塘浪静」は鯉を円山派、萱を四条派、岩を狩野派の画法で描くことで、画壇の古い習慣を打ち破ろうとしたという作品。そばには雪舟の「山水長巻」や高山寺の「鳥獣人物戯画」の模写や鳥類などの写生帖も展示されていて、伝統的な画題や伝統的な筆致の修練に余念がなかった様子がうかがえます。


【第2章 京都から世界へ 1892-1908】

時代は明治も後半、政府の欧化政策により西洋美術教育に力が入れられる一方、その反動で岡倉天心らにより日本画の復興が叫ばれていた時期でもあります。栖鳳はその中で、西洋画に負けない日本画の創作を目指したといいます。1900年から7ヶ月に及ぶヨーロッパ旅行で西洋画に強い衝撃を受けた栖鳳は、以降西洋画に感化された作品を多く発表するようになります。

竹内栖鳳 「虎・獅子図」
明治34年(1901年) 三重県立美術館蔵 (展示は9/23まで)

この章のメインは、ヨーロッパの動物園で初めて目にしたというライオン(獅子)や虎、象といった動物を描いた屏風のコーナー。ライオンのタテガミが細い墨線で一本一本丁寧に描かれていて、もっさりとゴワゴワした感じまで伝わってくるようです。しなやかな筋肉や今にも動きそうな尻尾もかつての日本画にはないリアリティで、巧みな描写が目を見張ります。「虎・獅子図」のライオンが寄りかかる木は水墨画的な勢いあるタッチで描かれ、一枚の屏風に混在する写実と古典の描写の妙に驚かされます。虎の縞模様の描き分けも見事で、虎の息づかいまで感じ取れるようです。

竹内栖鳳 「金獅」
明治34年(1901年) 株式会社ボークス蔵

そのほか、今にも動きだしそうな躍動感のある「象図」や、自宅に猿を飼って写生を徹底し描いたという「飼われたる猿と兎」、一転文人画風の「洞天鳴鶴・仙壇遊鹿」、またヨーロッパ渡航前の作品としては源平の富士川の合戦を描いた「富士川大勝」、まだ円山派の写実を感じる「枯野狐」や雀の群れと犬の親子が和む「百騒一睡」など非常に充実した作品群を観ることができます。

四代 飯田新七作、竹内栖鳳原画 「ベニスの月」(ビロード友禅)
明治40年(1907年) 大英博物館蔵

途中には≪美術染色の仕事≫という特集展示がありました。栖鳳は一時期、高島屋の図案部にいたことがあり、 美術染織や刺繍の原画などを手掛けていたそうです。会場には栖鳳が原画を描いたビロード友禅の「ベニスの月」という作品が展示されてます。友禅というからには染物なのですが、全く染物には見えないというか、ベニスを描いた水墨画にしか見えません。そばには刺繍の「雪中松鷹」と栖鳳の原画「雪中蒼鷹図」があり、原画がどのように刺繍に仕上がるのかを見る上でも大変興味深かかったです。


【第3章 新たなる試みの時代 1909-1926】

ここでは明治末から大正期にかけての作品を展示しています。多くの弟子を抱え、また文展の審査員となるなど、日本美術界でも確固たる地位を確立しますが、一方で伝統的な山水表現に西洋の遠近法を取り入れたり、心情描写を試みたり、新たな表現の創出に意欲的な様子がその作品から見て取れます。

竹内栖鳳 「アレ夕立に」
明治42年(1909年) 高島屋史料館蔵 (展示は10/8から)

栖鳳の人物画はそれほど多くないのですが、モデルが服を脱ぐ瞬間の恥じらいを切り取った「絵になる最初」や、長い間行方不明で昨年95年ぶりに所在が確認された「日稼」などが展示されています。後期には代表作の「アレ夕立に」も展示されます。

また、東本願寺の天井絵(未完)のための裸婦の素描や天女画の試作「散華」などもありました。天女を描くためにヌードモデルに様々なポーズをさせ写生を行うなど(結局そのモデルが急死し、計画は頓挫してしまったらしい)、栖鳳のこだわりがうかがえます。

