非常に人気だとのことで、夜間延長のときに伺ったのですが、並びはしなかったものの、館内はかなりにお客さんで混雑をしていました。
歌川国芳はここ数年で急に人気が高まり、一昨年の府中市美術館での『歌川国芳 奇と笑いの木版画』を皮切りに、昨年の原宿の太田記念美術館の『破天荒の浮世絵師 歌川国芳』、そして本展と大型の回顧展が続いています。
その中でも、ここ森アーツセンターギャラリーは前後期併せて約420点。あれだけたっぷり観たと思っていた府中市美術館は前後期併せて225点、太田記念美術館も同じく約240点。本展の展示数の多さに驚かされます。
構成としては、「武者絵」「説話」「役者絵」「美人画」「子ども絵」「風景画」「摺物と動物画」「戯画」「風俗・娯楽・情報」「肉筆画・板木、版本」というようにテーマごとにまとまって展示されていました。先の太田記念美術館の構成に近い感じです。
「八犬伝之内 芳流閣」(後期展示)
国芳がここまで面白がられているのは、人物を猫に模して描いた擬人画やユーモアあふれる戯画、風俗画など他の浮世絵師にないユニークさが独特だということにあると思うのですが、本来は武者絵や役者絵で世に出てきた人だけあって、武者絵や役者絵の構図の面白さ、ストーリー性のある人物描写、ダイナミックなタッチは当時の他の浮世絵師を抜きんでています。今回の展覧会は点数が多いだけあり、またその半分近くが武者絵や役者絵、説話絵などで占められていて、国芳の独自性が堪能できました。
「天竺徳兵衛」(後期展示)
「天竺徳兵衛」や「絵本合邦辻」、「毛谷村」など、歌舞伎を題材にした作品も多くありました。役者絵のコーナーではなく、武者絵のコーナーに展示されていたのは、それらの作品が国芳の武者絵や説話絵と同じように、歴史や伝説、物語などを基にした作品だからということなのでしょう。
「鏡面シリーズ 猫と遊ぶ娘」(前期展示)
国芳の美人画は、たとえば歌麿や春信の美人画のようにツンと澄ましたところがなく、また国貞のように妖艶でもなく、どちらかといえばその辺の娘さんというか、表情や仕草も愛嬌のあるところが面白いところです。 小道具ひとつとっても、生活感があって、江戸の市井を覗くようで楽しいものがあります。
「子供あそび 角のり」(後期展示)
天保の改革(1842年)の影響で役者や遊女、芸者の浮世絵が出版されることが禁じられると、国芳はそれを逆手に取り、子供や猫、魚、果ては器などまでも擬人化し、戯画や風刺画の世界にのめり込みます。擬人化された猫や魚たちの表情や仕草は、妙に人間味溢れ、まるで江戸っ子の生活・生態そのものであり、その滑稽さは今見ても十分楽しいものがあります。
「きん魚づくし ぼんぼん」(後期展示)
先の府中市美術館や太田記念美術館の歌川国芳展は浮世絵ファン、美術ファンが多く詰めかけていましたが、森アーツギャラリーは場所柄ということと媒体などの露出量の多さもあってか、若いカップルや仕事帰りのOLなどもかなり足を運んでいたようで、これからますます国芳人気が高まるのではないかというそんな予感のした展覧会でした。
【没後150年 歌川国芳展】
2011年12月17日(土)~2012年2月12日(日)
森アーツセンターギャラリーにて
奇想の天才絵師 歌川国芳