2013/12/27


青山スパイラルで鈴木京香の一人芝居『声』を観てきました。

1時間強の一幕もので、主人公の女性が電話越しの恋人に語りかけるというモノローグです。原作(戯曲)はジャン・コクトー。三谷幸喜がコクトーの芝居を演出するというので、もしや去年のチェーホフみたいになるのかと一抹の不安があったのですが、奇を衒うこともなく、鈴木京香という素材だけで正面から勝負したという感じでした。

恋人とは別れ話が持ち上がっていて、彼女は彼を引き止めたくて“いい女”を演じようとします。しかし、彼には別の女性の存在が見え隠れし…。

『声』の初演はコメディ・フランセーズだそうで、有名なところではロベルト・ロッセリーニ監督の映画『アモーレ』(第一部『人の声』)でのアンナ・マニャーニの怪演が知られます。ほかにも、何の因縁かロッセリーニをマニャーニから奪ったイングリッド・バーグマンもアメリカ復帰後にテレビ映画で演じています。日本での初演は杉村春子というぐらいですから、演技派女優の腕の見せどころといった芝居なんだと思います。それを今や日本を代表する演技派、鈴木京香がどう演じるかが見もの。

私自身はマニャーニ版とバーグマン版を観ていますが、マニャーニはマニャーニの、バーグマンはバーグマンの味があったように、鈴木京香は鈴木京香らしい色気と愛らしさといじらしさを感じさせる『声』でした。

二人の関係を元に戻したいと願うも、もう彼女の“声”が彼の心に届くことはない。そんな切ない女心を現代の等身大の女性として演じていたと思います。それは自立した現代的な女性。男性に依存しなくても生きていけるのかもしれません。でも、恋人という支えがないと崩れてしまう、そんな女性の弱さが伝わってきます。

今や携帯電話やメールの時代、もう長電話という言葉も懐かしい響きがあります。そうした前時代的な芝居を、現代的な女性が演じるという難しさ、違和感も少なからず感じもしました。ただそれが、昔も今も変わらない女性の強さと弱さを表現したのだと捉えれば、納得もできます。

戯曲に忠実ということもあり、三谷幸喜カラーはほとんど感じませんでしたが、開演前に流れてた楽しげのシャンソンや、劇中鈴木京香が時折見せるコケティッシュぶりは三谷幸喜らしさでしょうか。「悲劇と喜劇は裏表」とはいえ、喜劇ではないので三谷幸喜ファンには物足らなさもあるかもしれませんが、こういう芝居を時々挑戦してくれると演劇ファンとしては楽しみになってくるなと思います。


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