竹内栖鳳 「蹴合」
大正15年(1926年)

このほか、山種美術館での竹内栖鳳展でも話題になった「熊」、金地に描かれた雀がかわいい「喜雀図」、軍鶏の羽ばたきやけたたましい声が聞こえてきそうな「蹴合」などが展示されています。後期には重要文化財の「斑猫」が登場します。

竹内栖鳳 「羅馬之図」
明治36年(1903年) 海の見える杜美術館蔵 (展示は9/23まで)

特集展示の≪旅≫では、ローマの遺跡の風景を水墨画風の屏風に仕立てた「羅馬之図」、中国・蘇州の印象を描いた「城外風薫」や「南清風色」、また栖鳳が好んで写生に出かけたという潮来を描いた「潮来風色」、雪舟風の壮観な山水屏風「千山万壑之図」などが展示されています。

竹内栖鳳 「城外風薫」
昭和5年(1930年) 山種美術館蔵 (展示は9/23まで)


【第4章 新天地をもとめて 1927-1942】

昭和期の晩年の作品を集めています。この頃、栖鳳は体調を崩し、転地療養で湯河原へ赴くもその地を気に入り、回復後も湯河原と京都を行き来したそうです。老いてなお精力的に活動を続け、意欲的な実験的な作品も試みていたようです。晩年の作品では、鹿の動きと表情が素晴らしい「夏鹿」や、二頭の龍が争い絡まりあっている「二龍争珠」、枯れた蓮とシジュウカラが印象的な「しぐるる池」、物語性を感じる「おぼろ月」、濡れそぼった木の微妙な色加減で湿潤な空気を見事に表した傑作「驟雨一過」、初期の「虎・獅子図」の虎ともまた異なる、熟達した境地を感じさせる「雄風」などが展示されています。

竹内栖鳳 「驟雨一過」
昭和10年(1935年) 京都市美術館蔵

最後には特集展示≪水の写生≫を紹介。栖鳳は生涯を通じ、≪水≫というモチーフにこだわりをみせていたそうで、ここでは初期から晩年まで川や滝を描いた作品を展示しています。一番最後に飾られていた「渓流(未完)」は完成していればどれだけ素晴らしかっただろうと思わずにいられない作品でした。

人気の高い近代日本画家、竹内栖鳳の作品は比較的観る機会がありますが、本展は過去最大の回顧展とのこと。前後期で一部入れ替えがありますが、写生など関連作品もあわせると180点というボリュームになります。個人蔵の作品も多く、非常に充実した展覧会でした。


※当ブログで紹介した作品には前期展示のものがあります。前期後期で展示作品が異なりますのでご注意ください。


【竹内栖鳳展 近代日本画の巨人】
2013年10月14日(日)まで
東京国立近代美術館にて



竹内栖鳳: 京都画壇の大家 (別冊太陽 日本のこころ 211)竹内栖鳳: 京都画壇の大家 (別冊太陽 日本のこころ 211)


もっと知りたい 竹内栖鳳 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい 竹内栖鳳 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

2013/09/20

九月大歌舞伎「不知火検校」


新橋演舞場で九月大歌舞伎・夜の部を観てきました。

今月は歌舞伎座では若手による花形歌舞伎、演舞場ではベテラン勢による大歌舞伎。歌舞伎座の影であまり話題になってないのですが、高麗屋の『不知火検校』の評判が良いようなので、急遽チケットを求め、観劇して参りました。

『不知火検校』は宇野信夫・作の新歌舞伎。初演は昭和35年で実に36年ぶりに上演だそうです。後に勝新太郎主演で映画化され、それが進化を遂げたのが『座頭市』。本公演では「松本幸四郎悪の華 相勤め申し候」と添え書きされているように、幸四郎がその極悪非道の限りを尽くす検校を見事に演じています。

非道な話ではありますが、筋が良くできていて、世話物の面白さもあります。また、検校の台詞一つ一つが小気味よく、そこに不思議な魅力というか、悪のカリスマ性(=悪の華)を感じます。金にも色にも欲深く、いろんな意味で“オトナ”の歌舞伎でした。

