2011/10/09
朱雀家の滅亡
パソコンがおかしくなってしまい、買いなおしたりしてる間にすっかりアップが遅くなってしまいました。
先日、新国立劇場で“2011/2012シーズン 【美×劇】-滅びゆくものに託した美意識-”の幕開けとなる三島由紀夫原作の『朱雀家の滅亡』を観てきました。
時は太平洋戦争末期。盲目的なまでに「天皇」へ忠誠心を捧げる朱雀家の当主を中心に、息子とその許嫁、そして内縁の妻とが織りなす華麗で壮大な滅びの物語です。
天皇(“お上”)を絶対崇拝し、忠誠的な愛を誓う当主を中心とした朱雀家のバランスが、息子の出征により一気に崩れます。息子が海軍士官として南の島に赴くのは、父に対する複雑な気持ちと反動の裏返しでしょう。これまで仕え、見守るだけだった女中おれい(実は息子の実母)は生身の女を吐き出し、舌鋒鋭く罵しります。前半は絶対的な当主との建前の緊張感、後半は堕ちた当主対女たちとの本音の緊張感で最後までぐいぐいと引っ張ります。
原作はギリシア悲劇の古典、エウリピデスの『ヘラクレス』をベースにしているとのことですが、浅学菲才のため『朱雀家の滅亡』のどの部分が『ヘラクレス』 に影響されていて、どのような趣向が凝らされていたのか分かりませんが、三島由紀夫が自決の3年前(1967年)に書き下ろした戯曲ということで、天皇に 殉じた男と前線に出征し英霊となる息子の二人の言葉一つ一つに、三島の天皇に対する思いが隠されているような気がしました。
朱雀家当主役の國村隼の存在感が凄く、滅びの美学と孤独を見事に体現して圧倒的でした。おれい役の香寿たつきも3幕目は鬼気迫る演技で狂気の中にデカダンスさえ漂い、素晴らしかったと思います。若手の二人はベテラン勢の前では力量のギャップが如何ともし難いと感じましたが、それでも三島の芝居に果敢に挑戦している姿は評価に値するでしょう。
三島の豊饒かつ流麗な台詞に酔いしれるには少々激しい芝居ですが、とても見応えのある舞台でした。
サド侯爵夫人 朱雀家の滅亡 (河出文庫)
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