2013/09/20
九月花形歌舞伎「新薄雪物語」
歌舞伎座で九月花形歌舞伎を観てきました。今月は昼の部のみ。創作歌舞伎はあまり好みでないので、『陰陽師』はパス。
さて、昼の部は古典で『新薄雪物語』の通し狂言。難しい演目とされ、あまりかからない芝居です。
幕が上がると桜満開の清水寺が舞台の「花見」。左衛門と薄雪姫の恋の駆け引きが繰り広げられます。薄雪姫に梅枝、左衛門に勘九郎、薄雪姫の腰元籬に七之助、左衛門の奴妻平に愛之助。さすが若手が揃う花形歌舞伎だけあり、華やかで楽しい雰囲気があります。ただ薄雪姫の梅枝は折角のいい役なのに、役を活かしきれていないというか、印象が薄いのが残念。七之助も少し浮き足立ってる感じで、大名の腰元にあまり見えないのが難。海老蔵の秋月大膳はさすがの迫力。海老蔵はこうした役が似合います。愛之助の立ち回り(といっても動き回るのは名題下の方ですが…)は見応えがありました。
つづいて「詮議」。奉納された刀に天下調伏のやすり目を入れたとして、左衛門と薄雪姫に謀反の疑いがかかるという場面。左衛門の勘九郎が優男というか柔な感じで、興奮すると声が高くなる悪い癖が出て、しめなくてはならない場面が軽くなってしまいます。海老蔵はここでは執権葛城民部として今度は善役を抑制を利かせた演技で見せ、なかなか良いのですが、どうしても先ほどの悪役のイメージが重なり、この裁きが温情ではなく何か裏があるのではないかと思えてしまいました。これは難しいところですが、もう少しおおらかさがあっても良かったかなとも思います。
最後は、左衛門が松緑・吉弥の幸崎家、薄雪姫が染五郎・菊之助の園部家に預けられての「広間」と「合腹」。若手実力派の松緑と染五郎はさすがに巧いのだけれど、やはり老熟の味を出すにはまだまだ若く、声の出し方や動きに工夫は見られても、若さがチラついてしまうというか、肝で演じようとしているのは伝わるけれども、ハラに深みがまだ足らない気がします。このあたりはしょうがないのかもしれませんが、全体に重厚感が欠けてしまったのは否めないところです。陰腹を見せるところで客席から笑いが起きてしまい、若手にはまだ荷が重かったのかなと思わざるを得ませんでした。
さすがに吉弥と菊之助は安定していて、特に菊之助の存在感が群を抜いていたのは特筆すべきところ。難しい「三人笑」の菊之助は圧巻でした。松緑も染五郎もそれなりに良かったと思うのですが、なにせ菊之助が素晴らしいために、差が開いて見えてしまった気がします。
もちろん30代中心の花形役者に60代のベテラン役者のレベルを求めることが無理なことは誰も分かってるわけで、若手花形役者なりに健闘していることは十分評価に値すると思います。花形役者のファンはみんな素晴らしいと言うでしょうが、それを真に受けてしまっては役者の成長はありません。歌舞伎に求められる技術はその程度ではないはずで、そもそも今回の公演は若手の勉強も兼ねてのものだと思います。10年後、20年後の彼らの姿に期待したいと思います。
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