この検校を幸四郎がしっかりと自分のものにしていて素晴らしいの一言。勧善懲悪などではなく、徹底して悪(ヒール)なのですが、ときおり見せるとぼけた味もユーモアと悪賢さが表裏一体になっていて、そのあたりの見せ方はさすが巧いなと思いました。声や表情の変化が巧みで、ただただ圧倒されます。謡い弾きもあり、幸四郎の芸を存分に堪能できました。これまで観た幸四郎の役では一番好きかも。

悪行の仲間の橋之助、彌十郎、亀鶴がそれぞれに持ち味を上手く活かして好演。孝太郎、魁春、友右衛門、錦吾、高麗蔵、左團次といったベテラン勢が要所要所をしっかりと押さえ、舞台に厚みを持たせていました。初代検校の桂三、妻の鴈之助の金に目が眩んだ夫婦も特筆に値する上手さ。検校の子供時代を演じた玉太郎が器用。唯一若手の巳之助・壱太郎のカップルも華を添えてました。

途中、歌舞伎座で上演中の『新薄雪物語』の一節を口にしたり、座頭市ネタがあったりというサービスも。初演が十七世勘三郎だっただけに、勘三郎が演じても良かっただろうなとも思いました。幸四郎の悪の華とはまた違った悪というか、より凄惨な味がでたのではないかと。叶わぬ夢でありますが…。

〆は『馬盗人』。翫雀が三津五郎休演の代役をかって余りある健闘ぶり。翫雀のユーモラスな味が十二分に発揮されて楽しい。巳之助も大活躍。橋之助もこういう芝居は上手い。この狂言の主役はなんといっても馬(大和・八大)で、これが傑作。客席もやんややんやの大喝采でした。最後は六方で花道を引込みます。救いのない芝居のあとだけに、笑って帰れて良かったと思います。

九月花形歌舞伎「新薄雪物語」


歌舞伎座で九月花形歌舞伎を観てきました。今月は昼の部のみ。創作歌舞伎はあまり好みでないので、『陰陽師』はパス。

さて、昼の部は古典で『新薄雪物語』の通し狂言。難しい演目とされ、あまりかからない芝居です。

幕が上がると桜満開の清水寺が舞台の「花見」。左衛門と薄雪姫の恋の駆け引きが繰り広げられます。薄雪姫に梅枝、左衛門に勘九郎、薄雪姫の腰元籬に七之助、左衛門の奴妻平に愛之助。さすが若手が揃う花形歌舞伎だけあり、華やかで楽しい雰囲気があります。ただ薄雪姫の梅枝は折角のいい役なのに、役を活かしきれていないというか、印象が薄いのが残念。七之助も少し浮き足立ってる感じで、大名の腰元にあまり見えないのが難。海老蔵の秋月大膳はさすがの迫力。海老蔵はこうした役が似合います。愛之助の立ち回り(といっても動き回るのは名題下の方ですが…)は見応えがありました。

つづいて「詮議」。奉納された刀に天下調伏のやすり目を入れたとして、左衛門と薄雪姫に謀反の疑いがかかるという場面。左衛門の勘九郎が優男というか柔な感じで、興奮すると声が高くなる悪い癖が出て、しめなくてはならない場面が軽くなってしまいます。海老蔵はここでは執権葛城民部として今度は善役を抑制を利かせた演技で見せ、なかなか良いのですが、どうしても先ほどの悪役のイメージが重なり、この裁きが温情ではなく何か裏があるのではないかと思えてしまいました。これは難しいところですが、もう少しおおらかさがあっても良かったかなとも思います。

最後は、左衛門が松緑・吉弥の幸崎家、薄雪姫が染五郎・菊之助の園部家に預けられての「広間」と「合腹」。若手実力派の松緑と染五郎はさすがに巧いのだけれど、やはり老熟の味を出すにはまだまだ若く、声の出し方や動きに工夫は見られても、若さがチラついてしまうというか、肝で演じようとしているのは伝わるけれども、ハラに深みがまだ足らない気がします。このあたりはしょうがないのかもしれませんが、全体に重厚感が欠けてしまったのは否めないところです。陰腹を見せるところで客席から笑いが起きてしまい、若手にはまだ荷が重かったのかなと思わざるを得ませんでした。

