スペインが誇るマドリード・リアリズム(スペイン・リアリズムとも)の巨匠、今も現役のアントニオ・ロペス・ガルシアの日本初の展覧会です。
「私の制作のせいで稀にしか個展を開催できなかった」と入口にところにロペスのコメントがありました。非常に寡作の画家だそうで、本展はロペスの7度目の展覧会ということです。
アントニオ・ロペスというと、同じくスペインの映画監督ビクトル・エリセの『マルメロの陽光』という作品で取り上げられ、私自身もその映画を観て彼のことを知ったのですが、しばらく忘れていたところに、一昨年、礒江毅の展覧会で再び彼の名を思い出し、スペインのリアリズム絵画をちゃんと観てみたいなと思っていたところでした。
チラシの絵からも分かるように、一瞬「写真?」と思うような超絶リアルなその画風にはただただ驚かされるばかりです。実際の作品を今回初めて拝見しましたが、並みのリアリズム絵画とは一線を画す技術と特殊性、そして魅力にあふれた画家であることを再認識しました。
会場はアントニオ・ロペスの描くモチーフ別に、≪故郷≫、≪家族≫、≪植物≫、≪マドリード≫、≪静物≫、≪室内≫、≪人体≫というように分かれています。
アントニオ・ロペス 「花嫁と花婿」
1955年 国立ソフィア王妃芸術センター蔵
1955年 国立ソフィア王妃芸術センター蔵
初期の作品はとりわけ写実主義という感じはありません。会場に入ってすぐのところに飾られていた17歳の頃の作品「パチンコを撃つ少年」などは、キュビズムやシュルレアリスム、さらにはイタリア絵画や古代ギリシャ美術といったロペスが傾倒していたものが混在し、なんとかそれらを自分なりに表現しようという若さが感じられます。時代的なものもあるのかもしれませんが、マティエールを施した作品というのもありました。ロペスにはそうした実験的な精神というのがもともとあるようで、後年の作品の中にも時々異質な世界観がひょっこり現れることがあります。
「花嫁と花婿」は当初女性二人を描いていたものが、最終的に“花嫁”と“花婿”に変化したと解説にありました。細部に至るまで、またどの箇所をとっても、非常に丁寧に何度も何度も筆を入れているのが分かります。こうした執拗さはロペスの後の写実主義的な作品にも大きく関わってくる部分かもしれません。
アントニオ・ロペス 「夕食」
1971-80年
1971-80年
1960年代に入り登場するのが家族をモデルにした作品で、60年代後半以降は家族がモデルの彫刻作品も手掛けるようになります。ロペスは一枚の絵を制作するのに非常に時間をかけ、一度描き上げたものに後年手を入れるということは珍しくないようです。「夕食」も一見穏やかな食事に風景なのですが、よく見ると右手の母親の顔に手を入れてあり、結局未完のままで終わっています。
アントニオ・ロペス 「マリアの肖像」
1972年
1972年
1970年代に入ると、写実主義の傾向が顕著になります。本展のチラシにも使われていた「マリアの肖像」は古い写真のような褪せたタッチが印象的な一枚。実は鉛筆画なんです、これ。礒江毅展でも彼の鉛筆画の超絶技巧ぶりに驚愕しましたが、その原点になったのがこのロペス。鉛筆の濃淡だけでここまで描きこんでしまう描写力の高さにも驚かされますが、何とも言えない一瞬の内省的な表情や彼女の生活まで伝わってくるようなコートの質感は見事というより感動的ですらあります。写真とか写実絵画とかそういうものを超えた次元のインパクトを感じます。
アントニオ・ロペス 「マルメロの木」
1976年 クリストバル・トラル・コレクション蔵
1976年 クリストバル・トラル・コレクション蔵
先にあげたビクトル・エリセの映画『マルメロの陽光』で取り上げられた作品が展示されています。『マルメロの陽光』はこの油絵の制作過程を追った云わばドキュメンタリーなのですが、この作品も結局未完のままとのことでした。南欧の日差しとマルメロのみずみずしさが伝わってくる作品です。
アントニオ・ロペス 「グランピア」
1974-81年
1974-81年
会場のちょうど真ん中のコーナーには、超絶リアルなマドリードの風景を描いた作品が展示されています。マドリードはロペスにとって最も重要なモチーフのひとつで、20代半ばから70歳まで、それぞれに時期を代表する作品が含まれているそうです。
代表作「グランピア」は、早朝の20~30分間の決まった時間に同じ場所で7年間も描き続けたという作品。朝の光にこだわり、その決まった僅かな時間だけ筆を走らせたようです。会場にロペスの制作風景を映した映像が流れていましたが、現場でスケッチや下絵だけしてあとはアトリエで完成させるというのではなく、直接その場でイーゼルを立てて油絵具まで塗っていました。それを決まった時間にしか行わないのですから、作品がなかなか完成しないのも頷けます。
アントニオ・ロペス 「トーレス・ブランカスからのマドリード」
1974-82年 マルボロ・インターナショナル・ファイン・アート蔵
1974-82年 マルボロ・インターナショナル・ファイン・アート蔵
個人的に一番感動したのが「トーレス・ブランカスからのマドリード」。夏の夕暮れの、空がかすかに暮れていく瞬間の微細な光の加減が見事に映し出されていて、ただのモダンアートのスーパーリアリズムとは異なる、ある種の極みを観た思いがしました。
後半には、これも精密な描写が素晴らしい静物画や、ロペスといえばといわれるトイレやバスルーム、窓などを描いた室内画などが展示されています。特に、代表作の「トイレと窓」や鉛筆だけで描き切った2mを超える未完の大作「バスルーム」は素晴らしかったです。最後のコーナーには、人体をモチーフにした彫刻作品が展示されています。
【アントニオ・ロペス展】
2013年6月16日(日)まで
Bunkamura ザ・ミュージアムにて
現代スペイン・リアリズムの巨匠 アントニオ・ロペス
アントニオ・ロペス 創造の軌跡






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