さすがに吉弥と菊之助は安定していて、特に菊之助の存在感が群を抜いていたのは特筆すべきところ。難しい「三人笑」の菊之助は圧巻でした。松緑も染五郎もそれなりに良かったと思うのですが、なにせ菊之助が素晴らしいために、差が開いて見えてしまった気がします。

もちろん30代中心の花形役者に60代のベテラン役者のレベルを求めることが無理なことは誰も分かってるわけで、若手花形役者なりに健闘していることは十分評価に値すると思います。花形役者のファンはみんな素晴らしいと言うでしょうが、それを真に受けてしまっては役者の成長はありません。歌舞伎に求められる技術はその程度ではないはずで、そもそも今回の公演は若手の勉強も兼ねてのものだと思います。10年後、20年後の彼らの姿に期待したいと思います。

2013/09/15

速水御舟 -日本美術院の精鋭たち-

山種美術館で開催中の『速水御舟 -日本美術院の精鋭たち-』に行ってきました。

山種美術館が現在の地に移転した際にも開館記念として速水御舟の特別展を開催していますが、それ以来4年ぶりの御舟の展覧会です。

本展は速水御舟の作品を中心に、100年以上の歴史をもつ日本美術院の初期を代表する日本画家たちの作品と併せて構成されています。山種美術館は院展の画家の作品を数多く所蔵していて、その中で最も重要な画家が御舟であると入口の解説にありました。全63点(参考出品を除く)の出品作品の内、御舟の作品は29点展示されています。

会場に入ったすぐのところに展示されていたのが、御舟の「牡丹花(墨牡丹)」。牡丹の花弁を墨の濃淡と滲みで表現し、その気高く凛とした佇まいに見とれます。御舟の数ある作品の中でも個人的に大好きな一枚です。

速水御舟 「牡丹花(墨牡丹)」
1934年(昭和9年)


【第1章 再興日本美術院の誕生】

資金難や創設者・岡倉天心の渡米などもあり解散状態にあった日本美術院を再興した横山大観、下村観山、菱田春草の作品を紹介しています。最初に登場するのが菱田春草の「雨後」と「釣帰」。ともに朦朧体による作品ですが、特に「雨後」は靄に包まれた山々や滝の飛沫といった湿潤な空気感が見事に表現されていて秀逸です。

横山大観 「喜撰山」
1919年(大正8年)

横山大観 「富士」
1935年(昭和10年)頃

つづいて下村観山が2点。内一点は今春開催された『琳派から日本画へ』にも出品されていた「朧月」。朧月というタイトルにもかかわらず月は描かず、淡い月光に照らされた2本の竹を朦朧体で描いた傑作です。

大観は、金箋紙に描くことで独特の色の表現に成功した「喜撰山」や、朦朧体による瀑布と濃墨の岩木の描写が素晴らしい「華厳瀑」、雲海に浮かぶ富士山がなんとも美しい「富士」などが展示されています。


【第2章 速水御舟と再興院の精鋭たち】

ここでは御舟の作品を中心に、兄弟子の今村紫紅や同期の小茂田青樹などの作品を併せて紹介しています。

速水御舟 「山科秋」
1917年(大正6年)

「山科秋」は御舟初期の作品で、今村紫紅の影響を受けて描いた南画風の風景画。御舟が当時こだわっていたという群青や緑青の色合いが印象的です。初期の作品としては、『琳派から日本画へ』にも出品されていた御舟19歳の頃の作品「錦木」も展示されていました。こちらは琳派を意識し、白い胡粉を使い効果を上げています。御舟が伝統的な日本画をさまざまに吸収し、試行錯誤している様子がうかがえます。

速水御舟 「昆虫二題(葉陰魔手・粧蛾舞戯)」
1926年(大正15年)

「昆虫二題」は御舟の代表作「炎舞」の翌年の制作ということで、「粧蛾舞戯」は朱色の光に集まる蛾の群れに「炎舞」のイメージが重なります。一方の「葉陰魔手」にはヤツデに絡まるクモの巣が描かれ、妖しげで幻想的な風景を創り上げています。

速水御舟 「翠苔緑芝」
1928年(昭和3年)

御舟のもうひとつの重要文化財「名樹散椿」は今回は出品されていませんが、その前年に描かれた代表作のひとつ「翠苔緑芝」が展示されていました。金地に緑の芝や木々、紫陽花が映え、かわいいウサギがアクセントになっている、琳派風のモダンで美しい屏風です。

速水御舟 「椿ノ花」
1933年(昭和8年)

速水御舟 「白芙蓉」
1934年(昭和9年)

御舟はほかにも、たらしこみによる柔らかな花と深塗りにより葉の硬さを表現した「椿ノ花」、胡粉で表現したという白い花弁がハッとするほど美しい「白芙蓉」、小さな茄子の実とバッタがアクセントになっている「秋茄子」、また最晩年の未完の作「盆栽梅」など小品が多く展示されています。その中でも特に、関東大震災で瓦礫と化した東京を描いた「灰燼」は西洋画のような一枚でとても強く印象に残りました。

前田青邨 「大物浦」
1968年(昭和43年)

同じコーナーには、安田靫彦、前田青邨、小倉遊亀、奥村土牛の作品も展示されています。インパクトという点では、大きな波にもまれる舟をダイナミックな構図で描いた青邨の「大物浦」や、金地に日本舞踊を舞う祇園の舞妓と芸者を描いた小倉遊亀の「舞う」はしばし足を止め見入ってしまいました。


【第3章 山種美術館と院展の画家たち】

速水御舟 「炎舞」(重要文化財)
1925年(大正14年)

入口の左側にある第2室には御舟の代表作「炎舞」が展示されています。炎は仏画や絵巻の表現を踏襲しているとありました。御舟が「もう一度描けと言われても二度と出せない色」と語っているように、赤でも朱でもオレンジでもない火焔の微妙な色調、そして炎が照らす闇の赤さは何とも表現しがたいものがあります。少しほの暗い展示室の中でLEDのスポットライトに照らされた「炎舞」はこれまで何度か観た中でも一番美しさが引き立ち、幻想的に見えました。

片岡球子 「鳥文斎栄之」
1976年(昭和51年)

ここにはほかにも横山大観や安田靫彦、前田青邨などの作品が展示されています。片岡球子の「鳥文斎栄之」は初めて拝見しましたが、片岡球子らしい独特のタッチの人物描写とは裏腹にバックの浮世絵がちゃんとした美人画で、フツーの絵も描けるじゃないと思いました(笑)。 

考えてみると御舟は40歳の若さで亡くなったにもかかわらず、近代日本画を代表する作品をいくつも残していて、もし御舟がもう少し長く生きていたら、どんな作品を描き、近代日本画にどんな影響を与えていただろうかと思わずにはいられませんでした。


【速水御舟 -日本美術院の精鋭たち-】
2013年10月14日(月)まで
山種美術館にて


速水御舟―日本画を「破壊」する (別冊太陽 日本のこころ 161)速水御舟―日本画を「破壊」する (別冊太陽 日本のこころ 161)


もっと知りたい速水御舟―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい速水御舟―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

2013/09/11

琳派・若冲と花鳥風月

千葉市美術館で開催中の『琳派・若冲と花鳥風月』展に行ってきました。

本展は、千葉市美術館の数あるコレクションの中から花鳥風月を題材とした絵画を展示した展覧会です。

板橋区立美術館と同様、こちらも所蔵作品展。千葉市美術館はスペースも広いので、出品数は123点と多いのですが、所蔵作品展のため料金はたったの200円! 千葉市美術館はタイトルにあるように琳派や若冲など江戸絵画のコレクションに定評があるので、その作品のレベルは企画展並。内容は非常に充実しています。それがたったの200円で観られるのですから、素晴らしい!!

タイトルには琳派と若冲の名を前面に押し出していますが、若冲は8点、琳派も10数点と出品数はそれほど多くありません。琳派や若冲に限らず江戸絵画(一部明治以降の作品もあり)から花鳥画の優品を集め、それぞれテーマに合わせ、作品を紹介しています。


第一章 「四季」

第一章では四季の美しさを描いた四季花鳥図屏風などを中心に展示をしています。

会場を入るとまず目に入るのが、狩野派の「瀟湘八景図屏風」。もとは江戸初期の絵師・松本山雪の作とされていたそうですが、最近の研究では狩野山楽・山雪周辺の絵師によるものと推定されるとありました。山楽・山雪あたりの作品となると俄然興味が湧きます。

琳派でいうと、やはり其一の「芒野図屏風」でしょう。一面のススキの野原に霧が漂う様をデザイン化したような銀地の屏風からは秋の静けさや寂しさ、またひんやりした空気感とともにどこか幻想的な雰囲気が伝わってきます。

鈴木其一 「芒野図屏風」
江戸時代・天保後期~嘉永期頃 千葉市美術館蔵

ほかに、松村景文のいわゆる桃李園図の「春秋唐人物図屏風」や、森徹山の「春秋花鳥図屏風」が個人的にかなり好み。森徹山は猿の絵で有名な森狙仙の甥で円山応挙に学んだという人ですが、図案的な紅葉の葉や色の濃さが応挙というよりどこか鈴木其一を思わせ、また鳥の描写が写実的というか博物学的で非常に良かったと思います。そばには徹山の弟子・森寛斎の屏風もあり、こちらは瀟洒な美しさというんでしょうか、四季の植物や鳥が非常に端正な筆致で描かれていて印象的でした。


第二章 「花」

つづいて花鳥風月の「花」。特に印象が強かったのが、河田小龍の「花鳥図」で、春、夏、そして秋冬の三幅にそれぞれ芍薬やタイツリ草、スミレ、葵や百合、牡丹や水仙、菊など、そして季節の昆虫が描かれ、美しさのみならず、濃厚で、どこか妖しげな雰囲気さえ漂う、非常に腕の冴えを感じる作品でした。河田小龍のことは全然知らなかったのですが、土佐の絵師で、長崎で蘭学などを学び西洋事情に詳しかったこともあり、坂本龍馬とも親交があったのだそうです。

河田小龍 「花鳥図」
江戸時代末期~明治時代 千葉市美術館蔵

そばにあった諸葛監の「牡丹燕図」も南蘋派らしい、美しい花鳥図でした。本展は、松村景文や岡本秋暉、諸葛監といった花鳥画を得意としている絵師の優品が多く、そこが非常に魅力的だったと思います。

狩野栄信 「草虫図」
江戸時代・享和二年~文化13年(1802~1816) 千葉市美術館蔵

ほかにも、中国の草虫図の影響を受けたという狩野栄信の「草虫図」や、松村景文の「秋草図」などが印象的でした。また、酒井抱一や鈴木其一、また池田孤邨や酒井道一、山田抱玉といった抱一の門弟たち、さらには谷文晁や文長の弟子の鈴木鵞湖の作品など、幅広く江戸絵画の花鳥画を紹介しています。

小原古邨 「朝顔にかまきりと蜂」
明治時代末期~昭和時代初期頃 千葉市美術館蔵

会場の所々には、小原古邨の花鳥画の錦絵が展示されています。古邨の花鳥版画は主として輸出用として持て囃されたそうで、日本の伝統的な画題を描きながらも、どこか西洋趣味的な趣があったりして、独特の美しさが目を引きます。


第三章 「鳥」

まず印象に残ったのが、曽我二直菴の「架鷹図屏風」。一扇に一羽ずつ鷹を描いた押絵貼りの屏風(六曲一双)で、少々色焼けしてしまっているのが残念ですが、鷲鷹を描かせたら右に出る者がいないとまで言われた二直菴だけあり、鷹の迫力、獰猛さ、そして気高さが伝わってくる素晴らしい屏風でした。

曽我蕭白 「竹に鶏図」
江戸時代・明和元年(1764)頃 摘水軒記念文化振興財団蔵

同じ曽我派を名乗る蕭白の「竹に鶏図」も異彩を放っていました。隣には敢えて伊藤若冲の「鶏図」をぶつけてきて、それぞれのアプローチの違いがよく比較できて面白かったです。

岡本秋暉 「鶴図(若冲写)」
江戸時代後期 摘水軒記念文化振興財団蔵

若冲といえば、若冲の「群鶴図」(プライス・コレクション所蔵)を模した岡本秋暉の「鶴図」という作品もありました。並びには若冲の「旭日松鶴図」も。若冲ではこのほか、「鷹図」や「鸚鵡図」が展示されています。

諸葛監 「白梅小禽図」
江戸時代・明和~天明期頃 千葉市美術館蔵

このコーナーの白眉は岡田閑林の「玉堂富貴孔雀小禽図」で、沈南蘋風の華麗で、色彩が非常に美しい花鳥画でした。岡田閑林は谷文晁の門人とのことで、この人の絵をもっと観てみたいと思わせる作品でした。ほかにも南蘋派の宋紫石や諸葛監の作品が個人的にはかなり好きでした。


第四章 「風月」

ここでは雨、雪、月、水といった天候や自然現象を描いた作品を中心に取り上げています。昨年の『蕭白ショック!!』にも展示されていた蕭白の「虎渓三笑図」がありました。やはりいつ見ても驚愕の水墨画です。

曽我蕭白 「虎渓三笑図」
江戸時代・安永期頃 千葉市美術館蔵

ほかにも若冲の「月夜白梅図」や宋紫石の「雨中軍鶏図」、岸駒の「鶴図」、また近代日本画の橋本関雪の「水城暮雨図」あたりが良かったと思います。


第五章 「山水」

「山水」で良かったのが、雲谷等益の「山水図屏風」。雪舟の「山水長巻」を徹底的に学んだというだけあり、雪舟的な水墨表現は見応えがあります。また、谷文晁の「松間観瀑図」と並んで展示されていた文晁の弟子・鈴木鵞湖の「救蟻図」も師の作品を彷彿とさせ、印象的でした。

鈴木鵞湖 「救蟻図」
江戸時代・文久二年(1862) 千葉市美術館蔵

コーナーの一角には、若冲の拓版画「乗興舟」の一部場面も展示されています。

伊藤若冲 「乗興舟」(一部)
江戸時代・明和四年(1767)刊 千葉市美術館蔵


第六章 「人物」

花鳥風月でなんで人物?と思うのですが、花鳥風月を愛でるのは人間だからということのようです。酒井抱一や鈴木其一といった琳派の作品の中で目を引いたのが、抱一の弟子・田中抱二の「伊勢物語・四季花鳥図」。伊勢物語はよく取り上げられる画題ですが、そこに花鳥画を組み合わせ、非常に清楚で、品のある画面構成を作り上げています。

田中抱二 「伊勢物語・四季花鳥図」(六幅の内一幅)
江戸時代後期 千葉市美術館蔵

そのほか其一の子・鈴木守一「桜花美人図」や若冲の楽しげな「雷神図」などが展示されています。

伊藤若冲 「雷神図」
江戸時代・宝暦後期~明和初期頃 千葉市美術館蔵


第七章 「琳派の版本」

版本とはいわゆる木版本などのように刷られた本ということですが、琳派の版本の場合、それはほとんどデザイン見本帖のような趣があります。酒井抱一の「光琳百図」や中村芳中の「光琳画譜」のほか、いくつかの光琳の作品や図案をまとめた冊子があり、江戸の絵師たちは光琳を相当研究していたんだなと感じます。明治の絵師・神坂雪佳の図案集が数点あり、琳派の意匠をさらにモダンにしたようなデザインでとてもいいなと思いました。

ただの所蔵作品展だと侮れない、素晴らしい作品が多く、あらためて千葉市美術館のコレクションの凄さを痛感しました。オススメの展覧会です。


【琳派・若冲と花鳥風月】
2013年9月23日(月)まで
千葉市美術館にて


琳派・若冲と雅の世界琳派・若冲と雅の世界


酒井抱一と江戸琳派の全貌酒井抱一と江戸琳派の全貌


江戸絵画入門―驚くべき奇才たちの時代 (別冊太陽 日本のこころ 150)江戸絵画入門―驚くべき奇才たちの時代 (別冊太陽 日本のこころ 150)